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【特別企画】CES2018に見る標準規格乱立への傾向と対策
先進規格の理想と現実を前にゲーマーは賢い対策が必要に
2018年1月17日 12:00
- 1月7日~1月12日開催
- 会場:Las Vegas Convention Center(アメリカ、ラスベガス)
CES2018では、ゲーミング環境を取り巻くいくつかの規格にも、現況を伝えるブース出展やプライベート展示があった。これまでのCES2018レポート記事とも関連して、ディスプレイデータの伝送規格、家電メーカーを中心とするHDMI FoundersとForumが定めるHDMIと、PCに多く採用されているVESAが定めるDisplayPort(DP)の次世代規格ついて、ブースの模様を中心にまとめておく。また、サウンドやHDRを常にリードしてきたDolbyの取り組みについても、今一度おさらいしておきたい。
HDMI2.1とDP1.4aの棲み分けは現状維持。ようやく仕様策定を終えた伝送規格
HDMIとDPのどちらが強いか論について、その答えを伝送速度に求めると、現在はDPが強いことになる。HDMI2.0の帯域幅が14.4Gbpsなのに対して、DP1.3の帯域幅は25.92Gbpsもある。この結果、HDMI2.0では4K 120Hzや8K 60Hzが伝送できないのに対し、DP1.3では伝送できるという大きな差につながっている。
ただし、HDMI2.1対DP1.4では、この差が逆転する。HDMI2.1が42.6Gbps超と大幅に帯域幅を引き上げたのに対し、DP1.4は新なデータ転送モードが追加されずDP1.3のHBR3モードのままの25.92Gbpsとされた。この結果、HDMI2.1は、4K 144Hzでは非圧縮で伝送できるのに対し、DP1.4はDSCで圧縮しないと伝送することができない。それ以上の解像度、リフレッシュレートでは、HDMI2.1もDSCを使わないと間に合わないから状況は同じになる。
なお、CES2018に合わせてリリースされた最新ロードマップによると、2019年上期までに64.8Gbpsに引き上げた次世代のDPがリリースされる計画になっていることから、最強をめぐる戦いはこれからも続くようだ。
では、伝送速度以外の両者の違いは何か。DP1.3以降のユニークな特徴として、USB-Cへの対応が挙げられる。USB-Cコネクタの形状が小型で薄いことから、特にノートPCで、外部ディスプレイへの伝送にUSB-Cに乗せたDPを使う実装が増えている。ディスプレイ信号のUSB-C経由の送出だけなら、HDMIでも1.4からサポートしているため、できることに両者の差はない。ただし、DPの場合、USB-Cの給電機能や、HSB-2.0/3.1のデータ転送が同時に使えることにアドバンテージがある。
例えば、自宅やオフィスのAC電源に接続されて常時給電されているモニタがあったとする。そのモニタにUSB-Cケーブル1本で接続すれば、ノートPCのバッテリーが充電されるとともに、見やすい大型のモニタとデュアルディスプレイ環境で作業できるのは快適だ。加えて、モニタに搭載されているUSBハブから外付けHDDに接続することもできる。ノートPC本体のUSB-Cコネクタの数が限られている場合でも簡単に外部機器を接続することができ、非常に便利だ。
対するHDMI側のUSB-C対応は消極的だ。たしかにケーブルのPC側をUSB-C、ディスプレイ側をHDMIとしたケーブルを使用したUSB-C機器との接続がHDMIの規格にも盛り込まれている。ただし、基本的には映像信号の伝送に必要なコネクタ形状の違いを吸収することに主眼が置かれており、DPのような拡張性はない。ケーブル形状とコネクタ形状を完全にUSB-Cに置き換えるものではないから、専用ケーブルや変換コネクタが必要になる。
給電機能をサポートしたケーブルもあるにはあるが、USB-C経由のDPと比較して、ちっとも美しくない。この機能の実装はベンダーに委ねられており、HDMIが規格として厳格に求めるものではないとのことだ。あくまでエンドユーザーの利便性を向上させるためのもの、とのコメントが得られたが、実際のところDPへの対抗措置として、間に合わせに盛り込んだように感じられてならない。
思い起こせば、HDML2.1最初の策定は2017年の1月だった。ちょうどCES2017の会期中にあたり、次世代のAVとPC機器を統合する新たなデータ伝送規格として、待望の規格が登場して、いよいよ2017年はディスプレイの世代がひとつ前進するな、と予感させた。
ところが、そこからの雲行きが怪しい。2017年の上半期が終わってもHDMI2.1を搭載した家電製品が登場してこないのだ。ディスプレイパネル性能的に達成していることは、DP1.3採用モニタや倍速駆動を謳う製品があることからわかる。
当初2017年の第2四半期に予定されていたHDMI2.1のファイナル策定は、結局2017年11月にずれ込んだ。AV機器の文化的に新しいものに対して慎重なのか、それともHDMI2.1の規格を満たしたケーブルや通信制御チップの開発、製造、出荷が間に合っていないのか、事情はよくわからないが、いち早く新規格を取り入れた製品は、ファイナルから日の浅いCES2018ではゼロだった。
筆者にとって、HDMI2.1対応製品の遅れは予想外の展開で、次世代移行に対する最後のボトルネックが、よもや伝送路になるとは思ってもみなかった。現行のペースで進むと、HDMI2.1搭載の製品が充実するのは、CES2019発表モデルからになりそうだ。2017年1月から考えると相応の期間が経過しており、HDMIForumも認証を開始していることから、2018年後半に発売される製品に搭載される可能性は十分に残されているが、物理的に問題があった場合、それをソフトウェアでカバーするには限界があることから、HDMI2.1の導入は慎重な方向が続くだろう。
対するDP側でも、2016年3月策定から時を経て、現在はDP1.4aになっているという。では、1.4と1.4aの違いは何かと言うと、規格が定義する内容に変更は行なわれていない。1.4規格そのものにエラッタ(ソフトウェアでいうところのバグ)があったため、その誤りを修正したのが1.4aということだった。つまり、DP1.4の仕様策定から、もうすぐ2年になろうとしており、ハードウェアベンダーにとっても安心して採用できる“枯れた”規格になりつつある。
何れにしても、CES2018を見るに、HDMI2.1、DP1.4世代の大勢は決したように思える。結局のところ、引き続きPCはDPとHDMI(またはレガシーな機器のためにDVI)の両方を、家電製品はHDMIのみをサポートし続けるようだ。
従来製品との互換性維持の観点から、従来からサポートしてきたコネクタを備えるのは当然の選択だが、AV家電製品は現状維持で、DPを新たに搭載するといったことはないようだ。アナログ時代と異なり、たとえPC側がDVIしか持たないとしても、HDMIに変換して映像信号の入力ができるため、わざわざ部品点数を増やしてまでDPをサポートする必要性が乏しいという判断だろう。
実際のところ、AV家電機器停滞のアオリを受けて、テレビはPCから4K 60Hzを超える信号を入力できないわけだが、4K 60Hzなら色の劣化の問題はともかくまともに映るわけだし、それ以下の解像度なら120Hzを受け付けるものもある。実用上は問題ないとも言える。
8K 60HzというHDMI2.1がどうしても必要な製品の登場までは、多くのAV家電でHDMI2.0が採用され続ける可能性すらある。UHD BDプレーヤーなどソース側でのYCbCr 4:4:4へのカラーエンハンスメントが普及価格帯の製品にも当然に搭載されれば、PC以外に援軍が加わることになりHDMI2.1への移行が加速するだろう。
ただ、もともとテレビ側の“絵作り”と被る機能なので、わざわざコストをかけないで“絵作り”はすべてテレビに任せましょう、という流れになると、下手をすればHDMI2.1チップの製造コストが2.0と同じになるか、製造終了になるまで2.0が使われ続けるかもしれない。
新たにDPやUSB-C(DP伝送を含む)接続端子を採用する例も見られない。HDMIは引き続きサポートするとして、HDD録画用にUSB3.0端子を設けているのだから、いっそそれらをUSB-C化して、ついでにDPをサポートしてもよさそうなものだが、そうはならないようだ。
PCの方はと言うと、こちらもだいたい事情は同じだ。PCのビデオカードは、スペースに余裕があるため、従来通りDP、HDMI、DVIを混在させて、互換性維持を優先するものが続くだろう。あえてコネクタを省略するとすれば、DVIかHDMIなのでDPが主流であり続けると言っていい。DPをUSB-Cコネクタで置き換えることもないだろう。NVIDIAのビデオカードのみについて言えば、「G-SYNC」を仕様変更することなくサポートし続ける限りにおいて、100%DPがなくなることはない。
事情が異なるのはノートPCで、先にも触れたように、USB-Cの利便性とレイアウトの観点から、DPをUSB-Cに乗せて伝送するケースが飛躍的に増えている。外付けGPUの場合も、DP同様にThunderbolt3でUSB-Cに乗るようになっため、やはりノートPCへの接続を主眼に、USB-C接続前提のものになっている。これらの外付けGPU製品をデスクトップPCの外部接続に使用するためには、マザーボード側にUSB-Cコネクタを搭載したPCが必要になる。デスクトップPCのマザーボードにもスペース的にゆとりがあるため、最近のモデルではUSB2.0/3.0/3.1に加えてUSB-Cを備えたものも多い。
UHD BDの標準はHDR10に。先行したDolby Visionはオプション扱い
前述したHDMI2.1移行にまつわる問題を除けば、PC以外でもソース側の次世代への対応は着々と進んでいる。BDの次世代規格Ultra HD Blu-ray(UHD BD)では、4K解像度とともにHDR10方式を採用しており、8ビットから10ビット深度で色階調を表現するよう拡張されている。
ところが、SDRの8ビット深度同様、単純に10ビット深度にHDRをリニアに収めてしまうと、0.005NITS~10,000NITSとHDR10で規定された幅広い輝度を、なめらかに階調表現するには階調が不足してしまう。そこで、0.005NITS以下のごく低輝度域をバッサリと捨てて立ち上がり、1,000NITSあたりから上は漸増に転じるPQカーブという一種のトーンマッピングを用いて、10ビットを傾斜配分して符号化している。
HDRの10ビット1024階調というのは、SDRの8ビット256階調の4倍も大きい値の範囲ではあるが、最大100NITSだったものを最大10,000NITSと100倍の値を許容するように拡大しようとしている輝度を押し込むには狭すぎる。これを均等に配分しないで、人間が知覚しやすい暗部の領域に大きく割り当てることで、値の範囲を有効に活用しているというわけだ。
月の輝度が2,500NIT程度だというから、1,000NITSあたりから上の輝度を、そんなに大胆に圧縮してしまって大丈夫なのかという気もするが、コーデックの進化があるとはいえ、4K解像度への移行で大幅にデータ量が増大しているのは間違いない。依然として最大容量が有限な光記録メディアに対して高解像度のコンテンツを長時間収めることと、2.5倍程度に増加したビットレートを解像度に優先的に割り当てるために、相当に割り切ったフォーマットになっている。動画への格納時に色成分もYCbCr 4:2:0に間引かれている。
この部分を完全に割り切っていないオプションのDolby Vision方式では、同じPQカーブによるトーン圧縮を採用しながらも、HDR10より2ビット多い12ビット深度で格納している。Dolby VisionのPQカーブは、0.001NITS以下をカットして立ち上がり、HDR10と同じく1,000NITSで漸増に転じるカーブになっていることから、割り当てはHDR10と同傾向であっても、各輝度でよりなだらかな階調表現ができることになる。色成分の間引きもYCbCr 4:2:2とHDR10と比較して赤の保持状態が良い。
事実、HDR10では、明け方や夕方の空のように太陽の周囲の輝度が大きく違うシーンで、本来はなだらかなグラデーションになるはずの部分に、バンディングと呼ばれる帯ができてしまう。これは、HDR10で輝度が圧縮されてしまって、グラデーションを維持することができないからだ。Dolby Visionでは、バンディングが発生していても、2ビット多い色深度のおかげで人間の目では知覚できない。
他にも、コンテンツの最大輝度をテレビ側に伝えてデバイス固有の色再現特性に応じてトーンマッピングするためのヒントとなるメタデータを、シーン毎やフレーム毎に伝達する機能はHDR10にはなく、映像クオリティの観点からはDolby Visionの優位性が目立つ。
このDolby Vision方式も規格として標準化されており、しかもHDR10より先行していた。特にクローズドだったわけでもなく、色再現性に優れた規格なのにUHD BD規格の策定にあたってはオプション扱いとなっている。
UHD BDへのデータ格納フォーマットは、このオプションという概念を織り込んで設計されており、HDR10で表現できる色深度ならベースレイヤ、Dolby VisionやPhilips方式、今後登場しうる方式で10ビットを超えるものはエンハンスメントレイヤに格納する2階建構造になっている。
UHD BDの仕様はなかなか曲者で、SDRの表現方法について、HDRデータからSDRデータを動的にトーン圧縮して出力する方式に加え、SDRとHDRの2種類のデータをあらかじめ静的にディスク内に用意しておくといったニーズに応えたり、HDR10+のシーンベース、フレームベースの最大輝度メタデータのようにDolby Visionがすでに先行している仕様を拝借するような拡張に応えたりと、さまざまなニーズを取り込んで膨張を続けている。その結果、UHD BDは、よく言えば柔軟で可用性の高い、悪く言えばツギハギだらけの冗長なフォーマットになっているように思える。
しかしながら、このあたりの拡張の方向性が、どうにも腑に落ちない。HDR10策定時にデータ増を嫌って10ビット深度を採用しておきながら、オーバーヘッドの大きそうな2階建て格納フォーマットや、SDRデータの重複記録といった冗長なデータ増は許容するという方針に一貫性を感じないのは筆者だけだろうか。
Dolby Visionという特定の会社のブランドを利用することを嫌ったからかと思えるが、今までだって、特定の会社が権利を保有して、使用にあたってロゴの表示を義務付けているケースはいくらでもあった。ライセンス料がかかってもAV機器メーカーも結局はDolby Vision方式の再生をサポートするのだろうから、もう最初からDolby Visionで良かったのではないかと思える。
今回みてきた伝送規格とHDR規格の標準化の現況は、ゲーミング環境にも深く関わっている。伝送規格について、特にコンソール機は、基本的にリビングテレビに接続してプレイする前提のデバイスだから、対岸の火事では済まされない。世代交代の端境期の今は、特にデバイスの購入前に慎重に情報を収集する必要があると言えるだろう。少なくとも5年、10年と使い続ける可能性のある限り、やはり終息直前の規格を採用するものは掴みたくないものだ。
また、HDR規格の方は、基本的に選択可能なわけではないから、どちらが優れているという問題でもなく、欲しいゲームが採用する規格を受け入れるしかない。ただし、UHD BD版とネット配信版の両方が用意されている場合は、ネット配信版のほうが高品質のフォーマットが採用される傾向にあるようだ。ネット配信は通信環境の良し悪しという別の品質影響要素があって同列に比較できないが、日本の通信環境はおおむね良好なため、好みのコンテンツは積極的に試してみてもいいだろう。
ゲームの4K HDR対応は、まだまだこれからといったところで、最も高品質だと思われるDolby Visionの4K HDRに対応しているゲームは、今のところ「Mass Effect Andromeda」だけのようだ。2018年はいよいよHDR機運が高まっていくことから、ゲームについても今後のラインナップ拡充に期待したい。