【特別企画】

【CES2020】頭一つ飛び抜けた完成度を誇るMRグラス「NReal Light」体験レポート

2020年内に5Gスマートフォンと同時に日本国内で販売開始予定

1月5日~10日開催

会場:Las Vegas Convention Center他

 2016年に「Oculus Rift」や「HTC Vive」といった高性能なVRゴーグルが、それまでの常識を破る低価格で販売され、ゲームコンソールの世界でも、PS4/PS4 Pro対応の「PlayStation VR」が登場したことで、VRブームが巻き起こった。VRゴーグルはその後も進化を続け、2018年には高価な高性能PCが不要で、単体でVRを楽しめる「Oculus Go」が登場。2019年には性能を上げた「Oculus Quest」が登場し、大きな話題となった。こうしたVRゴーグルは今後も進化していくであろうが、すでにある程度成熟した製品となりつつある。

 その動きに合わせて、昨年あたりから注目が集まっているのが、AR/MRグラスである。VR(Virtual Reality)とAR(Augmented Reality)、MR(Mixed Reality)は紛らわしい技術であるが、基本的な概念を説明する。

 VRとは、日本語では仮想現実と訳されるが、その名の通り、CGによるバーチャルな世界に没入するものだ。視界に入るものすべてがCGとなるため、没入感が高いことが利点だが、周りの光が遮断されるので、VRゴーグルをつけてVRを見ながら、街を歩くといったことはできない。テレビアニメ版「ソードアート・オンライン(SAO)」のような世界だ。

 ARとは、拡張現実と訳される技術であり、現実世界の風景に、CGを重ねて表示することで、実在の風景を拡張して表示させるものだ。「ポケモンGO」をARモードにすると、ポケモンが実際の風景の上に表示されるが、それが初歩的なARである。「ドラゴンボール」のスカウターも、相手を識別するとその戦闘力を見積もって重ねて表示してくれる、ARグラスの一種といえる。

 MRは、複合現実と訳され、ARをさらに発展させたものだ。ARのように現実の物体とCGによるバーチャルな物体を同時に見ることができるだけでなく、その仮想の物体を現実の物体のように扱える技術だ。例えば、「ポケモンGO」のポケモンは、単に実際の風景の上に表示されているだけで、手で持ち上げたりすることはできない。MRでは、仮想と現実が融合し、仮想の物体も手で直接触って動かすことができるのだ。SAOで言えば、劇場版のオーディナルスケールの世界は、かなりMRに近いといえる。AR、MRは、周囲の光を遮断するゴーグル型デバイスではなく、周りがそのまま見える眼鏡型デバイスが主流となる。

 AR/MRグラスは、VRゴーグルに比べて技術的にもハードルが高く、まだ気軽にコンシューマーが購入できるような製品は登場していない。マイクロソフトは、以前から「HoloLens」と呼ばれるMRグラスを開発しているが、2019年には第2世代の「HoloLens」の出荷を開始したが、1台3500ドルもする高価なもので、開発者向けやビジネス向けとして位置づけられている。

 2020年1月7日~10日まで、アメリカラスベガスで開催されたCES 2020でも、AR/MRへの関心は高く、数社がAR/MRグラスの試作品などを出展していたが、その中でも、頭ひとつ飛び抜けた完成度を誇っていたのが、中国系スタートアップのNrealが展示していた「Nreal Light」である。Nreal Lightは、昨年のCES 2019でも展示されていたのだが、さまざまな点がブラッシュアップされており、量産が近いことをうかがわせていた。

【Nrealブース】
Nrealのブース。CESのブースとしてはそれほど大きくないほうだが、常に多くの来場者で賑わっていた
ブースの裏側は完全に壁で囲まれていた

サングラスのようなデザインと軽さが魅力

 Nreal Lightは、サングラスのようなカジュアルなデザインのMRグラスであり、鶴の部分を折りたたむこともできるので、気軽に付け外しできる。重さはわずか88gであり、装着したまま歩き回っても、ほとんど重さを感じない。ちなみに設計思想が違うとはいえ、HoloLens 2の重量は約570gであり、重さは7倍以上も違う。Nreal Lightは、世界で初めての日常使いができるMRグラスなのだ。

 コンシューマー向けのNreal Lightは、スマートフォンと組み合わせて利用する。スマートフォンとの接続は、USB Type-Cケーブルを1本繋ぐだけと、非常に簡単だ。ブースでは、LG電子やZTEのスマートフォンや、ゲーミングスマートフォン「BlackShark 2 Pro」が使われていた。やはり、スマートフォンはかなりのハイエンドモデルが必要になりそうだ。

 Nreal Lightのすごいところは、そうした本格的なMRグラスであるにもかかわらず、1台499ドルという低価格で直販することが表明されていることだ。Oculus RiftやHTC VIVEは、登場当初その2倍近い価格で販売されていたが、それでも売れ行きは好調であった。

【Nreal Light】
Nreal Lightを装着している同社スタッフ。サングラスとして自然なデザインであり、近づいてよく見ないとMRグラスとわからないほどだ
つるの部分を折りたたむことができる
このように折りたためば胸元にも収納できる(ケーブルがちょっと邪魔だが)
Nreal Lightのスペックや特徴。重量は88gで、両眼にカメラを内蔵、スピーカーも搭載している。スマートフォンにUSB Type-Cケーブルで繋ぐだけで動作する

外付けセンサーなしで6DoFを実現

 両目に合計4つのカメラやセンサーを搭載しており、外付けセンサー不要で、6DoF(Six Degrees of Freedom、6軸の自由度)や平面検知、イメージトラッキング、SLAMによる自己位置推定機能を実現している。6DoFというのは、頭の動き(ヘッドトラッキング)の3DoFだけでなく、前後左右上下の自分の位置(ポジショントラッキング)の3DoFも取得できるということだ。

 解像度は非公表だが、実際に体感した感じでは、ピクセルの粗なども感じず、精細度も十分であった。おそらくフルHD程度の解像度はありそうだ。むしろMRグラスで解像度以上に重要なスペックが、視野角の広さである。ここでいう視野角は、視野の中のどれだけ広い範囲にCGによる映像を重ねて表示できるかというもので、初代HoloLensは視野角が狭く、小窓を覗いているような感覚であった。Nreal Lightの視野角は52度で、初代HoloLensの34度に比べてかなり広くなっている(HoloLens 2とほぼ同等)。これだけの視野角があれば、視野の大部分をCGで覆うことができるため、アプリケーションの範囲が大きく広がる。もちろん、ゲームも大迫力で楽しめることになる。

 また、Nreal Lightは、眼鏡をかけたままでも利用できるが、視度を変えるためのレンズを装着することで、いわゆる度付きの眼鏡としても利用できる。カラーバリエーションも多数用意されており、好みやファッションにあわせて選ぶことが可能だ。

【Nreal Light】
両目に合計4つのカメラやセンサーを搭載しており、外部センサーを使わずに6DoFを実現する
ケーブルはUSB Type-Cのみで、電源もスマートフォンから供給される
左右に独立したディスプレイを搭載しており、ハーフミラーで反射させて映像を合成する
視度を変えるための追加レンズ
追加レンズはマグネットで脱着できる仕組みだ
さまざまなカラーバリエーションが用意されていた
ファッションにあわせてカラーバリエーションを選ぶイメージ

ゲームなどの体験コーナーも充実

 Nrealのブースでは、いくつかの体験コーナーが用意されていた。まず、予約不要で並べば体験できるコンテンツが3種類あり、さらにあらかじめ予約することで、より深いNreal Light体験ができるコンテンツが3種類用意されていた。

 まず、予約不要の体験コーナーから紹介する。ひとつは、Nreal Lightが固定されており、顔を近づけて見るタイプの体験コーナーだ。この体験では、CGによる幻想的で美しいムービーを見ることができる。発色や解像度を確かめるためのデモであるが、最近のVRゴーグル並みの表現力であった。

 続いて、Nreal Lightを実際に装着し、コントローラーの役割を兼ねたスマートフォンを持って楽しむコーナーも用意されていた。こちらは、スマートフォンをWiiリモコンのように使ってポインティング操作が可能であり、メニューからアイコンを選んで、YoutubeやFacebookを閲覧するデモなどを体験できた。このデモでは複数のウィンドウが異なった奥行きを持つものとして描画されており、MRコンテンツの可能性を感じさせるものであった。

 最後に中央では、簡単なFPSタイプのシューティングゲームをプレイすることができた。こちらは、スマートフォンをWiiリモコンのように使ってエイミングし、画面をタップすることで攻撃できるというものだ。

【装着してみた】
支柱にNreal Lightが固定されており、顔を近づけて見るコーナー
Nreal Lightを実際に装着し、スマートフォンを手に持って操作できる体験コーナー
FPSタイプのシューティングゲームの体験コーナー。スマートフォンで狙いをつけて、タップして攻撃をおこなう
シューティングゲームの体験コーナーで用意されていたスマートフォンとのセット

ゾンビゲームをプレイしてみた

 今回のデモでは、「Game Space」、「Home」、「Shopping」の3つがあり、受付で予約することで、どれか1つのコンテンツをそれぞれ用意された部屋で体験することができた。

 ゲームが遊べるGame Spaceでは、「Zombie Bomber AR」、「Kingdom of Blades」、「Corner Fight」の3種類のゲームのうち、どれかひとつを体験できるが、どれになるかはスタッフが決めるようで、筆者がプレイしたのは、ゾンビを爆弾で倒す「Zombie Bomber AR」だ。このゲームでは、スマートフォンでのエイミングではなく、しゃがんだり、ゾンビの方向を向いたりして、ゾンビに照準を合わせてからスマートフォンの画面をスワイプすることで、爆弾を投げることができる。ゲームとしてはシンプルだが、地面を這って進んでくるゾンビなどもいて、体を動かしながら画面をスワイプしてゾンビを倒していくのはなかなか快感であった。最後には耐久力の高いボスが出現。制限時間内に何回か爆弾を当てて、ボスを倒せばクリアとなる。シンプルだが、MRグラスの特徴を活かしたゲームといえるだろう。

 その他、Homeルームでは、Nreal LightでYoutubeの動画を見るなどのエンターテインメントを体験でき、Shoppingルームでは、自分の部屋がお店以上に便利で楽しく買い物ができる空間に変わることを体験できる。

【試遊】
「Game Space」ルームの説明。予約制で、「Zombie Bomber AR」「Kingdom of Blades」「Corner Fight」の3種類のゲームのうち、どれか一つを体験できる
Game Spaceルームの様子。レンガの壁にはゲームのキャラクターの絵が描かれている
予約時間が来たので、ルームの中にいれてもらった
ゲームアプリがインストールされているスマートフォンを渡される
筆者がプレイしたのは、迫り来るゾンビに爆弾をぶつけて倒す「Zombie Bomber AR」だ。スマホをスワイプすることで、爆弾を投げることができる
プレイヤーがNreal Lightで見ている画像はこんな感じになる。背景がレンガなのでわかりにくいが、VRではなくポケモンGOのようにARとしてゾンビが表示されている
耐久力が高いボスも出てくる。制限時間内にボスを倒せばクリアだ
「Home」ルームの説明。Nreal LightをIoTのハブとして使い、さまざまなエンターテインメントを楽しむデモを体験できる
Homeルームの様子。Nreal LightでYoutubeの動画を見るなどのエンターテインメントを体験できる
「Shopping」ルームの説明。未来のオンラインショッピング「PORTAL with Nreal」を体験できる
Shoppingルームの様子。部屋の好きな位置にバーチャルなファッションモデルを配置することができ、自分の部屋がお店以上に便利で楽しく買い物ができる空間に変わる

すでにKDDIと提携。日本国内での販売も確実。MRグラス市場のスタンダードになることを期待

 Nrealは2019年5月にKDDIと提携を結んでおり、日本市場での展開が期待できる。担当者に、日本での投入時期と価格についてきいてみたところ、Nreal Lightは、5G対応スマートフォンと組み合わせて利用するように設計されているため、日本での5Gサービス開始時期によるとのことだ。海外では2020年前半にも499ドルでWebサイトからの直販が開始される予定だが、日本ではもう少し遅れることになりそうだ。また、キャリアからの本体とスマートフォンとのセット販売や単品販売のほか、キャリアとは別の販路での発売も検討しており、価格は499ドル相当よりも多少高くなるとのことだ。

 最後に、ブースで流れていたイメージ映像やゲームコンテンツの画面を紹介する。例えば、MR空間を複数人でシェアすることができるので、ゲームの協力プレイが可能になるほか、アバターを使った会議などもできるだろう。もちろん、さまざまな学習に活用したり、エクササイズのパートナーとして使ったり、バーチャルペットを飼うといった使い方もできる。非常に夢のあるデバイスであり、パーソナルからビジネスまでアイデア次第でその可能性は大きく広がるだろう。

 VRゴーグル市場がOculus Riftの登場によって大きく成長したように、Nreal Lightの登場が、MRグラス市場の起爆剤となることを期待したい。

MR空間を複数人でシェアし、協力プレイも可能
町並みにCGを重ねて、情報を付加できる
Gamingのイメージ。机の上で、キャラクターを戦わせることができる
空中でのバトルも可能だ
例えば、CGキャラと一緒に踊ることもできる
さまざまな学習にも応用できる
バーチャルペットとコミュニケーションをとることもできる
ほとんど「電脳コイル」の世界だ
博物館などで展示品に解説を加えるのにも使える
ゾンビを倒す「Zombie Bomber AR」のタイトル画面
スワイプすることで爆弾を投げることができる
ときどき爆弾以外のアイテムも登場する
「Kingdom of Blades」のタイトル画面
スマートフォンを振って切る、Fruit Ninjaのようなゲームだ
格闘ゲーム「Corner Fight」のタイトル画面
Corner Fightでは、本格的な格闘を楽しめる