【特別企画】

涙・瞳・汗までこだわる! 「ウマ娘」3Dキャラモデル制作のノウハウを伝授

「カッコかわいいハイクオリティなキャラモデルをつくる」渾身の作り込みとは

【Cygames Tech Conference】

11月13日〜14日 開催

 カッコかわいいハイクオリティなキャラモデルをつくる!! これこそが、Android/iOS/PC用シミュレーションゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」キャラモデル班に課せられたミッションだ。

 「ウマ娘」のキャラクターとしての大事な要素は、キャラクターとして「カワイイ」こと、ライバルたちとお互いを認めつつも競い合う「スポ根」、レースやライブで活躍するための「臨場感」だとキャラモデル班は言う。それらを表現するため課せられたキャラモデル班のミッションは、“カッコかわいいハイクオリティなキャラモデルをつくる”こと。それには、感情表現を表わす「表情」と、躍動感を表現する「髪・衣装の動き」、リアルな骨格や質感を表現する「造形」、臨場感あふれるレースを演出するための「濡れ・汚れ」が重要となる。

 では、「表情」、「髪・衣装の動き」、「造形」、「濡れ・汚れ」といった要素を表現するには、どのような手法で制作しているのだろうか。Cygamesは、技術カンファレンス「Cygames Tech Conference」にて、「ウマ娘 プリティーダービー 3DCGキャラクター事例 ~基本設計とウマ娘ならではの表現について~」を講演。「ウマ娘」キャラモデル班が行なったモデル仕様制定・ウマ娘らしさの追求といった取り組みの一部が紹介された。

 本セッションはゲーム開発経験のある3DCGアーティストに向けたものではあるが、「ウマ娘」をプレイする1ユーザーにとっても、ウマ娘たちのキャラモデルに再注目できるような講演となっていた。

【出演者】
【キャラモデル班について】
【【Day1】Cygames Tech Conference】

目指すはハイクオリティなキャラモデルを担保できる基本仕様!

 「ウマ娘」のモデルの基本仕様には、限られたリソースで効率的に作ること、豊かな表現でモデルを魅せることが求められる。「ウマ娘」は定期的に更新されるゲームであるため、スケジュールに紐付いた運用に耐えうる効率化を考慮する必要がある。また、「カッコかわいいハイクオリティなキャラモデルをつくる」というミッションを遂行することも重要になる。そのバランスをとるためには、ハイクオリティを担保できる基本仕様を目指す必要があるのだ。

 もちろん基本仕様の制定は簡単なことではない。開発期間が長期化すると初期に作ったモデルが古く感じることもある。開発期間中も技術は発展していくので、都度アップデートを繰り返しながらも開発していくことになるためだ。

開発当時のモデル
現在のモデル
あらゆる角度でも不自然にならない調整が重要。衣服の揺れ、形状、存在感も開発当時と比べて見栄えのいいものになっている

 現在のモデルの基本仕様として、モデル&テクスチャ構成から紹介された。モデルの構成要素としては、マテリアルが6つ、ポリゴンが2万ポリゴン弱、ベースの骨数が約160ジョイント、テクスチャが約20枚程度、インフルエンス数が2となっている。なお、ポリゴンとベースの骨数、テクスチャはキャラクターごとに異なっている。

【モデル構成要素】

 次にテクスチャ構成が紹介された。テクスチャでは、モデルの色や質感などをどのように表示するかを表現している。カラーマップは、通常色を表わすディフューズと、影色を指定するシャドウカラーの2種類が用いられている。制御用マップは、2枚のマップでシャドウとスペキュラ、カットオフ、環境、リムの5つのチャンネルが利用されている。

【テクスチャ構成】

 影をコントロールするシャドウマスクは、制御用マップの中では最もクオリティへの影響が大きく、テクスチャ作業の大半がシャドウマスクの調整にかけているという。形状にあった陰影ではアニメ的な表現をするのは難しく、また、ポリゴン数などが原因で細かな陰影を表現するには限界があるためシャドウマスクを使って制御している。

 スペキュラマスクはハイライトの表現を担い、髪の毛のツヤや金属類など光沢感のある箇所に使用されている。物理的に正しいハイライトがアニメ的なテイストを表現するのに適しているとは限らないため、スペキュラマスクで直接ハイライト形状が作られている。

 細かな形状を表現するカットオフマスクでは、描画する範囲としない範囲を分けることができる。主にレースの穴や細かな凹凸を表現するのに使用される。使用できるポリゴン数が限られる中、クオリティを追求するうえで重宝されるマスクとなっている。

 環境マップは、光を反射する素材の環境反射を表現するのに使用する。スペキュラマスクと適用箇所が似ているため、両方を併用して見た目の調整を行なうことが多い。

金属部分に環境反射が足され、質感が伝わりやすくなっている

 リムマスクでは、リムライト(逆光的な光のこと)の適用箇所を制御している。立体感を強調するために使用される。「ウマ娘」では常にキャラモデルにリムを入れて立体のシルエットを強調しているが、すべての箇所に入れると情報過多になるため、裏目や入り組んだ箇所など悪目立ちしそうな箇所を調整している。

首元や脇の下辺りが変化している

 次に、3Dの物体に対して擬似的な陰影をつけるシェーディングについて、ディティール制御用のマップが紹介された。

 ウマ娘モデルの頭部では、絵的なシェーディングを実現するためディテールマスクを追加している。ディティールマスクでは、主にほっぺ・鼻のシェーディングを制御するために使用されており、ライトの角度と組み合わせて補正をかけることで多様な影の表現が可能になっている。

 基本仕様の最後に、アニメ調の絵作りにおいて重要な役割を持つ「アウトライン」において、「陰影との両立」、「アウトラインの調整」、「色の変化」が解説された。

 アウトラインは、面を反転し、法線の方向に膨らませたモデルを生成することで実現している。

形状のシルエットにそって膨らんでいる

 アウトラインをキレイに出すためには、法線調整を行なう必要があるが、法線は他の要素にも影響を与える。そのため、アウトライン用の法線調整を行なうとシェーディングやリムが乱れることがある。また、シェーディング用の法線調整を行なうと影はキレイだが、アウトラインが端々で途切れてしまう。これを解決するために、大元のモデルにシェーディング用の法線をもたせ、アウトライン用の法線調整を施したアウトライン用モデルから大元のモデルのUVsetの中に移し替えることでそれぞれに適した法線情報を両立させている。

 実際の調整方法は、直接法線の角度を調整していく地道な手作業となった。髪の束など面が急激に切り替わる部分などは特に調整が必要となる。

調整後では、前髪の線がハッキリと表示されている

 アニメ調に利用される表現に近づけるため、アウトラインの色はシーンごとの演出にあわせて変えられるようになっている。

白く発光したアウトラインに変化

 モデルの基本仕様としては以上になる。ただし、基本仕様を定めたあと、開発工程で“見た目の違和感”が都度発生したため、品質アップのための対策が必要となった。キャラモデル班は“見た目の違和感”を払拭するための対策を行ない、新たな基本仕様を更新し続けた。

【モデルの基本仕様まとめ】

 “見た目の違和感”の1つとして、同じ動きをでも衣装によって手が埋まるといった問題があった。その「埋まり」の対策として、ジョイントの終点をコントロールして移動で制御する計算方法「IK」と、物体が別の物体に対して衝突判定をするプログラム処理「コリジョン」とを組み合わせた「IKコリジョン」をキャラモデルに設置した。コリジョンを入れることで衣装に手が埋まることがなくなり、ウマ娘ごとの見栄えを保てるようになった。

 次の違和感は、「ライブ」の光の当たり方だ。開発時のライブ映像を見てみると、キャラモデルがライトの影響を受けていないことがわかる。開発が進むにつれて、よりドラマチックなライト演出を導入することになり、キャラモデルにも対応を施す必要がでてきたのだ。

 「ライト」の対策の1つとして、「フレアコリジョン」がキャラモデルに設置された。フレアコリジョンには、ライブ背景に設置されたフレアライトを遮る効果を持っている。フレアコリジョンがなければ、フレアライトの手前にキャラクターが立った時、光がキャラクターを貫通してしまうが、フレアコリジョンを設置するとそれがなくなる。

 こうしたことで、キャラクターとライト、カメラを自由に配置することが可能になり、ライブ演出の幅が格段に広がった。

「コリジョンあり」の画像では光が貫通していないことがわかる

 また、スカートなどの衣服や髪といった「揺れもの」の動きが堅く不自然になっていることにも違和感があった。開発初期には、スカートに布の柔らかさがなく、髪の毛の動きが堅く見えた。この違和感を払拭するため、エンジニアに相談しキャラモデル仕様の見直しと揺れものの動きを再構築したという。

右の画像では、ダイワスカーレットの右側のツインテールが浮かび上がっており、髪の毛の堅さを感じてしまう
現在はよりなめらかに揺れものを表現している
【品質アップの対策まとめ】

ウマ娘たちに感情移入してほしい! 涙・瞳・汗などウマ娘ならではの表現方法

 「ウマ娘」の開発当初は表情の種類が少ない状態だった。しかし、ウマ娘たちの個性を出したい、ウマ娘たちにもっと感情移入してほしいという想いを実現させるため、表情バリエーションを出せる仕組みを制作した。

 表情バリエーションを出すための仕組みとして、フェイシャルを利用した感情表現がある。感情表現の仕組みは、ベース部分と補助的に使用する部分に分けられる。ベース部分のフェイシャルは、眉・目・口の3グループに分け、それぞれ表情のパターンを作成していく。これらを組み合わせることでフェイシャルのバリエーションを表現している。

 ベース部分のみで作成した表情では、笑いや怒り、悲しみ、喜びといった様々な表情をはじめ、会話をする際の口のパターンや「怒り顔+ぷく顔」といった掛け合わせも可能となっている。

 補助的に使用する要素では、単独では使用せず、組み合わせて使うことを前提とした要素もある。顕著なのは、眉の「オフセット」と口の「スケール&オフセット」だ。オフセットを利用すると、形状を維持したまま位置をズラすことができ、スケールを利用すると形状を誇張し、大げさな表情を表現できるようになる。

 それだけではなく感情表現には、コミカルでデフォルメのきいた「マンガ目」をはじめ、「涙」や頬を赤らめる「チーク」、「青ざめ」といった表現方法がある。

 「マンガ目」は、目がぐるぐるしたり、キラキラしたりといったコミカルな表現を行なうための仕組みだ。瞳を隠し、その上に各種エフェクトをアタッチすることで表現している。

 「涙」は「目にたまる涙」と「流れる涙」、「目じりの涙」の3種類存在しており、これらを用途に合わせて使用していく。例えば、ライブ「ささやかな祈り」では、「目にたまる涙」と「流れる涙」が象徴的に使われている。

 照れたときや激しく運動したときに使用する「チーク」は、「薄い」、「濃い」の2種類のテクスチャを使用。感情にあわせて細かく使い分けている。

 「青ざめ」は、血の気が引いた表現などを使用するもの。キャラモデルの顔に青いグラデーションを入れており、キャラモデルの頭部の任意の2点でグラデーションをかけるよう指定している。

 これら全てをかけあわせることで、様々なシーンで自由な表情を作り出すことが可能となった。

 また、キャラクターを魅力的に魅せるための大切な要素として「瞳」があるが、「ウマ娘」では特にハイライトに力を入れているという。「ウマ娘」の瞳には、下地となるディフューズテクスチャのほかにハイライト単体のテクスチャが用いられており、これらの組み合わせで多彩な瞳の表現ができるようになっている。

 ハイライトは縦横移動や回転をはじめ、そのものの強度を変えることもできる。ウマ娘の感情が高ぶって泣きそうなときなどはハイライトが大きくなったり、ハイライトの粒が増えたりといった表現を用いられる。

逆にハイライトをなくすことも可能だ

 さらに、ハイライト単体のアニメーションも存在。ウマ娘が泣きそうなときなどはハイライトが小刻みに揺れる「うるうる」、感動したときなどにはハイライトが輝きならが瞳を1周する「きらめき」が使われる。

スマートファルコンのスキルカットでは「うるうる」
ライスシャワーのライブも「うるうる」
ウイニングチケットのストーリーレース勝利時には「うるうる」と「きらめき」の両方を使用

 「ウマ娘」では、フェイシャルを利用した感情表現と瞳のハイライトによるアニメ的な感情表現が組み合わさっている。これによりウマ娘たちの自然な感情表現を引き出すことができ、ウマ娘たちの個性を際立たせたり、ユーザーがウマ娘たちに感情移入しやすくなっているということだ。

【表情まとめ】

 キャラモデルによって、キャラクター単体だけではなく、白熱したレース場や熱狂的なライブ会場の“臨場感”を出すための工夫もなされている。まず、レースシーンの天候が雨や雪の場合に、ウマ娘たちが濡れるという表現だ。元々は雨が降っていたにも関わらず、ウマ娘が濡れていないことに違和感があったことから追加された。

 「濡れ」の表現は、キャラモデルに使用されている各テクスチャを濡れ専用のテクスチャに切り替えることで実現している。また、衣類が水気を帯びた表現として環境マップの効果が適用されている。衣類がわずかに光沢を持った表現になることで、より濡れ感を表現できる。

【濡れ】

 「濡れ」だけでなく、「汚れ」も表現されている。「汚れ」は、レースシーンのバ場状態が悪いときに使用され、ウマ娘の衣服が汚れていくというものだ。さらに、レース序盤、中盤、終盤と衣服の汚れが広がっていくようになっている。これはマスクテクスチャを利用し、RGBチャンネルの3種類で制御されている。レッドチャンネルとグリーンチャンネルではそれぞれ違った汚れが描画され、レースの展開によって時間差で発生するようになっている。

【汚れ】

 また、ウマ娘が激しく動いた時の表現として「汗」も実装されている。「汗」は、必死で体を動かしている姿に汗がないと違和感があるため実装され、育成やライブ、レースなどで使用されている。汗は頭部に汗オブジェクトが配置されており、任意のタイミングで表示できるようになっている。汗の位置はウマ娘によって完全に一致しているわけではないが、ほぼ同じ配置となっている。

【汗】
汗は一見目立たないように見えて、あり・なしで印象がガラッと変わる

 これらの要素により、レースやライブ中の視覚的な違和感が減っている。そうすることで、よりレースやライブに没入できるようになり、結果的に臨場感が出ているというわけだ。

【臨場感を出す工夫まとめ】

 キャラクターのかわいさ、生き生きとした表現が大きな特徴となっているゲーム「ウマ娘」。そのキャラモデル班では、様々な制約の中で「カッコかわいいハイクオリティなキャラモデル」をつくるため、キャラモデルの基本仕様だけでなく、表情や瞳、濡れ、汚れ、汗といった細かい部分まで作り込まれていることがわかった。

 普段「ウマ娘」をプレイしていても、意識して見ていなかったポイントもあったかと思う。何度も見た演出やイベントであっても、本セッションで説明された箇所に注目するとまた違った発見があるかもしれない。

【まとめ】
【【Day1】Cygames Tech Conference】