インタビュー
目指したのはゲームとリアルのハイブリッド!「SAMURAI SPIRITS」サウンドチームインタビュー
サウンドディレクター山添氏「効果音と環境音のみで、剣豪の気分が味わえます!」
2019年7月11日 00:00
SNKが2019年6月27日にプレイステーション4/Xbox One向けに発売した剣戟アクションゲーム「SAMURAI SPIRITS」。本誌でもレビューさせていただいているが、今までの「SAMURAI SPIRITS」の雰囲気と一撃必殺の爽快感を残しつつ、グラフィックスやシステムを強化した本作だが、もちろんサウンドも一新、強化されている。今回は「SAMURAI SPIRITS」サウンドチームにインタビューする機会を得られたので、その模様をお届けしたい。
黒子のBGMはあるけれど乱入はしてきません!
――チームメンバーの紹介、および「SAMURAI SPIRITS」をはじめとして携わった作品について教えてください
山添氏: 本作「SAMURAI SPIRITS」ではサウンドディレクターとして全体的な構成、ナコルル、鞍馬夜叉丸、柳生十兵衛、静御前の作曲担当、各キャラクターのSE、実装調整や設計など、サウンドに関する全般を担当しました。SNK作品では「真説サムライスピリッツ 武士道烈伝」からはじまり、「THE KING OF FIGHTERS」(以下、「KOF」)シリーズ、「月華の剣士」シリーズにも携わりました。
麻中氏: 牙神幻十郎、色、道場のBGM、およびキャラクターまわりのSEを担当しました。元々「SAMURAI SPIRITS」の開発がやりたくてSNKに入社したのですが、念願が叶いました。「KOF」シリーズではサウンドディレクターを担当しましたし、「餓狼伝説」シリーズや「SNKヒロインズ」にも携わりました。
日野氏: タムタム、呉瑞香(ウーレイシャン)、リムルルや、デモBGMを担当しました。サウンドチェックも行なっています。実は格闘ゲームを余り触ったことがなかったので、本作「SAMURAI SPIRITS」から本格的にプレイしだしたのですが、おそらくはサウンドチームの中では一番上達したのではないかと思います(笑)。「SNKヒロインズ」ではサウンドディレクターを担当しました。
――本作のサウンドコンセプトを聞かせてください
山添氏: 本作は「リブート」という位置づけであったので、1作目~4作目は相当意識しました。和楽器、SE、環境音が緊張感を伴って聞こえてくるというのを再現したかった。ただ、それだけだとシンプルな詫び寂びの世界になってしまうので、BGMジャンルもハードロックあり、クラシックありのなんでもありなところも再現したかったです。SEについても今までのネオジオの良さというのを活かして“強いSE”というのを目指しました。
――各キャラクターのBGMについて、ナコルルのBGMは初代「SAMURAI SPIRITS」のフレーズが一部使われていますが、シリーズの既存曲を意識した曲は他にありますか?
山添氏: モチーフに既存メロディを使ったのはナコルルくらいですが、歴代の曲を並べて、その雰囲気、コアな部分を新たな形で取り出せるような曲をそれぞれの作曲担当メンバーに割り振って、既存曲を超え新たな代表曲となるようなものを作ってくださいとメンバーへお願いし、皆その期待に応えてくれたと思います。ちなみにメンバーへは「そのまんま既存曲のコピーはしないでね」と指示したけど、結局はナコルルBGMを担当した僕がフレーズを一部拝借しちゃって、「なんやねん」といった感じですね(笑)。
――既存曲といえば、「真SAMURAI SPIRITS」の黒子ステージBGMである「お調子六句」が入っていますが、これはどういう経緯で入れたのでしょうか?
山添氏: 本作で既存曲のアレンジはストーリーモードのキャラ選択BGMだけだったのですが、チュートリアル時は「お調子六句」が似合うのでは?という麻中の提案を採用しました。
麻中氏: 当初は通常どおりチュートリアル時も道場ステージのBGMで、黒子の声も何も入っていなかったのですが、開発が進むにつれチュートリアル時に後ろにいる黒子の掛け声が入るようになり、その黒子の声がとてもお調子者のように聞こえたので、締め切り間近ではあったが山添に相談したところOKが出たので「お調子六句・再」として作りました。
山添氏: 結果的には既存シリーズのアレンジは2曲ですね。
――黒子が出てくる伏線ではない?
山添氏: SNSでも騒がれましたが、今のところは乱入してきませんのでご安心を(笑) ファンの皆さんの声が多ければ実装の検討をするかもしれません。
――本作のエンディングでは歌モノ、しかも英語だったのが衝撃的だったのですが、この曲をメインテーマに持ってきた意図を教えてください
山添氏: 今までのシリーズではストレートな「テーマ曲」というものが無かったのですが、今回ワールドワイドに展開するにあたり、“核となる曲”が必要だろうと、世界観を表すような大きなテーマが欲しかったためです。メインメロディは英語ですが、コーラスは侍らしさを表しており、和洋折衷のテーマソングという位置づけです。そして今までのエンディング「祭」シリーズも欲しかったので、こちらは10人斬り、50人斬り、100人斬りを達成したときに流れるように組み入れていますが、余り気付かれていないかもしれませんね(笑)。ボスの曲はひと工夫しており、コーラスパートがサラウンドで聞こえてくるような作りになっているので、サラウンド環境がある方は是非聴いてほしいです。
――一閃を決めた時に流れる「ギリギリギリ……」という音がすごく印象的ですが、どのような意図で入れたのでしょうか?
山添氏: ポリサム※の一閃が決まった時に墨絵のカットインと共にギリギリ……と効果音が流れていた演出がとても気に入っていたので、今回の一閃ヒット時やここぞという時に使っています。BGMの和楽器パートを収録したときに、効果音的なものをいろいろ弾いてもらい、それを取り入れたりしました。
※ポリサム: ハイパーネオジオ64版の「サムスピ」。3Dポリゴンを採用していたためそう呼ばれる
――キャラクターセレクトで、ストーリーモードと対戦モードで曲が違うのは何故でしょうか
山添氏: 初代のキャラクターセレクトBGMアレンジの「十六士」は伝統的に入れたかったので当初はこの1曲でしたが、対戦となるとちょっと雰囲気が重くストイックな感じになりますよね。それをもっとカジュアルに対戦しようぜという想いを込めて盛り上がるようにとBGMを分けました。チュートリアルのBGMも同様に、もっとこうした方が良いんじゃないかなというアイデアが浮かんできて、それを落とし込んだ形になりました。
今後のシリーズの土台となるような曲を目指した
――SE周りの苦労話について聞かせてください。
山添氏: BGMの隙間に波の音などの環境音を差し込んだりなど、BGMとSEというよりも、サウンドのトータルバランスを考えました。
麻中氏: 開発当初、とことんリアル路線でいくか、NEOGEO時代を彷彿させるような誇張された音にしようかというのを相談に相談を重ねて、後者の形になりましたね。
山添氏: 当初、新作は3Dと聞いたのでこれはリアル路線だろうなとリアルな効果音を準備していたのですが、実際に上がってきた墨絵調のグラフィックにリアルな音を当ててみると合っていないように思えたので、元々のNEOGEOのような誇張された音とリアルな音をうまくブレンドさせて落とし込むという形に落ち着きました。
――鞍馬夜叉丸の曲を「KOF」のK'BGMである「KD」シリーズのような曲にしようとコメントしていましたが、詳細をお聞かせください
山添氏: 「KOF99」で初登場となった主人公K'というキャラクターのBGMを作ったのですが、そのあとのシリーズでK'が引き続き登場し、曲もどんどん作られるようになったんです。鞍馬夜叉丸も同様に発展していってほしいという願いを込めています。ガルフォードやナコルルのように、最初がしっかり作られてそれが発展していったので、そのオリジナルとなるようなしっかりした曲作りを心がけました。
――ボイスについて、鞍馬夜叉丸だけが怒り爆発すると声が一通り変化するのはどういう意図があったのでしょうか
山添氏: 実は当初は、全キャラ怒り爆発したら声が全て「怒りパターン」になるように考えていたのですが、企画と相談して一部の技だけ怒り専用ボイスにしました。しかし夜叉丸だけはキャラクターも強調したいし、本作の主人公格でもある。また、夜叉丸の怒り爆発時には見た目も変わるので、全てのボイスを怒り状態という仕様にしました。結果的に他のキャラクターと差別化できてうまくキャラが立ったかなと思います。
――ゲーム内のサウンドギャラリーがかなり充実していますよね?
山添氏: 「KOFXIV」しかり、「SNKヒロインズ」しかり、SNKの伝統のようなものとしてサウンドギャラリーを充実させたいと思ったので入れました。
麻中氏: お客さんが喜んでくれるであろうことは詰め込みたいという思いが「KOFXIV」、「SNKヒロインズ」にあったので、本作もそうしました。特にボイスが聞けるっていうのは珍しいと思いますね。
山添氏: 実はボイスデータはゲーム中とギャラリー用と別に用意しないといけないので、音量調整などの手間が倍かかるんですよね。でもファンが喜んでくれるなら、と頑張って入れました。やっぱり昔のオリジナルサウンドトラックにはボイスが収録されていましたので、そのニーズも満たせたのではないかと思います。
麻中氏: とはいえ、ありがたいことにオリジナルサウンドトラックも初回出荷分が完売し、増産が決定しているので、ギャラリーが販売のマイナス要素にはなってないと思います。
――DLCキャラクターのBGMはサウンドトラックとして販売する予定はあるのでしょうか
山添氏: そのうち出したいのですが、どのような形(コンプリート版とするかもしくは追加のみなど)で出すのが一番ファンが喜んでくれるのか検討しています。
麻中氏: サウンドトラックという形では今までも出していますが、「企画モノ」的なものは出来ていないのでそういうものが出せると良いですね。
――サウンドについて海外の反響はどうですか?
麻中氏: 海外のファンの中には、ガルフォードや徳川慶寅みたいなハードロック系の勢いがあるBGMを全体的に取り入れてほしいという声もあるみたいですね。
山添氏: 和の曲を気に入ってくださるファンもいますが、ハードロック系が良い、などどちらの声もありますね。どちらに寄せようにも難しいところはあります。日本の方は後者のもっとハードロック系はないのか?みたいな声はあまり無いですね。
――本作でお気に入りの曲を教えてください、日野さんからどうぞ
日野氏: 自分が余り書けないジャンルというのもありますが、ガルフォードが好きですね。自分が手掛けた中では呉瑞香でしょうか。
麻中氏: 呉瑞香のBGM、良いと思うよ!
山添氏: お題として「中華なJazzy」という難しい指示を出したのですが、見事に応えてくれましたね。
日野氏: あのメロディ思いついたのは自宅の風呂です。会社で思いつかなかったので宿題にしようとお風呂に入ってたら鼻歌でメロディが出てきました。慌てて風呂を飛び出したのですが、身近に書くものが無かったので、曇った鏡にメロディを書きました(笑)。そのあと熱が出てしまい、熱でフラフラになりながら仕上げました。
山添氏: 新キャラのBGMって難しいと思うんですよね。何を作ってもいい反面どう作って良いか迷うと思うのですが、最終的にはこれぞ呉瑞香という曲が確立できたと思います。
麻中氏: 北直樹さんが作曲した千両狂死郎BGMですね、あれは僕には作れないです。初代サムスピ狂死郎BGMのノリが強烈にこびりついている中、こうきたか!という衝撃を受け、ジェラシーを感じましたね。
日野氏: ダーリィ・ダガーBGMも北さん作曲ですよね、本当にジェラシーしか感じないです。
麻中氏: ここは北さん持ち上げる場じゃないよ(一同爆笑)
山添氏: 狂死郎は今までのサンプルを北さんへ渡してこの雰囲気という指示を出したのですが、サンプルの前半と後半をうまいことつなぎ合わせてきたので、そうきたかと感心しましたね。
麻中氏: それ、ズルイな(一同笑)。 色のBGMを作曲したときの話だけど、元々色はポリサムからの登場ですが、それをNEOGEO時代のサムスピの世界にどう落とし込もうかと悩みましたが、個人的にはうまく落とし込めたかなと思う。
山添氏: 好きな曲は色(のテーマ)かな。すごく気にしたのはナコルルですね。初代ナコルルBGMである「自然の宴」のAメロをBメロに持ってきたら別の形で曲が広がっていくのではないかと取り入れてみましたが、初代BGMは人気曲なので受け入れられるかどうか心配でした。
麻中氏: 例えば「餓狼伝説」ギースのBGMを新曲で書けと言われても僕は絶対やらないですよ(笑) 歴代シリーズの中で「自然の宴」のアレンジを重ねてきた中で新曲を入れたというのはなかなかの冒険だと思います。
山添氏: ナコルルと夜叉丸は気にしながら作ったので、反応が良かったので安心しています。
――ナコルルBGMの三拍子は「斬紅郎無双剣」のナコルルBGMを意識しました?
山添氏: はい、そこも意識しましたね。
「和」というサウンドは一筋縄ではいかなかった
――制作時の苦労話を聞かせていただけませんか?
麻中氏: レコーディングのときに持って行ったデータが日本語だったため、文字化けして読めなかったことでしょうか(一同笑)
山添氏: 和楽ということもあり、ちょっと勝手が違いましたね。
麻中氏: 和楽器の譜面はこれで良いんですか?というやりとりから始まったので手間は2倍くらいはかかった気がしますね。これは演奏できないので変更してくださいと返ってきたこともありました。今回は琴、尺八、三味線、篠笛が生楽器ですが、ここはプロの奏者さんが演奏するという雰囲気にこだわりたかったです。三味線は津軽三味線、中棹(ちゅうざお)三味線とあり、前者は覇王丸のBGMのような荒々しいところで使いましたし、後者は橘右京のしっとりとしたBGMで使いました。奏者さんもそれぞれファンがついているくらいの一流で、本作のBGMを演奏していますときいて興味をもってくれたファンの方もいました。
――モードセレクトなどのときに「ストーリー」とか発声してくれますね
山添氏: はい、あれは企画が全部セリフ入りの台本を作りました(笑)。今作は日本語バージョンと英語バージョンがありますが、ナレーターさんが英語バージョンを収録するときに「英語喋れないですけど良いですか?」と言われましたが、オリエンタルな雰囲気が出て海外の方が喜んでくれるので日本語英語で収録してもらいました。
日野氏: ゲーム内で言語を日本語以外にしたときに、メニューも英語表記に変わるのですが、それもナレーションの方がカタカナ英語丸出しで「ぷらくてぃす」とか「あいあんまんちゃれんじ」とか喋っていて面白かったです(笑)
山添氏: 流暢な英語よりあれがいいんです(笑)。言語設定みたいに、まだ気づいていない要素があると思いますので、より楽しんでいただければと思います。
――発売から約2週間たちましたが、こういう部分を楽しんでほしいというところはありますか?
山添氏: 環境音にはこだわっていますので、あえてBGMをカットして環境音と効果音だけにするのが臨場感あふれてオススメです。自分が剣豪になったつもりでプレイしてもらうとまた趣が違って面白いと思います。
麻中氏: 体力が赤ゲージになったらキャラクターが「ハァハァ」と息切れするのは気付かれてますかね?
山添氏: あの息切れも2段階あって、ゲージと連動させてますが、実装が大変だったのですがプログラマーさんと試行錯誤して実現しました。これもこだわりのポイントです。BGMカットするとそれがより感じられます。
日野氏: 環境音を結構作ったのですが、夜叉丸ステージにいるカラスのリアルな鳴き声を撮るためにマイク片手に会社を飛び出して江坂の街の中をカラスを求めて彷徨いました。
――最後にファンの皆様へ一言お願いします
山添氏: 初期シリーズの雰囲気を踏まえて、それを現代に落とし込むというコンセプトで、サウンドチームとして沢山のやりたいことを上手く落とし込めた自信作になっていますので、是非サウンドにも耳を傾けていただきゲームを楽しんでいただけたらと思います。
――ありがとうございました。