インタビュー

「日本での失敗から多くを学んだ」 Head of Xbox Phil Spencer氏インタビュー

Xbox Game Passはようやく日本でも開始。Project xCloud、Project ScarlettではTier1で反転攻勢へ

11月15日収録

会場:Copper Box

 英国ロンドンで開催されたXboxのプライベートイベント「X019」。開催に合わせて実施されたライブイベント「Inside Xbox」では、英国のXboxファン数千人が見守る中、ホリデーシーズンから2020年にリリースされるタイトルが次々に発表されたほか、Xbox Game Passのラインナップ強化や、クラウドゲームサービスProject xCloudのプレビュープログラムの拡大など、コンテンツ、サービス両面においてかなり踏み込んだ発表が行なわれた。

【X019】
会場となったCopper Boxは、オリンピックパーク内にあるイベントホール

 初日のメディアブリーフィング、会場での試遊、そしてInside Xboxを通して参加して感じたのは、日本市場に対する熱いこだわりだ。Xboxを統括するPhil Spencer氏がメディアブリーフィングに登壇したのはわずか10分程度だが、その半分を日本に関するアナウンスに割いた。

【Phil Spencer氏】
メディア向けの発表を行なうPhil Spencer氏

 具体的には、来日して多くのパブリッシャーとコミュニケーションを取ったこと。具体的な収穫として「ファイナルファンタジー」シリーズや「キングダムハーツ」シリーズ、「龍が如く」シリーズをXbox Game Passに加えること。唯一の欠番となる「ファイナルファンタジーXIV」についてはXboxでの提供を目指して“吉田さん”(「FFXIV」プロデューサー兼ディレクター吉田直樹氏)と交渉していること。そしてProject xCloudのプレビュープログラムを「鉄拳7」や「ぷよぷよeスポーツ」など日本産タイトルを拡充させつつ、日本でもサービス開始することなどだ。集まったメディアは欧米メディアが中心だったが、Spencer氏がこれほどまでに日本関連に時間を割くのか、いぶかしく思った人もいるのではないだろうか。

【日本コンテンツの発表】

 私自身は、“日本のゲームクリエイターとコミュニティに対する明確なシグナル”だと感じた。日本市場におけるXboxビジネスは、まさに岐路に立っているといっても過言ではない。それは「完全撤退する」か、それとも「再チャレンジする」かだ。ご存じの通り、Xbox Oneは日本ではTier1に含まれず、ローンチ時期が他の地域と比較して大幅に遅れ、マーケットを立ち上げることに失敗した。

 この点においてX019で「再チャレンジする」ことが明確に確認できたのは、何よりの朗報と言えた。X019で実施されたPhil Spencer氏への単独インタビューでは、あえて日本市場にこだわって質問を重ねてみた。Spencer氏が日本市場についてどう考えているか、そしてXboxの鍵を握るサブスクリプションサービスXbox Game Pass、クラウドゲームサービスProject xCloud、次世代ゲームコンソールProject Scarlettの日本展開がどうなるのかについても踏み込んでみたので、ぜひご注目いただきたい。

Xbox版「ファイナルファンタジーXIV」の正式発表を楽しみにして欲しい

――単独インタビューに応じてくれてありがとう。日本のXboxファン、ゲームファンを代表して、日本のXboxビジネスについて色々質問したいと思う。

Phil Spencer氏: どうぞ、何でも聞いてくれ。

――まず、X019での発表内容から質問したい。初日のプレスブリーフィングでは、Xbox Game Passに、新たに「ファイナルファンタジー」シリーズをはじめ、「キングダムハーツ」、「龍が如く」など、日本の人気シリーズが加わることが発表された。ご存じの通り、日本ではXbox Game Pass自体がまだ始まっていないわけだが、これはいよいよ準備が整ったと理解していいのか?

Spencer氏: これまで日本のゲームファンを満足させるだけのコンテンツが揃っていなかったのでサービス開始を遅らせてきた。今回ようやく日本の皆さんに喜んでいただけるコンテンツを揃えられたと思っているので、まもなく提供を開始するつもりだ。

――発表の中で印象的だったのは、「FF」シリーズの中で唯一漏れた「ファイナルファンタジーXIV」について、吉田さん(「FFXIV」プロデューサー兼ディレクターの吉田直樹氏)の名前を繰り返し出しながら、その想いを語っていたところ。基本的には今後、Xboxで「FFXIV」がプレイできるようになると考えて良いのか?

Spencer氏: まだいつ提供を開始するかについては正式アナウンスはできないが、そう期待していいと思う。これまでXboxでは「FFXIV」を提供できていなかったが、吉田さんとディスカッションを行ない、世界中のXboxファンに向けて「FFXIV」がリリースできるように準備を進めてきた。課題の解決方法が見つかったので、日付はまだ言えないが、正式発表の日を楽しみにしていて欲しい。

――それからクラウドサービスのProject xCloudについては、日本サービスが発表され、日本のゲームファンにとっては嬉しいニュースだった。日本サービスについてどのように考えているか?

Spencer氏: いつでもどこでもプレイできる。ゲーマーに多くの選択肢を与えることは、中長期的に大きな成功に繋がると考えている。世界ではPCをはじめ自宅でゲームを遊ぶということが一般的だが、日本ではモバイルゲームが極めて大きな成功を収めている。それと同時にコンソールゲームの長い歴史がある。これは我々が考えるProject xCloudのカスタマー像にフィットするため、日本で展開し、多くのフィードバックを得たいと考えている。

【Project xCloud】

――Google Stadiaがいよいよ今月ローンチする。彼らはXboxにとってライバルなのか?

Spencer氏: MicrosoftとGoogleというレベルで考えた場合、ご存じの通り両社は様々な点で競合関係にある。ただ、ゲーミングの領域においては、競合関係でありつつも、同時に数多くの協力関係もある。YouTubeを使ったプロモーションもそうだし、Google Play Storeでの「Minecraft」の販売もそうだ。クラウドゲーミングの領域においても、一部では競合しつつ、一部では協力しつつ、その両方だと思う。いずれにしても彼らがクラウドゲームビジネスをはじめることを楽しみにしている。

――X019の出展タイトルの中では「Flight Simulator」がもっとも印象に残った。「Flight Simulator」復活の経緯について聞かせて欲しい。

Spencer氏: 美しいタイトルだ(笑)。「Flight Simulator」復活の経緯は、素晴らしいチームに恵まれたことだ。Asobo studioはフランチャイズの復活に向けて多くの情熱を注ぎ、Azureのクラウドテクノロジーや、Microsoft Researchの研究成果、そしてBingによるペタバイトクラスのジオグラフィックのマップデータによって、未だかつて見たことの無いようなビジュアルを実現することができた。Xbox Game Passにも対応するため、サブスクリプションに加入している数百万のゲーマーが、歴史的なフライトシムの最新作を体験してくれて、新たなファンになってくれることを楽しみにしているよ。

【Flight Simulator】

――今年は「Forza」の新作がなく、その意味では残念な年だった。Tune 10は今何をしているのか、何を準備しているのか、ぜひ最新情報を聞かせて欲しい。

Spencer氏: そうだ、君は「Forza」ファンだったな(笑)。新しい「Forza」についてはまだ何もアナウンスできないが、ベストなレーシングゲーム開発スタジオであるTurn 10 Studiosのメンバー達は忙しくしているよ。数カ月後になると思うが、新たな発表ができるタイミングを楽しみにしている。

――「Xbox Elite ワイヤレスコントローラー シリーズ2」をレビューした(参考記事)が、素晴らしいゲームコントローラーだった。現在、MicrosoftはProject Scarlettを開発しているが、次世代機のゲームコントローラーはどのようなものになるのか?

Spencer氏: 「Xbox Elite ワイヤレスコントローラー シリーズ2」は私も気に入っているし、現時点では最高のものだと思っている。このコントローラーをProject Scarlettで使い続けることはもちろんできるし、現在Project Scarlett向けに開発している新しい革新的なコントローラーを使うこともできるだろう。

【Xbox Elite ワイヤレスコントローラー シリーズ2】

Xbox Oneの日本展開をTier1から外したことで日本のゲームファンを「屈辱的な気持ちにさせてしまった」

――日本市場について質問したい。まず、現在のXbox Oneの日本での基本ステータス、展開ストラテジーとはどのようなものなのか?

Spencer氏: 我々としては日本市場について深くコミットしているつもりだ。Project Scarlettは日本を含む、Xboxを展開しているすべてのリージョンでリリースする予定だし、我々としてはこの新しい世代のゲームコンソールで、日本市場にチャレンジしていくつもりだ。競合となるソニーや任天堂、そして我々のパートナーである無数の強力なゲーム会社に対して、深くリスペクトしている。

 そして我々Xboxはまた新たな視点で、強力なファーストパーティースタジオと共に、コンテンツ開発やサブスクリプションモデルにチャレンジしている。Project Scarlettでは、そうした新しい強力な体制と共に、日本のゲームファンに喜んで貰えるように強力に展開していきたいと考えているよ。

――日本でのXbox Oneの展開についてもう少し掘り下げたい。私はXboxを長年見届けてきた人間として、Xbox Oneは、日本をTier1から外したことが最大の躓きだったと考えている。今後、今世代での巻き返しというのは期待して良いのだろうか?

Spencer氏: 私もそう思う(苦笑)。Xbox Oneのローンチを振り返ると、Tier1にしなかったこと、ローンチまでの時間が掛かりすぎたこと、日本展開において多くのミスを犯したことを含めて、我々には多くの学びがあった。他のコンペティターが展開に熱心に取り組んでいる間に、我々は大事な時間を失ってしまった。日本をTier1にしなかったのは、グローバル戦略の中でやむを得ない選択だったが、その決断が、他の地域では遊べるのに、日本では遊べないという状況を生み出し、結果として日本の熱心なゲームファンに屈辱的な気持ちにさせてしまった。ただ、我々は日本のゲームファンを深くリスペクトしていることを理解して欲しいし、そのことを示すためにもProject Scarlettでは日本を一番最初の出荷地域にしたいと考えている。

【Xbox Oneの発表】
2013年に発表されたXbox One。Xbox 360とは打って変わって日本は最初のローンチ地域から漏れてしまった(参考記事)。当時はSpencer氏は、まだXboxのトップではなく、ファーストパーティーのトップで、Tier設定の最終判断をしたわけではない

――それはつまりProject Scarlettは、日本はTier1に戻ると理解して良いのだろうか?

Spencer氏: それが私の願いだ。日本のゲームファンも含めた、世界中のゲームコミュニティに、素晴らしいプロダクトを届けたいと考えている。Project Scarlettはすべてのゲームファンを最大限にリスペクトした上でグローバルで展開していきたいと考えている。

――日本のゲームファンはこのインタビューを読んでワクワクしてくれると思う。日本のゲームファンに向けてメッセージを。

Spencer氏: 私には日本に多くの友達がいる。素晴らしいゲームを生み出してくれるゲームクリエイター、熱心なゲームファン、そして日本のXbox Oneビジネスがうまくいかない中で、遊び続けてくれたXboxコミュニティの皆さん。日本でXboxのファンで居続けることは難しいこともあったと思うが、それでも諦めずに我々のチームやプロダクトに対して、素晴らしいサポートをしてくれている皆さんに対して伝えたいのは、「本当にありがとう」ということだ。

 我々は現在、日本のクリエイターとリレーションを作るために一生懸命頑張っている。その結果のひとつが、E3等の機会で、日本のクリエイターの皆さんにステージに立ってもらうことや、今回「ファイナルファンタジー」や「龍が如く」など人気シリーズをXboxでの提供開始などに結びついている。私自身は、Xboxは日本市場で成功できるチャンスがあると思っているし、今後はそのチャンスを逃さないようにしていきたい。ありがとう、そして今後ともよろしく。