インタビュー

Microsoft Gaming CEO フィル・スペンサー氏インタビュー

「Forza」はベストなレースゲーム。今後も引き続き日本タイトルの創出に尽力

【東京ゲームショウ2023】

会期:9月21日~9月24日

会場:幕張メッセ

 Xboxは昨年に引き続き東京ゲームショウに合わせて「Xbox Digital Broadcast」を配信した。XboxのボスであるMicrosoft Gaming CEOのフィル・スペンサー氏も来日し、Xboxコミュニティやパブリッシングパートナーと相次いで面会。一般公開日初日の23日には会場にも直接足を運び、日本のゲームファンとの交流を愉しんだ。ビジネスデイではなく、わざわざ一般公開日に訪れるのは、スペンサー氏がゲームファンと直接触れ合いたいからで、トラブルがないように対応するスタッフは大変だろうが、コミュニティを最も重視するスペンサー氏らしいこだわりだ。

 GAME Watchでは、6月のXbox Games Showcase 2023に続いて再び単独インタビューする機会に恵まれた。限られた時間ではあったが、21日に配信された「Xbox Digital Broadcast」に関する話題や、「Starfield」やXbox Game Passの今後の展開、小島監督作品の進捗など、ゲームファンの関心が高そうなテーマを中心に話を聞いてきた。ゲームファンはぜひお楽しみいただければと思う。

【東京ゲームショウ 2023 Xbox TGS Digital Broadcast】

スクウェア・エニックスとのサポート強化は「重要なこと」

――最初に伺いたいのは、7月に行なわれた「ファイナルファンタジーXIV」の「ファンフェスティバル 2023 in ラスベガス」にサプライズ登場したことだ。日本から配信を見ていたが、「フィルが、ついに約束を果たした!」と嬉しかった。6月に質問した際も強い意欲を感じていたが、その翌月に動くとは本当に驚いた。

フィル・スペンサー: ハハハハ。6月のXbox Games Showcase 2023の時は、実はすでにファンフェスに参加することが決まっていたので、質問に答えるのは簡単だったよ(笑)。

――Xbox版の展開にあたっては大変な苦労があったと思うが、どういう調整が行われていたのか聞かせて欲しい。

フィル・スペンサー: スクウェア・エニックスとはビジネス的なリレーションはすでに存在していたので、あとは吉Pとスタッフたちの時間と、開発工数の確保だった。そこが解決し、コミュニティに対して発表することができた。

【Xbox版「FFXIV」】
Xbox版「FFXIV」は2024年春オープンβ開始予定

――ここ数年で、スクウェア・エニックスとXboxの距離感はグッと縮まってきた印象がある。今後も、吉田さんの最新作である「ファイナルファンタジーXVI」や、まだ未展開の「ファイナルファンタジーVII REMAKE」といった大型タイトルのXbox展開も期待して良いか?

フィル・スペンサー: 現時点でスクウェア・エニックスの具体的な話については言及できないが、「オクトパストラベラーII」など、ショウケースでもいくつか発表することができた。ラスベガスでは、スクウェア・エニックスのCEOと吉Pさんと一緒に登壇して、Xboxへのサポートをより強化すると発表できたことは私にとってもXboxコミュニティにとっても重要なことだと考えている。

【ファイナルファンタジーXVI】

――久々の日本、東京ゲームショウの印象はどうだろうか?

フィル・スペンサー: 昨年もTGSには参加したが、非常に短いトリップだった。理由はアクティビジョンの買収の件で滞在が短くなってしまったからだ。今回は、これから午後、初めてショウフロアに行く。一般公開日でゲームファンの方も数多く参加しているので、私も嬉しく思う。

――すでに、今回、日本のコミュニティと会う機会があったと聞いているが、彼らは欧米のコミュニティとどのあたりが違うと感じたか?

フィル・スペンサー: 日本の東京のXboxファンは、非常に高いコミットメントを持っている。Xboxはゲームコンソールとしての規模は小さいが、コミュニティは濃密で、お互いに連携して質の高いコミュニティを保っていると感じた。

――フィルさんは、ショウケースの中で、ゲームボーイ、PSP、Nintendo Switchについて言及した。共通点は携帯型ゲーム機ということだ。これはXboxとして携帯型ゲーム機に進出するということを匂わせているのか。それともそれは深読みしすぎなのか。

フィル・スペンサー: ハハハハ。挙げたハードに深い意味はないよ。ただ、こんにち、Steam DeckやASUS ROG Allyといった端末でXboxを持ち運べるようになっていて、それは私も非常に有用だと思っている。それはXbox Game Passが様々なデバイスで使えるというビジョンを体現しているということでもある。

「Forza Motorsport」、「ホテルバルセロナ」への期待。「Starfield」の今後の展開

――「Forza Motorsport」がいよいよ完成する。私も強い期待を持って、この最新作を待ち望んでいるが、フィルさんはもっと強い想いがあると思う。この久々の最新作への想いを聞かせて欲しい。

フィル・スペンサー: ご存じのようにForzaは2つのフランチャイズで構成されている。「Motorsport」と「Horizon」だ。「Horizon」は過去2作については大きな成功を収めることができ、「Motorsport」は本当に久々のリリースとなる。この数カ月私もプレイしてきたが、本当にベストなレースゲームだと感じている。

 「Forza Motorsport」の開発チームは、継続的なフランチャイズとして捉えている。継続してコンテンツをアップデートしたり、イベントを計画したり、本当のレースのように、レーシングカレンダーをゲーム内に実装したりなど非常に多くのチャレンジを行なっている。ぜひ期待して欲しい。

――今回のショウケースのサプライズは「ホテルバルセロナ」だと思う。このSUDA51さん、SWERYさんという2人のユニークな日本のゲームクリエイターに対する想い、作品への期待を聞かせて欲しい。

フィル・スペンサー: 2人のゲームクリエイターはゲーム業界に大きな影響をもたらしてきた人物だが、その2人の新作を、我々のショウケースをお披露目の場としてくれたことは本当に特別なことだと思う。クリエイターとの信頼関係があって、我々を選んでくれたことは誇りに思う。

――ちなみに「ホテルバルセロナ」はXboxエクスクルーシブタイトルになるのか?

フィル・スペンサー: そうではない。

――個人的には、小島監督の新作に関する続報がなかったのが残念だった。続報はいつになるだろうか?

フィル・スペンサー: 実は小島さんとは来週スタジオを訪問して会ってくるつもりだ。彼と会って、プロジェクトの進捗を確認することを非常に楽しみにしている。今のところプロジェクトは順調だと考えている。ただ、小島さんは、イノベーティブなゲームクリエイターであり、このプロジェクトでは新しいことをトライしようとしており、スポットライトが当たらないところで、そのビジョンを実現する作業が必要だと思うので、なんとかしてステージに上がって貰ってというのではなく、そうではない時間をしっかり確保してあげるべきだと考えている。

――今回のショウケースの感想として、Xboxに日本のタイトルがどんどん出てくることは良いことだと思うが、1人のXboxファンとしてXboxに期待しているのは、プレイステーションや任天堂と同じ事をするのではなく、「ロストオデッセイ」や「ブルードラゴン」のような、日本発のAAAタイトルをXboxとして生み出すことだ。この期待に応えることは難しいのだろうか?

フィル・スペンサー: そんなことはない、期待していい。実際、2024年1agtuに「Hi-Fi RUSH」をリリースした。「ブルードラゴン」のように大作ではなく小さい作品ではあったが、質の高い作品だったはずだ。日本のゲームクリエイターも、Microsoft Game Studiosの中にいるし、まだ発表できないタイトルもあるが、日本のメーカーとも連携しながら新しいゲームの開発を行なっている。ファーストパーティー、サードパーティー含めて、開発環境は成長しているので、今後、日本タイトルの登場を期待して良いと思う。

――「Starfield」は非常に良いスタートを切った。ここまでの動きをどう評価しているかという点と、今後の展開について聞かせて欲しい。

フィル・スペンサー: プレイしたか?

――もちろん!

フィル・スペンサー: それは良かった。まず、ひとつ言えるのは「Starfield」は、Xbox Game Passに対応したことで、ゲーム自体と、Game Passの双方にWin-Winの状況を作り出した。発表したように、1,000万人以上のユーザーが「Starfield」をプレイしており、多くの方がゲームを購入したり、Game Passを通じてPCやクラウドでプレイしていることがわかっている。

 我々は、ゲームのエンゲージメントを長期的に維持していくため、サブスクリプションを継続して貰うために、「Starfield」のコンテンツアップデートを続けていくということが必要不可欠だと考えている。それはトッド・ハワードと彼のチームがまさに今進めているところだ。

拡張を続けるXbox Game Passの未来像

――Xbox Game Passは「Starfield」のリリースにより、サブスクリプションサービスとして、新しい次元に突入したと思う。「Starfield」世代の新たなユーザーに対するXbox Game Passの次の戦略を聞かせて欲しい。

フィル・スペンサー: 「Starfield」のローンチと共に、Xbox Game Passも非常に好調で、引き続きさらに大きなタイトルのローンチをしていかなければと考えている。「Starfield」の次は「Forza Motorsport」も来るし、定期的に大型タイトルをGame Passに投入するという我々のビジョンは実現できていると考えている。日本でもPC Game PassとXbox Game Pass Ultimateの100円キャンペーンを再スタートさせたし、今後も引き続き大型タイトルを提供していきたいと考えている。

【100円キャンペーンが復活】

――大胆な質問になるかもしれないが、Xbox Game Passに、任天堂やプレイステーション、Steamタイトルが遊べる未来は来ないのだろうか?

フィル・スペンサー: ハハハハ。まず、PC Game Passについては、Steamと同じPCプラットフォームなので、ユーザーに対して選択肢を提供していると考えている。どちらでライブラリを構築するかはユーザーの判断に委ねている。プレイステーションや任天堂については、Steamよりももっと難しい話だ。ただ、我々はプレイステーションや任天堂にタイトルを供給しているパブリッシャーでもあるので、逆にプレイステーションや任天堂プラットフォームに、Xboxタイトルをどう提供していくかを考えることも重要だと思う。

――Xbox Game Passはトータルで見て非常に素晴らしいサブスクリプションサービスだと思うが、ユーザーの1人としては、値上げが怖い。将来的な値上げはやむを得ないのか、そうでもないのか。料金に対する考え方を聞かせて欲しい。

フィル・スペンサー: そういってくれてありがとう。まず、我々は常にライブラリをどう構築するか選択肢を提供したいと考えている。Game Passに加入してプレイしてもいいし、ゲームを購入してもいい。現在数百万人のユーザーが、Xbox Game Passに加入して、その多くが満足して利用してくれているなかで、それ以上の価値を提供することは大前提とはいえ、価格については将来的に上がっていくことはやむを得ないと思う。最近も一度値上げさせてもらったが、慎重に検討した上での決定だった。値上げをしても、十分な価値があると認めて貰えるようなサービスを提供していくことが大事だと考えている。

――ひとつ気になっているのは、サブスクが強制されるような未来だ。たとえば、映像の世界では、Netflixに加入しないと見られない作品、つまり視聴するためにはサブスクリプションへの加入が必須な作品が増えつつある。Xbox Game Passにおいても、今後Game Passに入らないと遊べないゲームが出てくることはありえるのか?

フィル・スペンサー: ない。それはない。我々が提供したいのは選択肢だ。XboxはXbox Game Passだけではない。Xboxの真の成功は、Xboxをプレイするユーザーが増えることで、それはXboxコンソールだけでなく、PCでもクラウドでも、別のコンソールでもいい。我々としてはXboxをプレイするコミュニティを拡大させたい。それを阻害するようなことをするつもりはない。

――Xbox Game Pass Coreが9月からはじまった。ということはXbox Liveが終わったということで、これは古参のXboxファンとして少し寂しい思いがした。Xbox Liveは先進的なサービスだったと思う。仕掛け人としてXbox Liveをどう評価しているのだろうか。

【Xbox Live】

フィル・スペンサー: そう言ってくれてありがとう。私にとってもそうだ。もう20年以上前になるが、初代Xboxがローンチして、その後スタートしたXbox Liveは、それまでXboxでやって来たことの中でもっともイノベーティブなサービスだったと思う。

 ゲームプラットフォームとしてオンライン接続を標準化して、個々のコンソールにIDとゲーマータグを与えて、アバター、実績、フレンドリスト……。今ならそんなこと当然かもしれないが、当時はXbox Liveにしかできなかったんだ。

Xbox Liveの想い出を語るフィル・スペンサー氏

――そう、まさに先進的だった。

フィル・スペンサー: 確かに今回名前自体は変わったかもしれないが、Xbox Liveは、今もXboxのコアなサービスであり続けている。今はゲームコンソールだけでなく、クラウドも含めて遙かに多くのユーザーにリーチできるようになっているが、それらが“Xbox Liveコミュニティ”を構築してくれていると考えている。

――ところで“古い情報”が世間を騒がせている。ゲームメディアとして、そうした古い正しくない情報はどうでもいいと思っている。私がメディアを通じてゲームファンに届けたいのは、Xboxの新しい正しい情報だ。その意味で問いたいが、いまフィルさんがXboxに対してもっとも注力していることは何だろうか?

フィル・スペンサー: ハハハ。ありがとう。今私がもっとも注力しているのは、Xboxゲームラインナップのクオリティだ。Xboxのユーザー、Xbox Game Passのユーザーが価値を感じて貰う上で重要なのはそこだと思っている。「Starfield」に関しては良いローンチだったと思うし、過去18カ月を振り返るとそうでもないタイトルもあったが、今は良くなってきていると思う。今後数年間に渡って楽しんでいただけるように計画を練って準備を進めているところだ。

――最後に日本のゲームファンに向けてメッセージを。

フィル・スペンサー: 毎年、東京ゲームショウに参加して、たくさんのゲームコミュニティの皆さんと話している。私はそこで得られるフィードバックを楽しみにしている。知ってほしいのは、皆さんの意見は大事にしているし、何を求めているかも理解しているということだ。日頃のサポートを感謝している。ありがとう。