インタビュー
「ファイナルファンタジーXVI」コンポーザー祖堅正慶氏インタビュー
サントラ発売記念。曲の「段階」構成から「ミニ祖堅」まで、サウンドの秘密を一挙に聞く
2023年7月21日 20:05
- 【FINAL FANTASY XVI Original Soundtrack】
- 7月19日 発売
- 価格:
- 通常盤:6,600円
- Ultimate Edition:8,580円
6月22日発売となったPS5向けアクションRPG「ファイナルファンタジーXVI」(以下、「FFXVI」)。大地の各所に存在する巨大なクリスタル”マザークリスタル”を巡り、本作の舞台「ヴァリスゼア」全土に巻き起こる戦乱と、そこから派生する壮大な物語が魅力のひとつだ。
マザークリスタルに選ばれた者”ドミナント”は召喚獣をその内に宿し、自らの身体へと喚び降ろすことのできる者で、物語はこのドミナントたちを中心に描かれてゆく。そして主人公のクライヴは、この戦乱に巻き込まれ、数奇な運命をたどることとなる。
本稿では、7月19日の「ファイナルファンタジーXVI」のオリジナルサウンドトラック発売にあわせ、本作のコンポーザーを務める祖堅正慶氏へのインタビューの模様をお届けする。ただし登場人物に関するネタバレを一部含むため、まだプレイの途中などという方は気を付けていただきたい。
コロナ禍の合唱収録に頭を抱える。曲調は「段階」を意識
――まずは祖堅さんが「FFXVI」に本格的に合流することになった経緯を教えていただければと思います。
祖堅氏:これね、よく覚えていないんですよ(笑)。楽曲を作る前に、そもそもPS5で音を鳴らすためのサウンドエンジンを作り始めたっていうのが経緯なんですが、明確に「じゃあ今日からいきます」みたいなそういうきっかけは覚えていないぐらいで。気がついたらヌルっとやっていましたね。
――ヌルっと(笑)。今回はオーケストラの曲が多くありましたが、それは吉田さんからのご提案だったのでしょうか?
祖堅氏:そうです、吉田直樹からの提案です。今回はダークファンタジーでいきたいから、奇を衒うものよりはしっかりとオーケストラでいきたい、と最初から言っていました。
――ほぼ全部オーケストラは、結構チャレンジですよね。
祖堅氏:同じ部署が制作しているという事もあって、比較されがちな「ファイナルファンタジーXIV」の楽曲はかなりバラエティに富んだ作りになっていますから。それに比べて今回は、結果的にかなりシックな方に寄りました。「FFXIV」みたいに様々な世界観が複雑に入り混じっているわけでもないし、そこは「FFXVI」ならではの世界観を大事にしてやっていこうと思いました。
――最初に手掛けられた曲は何だったのでしょう?
祖堅氏:手掛け始めた音楽はどれかはちょっと解りませんが、最初に仕上がったのは「On the Wind Borne - The Rosarian Ducal Anthem」だと思います。体験版にも入っていますが、酔っぱらったロザリアの兵士たちが歌う曲ですね。それを2020年頃に作っています。この頃は既に結構もう何曲も作っていますが、最初というとこのロザリアのメロディです。
――ロザリアのメロディを最初に作ったのには何か理由があるのでしょうか?
祖堅氏:単純にボイス収録スケジュールの都合上ですね。メロディがないと、収録ができないですから。同じ理由で、ディオンを讃える吟遊詩人の歌がありますが、これも早々に作っています。
――民衆の歌は、本当に良い合唱感が出ていますよね。収録時のエピソードはありますか?
祖堅氏:これを収録したのは、まだ世界がパンデミックの真っただ中だったんですよ。なので、そもそもは「ボイス収録ってこの状況でできるの?」というところからのスタートでした。結局いっぺんに集まっては録れなかったので、ひとりひとりスポットで録ることになりました。
本来ならこういう曲は当然、全員が集まって、「せーの」で録るのが好ましい。今ではリモートのレコーディングも浸透してきて、テクニカルな敷居も大分下がった事により、普通にリモート収録できたりしますが、当時はリモート収録の環境とかは全く整っていませんでした。
――コロナ禍ならではのご苦労ですね……。
祖堅氏:英語版から録り始めましたが、ボイスアクターさんが一人ずつ収録に挑み、一人ずつ歌い、次の人、次の人、と歌っていくわけです。が、リモートでオペレートができなくて……。
例えばクリック音を聞いてもらったりとか、ガイドメロディを聞いてもらいながら歌ってもらうことが、リモート環境下ではできなかったんです。それでもとりあえず20人くらいに歌ってもらいましたが、テンポはめちゃくちゃ、歌い出だしもめちゃくちゃ、キーもめちゃくちゃな状態で、ちょっと頭を抱えましたね(笑)。
――ええ! その状態からどうしたんですか?
祖堅氏:全力で科学の力を使ってなんとかしました(笑)。で、英語版が終わって、次に日本語版の収録などもあって、さあどうしようと。ですが、やはり世界情勢的に1カ所に大人数を集めて録ることはできなかったので、サウンドスタッフたちそれぞれが自分の家などで録音していきました。
――つまり「On the Wind Borne - The Rosarian Ducal Anthem」の日本語版は、スクエニさんのサウンドスタッフさんたちの歌声だったんですね。
祖堅氏:日本語版はそうです。壁の薄い家のスタッフは、隣の家の住人から壁ドンされたりしながら収録して(笑)、それで出来上がったのが「On the Wind Borne - The Rosarian Ducal Anthem」ですね。
――ご苦労があったんですね……(笑)。ちなみに今回フィールドや町の音楽がピアノやアコースティックギター中心で、環境音楽に近いような曲がとても多かったように感じました。
祖堅氏:音数……というか、楽器数を意図的に減らした部分は結構あります。なぜかと言うと、今回はアクションRPGで、戦闘はエンカウント式ではありません。なのでプレーヤーによって、バトル曲が再生される割合が読めない状況だったんです。そこでまず、ゲーム全体に渡る音楽の緩急をどこにつけるか、ということを念頭に制作していきました。
フィールドは割と落ち着いていて、バトルに入るとちょっと高揚して、ボスが来ると更に高揚して、召喚獣バトルが来るともっと高揚する。そういうプレイステージ間の段階みたいなものがあったので、フィールドまでいつでも音楽がワーワーしていると、、ゲームプレイがしんどくなります。
なので、1回フィールドや拠点に戻ってきたら1回落ち着く、バトルに入ったら高揚した感じになるという、音楽的なところで言うと”流れ”と呼んでいますが、ゲームでもちゃんと複合的に流れに乗って楽しめるようにしたところが多かったですね。
――なるほど。フィールド曲で言うと、「Whitewater - Kingsfall」などはどこか悲し気な音色だったり、「Forevermore - The Grand Duchy of Rosaria」などは郷愁漂う音色に感じました。
祖堅氏:緑が多いところでは、ピアノを主体にしています。基本的にあまり楽器等を盛らないように作っていますね。
――ピアノといえば「FFXIV」でもお馴染みのKeikoさんがアレンジされたピアノ楽曲とかもありましたよね?
祖堅氏:そうですね。今回は3曲ほどお願いしています。「Darkest before the Dawn - The Imperial Territory of Rosaria」や「In Darkness Hope - The Holy Empire of Sanbreque」、「My Star」などですね。世界観にあった演奏をしていただいています。
――今回は、イベント曲の使い回しが少なくて、サントラにも1分未満から1分半程度の短い曲もとても多く入っています。その時その時の場面に寄り添う音楽が多かったように感じるのですが、発注の段階から「一曲ずつ作ってほしい」というような要望があったのでしょうか?
祖堅氏:いえ、発注にはありませんでした。我々サウンドチームが「ここには専用の曲が必要だよね」というところを、残りのスケジュールとにらめっこしながら決めていきました。
このシーンは何のことについて語っているのか、誰のことについて語っているのか、そしたらここはやっぱりどうしてもこのメロディが必要になるねなど、色々なことをチームと情報共有して制作していきました。
例えば、「ここはジルを主役として捉えるカットシーンですよ」となった場合は、ジルのメロディを使って、そのシーンに合うようにアレンジをして実装するという感じです。汎用シーン用、みたいな曲は特に設けていなくて、しっかりとその場面ごとに、メロディもお話的にちゃんと内容に紐づくように、専用曲でたくさん用意する事になりました。
不思議な魔法がかかった「ミニ祖堅」システム
――通常バトル曲「Sixteen Bells」、強敵などの「Color and Crackle」、中ボスバトル曲の「On the Shoulders of Giants」、リスキーモブなどにも使用されている「No Risk, No Reward」、そしてドミナント戦「To Sail Forbidden Seas」と徐々に曲調が盛り上がっていくように作られていたと思いますが、本作のバトル曲のコンセプトについて教えてください。
祖堅氏:仰っている通り、強敵になるごとに壮大になっていく感じですね。でも実は、今回のバトル曲の主旋律はよく聞くと全部同じなんです。
――えっ、そうなんですか。全然気が付きませんでした。
祖堅氏:通常バトル、中ボス、リスキーモブ、ドミナント戦、全部同じメロディです。アレンジを変えて、高揚感や壮大観の段階を組んでいます。
昨今のゲームというか、今回のようなアクションRPGでめちゃくちゃメロディを強烈にすると、フォトリアルなゲームなほどあまりうまくマッチングしないんですよ。なので、若干彩度を落としたような……本当に若干ですけれど、それくらいのほうが合います。
ただそうすると今度は印象的にならないという問題が出てくるので、手法としては同じメロディをリフレインさせるために、シチュエーションが同様な個所でメロディのノートを共通化しています。「あれ、これなんか聞いたことあるぞ」というようなメロディを、理解してもらうところまでいかなくても潜在意識に訴えるぐらいのところでアレンジしています。
――バトル曲といえば、中ボスバトル曲の「On the Shoulders of Giants」ではイントロ部分に歴代「FF」バトル曲のイントロ部分が使用されています。これは祖堅さんの案ですか?
祖堅氏:この曲はコンポーザーの石川が作りました。こういった過去作の引用に関してはサウンド班全体で色々話し合って、決めていきました。
――ドミナント戦の「To Sail Forbidden Seas」はプレーヤーの体験に沿わせるという意味でも特に難しい曲だったと思いますが、制作時に苦労した部分や工夫した点はありますか?
祖堅氏:通常バトルから、中ボスから、バトルを段階的に遊んできて、ドミナント戦にたどり着いた時の壮大感というか……「壮大」の一言で表現するのは難しいのですが(笑)、とにかく「とんでもないやつとやりあってる」っていうパンチを出せるような工夫はしたつもりですね。それは、さっきも言ったメロディの旋律が実は同じなんだよ、っていうところとか。
例えばリスキーモブなどは、ドミナント戦のメロディをサビとそれ以外で分けて使っています。サビとそれ以外のメロディの使用箇所をひっくり返したりして、1曲として成立させたりしています。
――プレイ体験で言うと、どこでどういうアクションを取っても曲が同じように遷移していくのが本当にすごいなと思ったんですが、どのように工夫しているんでしょう?
祖堅氏:説明すること自体はできるんですけど、ここから2時間くらいつまらない話が延々続くことになっちゃうんですよね(笑)。
例えるなら、アヒルは優雅に泳ぐように見えますが、実は水面下で足はバタバタしていますよね。それと同じようなことが「FFXVI」のサウンドでも行われていると思ってください。これを真面目に説明しようとすると、つまらない大学の先生の講義みたいになっちゃうので、面倒なので「ミニ祖堅」と称しています。
「FFXVI」をインストールするとちっちゃい祖堅が一緒にインストールされて、貴方のプレイ状況にあわせて、色々曲を流したり、音楽を編集したり、音量調整をしたりしています、とお茶を濁しています(笑)。リアルタイムで色々なことをやって、皆さんに等しく同じプレイ体験をしてもらうという目標は、今回叶えられたかなと思いますね。
――実際私は、ドミナント戦でもフォトモードをガンガン起動していて、色々撮影したり音楽を流しっぱなしにしていることもありましたが、それでも音楽体験が同じになるのがすごいなと思っていました。
祖堅氏:そうなんですよ、あれは作る側としては面倒くさいんですよね(笑)。でもプレイした時に、ちゃんと1曲としてしっかりと存在するようには成立させられたかなと思いますね。空中分解するくらいの音楽の群れを、何かいい感じにエディットしてうまく纏めているという不思議な魔法がかかったシステムです。
――「FFXVI」では「A Land in Peril」「Control」などで、プレリュードやオープニングテーマ、メインテーマなど、初代「FF」の楽曲のアレンジが多く使われていましたが、その意図をお伺いしたいです。
祖堅氏:「FF」のナンバリングであるところがやはり大きいのではないかと思いますね。原点から、正統進化した16番目のタイトルで大元のメロディを色々使わせていただいているという感じです。
――ニサ渓谷の「The Lion and the Hare - The Nysa Defile」など、一部の楽曲は「FF」ではなく「FFIV」のプレリュードがモチーフになっています。「FFIV」のプレリュードをモチーフに持ってきたことには理由があるのですか?
祖堅氏:これは単純に、プレリュードのアルペジオに対してメロディがついたのが「FFIV」だからという理由です。要は、あのメロディを使いたかったんです。
「我慢できなかった」タイタン戦のロック曲
――では召喚獣戦の音楽について、色々お伺いしていこうと思います。まずクライヴのテーマと言っても良い「Find the Flame」は、復讐者としてのクライヴの転換期を表すようなメロディラインが印象的な曲です。こちらのコンセプトをお願いしたいです。
祖堅氏:今回、実は「〇〇のテーマ」みたいな名前をつけているものはないのですが、キャラクターや土地等にそれぞれにユニークなメロディが存在しています。ただ「Find the Flame」や「Away」など、それぞれメロディを統一化してるんです。
要はクライヴのメロディ、ジョシュアのメロディがあって、クライヴのメロディはもちろんクライヴがイフリートになるところでもメロディとして使うし、ジョシュアのメロディはフェニックスのメロディとしても使おうといった一貫性を持って、それぞれのメロディに紐づくコンテンツに対して使っています。
なので「Find the Flame」に関しては、実質クライヴのテーマと言ってもらっても過言ではなくて、クライヴのメロディを使って状況にあった音楽を作った結果になります。特に「Find the Flame」は、音楽単体としてはアクセル踏みっぱなしで緩急もなくて「何だよこれ」という感じですが、ゲームを実際にプレイされたらこの意図はわかると思います。アクセルを緩める場所じゃないですし、クライヴのメロディを使って、イケイケゴーゴーの曲を作ったらこうなった、という感じですね。
――今ちらりと出た「Away」ですけれど、こちらもジョシュアのテーマということでよろしいのでしょうか。どこか性急さを感じさせるアルペジオ、切ないメロディライン、フェニックスのテーマ曲に相応しい曲でした。
祖堅氏:まさに仰っていただいた通りで、イフリート対フェニックスという戦い自体がそれはもう悲しいシーンです。なので、その悲しいイメージをメインとしてメロディラインが構成されていって、ジョシュアのテーマとして使われています。
――ガルーダ戦の「Control」はいかがですか? ベネディクタの嵐のような気性が表れている曲だと思います。
祖堅氏:まさにベネディクタを表した曲です。ベネディクタのメロディを最大限に盛り上げたのが「Control」ですね。最初、鉄王国でベネディクタがシドを見つけて見下ろしているシーンでも、「Control」のメロディが使われています。ベネディクタの目線で描かれたシーンにはこのメロディが使われていますね。
――ちなみに、「Control」に「FFXIV」のガルーダ戦の曲「堕天せし者」のフレーズが入っていますよね?
祖堅氏:これは……はい、使っちゃいました(笑)。特に理由はなく、ガルーダだからという感じです。
――タイタン戦「Do or Die」~「Titan Lost」あたりは、祖堅さんらしいロックでしたね。
祖堅氏:ロックにしようとは決めていませんでしたが、実際のあの画面とバトルの内容から、「クラシックでもいけるけど、もう一段階やっちゃった方が良くない?」と勝手に思いまして。
タイタンは「FFXIV」以外では、あまり日の目を浴びていない召喚獣だと思っていて(笑)。でも「FFXIV」であれだけ光の戦士たちを土俵から落としまくった伝説の召喚獣ですし、今回も盛ってあげないと、となりました。
今回の召喚獣戦の中でも、タイタンは大きさも一番です。スピードも一番早いし、迫力感MAXって感じだったんで、このバトルにはやっぱりロックが合うと思って、ロックを入れちゃいました。……我慢できなくなったんですね、はい(笑)。
――(笑)。「FFXVI」の発売前の生放送で「吉田さんに黙ってやっちゃった曲がある」と仰っていましたが、それがこのタイタン戦ですね?
祖堅氏:そうですね、このタイタン戦と、あと精神世界でやるバトルの曲だったりしますね。
――次はバハムート戦の、「Beyond the Heavens」~「Ascension」についてお伺いしたいのですが、全召喚獣の中でも最も悲哀の感情に満ちた曲です。光の皇子が「堕ちた」と感じるBGMでした。
祖堅氏:ディオンの一生涯を考えた時に、僕にはすごく悲しいやつに映りました。なので、ああいうテイストになりました。「悲壮」というテーマをメロディやコード展開に散りばめました。ディオンは煌びやかな皇子という印象、それから情熱的なところなどが感じ取れたので、そのイメージもメロディで表現しました。
――オーディン戦の「Sever」はおどろおどろしい感じで、「The Riddle」は勇ましさを感じさせる曲で、ガラッと雰囲気が変わります。
祖堅氏:バルバナスはすごくねっとりしていますよね(笑)。「Sever」はそれを表していて、「アイツはもう突き抜けてるな、なんか、いっちゃってんな……」っていう感じです(笑)。
一方で、オーディン、斬鉄剣って、僕の心の中ではすごく勇ましいイメージがあります。過去の「FF」作品の中でもそういうイメージが強いんですよ。なのでプラス、ちょっと男らしい力強い感じを曲に込めています。
実際、バルナバスはすごく強いキャラクターで。シナリオでも、こいつこんなに強いんだというのを実感するシーンなので、その印象は入れたいと思ってこういう曲にしました。なので、オーディン関連の曲は全部バルナバスのメロディを使っています。
――なるほど、先程仰っていたように、そこでまた小節を入れ替えたりして、違う曲として構成しているんですか?
祖堅氏:そうです、そうです。ですが、オーディンの場合は小節を入れ替えたりはしていなくて、単純にアレンジをガラっと変えているだけなんですよ。全ての曲がそうではありませんが、いかにも「アレンジです!」とわかるようにはしていません。それでもよく聞くとわかると思いますよ。
――結構聞き込んだつもりですけれど、気付かなかったです。
祖堅氏:そうでしょ!?(笑) そこまでわかるようにはしていないので、上手くハマってくれたなぁというのが感じられますね。
――気付けなかったのが悔しいですね……(笑)。あまり主旋律の主張が激しくないからですかね……?
祖堅氏:さきほども触れましたが、主旋律の主張が激しいと、フォトリアルなゲームにはあまり合わない事が多いんですよ。画面が綺麗になるにつれて、じゃあこのメロディだ、みたいなのをガツンと前に出すと、全てがそうとは言いませんが、かえってカッコ悪くなってしまう事が増えます。
僕みたいな世代はよく「もっとメロディを前に出してほしい!」と考えてしまいがちで、古い「FF」ファンはそういう音楽を求めがちなんですが、今のゲーム……特に「FFXVI」みたいな最新型のゲームハードで展開されるゲームでそれをやると、バランスが崩壊してしまいます。
とはいえ、これも「FF」のナンバリング作品なので、いわゆる映画音楽などと比べると主旋律はかなり主張しているほうではあります。ただ、3音しかなかった昔の「FF」のような主旋律の主張の仕方は、あまりしないようにしています。
――実際に、主旋律の激しめな曲を当ててみたりはしたんですか?
祖堅氏:そうですね、やってみてはいますよ。でもそのゲーム体験としては「出しすぎ」っていう感じでした。物語に没入してもらいたい、「FF」というゲームの世界にどっぷり入り込んでほしい、というサウンドデザインが念頭にあるので、ゲームプレイを邪魔するほど主旋律が主張するのはやはり違うと思います。音楽がファーストではなく、あくまでゲーム体験がファーストであるべきだと僕は考えていて、メロディの主張はバランス良くやっているつもりです。
――ゲームをプレイしていても、そこの塩梅は素晴らしかったなと思います。盛り上げるところと、気持ちを静かにプレイするところの緩急がしっかりしていたというか。
祖堅氏:音楽のコンサートでもそうなんですが、ずっとテンションMAXで、ずっとメロディが主張しまくるのはあまりいい興行になりません。言い方が難しいのですが、色々な刺激を味わうことで素晴らしい体験だったなとなるわけです。同じ刺激を与え続けられると、やっぱり飽きてしまう。なので、そこはとても気をつけました。
――では、ジルのメロディが使われている「Winter's Bound」について伺っていきたいんですけれど、ジルの抱える苦悩のようなものを表している曲調に感じました。コンセプトをお伺いできますか?
祖堅氏:ジルちゃんは救われてほしいんですよ。僕の中のそういう想いが炸裂しただけです。ジルちゃんには幸せになってほしい。……もうそれだけです!(笑)
――(笑)。では、ラムウ対イフリートシーンで流れる「Fall from Grace」などのラムウ関連曲は今村貴文さん作曲、石川大樹さん編曲とのことですが、短い曲ながらドラマ性の高い曲に仕上がっていると思いました。祖堅さんのほうから何かオーダーがあったのでしょうか?
祖堅氏:シドのテーマは、序盤に訪れるシドのアジトの曲を引用しています。尺的、映像的に合わせるのはもちろんですが、あのメロディをあのシーンに嵌めて、イフリート対ラムウのシーンに合うようにアレンジしてくれ、というオーダーをしました。なので、シド関連は全部あのアジトのメロディが使われているようになっています。
――これまた絶妙なアレンジでした。あとは、ティフォン戦などでかかっていた「Hamartia」はEDMになっていて「FFXVI」の楽曲の中でも結構異質だったなぁと感じたのですが、これも先程出てきた「やっちゃった」曲ですか?
祖堅氏:異質な感じを出さなきゃいけない、というところでああなりました。狂ったEDMはコンポーザーの今村がすごく得意なんですよ。「狂った異質なやつやってよ」って投げたら「いいんですか?」ってパァっと顔が輝いたのを覚えていますね(笑)。
基本クラシック調でダークなイメージの曲が今回非常に多かったので、我々はずーっと暗い曲を作っていたわけですが、そうすると段々おかしくなってくるんですよ。僕とかは結構耐性が強いのでずっと暗い曲を作っていても比較的平気なんですが、石川・今村のふたりは見ていてもありありとわかるくらいに日々ドヨーンと沈んでいきました。それで「大丈夫か、おまえら」みたいな感じになって(笑)。
――わぁ(笑)。
祖堅氏:そこで今村にはアジトの曲とか癒し系の曲を作らせてみて、「暗くて落ち込んじゃう」みたいな気持ちを抜いてもらったんです。「Hamartia」もその一環で、「もうおまえやっちゃえよ、ゴリゴリのEDMでわけわかんない感じにしちゃっていいから」っていう感じで投げました(笑)。
メロディはとあるキャラクターから引用していますが、「どれぐらいやっていいんですか?」って聞かれたので、「いやもうやれるだけやっていいよ」って。今村も「ずっと暗い曲ばかり作っていたんで、こういう曲ができてよかったです」ってスッキリした顔をしていましたね(笑)。
――今村さんと石川さんにはどのように曲を割り振っていったんですか?
祖堅氏:3人で色々話し合いながら決めていった感じです。主要な曲はチームとのやり取りを加味して僕が受け取ることが多かったですが、1回メロディラインが決まったり、ゲーム体験が決まった場合は、「このメロディを使って、このカットシーンにハマるやつ」といった感じで3人で割り振っていきました。どこに何が必要になるかについては、かなり細かく3人で話し合いながら作っていきました。
3人で頭からゲームプレイをして行って、「ここは曲がいるよね」みたいに作っていったイメージです。もちろん出来ていない部分もたくさんあって、頭から全部遊べたわけではないのですが、イメージ的にはそういう感じで作っていきました。
――なるほど、それがあって没入感のあるサウンドを生み出せたんですね。ちなみに今回生み出すのに一番苦労した曲はありますか?
祖堅氏:今回は、生み出すのはそんなに難しくはなかった……いや難かしったんですが(笑)、どちらかというと生み出す過程よりもゲーム体験に合わせるためのミニ祖堅の調整がめちゃくちゃ大変でした。
ゲームサウンドは曲を作って終わりではなくて、ゲームのために作った曲だからこそゲームプレイに一番マッチングする実装をすべきだと思います。今回はそこにとてもこだわっています。ですが、それがさっきも言ったようにかなり複雑怪奇なもので、苦労しました。
――では、ゲームの発売から1か月、サントラの発売を待ち望んでいたファンも多いかと思いますが、このサントラの作業を振り返ってのご感想をお願いできればと思います。
祖堅氏:サントラの作業は……二度とやりたくないです(笑)。
――「FFXIV」の時から毎回同じこと仰っていますね(笑)。
祖堅氏:いや、本当に今回は異常でした……。1か月くらいずっとマスタリングしていたのかなぁ……。他にも同時進行で色んなタイトルのマスタリングをしているので、「FFXVI」にばかりかかりきりだったわけでもないのですが、年が明けてから最近までずーっとマスタリングスタジオに通っていました。
普通マスタリングは、1年に1枚アルバム作ったとして、そのマスタリングの作業は1日なんですよ。何かトラブルがあってリテイクがあったとしても、2日くらい。絶対これ以上はない。なのに「FFXVI」はマスタリングを1か月もやってるんです。異常なんですよ!
――どうしてそんなに時間がかかったんですか?
祖堅氏:単純に物量が多すぎなんです。それから、みんな同時進行が多すぎて、訳わかんなくなってました(笑)。実際、全員「FFXVI」やりながら「FFXIV」もやっていますからね。色々な人がこんがらがった結果です……。そんな中でなんとか完成させることができて、よかったです。
――本当にお疲れ様でした……。サントラにはアルティメットエディションがあります。通常盤との大きな違いを教えていただければと思います。
祖堅氏:通常盤に収録できなかったカットシーンの音楽たちや、没になった曲、あとは全然ゲーム本編には使っていないけれど、放送で使ったピコピコとした曲調のアレンジなど、そういうちょっとしたおまけを入れています。通常盤でも全然良いですし、コアなファンの方はアルティメットエディションをお買い上げいただければ、ニヤリとできる感じです。
――ピコピコバージョンの「Away」は、前廣さんが作ったクライヴとトルガルが走っているドット絵のやつですよね。アルティメットエディション、予約がすごく入っているとお聞きしました。
祖堅氏:そうなんですよ、通常盤もアルティメットエディションに比べればお求めやすい価格になっているので、こちらもぜひお願いします。
――では最後に、サントラを待っていたファンの皆さんにひと言お願いできればと思います。
祖堅氏:今回、パッケージタイトルの制作という事自体がかなりの久々でした。「FFXIV」は3~4か月という短いサイクルで、プレーヤーの皆さんの反応を見ながら、どういう音楽が求められているのかの軌道修正がしやすいタイトルです。「FFXVI」は発売されるまで何年もありましたし、途中で軌道修正できるタイトルでもないので、出してみるまでどういう反応が得られるのかわからなくて「こわいな~」とドキドキしていました。
ですが、いつも通りやれることは全力で全部やり切って、自信を持って皆さんにお届けしたつもりです。もし「FFXVI」の音楽を気に入っていただけたら是非サウンドトラックをご購入いただき、そのサウンドトラックを聴いて日常生活を送りつつも、ゲームの世界にいるような気持ちになれたり、音楽が皆さんのゲーム体験の思い出のお手伝いをできたりしていたら嬉しいです。
――ありがとうございました。
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