【特別企画】
手のひらで広がるめくるめく想像の世界! 大人の「ブンドド」講座(後編)
ファンに応えて進化するアクションフィギュアの遊び
2020年2月28日 15:42
「ブンドド」とは、玩具を持ってそのキャラクターが活躍するシーンを想像し、口で擬音を出しながら動かす行為を指す。要するに「玩具で遊んでいる姿」である。手のひらで広がるめくるめく想像の世界! 大人の「ブンドド」講座(前編)では筆者を始めとしたユーザーの脳内でどれだけ魅力的な世界が展開しているかを語ったが、後編である本稿では“もっと楽しく、リアルにブンドドしたい”というユーザーの願望に、メーカーがどう応えたかにフォーカスしたい。
日本での国産プラモデルから、ゼンマイなどで動くキャラクター玩具の登場、「ソフビ」と呼ばれるソフトビニール製の玩具、昭和30年代(1950年代)から日本の玩具は進化し続け、そして世界中にまで広がりつつある。特にキャラクター玩具においての進化はユニークなのではないだろうか?
その中で、「ブンドドする」という視点においてターニングポイントとなる商品がある。今回筆者が挙げたのは数例に過ぎず、本当はもっとたくさんの玩具クリエイター達が様々な革新的アイディアによって、玩具は進化している。今や玩具はユーザーの想像を超え、そのカッコ良さがさらなる想像を呼び、めくるめくブンドドを可能にしているのである。そのクリエイター達のアプローチの凄さを感じてくれれば幸いだ。
ユーザーが夢見てメーカーが応える。ブンドドの楽しさは無限に広がる!
玩具を遊ぶ。想像のまま玩具を動かし、遊ぶ。男の子のみならず、多くの子供達が経験があるだろう。フィギュアやミニカー、電車の模型などを手に取り遊ぶ。トミカは特に軽快な“走り”を実現しており、その感触そのものが楽しい。ちなみに手で走らせる行動は玩具用語で「手転がし」という。ゼンマイや電動とは違う、押して動かす遊び方だ。
玩具、特にロボット/アクションフィギュアはアニメーションと共に発達してきた。こういったところは筆者が以前インタビューを行なった五十嵐浩司氏のインタビューを見てもらいたいが、特撮やアニメーションの世界を再現するフィギュアは子供に人気の玩具だ。
筆者の子供の頃、まだキャラクター玩具文化が未発達だった1970年代前半はソフビ商品がフィギュア玩具の主流だった。今でもメディコム・トイは当時のデザインセンスを活かしたソフビフィギュアを販売しているが、当時のソフビ商品は技術がまだ未発達で、ディテールも甘く、体型も原作とは大きく違う、かっこよくないものも多かった。傑作と言われる素晴らしい商品もあるが、「劇中再現」が難しかったのである。現代ではまた別な魅力もあるが、キャラクター玩具文化の“始まりの時期”といえるだろう。
ここからポピー(現バンダイ)の超合金やタカラ(現タカラトミー)のマグネモなど……と語ると誌面が埋まってしまうのだが、玩具史、特にキャラクター玩具に大きな変化をもたらしたのは「ガンプラ」、ガンダムのプラモデルの一大ブームだ。筆者と同世代、40代後半くらいの人ならばあの熱狂を覚えているだろう。ガンプラは劇中に近い、さらにはアニメ本編以上にディテールを描き込んだ商品を発売し、ユーザーがそれを受け止めた。
このガンプラの「本格ホビー化」には高度な技術を持ったモデラー達の活躍が大きい。ガンプラを素材に、戦車や自動車などリアルな質感を再現する技法を持ったモデラー達が技術を活かし、リアル(と感じられた)ガンダム世界を様々な解釈で立体化していったのだ。その後の「リアルロボットアニメ」は劇中に近い商品、劇中のメカの複雑な変形ギミックや、武器の数々をきちんと再現する事が求められた。
ここもリアルな合金玩具としてのダグラムの「デュアルモデル」や、劇中の変形をきちんと追体験できるツクダホビーのバルキリーの変形玩具など素晴らしい商品は多数ある。どんどん洗練されていく超合金の歴史も特筆したいが、今回は置いておこう。この頃にファミコンが生まれ、玩具史は大きな影響も受けるのだが、こういった研究も興味深い部分である。
話を「ブンドド」、遊んで楽しいアクションフィギュアのメーカーのアプローチに絞っていきたい。ゲームの流行で玩具会社が大きな影響を受け小さなメーカーが統合されていく。その中で海洋堂はガレージキットだけでなく、リアルな造形のアクションフィギュアを出していたり、チョコエッグなどでこれまで玩具メーカーがアプローチしていなかった動物や昆虫などまでモチーフを広げていく中、斬新な挑戦を行なう。それこそが「リボルテック」だ。
このリボルテックはクリック関節のボールジョイントと、モデラーの山口勝久氏が考案した「山口式可動」で従来のロボットやキャラクターフィギュアでは不可能だった“動きの表現”を可能とした。それまでのアクションフィギュアは人体の構造を模した関節設計だったが、山口氏は肩の可動や足の付け根を斜めにカットすることで、アニメーターが描く迫力あるポーズをアクションフィギュアで再現しようとしたのだ。
従来のフィギュアでは難しかった足を大きく開いたり、肩を入れたり、「リボルテック」の名前が冠された海洋堂のアクションフィギュアはこれまでにないアクション性と表現力を実現した。関節パーツを統一規格にすることや、意図的にコレクション性をしやすくした価格帯もユーザーに大きく受けた。当時大手玩具メーカーがモチーフにしていなかったロボットやキャラクターも出していたことで、多くのファンを獲得した。
もう1つマックスファクトリーの「figma」もアクションフィギュアの流れに大きな影響を与えた存在だ。figmaも共通の球状関節を持つ。こちらはやはり“美少女キャラクター”のモチーフが衝撃的だった。figmaが生まれたのは2008年。フィギュア文化はすでに大きく花開いていて、それまではガレージキット、少数生産で無彩色の、完成させるには高度な技術が必要だった美少女フィギュアが、完成品で入手できるようになった時代だった。プライズフギュアという、UFOキャッチャーなどで入手できるフィギュアも爆発的に進化し、美少女フィギュアへのハードルがグッと下がった時代だ。
この進化した造形に、“動き”を加えたのがfigmaの新しさだ。美少女キャラならではの細い手足や肩が違和感なく動く。胸の分割線も自然でキャラクターのデザインを崩すことなく様々なポーズを可能とする。そのキャラクターならではのこだわりのポーズをさせたり、あるいはキャラがしないような動きをさせたり、figmaと、グッドスマイルカンパニーの「ねんどろいど」でキャラクターアプローチが深まった。今まで買ったことのなかったアクションフィギュアを手に取った、というユーザーも多いはずだ。
他にも様々なメーカーによる商品アプローチがあり、関節構造やパースをかけたオプションパーツ、エフェクトパーツなど「ブンドド」を楽しくする工夫は行なわれていくのだが、筆者としてはBANDAI SPIRITSの「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」を取り上げたい。
「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」のユニークなところは、1979年に放映されたアニメ「機動戦士ガンダム」のMSの設定画を思わせるフォルムで立体化を行なっているところ。アニメでは設定画ではとてもできないようなポーズを取っていた。膝上までの腰アーマーがあるのに膝立ちをしたり、両腕は肩の回転軸しかないのに武器を両手持ちしたり……こういった作画で生まれた矛盾を立体化するにはどうするか、メカデザイナーと玩具設計者がアイディアを出し合って、現在の可動関節に自由度が高いロボット玩具がある。
しかし「ROBOT魂 ver. A.N.I.M.E.」は当時の設定画を思わせる素立ちから様々なアニメの名場面を再現する様な動きを可能にしているのだ。これには最新のフィギュア技術で培われた関節設計が活かされている。引き出し、分割、装甲板の収納などこれまでのプラモデルやアクションフィギュアが実現してきた技術を応用し、盛り込むことで、「当時のデザインのシルエットと最新の可動」という驚きのバランスを実現したのだ。
そして充実したエフェクトパーツである。バーニアの炎、武器の発射エフェクト、ダメージ表現など様々なパーツが商品に同梱されており、さらに他の商品とも組み合わせられる。アニメを見ながら手持ちのフィギュアでその場面を再現するという「ブンドド」の楽しさの極地とも言える遊びを、商品を購入するだけでできるのだ。
改めて言うが、今は本当にスゴイ時代だ。アニメロボットだけでなく、アニメキャラクターまでもがアクションフィギュア化され、ユーザーが思うようにポーズ付けができ、空中に浮かんだり飛行ポーズで固定できるスタンドまで存在し、エフェクトパーツもある。他の商品と組み合わせたりすればその可能性は無限大である。
「ブンドド」、その根幹は幼児が玩具を遊ぶ楽しさと全く変わらない、他の何かに想いを向け想像する人間の想像力の発露だ。そして現在は最新の造形、可動、エフェクトパーツなどを活用することで、誰でも質の高い“活躍シーン”を作り出すことができるようになった。ブンドドは楽しいが、今やもっと魅力的になったのである。ぜひ皆さんも自分のお気に入りのキャラクターでブンドドして欲しい。