【特別企画】
手のひらで広がるめくるめく想像の世界! 大人の「ブンドド」講座(前編)
複雑怪奇な世界で遊ぶ、設定コリコリの“玩具遊び”の世界にご案内
2020年2月27日 12:12
「ブンドド」という言葉がある。ホビー愛好者にはある程度メジャーな言葉で、要するに「玩具で遊ぶこと」をさす。ブンドドの語源は、幼児が玩具を手にとって動かす際に無意識に発する擬音だ。車なら「ブーン」、飛行機なら「ギュィーン」、電車なら「ガタンゴトン」、そんな音を出しながら子供は玩具を動かして遊ぶ。ホビー愛好者は購入したばかりの、もしくはお気に入りのアイテムを手に取り、アニメの場面や自分なりの活躍シーンを想像し、手に持つアイテムのポーズを変えたり、アングルを想像する。
戦車や戦闘機、モビルスーツ、アーマードトルーパー……ホビー愛好者は“戦う機械”が大好きだ。自然と手に持つアイテムが繰り広げるのは戦闘シーンになる。そこで手に持つメカは高速で機動し、手に持つ武器から弾丸を発射する。「ブーン、ドドドドド」……。このため「ブンドド」といわれる、というのが筆者の解釈である。もちろん他にも解釈はあるだろう。いずれにせよ幼児性が抜けてないという自虐的な意味で、玩具を遊ぶ行動を指す用語として「ブンドド」はある。
編集部でホビーの魅力を語っていたとき、「ブンドドって何?」と真顔で言われた。実際これは自分の中の幼児性を真正面から突きつけられたようで、気恥ずかしくなった。しかし、「これを大まじめに語るのはありなんじゃないか?」という話になった。確かにブンドドは幼児的な行動であるが、大人な玩具ファンが、どんな複雑怪奇な脳内保管で遊んでいるのか、そこにどんな可能性があるのか、語っていこうと思う。
近接タイプとスナイパータイプでは、ブンドドの“機動”が違うのだ!
ブンドドは、「子供っぽい遊び」であることは否定しない。玩具を手にとって、振り回していたり、玩具同士をぶつけ合う子供の玩具遊びと全く同じだ。しかし、例え子供の遊びでもそれはある程度「理屈」がある。車は「ブーン」とは飛ばないし船は「ブッブー」と走らない。玩具が活躍しているとき、その世界は彼の脳内では極めてリアルな世界が描かれているのだ。
大人のブンドドはさらに拗れている。対象のギミックや、機動の理屈がわかっているからだ。ドムは足のホバーで地上をまるでスケートのように滑走するし、リック・ドムはスカート内部とふくらはぎのバーニアによるすさまじい推力で敵に突進する。外見上はほとんど同じなのに、手の中で取らせるポーズ、そして玩具を握った動きは全く違う。そう、大人のブンドドは「理屈で遊ぶ」のだ。
それはやはり「ガンダム」が広げてくれたのだが、実際の兵器以上に特にアニメロボットは設定が緻密になった。「ガンプラ」のMSVでは、量産型メカであるザクやジムの様々な機能に特化したバリエーション展開が行なわれた。狙撃型、偵察型、サイコミュ試作機、砂漠用……もちろん実在の兵器が“元ネタ”なのだが、細かい設定が手の中の玩具に具体的な活躍シーンを与え、それを想像することを楽しくさせた。
筆者がつい最近感心させられたのは“ザクI スナイパータイプ”だ。アニメ「機動戦士ガンダム」の前半で主に活躍するいわゆる「ザク」は、実は最初のザクの改良型で、正確には「ザクII」と呼ばれる。アニメで古参の兵士・ガデムの機体として登場し「旧ザク」と呼ばれた。ザクI スナイパータイプはその旧型のザクが、最新装備であるビーム・ライフルで狙撃を行なうという、矛盾の塊のような機体だ。この機体の設定は結構古く、アニメ「ガンダムUC」でもかなり活躍するのだが、筆者はよく調べもせず「ザクIにビーム兵器とか、ちょっと設定の暴走なんじゃないの?」と思っていた。
しかし、これがなかなか面白い。一年戦争の末期にはジオンもガンダムのビーム・ライフルのようなMSが携行できるビーム兵器の小型化に成功する。宇宙での連邦軍の反撃によって補給の道を断たれた地球上のジオンは、旧型のため機動力の劣るザクIを活用するため、ゲルググのジェネレーターをバックパックに転用することで動きの鈍いザクIを“狙撃用”に特化した、というのだ。何というか、ここまで理屈を並べられると、「……お、おう」と説得するしかない。
こういう設定の塊のブンドドは最高に楽しい。ザクIは旧型のため接近されたら連邦軍の最新MSには太刀打ちできない。だからこそ精密射撃で敵を確実に撃ち倒さねばならないし、味方の援護は必須となる。それでも近寄られてしまったときには対処するしかない。動きの悪いザク、ジム相手には心許ないマシンガンとヒートホークでどう切り抜けるか……こういうことを考えながらフィギュアやプラモを動かして、ポーズをつけていくのだ。もちろん、これに狙われるジムをどうブンドドするかという想像もたまらなく楽しい。
筆者自身は自分のコレクションを引っかき回して架空の武装をさせるのが好きだ。エヴァにガンダムのバズーカを持たせたり、ガーランドにVF-31のナイフを持たせたりして追加装備を想像する。「繊細な指で殴りつけるよりはナイフを持っている方が合理的じゃないか?」。モデラーはこういった空想でオリジナル装備を作ったり、ジオラマを作るが、とりあえず手に持たせるだけでも充分楽しい。
“おもちゃ箱の中の戦い”という意味では、「スーパーロボット大戦」シリーズはブンドドの究極の姿の1つだろう。「このロボとこのロボが共闘したら?」、「このロボにこのパイロットを乗せたら?」、「この敵にこの攻撃だ!」といった感じで、自分の望んだブンドドを声優達とアニメーションで見ることができるのはとても楽しい。
そして進化した玩具文化はブンドドをヒーローやロボットに留めなくなった。今や美少女キャラ、アニメキャラもアクションフィギュアとなっている。思い描いた楽しいドラマやアニメの場面、架空のストーリーをフィギュアに演じさせることができる。ブンドドは今や“戦う”だけではないのだ。家庭内の行動をシミュレートするおままごととも違う。やはり戦う場面は多いとは思うが、アニメの風景やポスターのポーズなど様々な場面を再現できる玩具も増えている。
さらに、ブンドドは“玩具の進化”によってすごいことになっている。5万円もする「DX超合金魂 コンバトラーV」では、何と合体シーンに“音が出る”のである。ロボットの見せ場である合体シーンで、アニメの音声が台座と玩具本体から出るのだ。もう口で擬音を発しなくて良いのである!
TwitterなどのSNSの普及により誰でも“ブンドド”を公開できるようになったところも心強いところだ。モデラーや写真のうまい人などは人気があるが、自分の好きを仲間と共有するつもりで、小さく、そして楽しく、気軽に自分のコレクションを披露したり、理想のシーンを公開している人も少なくない。今やブンドドは自分だけの閉じた空間ではないのだ。
擬音を発しながら玩具をいじる、確かにその姿を見られるのはちょっと気恥ずかしいが、その想像の世界、繰り広げられるドラマの魅力は誰にも負けない。「俺のブンドドはちょっとすごいぜ」と思っている人も少なくはないのではないだろうか。SNSや動画で公開するも良し、1人で遊ぶも良し、どんどんブンドドを楽しんで欲しい。後編ではユーザーがより多彩で高度なブンドドを求める中で、メーカーがどう応え、ユーザーを導いてきたかを語りたい。