「Razer Basilisk Ultimate」レビュー

Razer Basilisk Ultimate

ワイヤレスゲーミングマウス界に訪れた4年振りの衝撃! Razerが満を持して送り出した“怪物”の凄味を堪能せよ

ジャンル:
  • ゲーミングマウス
発売元:
  • Razer
開発元:
  • Razer
プラットフォーム:
  • Windows PC
価格:
19,800円(税込)
発売日:
2019年12月20日

 PCゲーマーにとってもっともこだわりたいゲーミングデバイスであるマウス。その起点を1997年の「Microsoft IntelliMouse」とすれば、その歴史は20年以上にも及ぶ。ゲーミングマウスは、デザイン、センサー、ボタン数、マクロ機能、重量、耐久性、RGBライトなど、様々な要素をセールスポイントとしながらこの20年進化を続けてきたが、昨今のトレンドは間違いなく“ワイヤレス”だ。

 もっとも、eスポーツシーンを含めたハイアマチュアからプロ層にワイヤレスが受け容れられたのはここ数年の話に過ぎない。それまではワイヤレスゲーミングマウスと言えば、(重量が)重い、(サイズが)デカい、(バッテリー駆動時間が)短い、(操作精度が)低い、(カーソルが)飛ぶという五重苦で、ペリフェラルメーカーの思惑とは裏腹にeスポーツシーンからは完全に排除されたカテゴリのプロダクトだった。

 その状況を一変させたのは、Logitech(ロジクール)が2016年4月にリリースした「G900 Chaos Spectrum」だ。Logitechは、このエポックメイキングなプロダクトをお披露目するために、ゲーミングマウスを扱う主要なゲームメディアを世界中からわざわざ開発拠点のあるスイス ローザンヌに集め、丸一日掛けてその凄さを実証してくれた。

【G900 Chaos Spectrum】
現在もG903という名称で、センサーをアップグレードしてロジクールのハイエンドモデルとして君臨している

 その当時はまだプロシーンにおけるワイヤレスマウスの使用率は完全に0%だった時代だ。筆者含め誰もが半信半疑でローザンヌに赴いたと思われるが、手を替え品を替え行なわれた各種プレゼンテーションが終わる頃には、参加者の多くがG900の虜になっていた。

 なにしろ、デザインや機能はゲーミンググレードそのままで、重量はわずか100g。ケーブルによる操作時のつっぱり、バッテリー切れの不安、無線の混線による操作遅延などからも完全開放される、あらゆる意味で画期的なゲーミングマウスだったからだ。

 G900はリリース当時21,130円(税別)と衝撃的に高かったが、その後同社は、G900に搭載したワイヤレステクノロジー「LIGHTSPEED」をあらゆるモデルに導入し、「ロジクールGといえばワイヤレス」、「ワイヤレスゲーミングマウスといえばロジクール」という確固たるブランディングに成功。以降3年に渡って向かうところ敵なしの状態で、プロシーンも含めたあらゆる層にロジクールGのワイヤレスゲーミングマウスの浸透を図ってきた。

 さて、前置きが長くなってしまったが、今回そうしたロジクールがワイヤレスゲーミングマウスを独占する状況に“待った”どころか、満を持して完全覆滅を狙うのが宿命のライバルであるRazerだ。

【Razer Basilisk Ultimate】

【Razer Basilisk Ultimate | Customizability Unleashed】

 ゲーミングマウスの心臓部であるセンサーには、Pixartと共同開発した最高性能の光学式センサー「Focus+」、ワイヤレステクノロジーには「LIGHTSPEED」をあらゆる点で凌駕すると謳っている「HYPERSPEED」を新搭載。このコンビは2019年10月にリリースされたRazer Viper Ultimateで初搭載され、12月20日にはハイエンドモデルRazer Basilisk Ultimateに搭載され、今後このコンビがRazerのゲーミングマウスのメインストリームテクノロジーになることが明確となった。本稿では、Razerの新たなハイエンドゲーミングマウスRazer Basilisk Ultimateを約1カ月に渡って試遊したインプレッションをお届けしたい。

【Razer Basilisk Ultimateパッケージ】
本体と充電ドック
同梱物一覧
基本はケーブルとドングルを充電ドックに接続して使用する

触った瞬間にわかるRazer Basilisk Ultimateの凄さ

 ゲーミングマウスは、あらゆるゲーミングプロダクトの中で、ある意味で評価が一番簡単だ。なぜなら握って手を動かした瞬間のインプレッションがほぼすべてだからだ。

 この点においてRazer Basilisk Ultimateは、触った瞬間に「ああ、これは凄いものが出たな」とワクワク感がこみ上げてきた。この衝撃は約4年前に、スイス ローザンヌでG900を触った瞬間に近い。G900は、ワイヤレスゲーミングマウスの常識だった操作性/応答性/追従性の悪さ、一言で言えば“もっさり感”がまったくなく、あたかも有線か、むしろ有線以上にキビキビとした快適な使い心地に衝撃を受けたことを昨日のことのように記憶している。

 Razer Basilisk Ultimateもまったく同じだった。マウスパッドの上で軽く握り、少し滑らせると、脳の意識と100%シンクロしたカーソルの動きがモニターに表示される。あたかも脳に直結したかのような完璧な応答性。どんなに激しく動かしても、その小賢しい動きをあざ笑うかのような素晴らしい追従性。言うまでもなくもっさり感など微塵も感じさせない。この心地よさは、ごまかしようのない確かなものだ。

【持ってみる】

 そしてもう1つRazer Basilisk Ultimateが凄いのは、ゲーミングマウスとして“縦方向”に進化しているところだ。Razer Basilisk Ultimateのトラッキングセンサー「Focus+」は、最高DPI(ドット/インチ)が20000、IPS(インチ/秒)が650に達する。これはロジクールを含めたあらゆるコンペティターと比較しても孤高の最高性能だ。多くのゲーミングマウスが12000DPIや16000DPI止まりのなか、頭ひとつ飛び抜けている。

【Razer Basilisk Ultimateのスペック】

 ただ、マウス関係者の中には、「DPI/IPS競争は無意味だ」という意見も多い。筆者も、その数値がそのままマウスの性能を意味するわけではないという点でその通りだと思っている。実際、20000DPIとは、1インチ(2.54cm)の操作で2万ドット動くことを意味し、650IPSとは1秒間に16.45mの移動までのトラッキングをサポートできることを意味するが、こういうスペックが求められる、あるいはフル活用できるケースは、ゲームシーンにおいてまずない。マウスで重要なのは“量”ではなく“質”であり、DPIやIPSといった数字は質を担保するものではないのだ。

【Focus+】
20000DPIという圧倒的な性能を実現したFocus+
「Focus+」は、Razerのマウスセンサーとしては6世代目にあたる

 この点について開発担当者に率直な疑問をぶつけたところ、「Focus+の20000DPI、650IPSという数値がオーバースペックであることはわかっている。ただ、Razer Basilisk Ultimateは最高性能のマウスとして限界にチャレンジしたいと考えたし、そのオーバースペックはインテリジェントファンクションに活かされており、それがトータルでのゲーミングマウスとしての完成度に繋がっていると思うのでぜひ試してみて欲しい」という回答を頂いた。

 “インテリジェントファンクション”とは何か? それはPixartと共同開発で生み出された光学式センサー「Focus+」が実現したインテリジェントな機能となる。

【Focus+のインテリジェントファンクション】

【Razer Focus+ Optical Sensor | Redefining Precision with Intelligence】

 1つ目の「スマートトラッキング」は、トラッキングの精度に影響を与えるマウスを置くサーフェスを自動的に読み取り、置き場所が変わる度に自動的にキャリブレーションしてくれるというもの。多くのゲーミングマウスは、ソフトウェア側の機能として備えており、サーフェスを変える度にその都度、ソフトウェア側で手動で切り替える必要があるが、Razer Basilisk Ultimateでは、統合ソフトウェアRazer Synapseを介さずに行なえる。これは地味に便利な機能だ。

【スマートトラッキング】

 2つ目は「非対象カットオフ」。何やら聞き慣れないフレーズだが、これはリフトオフディスタンス(マウスを持ち上げた際にセンサー反応を無効化するまでの距離)の話で、本モデルではハイエンドマウスとして当然リフトオフディスタンスの距離を調整できるだけでなく、リフト(マウスがサーフェスから離れる際)と、ランディング(マウスがサーフェスに戻る際)の両方のケースで、別々に距離を設定できるというものだ。

 このリフトオフディスタンスは、常にベストポジションでマウスを操作したいゲーマーにはなくてはならない機能だ。たとえば、マウスがマウスパッドの端に行き過ぎたため、マウスをいったん浮かせて位置を戻したい場合、リフトオフディスタンスが長いと丸々誤動作となってしまうし、あるいはつまみ持ちでちょいちょい浮き気味で使ってしまうゲーマーにとってはリフトオフディスタンスが短いとこれもまた誤動作になる。Razer Basilisk Ultimateなら、これを浮かせた場合と、戻す場合の両方の距離を微調整できるいうわけだ。

【非対象カットオフ】

 3点目は「モーションシンク」。これは先述したスマートトラッキングとは別軸で、常にマウス位置の情報をPCと同期させるテクノロジーで、これにより常に最高性能のトラッキング性能を引き出せるという。

 これらインテリジェント機能のために「Focus+」はフル活用されているという。先述したように「Focus+」は、15年に渡るPixartとの共同開発の結果生み出されたオプティカルセンサー。他社のように特定のモデルをライセンスしているわけではなく、Razer独占となるため、同等の性能を備えたゲーミングマウスは存在しない。Razer Basilisk Ultimateの大きなアドバンテージと言えるだろう。

【モーションシンク】

過去の膨大な検証データに基づいた最適なデザインと膨大なカスタマイズ性

 続いてRazer Basilisk Ultimateのデザインと機能について見ていこう。基本デザインは、2017年に登場した前モデル「Razer Basilisk」の後継として左側に親指を置けるスカートが付いた左右非対象デザインとなっている。似てはいるが新デザインだ。

【Razer Basilisk】
ベースとなっているRazer Basilisk

 Razer伝統となっている左右クリックボタンの優美なくぼみもそのままで、右手で添えるだけでベストポジションとなる。右袖のスカート部を含めた左右側面には滑り止め用の極小凹凸が付いたラバーが張られ、しっかり握り込める。

【Razer Basilisk Ultimate】
正面
スカートが特徴
Razer独自のこの微妙なくぼみが心地よい
スカートのラバー
右側面にもたっぷりラバーが張られている

 ボタンは左右クリックを含めて12。うち11がプログラマブルで、マクロやテキストの挿入を含めた様々なコマンドを割り当てられる。今回、Razer Basilisk Ultimateと同時発売されるモデルとしてRazer Basilisk X HyperSpeedが存在する。両モデルは、無線/有線両対応か(Razer Basilisk Ultimate)、無線のみの対応か(Razer Basilisk X HyperSpeed)の違いや、トラッキングセンサーの違いが存在するが、もう1つの差別化ポイントがボタン数だ。

 ボタン数はRazer Basilisk X HyperSpeedが8に対して、Razer Basilisk Ultimateは12ある。増えた4つのボタンは、DPI繰り替えボタンが1つから2つになったこと、マウスホイールに左右2つの傾きボタンが追加されたこと、そして感度クラッチボタンだ。

【ボタンカスタマイズ】
12ボタン中11ボタンをカスタマイズできる
それぞれ初期設定が割り当てられているが自由に変更できる

 中でもRazerらしいのが感度クラッチボタンだ。親指の先端に位置する拡張スイッチになっており、ゲームコントローラーの背面パドルのようなデザインをしており、着脱が可能。初期機能は、“押している間だけDPIを変える”というもので、通常はハイセンシ(高DPI)でプレイしつつ、スナイパーライフルのスコープを構えたときだけ感度クラッチボタンでローセンシ(低DPI)に切り替えて精密射撃を行なうといった使い方ができる。

【クラッチボタン】
左側面の最短にあるのがクラッチボタン。オプション機能になっていて、ゴムキャップを外して装着する必要がある
使い心地はゲームコントローラーの背面パドルのようなカチカチっとした感じ。感度クラッチ以外にも様々な使い方ができそうだ

 やや余談になるが、筆者のようにゲーミングマウス担当として、様々なゲーミングマウスを触り比べている環境にある人間が、Razer Basilisk Ultimateに対して感じることは、Razerのゲーミングマウスは“マウススイッチが異なる”ということだ。マウススイッチといえば、長らくメカニカル、つまり機械的なスイッチが当たり前とされていたが、Razerは独自開発のオプティカルスイッチ、つまり赤外線センサーで入力信号を認識し、PCに送信するシステムを採用している。

 これが何を意味するかというと、原理的にアクチュエーションポイントがメカニカルスイッチよりも断然速くなり(公式発表ではメカニカルの3倍)、かつ入力も正確となり(正確な電気信号の送信)、耐久性も格段に向上(5,000万回→7,000万回)など良いことずくめだ。その代わり、従来のメカニカル機構を廃したことで、メカニカル独自のカチカチとしたクリック感がなくなっている。筆者は数日で慣れたが、好みの部分なのでこのあたりは実機で触り比べて確かめて見て欲しい。

【The Razer Optical Mouse Switch】

 ゲーミングマウスの特徴であるRGBライトは、手前のRazerロゴに加えて、マウスホイール、そして左右側面にあるスリットに設定されている。正直な所、使いながら視認できるのはマウスホイール部分ぐらいだが、左側面に大胆にズバッと入ったスリットのイルミネーションは、マウスだけを眺めているとハッとするほどの存在感がある。使う人が楽しむというより、第三者にカッコ良く見せる為のデザインだ。このあたりはいかにもRazerらしい。

【RGBライト】
左側面のスリットが特徴的なRGBライト
こちらは充電ドックのRGBライト

 マウス背面には、心臓部であるトラッキングセンサーのほかに、5カ所に配置されたソール、電源スイッチ、USBドングルの収納部、そしてマウスホイールの抵抗を調整するためのダイヤルが配置されている。抵抗ありなしの2段階というレベルではなく、アナログでかなり細かく設定できる。抵抗を最高にするとガチガチガチガチと文字通りの抵抗感のあるホイールとなり、逆に最低にすると抵抗がまったくなくなる。こうしたカスタマイズ性の高さも本マウスの魅力と言える。

【背面】
ソールは小型のものが5点
カバーを外すと、USBドングルの収納部が隠れている
このダイヤルを操作することでマウスホイールの抵抗を調整できる

 マウスの外にも目を向けると、特徴的なのは充電ドックだ。このドックの上部にマウスを引っかけるように載せることで充電が行なわれる。オブジェクトとしてもカッコ良くRazerらしいこだわりと言える。なお、この充電ドックも底部にRGBライトが設定されており、RGBライトの光り方によって充電ステータスがわかるようになっている。そして充電ドックのもう1つの機能が、USBワイヤレス接続用のドングルの接続も可能。クールな延長ケーブルとしても活用できるというわけだ。

【Razer Basilisk Ultimate with 充電ドック】
正式名称はRazer Chroma
USBドングルを接続するのが基本的な使い方
充電中の状態。極めてカッコイイ

Razer Deathadderを上回る新たなベストセラーモデルの登場

 筆者はこの1カ月、ゲームに、原稿執筆に、Webブラウジングにと、あらゆるシーンでRazer Basilisk Ultimateを使ってきたが、19,800円(税込)というハイエンドグレードの価格設定に相応しい性能を備えたワイヤレスゲーミングマウスだと感じた。

【Razer Deathadder】
Razerのゲーミングマウスの代名詞的な存在である「Razer Deathadder」シリーズ

 これまでワイヤレスゲーミングマウスといえば、実質的にロジクール一択だったように思えるが、Focus+とHYPERSPEEDを両搭載したRazer Viper UltimateとRazer Basilisk Ultimate登場以降は、Razerも有力な選択肢に入ってくると思う。

 RazerのワイヤレステクノロジーHYPERSPEEDは、ロジクールのLIGHTSPEEDよりもパフォーマンス、転送速度、遅延の無さ、バッテリー消費等、あらゆる点で上回っているとしている。LIGHTSPEEDは4年前のテクノロジーだけに、後発がこれを上回ってくるのはある意味で当然の流れとはいえ、選択肢が増えるのはゲームファンにとってはエキサイティングな状況と言える。

 1点だけ、HYPERSPEEDの防電波性能、つまり、LANパーティーやeスポーツ大会のような無数の電波が飛び交う状況での他の電波に対する防電波性能についてはしっかり検証できなかったことを追記しておきたい。Razerにこの点について問い合わせしたところ、「リアルな生活に近い、様々なデータが飛び交う無線環境下でテストを行なったところ常に1000Hzのポーリングレートを保っていた」という回答が得られた。タフな環境でどうかという点については回答がなかったが、防電波性能についても配慮した設計になっていることをうかがわせる。

 最後に、Razerはある意味で、ようやくRazer Deathadderという不朽の名機を上回るモデルを、ワイヤレスという避けて通れない分野にリリースできたのではないかと感じている。Razerの大胆な動きに対して、今後、ロジクールやZOWIE、HyperXといったコンペティターたちがどのような手を打ってくるのか、あるいはRazer自身はハイエンド以外のモデルにもこの無敵のコンビを採用していくのかどうかも注目される。2020年、ワイヤレスゲーミングマウス市場がこれまで以上に盛り上がるのは間違いなさそうだ。