インタビュー
「憧れのメガCDタイトルがプレイできる!」、「メガドライブミニ2」奥成洋輔氏インタビュー
2022年10月18日 00:00
今回のタイトルは「濃厚なメガドライブ」、とっつきづらいけど、記憶に残る
「メガドライブミニ」と「メガドライブミニ2」の収録タイトルにはコンセプトとして大きな違いがあると奥成氏は語った。それは前作「メガドライブミニ」が"きれいなメガドライブ"と言えるタイトルを集めたのに対し、「メガドライブミニ2」は、"濃厚なメガドライブ"といえるタイトルを集めたとのこと。これは奥成氏が収録選定時に強く意図した違いだ。
「前作、『メガドライブミニ』に収録した40本は『きれいなメガドライブ』といえるんじゃないかと。どんな人にもお勧めできるタイトルだと思うんです。触ってすぐに面白さがわかるし、やりこむことで強い達成感が味わえる、バランスがとれたタイトルをきちんと抽出できたと思います」。それは「当時メガドライブを持っていなかった人にもメガドライブの良さを知って欲しい」という想いからタイトルを選別したからだ。
例えばメガドライブを代表するセガのRPGシリーズ「ファンタシースター」では、RPGの手法がある程度確立され、一番完成度が高いシリーズ第4弾「ファンタシースター 千年紀の終りに」が「メガドライブミニ」には収録されている。エモーショナルなストーリーは人気だが、ゲームとして荒削りな「ファンタシースターII 還らざる時の終わりに」が、「メガドライブミニ2」に収録されているのは、ある意味2つのハードの違いを象徴しているのではないかと奥成氏は指摘する。
一方、「メガドライブミニ2」の収録タイトルに関して奥成氏は「濃厚なメガドライブ」だという。「ちょっととっつきづらい、だけど強烈に記憶に残る」というタイトルが、今回多く収録している。触ったときにゲーム内容がわかりづらかったり、操作が複雑でマニュアルが必須だったりハードルがちょっと高いけど、それを越えると抜群に面白い。そう言うタイトルが今回の「メガドライブミニ2」には詰まっていると奥成氏は語った。
「2」の収録タイトルの中で、「ルナ ザ・シルバースター」や「シルフィード」のような作り手の強い思い入れを特に感じるタイトルとして、奥成氏は「魔法の少女 シルキーリップ」を挙げた。一見アニメ原作のゲームタイトルのように見えるが、開発を主導した遠藤正二朗氏の強い作家性を感じさせるタイトルだという。
「魔法の少女 シルキーリップ」はインターフェースやゲーム画面などにゲーム黎明期の手作り感があって洗練された今の時代のゲームにはない味がある。当時としてもその表現は粗さを感じさせるものだったが、そういった印象を吹き飛ばす遠藤氏の作家性、随所のこだわりは特別な魅力を発揮している。突き抜けた作家性でその他の点を吹き飛ばすパワーはゲーム開発が成熟するにつれ失われていった流れではないか?
「メガドライブミニ2」には他にも黎明期からの進化を感じさせるタイトルが多いと奥成氏は指摘する。「ソーサリアン」は冒険を準備する街でのゲーム画面は文字が並んでいるだけのシンプルすぎるデザインだ。取っつきは悪くマニュアルを読まないとどんな機能なのかもわからないし、冒険にすら出られない。「ポピュラス」もゲームの基本ルールはまずマニュアルを読んで覚えていかねばいけない。しかし両方とも、ルールがわかるとたまらなく面白く、独自のゲーム性を持っている。「この時代ならではのゲームの記憶を残したい。『メガドライブミニ2』にはそう言う想いも込めています」。
コンピューターゲームが1970年代後半に一般化しはじめ、メガドライブが活躍した1990年代はじめには様々なゲームが様々なハードで展開していった。「メガドライブミニ」は"きれいなメガドライブ"としてハードとしてのメガドライブの面白さを描き出したが、「メガドライブ2」はもう少し広く、様々なクリエイターがより多彩なゲーム性と、リッチな表現を模索していく"時代"を取り出せているのではないかと奥成氏は語った。
前作「メガドライブミニ」は奥成氏をはじめとした関係者の予想を大きく上回る反響を得た。ユーザー達はとても好意的に受け取ってくれ、その評価は開発の関わった関連会社へも繋がった。「メガドライブミニ2」はその"夢の続き"を実現できたのではないか、奥成氏は今その実感を得ているという。
あったかもしれない「マルチメディアマシン」の未来へも想いをはせる
奥成氏は完成した「メガドライブミニ2」に触れてみて改めて"時代"を感じているという。PCエンジンスーパーROM2とメガCD、さらにはその先の3DOやPC-FXといったハードは「マルチメディアマシン」という未来を描いていたが、3Dポリゴンのゲームのブームによってその方向性が主流になることはなかった、という感想を奥成氏は持ったという。
カラオケ機能やビデオCDなどCD-ROMハードはムービーや音を駆使したインタラクティブ機能に注目し、業界全体がその方向を追求している風潮があった。「ナイトトラップ」などメガCDタイトルのいくつかにもそういった雰囲気がある。
しかし、その「マルチメディアマシンの時代」は来なかった。「バーチャファイター」と「リッジレーサー」が"3D空間を計算で表現する魅力"をはっきりと提示したことで、ゲームの方向性は一気に3Dゲームへと軸足を換えていくのだ。この2つの出現がもう少し遅かったら、マルチメディアマシンが目指していた、映像とゲーム性の融合への模索はもう少し長く続いたのではないかと、今になると奥成氏は思っているという。
「メガドライブミニ2」には「バーチャレーシング」が収録されている。この作品は3D空間での魅力をはっきり提示した作品である。数年前の3D空間を移動するのが新鮮だった「ハードドライビン」から劇的に進化し、明確な空間の存在感と臨場感をもたらしている。「メガドライブミニ2」はあり得たかもしれないマルチメディアマシンの方向性と、3Dゲームの可能性、両方が感じられるハードになった。
収録タイトルに関して奥成氏は「スタークルーザー」、「スターブレード」、「シルフィード」であの時代のコンピューターゲームによる宇宙空間の表現を比べることができるようになったところも面白いという。ゲーム表現の歴史においても研究しがいのあるテーマと言える。
もう1つ、触れておかなくてはいけないのが収録できなかったタイトルに関してだ。「メガドライブミニ2」に関しては収録を喜ぶ声が上がる一方で残念ながら収録が見送られたタイトルがある。収録されなかったのは「権利関係で許諾が降りなかったり、そもそも権利の所在がわからなかった」というタイトルも多かったという。
その中で奥成氏が残念に感じているタイトルの1つとしてヘリシューティングの「サンダーホーク」を挙げた。メガCDのタイトルで開発はコアデザイン。3D空間をきちんと再現しており、フィールドを自由に移動して目標を破壊するというゲームだったが、収録はかなわなかった。
このほかLDゲームの移植タイトル系も権利関係で断念したとのこと。権利確認の困難さはコロナ禍も大きく影響したという。今回の移植ができなかったタイトルに関しては、残念なことだが、権利関係でもかなり努力したことが伝わってきた。
気になる今後、「セガサターンミニ」や「ドリームキャストミニ」といった未来だが、奥成氏は「時代を見ながら」と語った。奥成氏自身は自分の定年までにはどちらも実現したい、と思っているが、技術的な問題やコストの問題はもちろんだが、やはりユーザーの望む声あってこそだという。まず声を上げて欲しいとのことだ。
最後にユーザーへのメッセージとして奥成氏は「『メガドライブミニ2』のタイトル発表まで本当に皆さん楽しんでくださって本当にありがとうございます。皆さんが楽しんでくださっている姿は僕も本当に楽しかったです。しかしこの楽しさはあくまで文化祭前日の楽しさなんですよ。本番はこれからです。ぜひ発売日に手にしてその楽しさを満喫してください」と語りかけた。
とても楽しいインタビューだった。当時のタイトルをそのまま収録した、「メガドライブミニ2」はいわば"タイムカプセル"である。あの時代の空気や雰囲気を思い出すだけではなく、博物館のように当時の時代をのぞき込むことができる。現代の目線からタイトルを眺めることで、当時のクリエイター達がゲームに込めた情熱や、様々な思いを感じ取ることができるだろう。