インタビュー

僕らの好きなロボットはこうして生まれた! 「ロボットアニメビジネス進化論」

五十嵐氏の膨大な知識と資料から積み出される、“ロボット玩具”の歴史

8月17日発売

価格:800円(税別)

 光文社新書から8月17日に発売された「ロボットアニメビジネス進化論」は、“ロボットアニメ”を“ビジネス”の視点で切り取ったユニークな本である。本書の著者・五十嵐浩司氏は、「超合金」や「ダイアクロン」などをテーマに、様々なメーカーの“歴史”を振り返る書籍を20年以上前から手がけており、その知識、人脈、そして個人の資料も驚くべきものを持っている方だ。

本書の著者・五十嵐浩司氏。非常に深く、多彩な知識を持つ方だ

 その“ホビーの専門家”が、執筆した“ビジネス書”が「ロボットアニメビジネス進化論」である。この本は40年を越えるロボットアニメとビジネスの歴史を、ターニングポイントとなった商品、メーカーの取り組みがいかにして生まれてきたかを紹介し、“流れ”として読者に解説してくれる。商品紹介や、回顧録にとどまらず、きちんと“物語”としてロボットアニメとビジネスの展開を紹介してくれる本となっている。

 各メーカーの歴史や、商品の取り組みなどはこれまで様々な書籍が出ているが、本書のように、わかりやすく、きちんと“ロボットアニメビジネスの歴史”を紹介した本はない。まず、五十嵐氏ほど知識と、それを裏付ける資料を持つ人物がいない。

 今回、弊誌では五十嵐氏にインタビューを行なった。五十嵐氏がどのような想いで、「ロボットアニメビジネス進化論」を書き上げたのか、苦労した点、語りたかった想いは何か、そして本書が提示した先に、五十嵐氏が取り組もうという次のテーマは何か、紹介していきたい。

 なお、本書の刊行を記念して、8月27日に世田谷区北沢の第2マツヤビルにある本屋B&Bにて、五十嵐氏と、バンダイで「超合金魂」などに深く関わったデザイナー・プランナーの野中剛氏、“いんちき玩具研究学者”のいんちき番長氏のトークショーが行なわれる。インタビューで興味を持った方は足を運んではいかがだろうか。詳細はイベント告知ページで。

よりリアルに、より高い技術で! ロボット玩具の進化を読み解くビジネス書

 まず最初に「ロボットアニメビジネス進化論」の魅力と、筆者の感想を書いていきたい。本書は「マジンガーZ」を最初のターニングポイントとした、「ロボットアニメビジネス」の歴史の解説書である。ポピー(バンダイ)が提示した「ジャンボマシンダー」と、「超合金」をスタートとする様々なメーカーの取り組み、その中から生まれた「マグネモ 鋼鉄ジーグ」などの多彩なヒット商品、1970年代前半に一気にロボットアニメと、玩具の関係が花開いた時代を振り返る。

「ロボットアニメビジネス進化論」。“ロボットアニメビジネス”の歴史と流れを抽出したビジネス書だ

 そして「宇宙戦艦ヤマト」から続き「ガンプラ」で爆発するバンダイホビー事業部の取り組みと、そこから発展、そして様々な方向性へと広がっていくロボットプラモデル。タカラの「ダイアクロン」そして「トランスフォーマー」、トミーの「ゾイド」、バンダイの「マシンロボ」などへ広がっていく多彩なロボット玩具……。そしてデフォルメキャラクターへの方向性や、向上した技術で過去のキャラクターを再現していく現代でも盛んなアプローチなど、進化し、充実していくロボット玩具の歴史を、五十嵐氏は様々な商品名やシリーズと共に語っていく。

 筆者は本書を読むことで、ありありと「おもちゃ屋」の記憶が蘇ってきた。筆者は中学生、高校生、さらには大学生や社会人になっても“おもちゃ屋”が大好きだった。買えなくても、様々なメーカーが様々な商品を出している商品を眺め続けていた。地元のおもちゃ屋さんのおばさんには「もう良い年齢なのにまだおもちゃ屋に来ている」と思われたかもしれないが、それでもやっぱり定期的におもちゃ屋に行っていたし、大人になると都内のデパートの玩具店や、専門的な模型店をめぐり、現在でも家電量販店のおもちゃコーナーを見ている。

 本書はそういった移り変わるロボット玩具の流れ、メーカーの取り組みを非常にわかりやすく解説してくれている。「あのときの流行はこういうバックボーンがあったのか」、「あのとき欲しかったおもちゃは、このシリーズに続くのか」、などなど解説をしてもらうことでわかる事実も多い。

 そして何より驚かされるのは、“本書のバランス感覚”だ。本書に出てくる商品はどれもこれもがより深く掘り下げていきたいテーマばかりだ。バンダイの超合金やプラモデル、タカラトミーの「トランスフォーマー」、「デフォルメロボット」などの様々な取り組み、その後の発展など方向性はそれこそ無限だ。

 五十嵐氏はこういった深くなりかねない要素をあえて踏み込みすぎず紹介していく。五十嵐氏自身は、どこまでも切り込み分析できる知識と、こだわりを持っているにもかかわらず、読者がわかりやすく、想像しやすいボリュームで解説していくのである。ライターである筆者には、このバランスは非常に難しいことがとてもよくわかる。そのバランス感覚には本当に感心させられた。

 「ロボットアニメビジネス進化論」は、筆者のような「おもちゃ好き」だけでなく、「ビジネス書」として、より幅広いユーザーに向けて書かれている。“ロボットアニメ”や“玩具”というと、どうしても視点が偏り、マニア向けの印象を受けがちだが、五十嵐氏と、本の編集担当者はそうではなく、「日本の産業の1つ」、「様々な企業の取り組み」として玩具業界の“流れ”を抽出したという。インタビューでは気になった点や、五十嵐氏の想いにフォーカスし、質問をしてみた。

20年以上の知識を活かして語られる、ロボットアニメビジネスへの視点

 五十嵐氏は学生時代よりアニメ・特撮関連の出版系の仕事に関わり、今もDVDやブルーレイに同梱されるライナーノーツの執筆、編集を行なっている。フリーのライターとして様々な書籍に関わる中、ホビー関連で20年前に出版した「超合金ポピニカ大図鑑」がその後の五十嵐氏の仕事の方向性に影響していく。

五十嵐氏が手がけたホビー関連の書籍の初期のもの。「超合金ポピニカ大図鑑」は1997年出版で、この本が五十嵐氏のホビー関連の本格的な仕事のスタートになったという
こちらは“最近の仕事”の一部。過去のものから現在まで、五十嵐氏自身の知識量には驚かされる
五十嵐氏の思い入れの強い「変身サイボーグ」。当時の玩具としてはキャラクターのプロポーション/シルエットが断然リアルだ。

 1997年に出版した「超合金ポピニカ大図鑑」の制作により様々な人脈や、資料、知識が生まれ、その後の五十嵐氏のバックボーンの1つとなったという。現在も玩具や、商品ブランドの歴史をまとめた本を制作していく仕事に繋がっている。最近でも「超合金魂計画20th」、「ダイアクロンワールド」、「オールアバウト村上克司」といった本を手がけている。五十嵐氏だからこその知識によって裏打ちされたこれらの書籍は、玩具ファンにとって見逃せない膨大で貴重な知識をもたらしてくれる書籍ばかりだ。

 「20年以上前は、模型誌はあったのですが、それよりも広い玩具、ホビーを扱う本はなかった。それらが生まれてくる中で様々な仕事に関わってきました」と五十嵐氏は語った。そして、「お宝鑑定団」などで古い玩具の価値が再発見されたり、その時代の最先端技術でかつてのヒーローロボットを造形する「超合金魂」など、“大人もターゲットにできるホビー”というものが生まれていく中で、五十嵐氏はホビー関連の出版に深く関わっていく。

 五十嵐氏は学生時代から玩具、特に“ロボット”関連の玩具に関しては、子供時代から“卒業”できないまま強い興味を持ち続けていた。五十嵐氏や筆者のような40代後半から30代後半の世代の子供達にとって、ロボット玩具の発展は驚異的だった。例えば合金玩具のヒットとなった「超合金マジンガーZ」から、わずか2年ほどでTVと同じように変形合体する「ポピニカ コン・バトラーV」が発売されるのだ。そしてその“アニメと同じものが立体化される”という要素こそ、五十嵐氏を強く魅了したという。

 五十嵐氏自身は「アニメや特撮と同じものをきちんと再現する」というところに特に価値を見出していたという。子供の頃のお気に入りはタカラの「変身サイボーグ1号」。この玩具はスケルトン型のフィギュアに「変身セット」というスーツを着せることで様々なヒーローの姿に変わる。ウルトラマンや仮面ライダーはスーツを着た人間そのままの雰囲気が出る。主流だったソフビ人形が手足の軸回転しかできない時代に、変身ポーズや必殺技のポーズもとらせることができた。

 劇中のアクションをそのまま再現できた仮面ライダーの「変身ベルト」、ゴムタイヤや風防のクリアパーツ等を使った「ポピニカ サイクロン号」……。五十嵐氏は子供時代から番組そのままのリアルさにこだわっていた。こういったこだわりは五十嵐氏だけでなく、多くの子供達もぼんやりと感じていたのである。そういった“リアルを好む”子供達の想いが、劇中に近いフォルムと可動を追求した「ガンプラ」の評価、そして圧倒的なブーム、さらにその後の玩具そのものの発展へ繋がっていくのだ。

 五十嵐氏の想いには共感するものがあるが、今回圧倒されたのが、見せていただいた五十嵐氏のコレクションの一部。タカトクトイスのバルキリーのチラシや、今井科学などが模型店に向け出版していた小冊子をアーカイブ化しているのだ。40年近く前のチラシなどもきちんと保存しているそのこだわりは本当に驚かされた。これらは実際の商品以上に貴重なものであり、五十嵐氏の仕事を支える非常に重要な資料だという。

 今回のインタビューでは様々な商品や、玩具の歴史に関して脱線することがあったが、そのたびに五十嵐氏の深い知識に驚かされた。筆者もホビーを仕事としてはいるが、情熱と深い知識はとてもとても及ばない。改めて目の前にいる五十嵐氏の“凄さ”に直面し、本当に圧倒されてしまった。

 その深く濃い知識を持つ五十嵐氏が、あえて各商品にフォーカスするのではなく、全体の“流れ”をビジネスという切り口でまとめ上げたのが「ロボットアニメビジネス進化論」となる。実際読んでみると「もっと合金玩具の取り組みの細かいラインナップを知りたい」、「今井のバルキリーのプラモデルはもっと語っても良いのではないか」といったところがある中で、きちんと「次の流れ」を紹介していき、結果として幅広い時代と、多くの人の取り組みを紹介している。繰り返すが、このバランスこそが、「ロボットアニメビジネス進化論」を他の書籍とは一味違ったものにしている。

 「これまで私は様々な玩具関連の書籍を作ってきましたが、例えば『ガンプラ』、『ミクロマン』、『ダイアクロン』などそれぞれの“専門書”となってしまう。“時代”そのもの追いかけるということが、これまでの企画では難しかったのです。1970年代の前半には、ポピーがあって、タカラがあって、トミーがあって、他にも様々なメーカーが玩具を出していた。各社や製品で完結するのではなく“時代”を取り上げる本が作りたかったんです」と五十嵐氏は語った。

 そういった想いを持っていた中で、本の企画として五十嵐氏に提案が来たのが“ビジネス書”として、玩具業界の取り組み、歴史、様々な人気商品と、それらが生まれた背景を語るという「ロボットアニメビジネス進化論」の元となる企画だった。五十嵐氏の深く濃い知識と、これまでの様々な“専門書”を制作した実績で、“歴史”を語るという提案だったという。それは五十嵐氏が思っていた“時代を取り上げる本”という方向性と合致した。それは「超合金ポピニカ大図鑑」を手がけてから玩具関連の仕事を続けていく上で、膨大な資料と知識、そして人脈を持つ五十嵐氏だからこそできる企画だった。

 また、玩具の進化のみに目を奪われがちだが、アニメにも深い知識を持つ五十嵐氏は「ロボットアニメ」の魅力にも思い入れを持っている。五十嵐氏は「ロボットアニメは何でも盛り込める」という。スポ根、恋愛、政治劇……日本においては、ビジネスとして“ロボットもの”という決まりのみという仕組みの中で、若いクリエイター達が様々なドラマ、実験、思想、想いなどを盛り込んでいったというのである。

 「多くの作品は一貫性のあるテーマがある。しかし1年間続くロボットアニメの中には、各話ごとにバラバラなテーマを盛り込むような作品もたくさんありました。また作品の中でも多彩なバラエティがあった。作品の前提条件を崩壊するような話を盛り込むことすら可能なところがあった。多彩な方向性こそが“ロボットもの”の魅力だと思っています」と五十嵐氏は語った。

 こういった様々な要素がある中で、読者にロボットアニメビジネス(玩具化)の歴史を提示するために、五十嵐氏は「ロボットアニメビジネス進化論」で「キャラクター商品とポピーの躍進」、「ガンプラ狂想曲」、「ディフォルメロボットの時代」などいくつものトピックスを提示して“流れ”をまとめている。それは基本的には時系列に沿いながらも、相互が関係し合ったり、別な進化が始まっていたり、途切れていたものが復活したりと複雑な流れを見せるビジネスを、とてもわかりやすく、整理して伝えている。これはライターであり、編集者としての五十嵐氏の“力”をしっかり感じさせられるものだ。

 五十嵐氏は、構成を考える上で、まず時代ごとに“何を考えていくか”を決めて、そこに収束していった。柱をまず最初に決めて、どう盛りつけていくかは編集者とも話し合った。編集側からは“時代性”を強調するという指示があったという。執筆そのものはまず1年前に2カ月で基本的な原稿を書き上げ、その後編集とやりとりともういちど方向性を相談し、さらに2カ月の調整を行なって、8月17日の出版が決定したという。

 「言ってみれば私もマニアなので、マニアの視点で書いてしまう。しかし『ロボットアニメビジネス進化論』は新書であり、そしてビジネス書です。玩具に興味がないような、ビジネスマンにも読んでもらえる本を目指しています。いつもの私が手がける専門書とは違う。このため“その当時社会ではどういうことが起きていたか”という所を盛り込んではどうかと提案されました。ファミコンやスーパーファミコンの流行、ミニ四駆のブーム、当時の流行のゲームなども盛り込み、多くの人が時代性を感じられるようにしました」と五十嵐氏は語った。

 五十嵐氏は本書を「ただ時代を懐かしむだけの本にしたくない」と強調した。この本はビジネス書であり、時代や歴史の積み重ねの上で、先人達が試み、そして多くのユーザーに指示された「成功例」、「ヒット商品」が取り上げられている。それは業種や、時代が違っても、ビジネスとして人々に働きかけていくアイディアを欲しているビジネスマンへ「ビジネスヒントになって欲しい」という想いがある。

 「本の中であからさまに書いていませんが、玩具業界はかなり密接に“時代”の影響を受けています。そして影響を与えている。しかも“繰り返して”います。超合金や、その後の変形に大きな影響を与えたバルキリー、プラモデルの定義を変えてしまったガンプラなど革新的なアイディアはありましたが、先人達の成功例にならったくり返しや、リバイバルブームなどの“揺り返し”もある。だからこそこの本でロボットアニメビジネスを流れとして取り出してみることで、自分が今取り組んでいるビジネスに応用できるんじゃないか、そういう使い方をして欲しいです」と五十嵐氏はコメントした。

 その一方で、五十嵐氏は本書が「ロボットアニメの活性化」にも繋がって欲しいという希望も持っている。ロボットアニメは流行と沈滞を繰り返しつつ今も進化続けているが、「ロボットアニメと玩具」という視点では、ファミコンから始まるゲームの流行の直前に一度ピークを迎えている。その後の「新世紀エヴァンゲリオン」のブームでは、玩具ではなく映像ソフトビジネスに大きな流行があった。「ロボットと玩具」というビジネスにはまだ可能性がある。だからこそ本書からヒントを得て、若い人達がロボットアニメビジネスに参加し、また大きな動きを作って欲しい。本書にはそういう想いも込めているという。

【五十嵐氏のコレクション】
今回見せていただいた資料。当時の商品以上に現在では入手できないものばかりだ。こういった貴重な資料が五十嵐氏の知識を支えている

若い人にロボットアニメビジネスに参入して欲しい! 五十嵐氏の想い

 「ロボットアニメビジネス進化論」は日本のロボットアニメビジネスにおける“最低限の流れ”を紹介するものとなっている。それですら圧倒される情報量と、改めて玩具業界の面白さを実感させる本であるのだが、今回まとめるに辺り、あえて触れなかったものもあると五十嵐氏は語った。

五十嵐氏との話は頻繁に「当時の商品」へと脱線もするのだが、本当にその知識には圧倒される
今回公開された映画「パワーレンジャー」のロボ「メガゾード」。バンダイホビー事業部から発売されている商品の写真だ
こちらはメガゾードの“原型”といえる大獣神。バンダイコレクターズ事業部から現在の技術で今年の4月に発売された「超合金魂 大獣神」。両者を比較すると非常に面白い
五十嵐氏が手がけた「オール・アバウト村上克司」。超合金やスーパー戦隊などのメカをデザインした村上克司氏のデザインを取り上げた本。五十嵐氏はこのようにロボットアニメビジネスを支えた人を取り上げていきたいという

 1つは「特撮系玩具」だ。「バトルフィーバーJ」からは、「スーパー戦隊」シリーズではロボットの登場が定番となっている。こちらも合体、2号ロボ、さらにはベースと合体など凄まじい進化を遂げていくのだが、今回はあえてここを掘り下げなかったという。こちらに触れるとさらにもう1冊本が書けるほどの密度がある。それはもちろん他のトピックスもそうなのだが、このようにあえて掘り下げなかった要素も多々あるとのことだ。

 また、「変身ベルト」から始まる「なりきり玩具」も玩具ビジネスには欠かせないものだ。バンダイの「仮面ライダー」、「スーパー戦隊」、さらには「プリキュア」といった女児向け番組や、他社のキャラクタービジネスももちろんロボット系と相互に影響を与えながら進化、発展、そしてリバイバルを繰り返している。低価格玩具まで含めると、その裾野は際限なく広がってしまう。そういった膨大な要素から、抽出されたのが「ロボットアニメビジネス進化論」である。

 ビジネスそのものにも、掘り下げていない部分はある。「『玩具というのは“おもちゃ屋”が作っているんだ』というのは乱暴すぎる言い方で、きわめて多くの人が関わる、日本を代表する産業です。玩具を企画する人、企画を商品まで持っていくブレーンの方、それを試作品として設計・製作する原型師、その原型を量産化するための工場担当者。パッケージデザインや、それを売るための広報担当だっている。流通の人も産業を支える人達です。『玩具は子供のもの』というのは大前提としてありますが、立派な工業製品です。

 車や家電と比べても、全く変わらない、日本の誇る大きなビジネスです。この産業を維持するためには年間何億という売り上げが必要となる。そういう意味で、『玩具も立派なビジネスを成立させている』というところは、わかって欲しい、という思いも持っています」。本書ではあえて深く掘り下げなかった要素ではあるが、この要素も意識して欲しいと五十嵐氏は語った。

 “広がる”という意味合いでは、「日本と欧米のロボットに対する感覚の違い」にも五十嵐氏は注目している。日本で公開された映画「パワーレンジャー」での巨大ロボ「メガゾード」は筋肉質のきわめて人間に近い体型の、有機的な雰囲気を持ったロボットだ。「パワーレンジャー」は日本の「スーパー戦隊シリーズ」から分化し、アメリカで発展した特撮番組だが、ベースになった日本の「スーパー戦隊シリーズ」の「ジュウレンジャー」の巨大ロボ「大獣神」なのだが、こちらは日本のロボットらしい箱を組み合わせたようなシルエットなのである。日本のロボットの感覚で作られた大獣神が、アメリカの人のセンスでリメイクされるとメガゾードになってしまう。この対比は非常に興味深いという。

 どちらが良いか悪いかではなく、ここには“国民性”があると五十嵐氏は語った。「トランスフォーマー」もマイケル・ベイ監督の映画シリーズではロボット達は“異星人”であることが強調された「機械生命体」と呼ぶのがぴったりな有機的なアレンジが為されている。日本のロボットと違う欧米のロボット感、この“違い”も五十嵐氏が強く興味を持っているという部分だ。

 書きたいもの、書かなくてはいけないもの、非常に難しい取捨選択の中で生まれた本書の“流れ”ではあるが、五十嵐氏が入れたかったものの1つが「ガンプラ」ブームの前の段階。「ガンプラ」がバンダイに劇的な変化をもたらしたとされがちだが、実は「宇宙戦艦ヤマト」のブームがあり、その前にはバンダイ模型(現:バンダイ ホビー事業部)の苦戦と苦闘がある。その試行錯誤も「ロボットアニメビジネス進化論」では掘り下げている。

 また、「デフォルメキャラクター」も五十嵐氏がぜひ紹介したい部分だったという。「SDガンダム」で一気に花開いた様に見えるデフォルメロボットであるが、ハセガワの「たまごヒコーキ」、タカラの「チョロQ」といったデフォルメ文化の下敷きがあり、そこから「チョロQダグラム」でロボットをデフォルメする方法論が生まれたところが、「ガンダムのデフォルメ化」に強く影響を与えたのではないかと五十嵐氏は指摘している。なによりも「SDガンダム」は、現在30代の人の心を掴むには必ず取り上げなければ行けない要素だと五十嵐氏は判断し、本書で1章まるまる使って紹介している。

 また、「魔神英雄伝ワタル」のメカの面白さも五十嵐氏は特別に感じているという。「ワタル」に登場する丸魔神(ロボット)は、“ディフォルメされる元デザイン”はない。あの世界では頭が大きくて足が短い“あの形”が標準であり、デフォルメされているわけではない。そしてアニメでは、ちゃんとあのロボット達がカッコイイのだ。作品はギャグテイストではあるが、“デフォルメ”ではない独特のメカ表現がある。その提示された格好良さも「SDガンダム」には取り込まれ、発展している。

 ほかにも、後書きで言及しているが「ロボットビジネスの発展がなければ、日本の産業の発展は大きく違っていたのではないか」という考えを五十嵐氏は持っている。もし日本の玩具文化がソフビとブリキから発展せず、五十嵐氏を含めた多くの子供達が「アニメや特撮により近い玩具」を求めなかったら、日本の産業は大きく変わっていただろうというのだ。金属加工技術、精度だけではなく強度も求める金型、成形技術、関節設計での可動域の広さや人型の表現、ポリキャップ、透明パーツなどの素材技術……玩具は最先端の技術を取り込み、そしてフィードバックにより様々な産業に影響を与え、日本の発展に貢献してきたと五十嵐氏は語った。

 「この本で明るい希望を持ってもらいたいんです。ロボットアニメビジネスに興味を持ってそして飛び込んできて欲しい」五十嵐氏は改めて本書の方向性、込めた想いを語った。ロボットは普遍性のありあこがれを生む題材であり、様々な作家性をテーマとして託すことができる懐の深さがある。現在はかつてより「ロボットアニメ」の本数が少なく、五十嵐氏自身も寂しさを感じている。“閉塞感があるのではないか”というのはアニメ関連にも深く関わっている五十嵐氏だからこそ実感できる感覚だとも思うが、だからこそ五十嵐氏は「ロボットアニメビジネス進化論」で、関係者や、そしてそこを目指す若い人達にも希望を提示したかったというのだ。

 「ロボットの玩具を作りたい、ロボットアニメのシナリオを書きたい、ロボット漫画を描きたい……何でも良いんです。『俺も何かロボットを使って何かできるんじゃないだろうか、何か作れるんじゃないだろうか』そう思って貰いたくて、本書を書きました。現在ビジネスはまた大きな変化をしていますが、やはりロボットビジネスはまた広がって欲しいですね」と五十嵐氏は語った。

 今回五十嵐氏が「ロボットアニメビジネス進化論」で提示したテーマは無数に派生できる。今回のインタビューで明らかにした「あえて削った部分」を掘り下げるのも、専門書としてそれぞれの時代や取り組みを深掘りしていくのもとても興味が惹かれるが、次に五十嵐氏がやりたいものというのは何だろうか?

 筆者の質問に五十嵐氏は「人間の営みです」と答えた。五十嵐氏はバンダイの超合金をはじめとした玩具に多く関わった村上克司氏の本も制作しているが、「ロボットアニメビジネス進化論」での大きな流れを作りだした様々な人物をもっと掘り下げた企画による本を作っていきたいという想いを持っているとのことだ。本に出てくる企画者や設計者だけで亡く、工場関係者、流通関係者など、ロボットアニメビジネスに大きな影響を与えた人物はたくさんいて、彼らにフォーカスした本はほとんどない。五十嵐氏だからこそできる企画だろう。「本当に色んな才能を持った人達がこのビジネスを発展させていて、彼らを世の中に紹介したいと思っています」と五十嵐氏は語った。

 もちろん五十嵐氏ならではの「専門書」ではそれこそいくらでも掘り下げたものは作れる。「1983年のアニメプラモの各社の取り組み」だけでも充分本1冊にはなるという。マニアである筆者にとってはとても興味深い切り口だ。五十嵐氏は今後も専門書で深く掘り下げつつ、“流れ”や“時代”をテーマにした多くの読者を想定した企画も進めていくという。

 最後に、五十嵐氏は改めて本書の“ビジネス書”としての側面をアピールした「『ロボットアニメビジネス進化論』には小さな玩具メーカーであったポピーが『ジャンボマシンダー』と『超合金』で奇跡的な成長を遂げたり、社内で消えそうな『マグネモ』という商品がダイナミックプロとのタッグで『鋼鉄ジーグ』というキャラクターを得て100万個以上の大ヒットになったり、消えかけていた変形という玩具文化がタカトクのバルキリーで再びメインストリームになったりと、1つのビジネスがその後の業界を変えたという例が、たくさん詰まっています。皆さんのビジネスのヒントになってくれると思います」。

 つづけて、「ロボットアニメビジネス進化論」に興味を持ったユーザーや、すでに手に取った読者に向かって五十嵐氏は「ロボットアニメは不滅であり、ロボットアニメビジネスは底に常に寄り添っていると思います。本誌はそのビジネスを取り上げています。それは決して完全に新しいものだけではなく、過去のものがヒントになったり、従来のアイディアが基になっているものもある。ビジネスというものはいつまで経っても苦労が絶えないものですが、本書がそういったところを打開する1つのきっかけになってくれればと思います」とメッセージを送った。

 繰り返すが、筆者のように“ロボット玩具”に思い入れを持つユーザーにとって、ロボットアニメビジネス進化論」は様々なことを思い出させ、ワクワクさせてくれる本だ。そしてただの“懐かしさ”に留まらない、新しい知識、そして新しい視点をもたらしてくれる本である。

 本の中でも言及されているが、世代や環境で大きく思い入れのあるものは異なる。しかし、多くの人がロボットアニメとは何らかの関わりがある。本書を純粋にビジネス書の1つ、として手に取る人にとっても同様で、本書が提示する歴史と、先人達の取り組みは、“現在見えている風景”に新しい感触を与えてくれると思う。ロボット玩具は進化しつつ、昔のロボットをリニューアルし続けている。今回、五十嵐氏が「これまでの流れ」整理し明文化したことで、様々な人へのヒントとなったのではないだろうか。ぜひ多くの、様々な人にオススメしたい。