「電遊道」~Way of the Gamer~ ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ

ジョン・カミナリの楽しいゲームライフ【第26幕】

 電遊。辞書に載っていない造語である。電気的な遊び。いわゆる、テレビゲーム。道。その道を、自分の価値観だけを信じて最後まで歩むのが、侍精神である。電遊道は、妥協を許さないサムライゲーマーが歩むべき道。他人に影響されることなく、自分のゲーマーとしての信念を貫き通せばいい。たとえ、ゲームが別の道に進んでも、自分の好きな道をずっと信じ続けるのみ。たとえ、“これこそがゲームの未来形だ!”と言われても、自分の好きなゲームライフを思う存分楽しむのみ。

 「電遊道」は、RPGのようにレベルアップする。これまでの「一刀両断」や「イタヲタのレトロなゲームライフ」などの人気コーナーを提供しつつ、新しいコーナーをスタート!「みんなのGAME SHOP」では毎月、イタリアのゲームショップの1日を体験していく。期待作が発売された日のお客さんの反応とは?イタリア人の買い物を覗いたり、店長のコメントを訊きながら、ゲームショップの1日を密着取材!

 そして、「BORN TO BE GAMER」(和訳:ゲーマーになる為に生まれた)では、日本のゲームを愛するイタリア人ゲーマーを紹介していきたいと思う。ゲームとのファーストコンタクトは?日本のゲームを愛する理由とは?その人物像を掘り下げたいと思う!これからも「電遊道」はレベルアップしていく。サプライズたっぷりの連載を目指しているので、末永くこのページの中で付き合って欲しい!

ジョン・カミナリ(芸名)
国籍:
イタリア
年齢:
37才
職業:
俳優、声優、タレント、テレビゲーム評論家
趣味:
テレビゲーム、映画鑑賞、読書(山田悠介)、カラオケ
主な出演作品:
銀幕版スシ王子!(ペぺロンチーノ役、デビュー作)、大好き!五つ子(アンソニー・ジャクソン役)、侍戦隊シンケンジャー(リチャード・ブラウン役)
ブログ:
ジョン・カミナリの、秘密の撮影日記
Twitter:
https://twitter.com/John_Kaminari
Facebook:
http://www.facebook.com/johnkaminari

 イタリアで6年間テレビゲーム雑誌の編集部員として働いたあと、新しい刺激を求めて2005年に大好きな日本へ。子供の頃から夢見ていた役者の仕事を本格的に始める。堤幸彦監督の「銀幕版スシ王子!」で個性的なマフィアのボス、ぺぺロンチーノを熱演。現在もTVドラマやTVゲームなどで、俳優・声優として活躍中。日本語を勉強し始めたのは23歳のとき。理由は「ファイナルファンタジーVII」や「ゼノギアス」などのRPGの文章を理解するため。好きなジャンルはRPGと音楽ゲーム。「リモココロン」のような個性的なゲームも大歓迎。お気に入りのゲームは「ゲームセンターCX」と「ワンダと巨像」。芸名はイタリア人の友達に、本人が雷のように予想不可能なタイミングで現われるからという理由で付けられた。将来の夢は、「侍戦隊シンケンジャー」に出演した時から大好きになった戦隊モノにまた出演すること。


一刀両断~話題のゲームニュースについて鋭くコメントしちゃうぞ!~

話題のゲームニュースや注目のゲームイベントをピックアップして、僕の正直な感想を述べたいと思う。また、現在のゲームが抱えている問題を解決するアイディアや提案も、このコーナーを通じて考えてみたいと思う。ゲーマーの皆が納得できる未来の為に!

ローマのゲーム博物館で「スペースインベーダーデイ」が開催!

カンファレンスホールの壁に、「スペースインベーダー」という社会現象を物語るポスターが貼られている

 ローマでオープンしたゲーム博物館「Vigamus」に、タイトーから船便で、念願の「スペースインベーダー」筐体が届いた。館長はその“小包”を開いた瞬間、人生で最高の喜びを感じたそうだ。ゲーマーであることを最高の誇りとして思ったそうだ。

 日本のゲームの歴史を作った「スペースインベーダー」の大切さを、ポリゴンしか知らない今の若い世代に伝える為に、ローマのゲーム博物館で11月10日、「スペースインベーダーデイ」というイベントが開催された。僕も、記念すべきこのビッグなイベントにゲーム評論家として参加させて頂いた。

 ローマの大学でゲームデザインを教えているイタリア人教授やイタリアゲーム雑誌の編集者と共に、「スペースインベーダー」の歴史を振り返りながら、本作の普遍的な価値や当時の感動などを観客達と共有した。

「スペースインベーダー」の概要や歴史などを説明する為に、Vigamusのカンファレンスホールで記念イベントが開催された。来館者たちが次から次へと席についていく
Vigamusの館長であるMarco Accordi Rickards氏が、カンファレンスのゲスト達を紹介している。イタリアゲーム雑誌の評論家やローマの大学でゲームデザインを教えている教授も参加した
僕も今回、GAME Watchのゲーム評論家として参加させて頂いた。「スペースインベーダー」の魅力を、他のゲストと共に語った

 「スペースインベーダー」は1978年に、タイトーの子会社であったパシフィック工業の社員、西角友宏氏によって開発された。彼はゲーム開発だけでなく、ハードの設計も担当したという。エンジニアだった友角氏は2つの大事な責任を持っていたのだ。

 当時の技術では、たとえ高性能なハードを使用しても、多数の敵の表示や複雑な動きを実現するのはとても難しかった。「スペースインベーダー」においても、敵の数を減らせば、速度を上げることが可能だったが、その場合、大ヒットの要因となった「残った敵が加速していく」という、あの独特なゲーム性が生まれることはなかった。つまり西角氏は、55機のインベーダーを残し、最初から考えていた構造を変えないことにした。逆に、多数のキャラクターで速度が落ちるという制限をゲーム性に変えたのだ。

 インベーダーは最初55機存在するが、プレーヤーが操作する砲台に撃たれていくと、その数が減り、そして、CPUの作業も軽くなる。これにより残ったインベーダーの速度が上がっていく。最後に残る2段のインベーダーが圧倒的に速度を上げ、プレーヤーに絶妙な緊張感を味わわせていた。

元々「スペースモンスター」というタイトルでデビューするはずだったという。その後、「スペースインベーダー」という名称に変更されたが、筐体の側面では怖いモンスターのイラストが残っている。当時、不思議に思ったプレーヤーは少なくなかったそうだ
オリジナル版はモノクロームだったが、ゲーム博物館に届けられたのはその後制作されたカラーバージョンだそうだ
1978年に発売された時「スペースインベーダー」は、社会現象になるほど大ブームを巻き起こした。そのおかげで、日本では100円硬貨が切れたという事実もある

 「スペースインベーダー」の開発秘話を振り返ることによって、現在のゲームが“高性能戦争”を続けていることの無意味さを思い知らされた。現在のゲーム機はハードの性能が良すぎて、開発者にとって夢のような高性能を持っているはずだが、性能が高いぶん、開発者の想像力や発想力が刺激されないと思う。

 西角氏はハードの制限に価値を与えることができた。現在は逆に、もう少しメモリーが多かったら、あれも実現できたのかもしれないという話のほうが目立つのではないだろうか? 何かがうまく行かなかったら、全てハードのせいにしているのではないだろうか。

 僕は逆に、性能がゲーム機を成功させる第1の要素ではないと確信している。ハードの短所や制限を“味方”にできるような開発者こそが、ゲーム産業のヒーローだと考えている。

 「スペースインベーダーデイ」のカンファレンスでは、他に大切なテーマに触れられた。「スペースインベーダー」は、当時複雑といえるアルゴリズムの導入で敵機がプレーヤーに対して能動的な反応を示しており、そのおかげで、プレーヤーがコンピューターと対戦しているという体験が初めて実現したといえる。

 それまでのゲームの敵が障害物のような受動的な存在だったのに対し、インベーダーは考えて動くような積極的な存在としてプログラムされている。人工知能のパイオニアとして考えるべきだろう。それこそが、本作が世界的に大ヒットした第1の要素だったと考えられる。

 カンファレンスの最後に、「スペースインベーダー」のようなクラシックゲームが、これからどのように進化していくべきかというテーマに触れた。僕も大学教授や他のゲーム評論家と共に提案を考えてみた。

 当然のことだが、まずグラフィックスがポリゴンになっても、ルールが増えても、原作のエッセンスを変質させてはいけないというのが最も重要な前提だと思う。「スペースインベーダー」も多数の続編を生み出していき、そして2008年に、DS用「スペースインベーダーエクストリーム」という新作が発売された。

 僕は「スペースインベーダーエクストリーム」を、最も良くできたモダンなクラシックゲームとして高く評価している。音楽要素が加わったことで、敵機を撃っていくことで独特な快感が生まれるし、多種多様なボーナス要素やチェインによる爽快感も加わった。過去のクラシックのエッセンスを損ねずに、現在のゲーマーが受け入れられるような、スタイルあふれるグラフィックスを併せ持った、最大の成功例として考えている。

 他のメーカーも「スペースインベーダーエクストリーム」の道を歩むべきだと思う。子供達にクラシックの大切さと普遍的な価値を伝える為に、これからも、このような実験を試みるべきだと確信している。

 カンファレンスが終わると同時に、体験コーナーが開放され、観客達が「スペースインベーダー」の筐体の前に並び始めた。子供達だけなく、40代の女性も「スペースインベーダー」で遊んでいる。

 「いかがですか?」と尋ねてみると、彼女は「過去にタイムスリップしたかのようです。とても懐かしいと共に、気持ちいい!」と答えた。その女性は当時、ローマのバール(コーヒーをカウンターで飲めるイタリアの喫茶店)で、「スペースインベーダー」で遊んでいたという。

 当時のバールの運命は、設置されていた筐体によって左右されていたのだ。「うまいコーヒーが飲めるから行く」のではなく、「『スペースインベーダー』があるから行く」という時代だったのだ。その女性の話を聞いているうちに、僕も当時のバールの賑やかな様子を思い描き、懐かしい気分に浸った。

カンファレンスが終了した直後、多くの親子が「スペースインベーダー」の筐体に駆けつけた。後ろのお父さんは当時のプレーヤーの1人だったという。自分の息子を「スペースインベーダー」で遊ぶ姿を、昔の自分のように思ったらしい
息子にとって初めての「スペースインベーダー」。現実世界をリアルに再現する現在のゲームとは違いすぎるが、本当に楽しめたのだろうか?
30~40代の女性も多く来館していた。写真の女性も1978年に家の近くのバールで遊んでいたという

 「スペースインベーダーデイ」は300人ほどの来場者を記録した。オープンしたばかりのVigamusにとっては、とても良い記録だと思う。嬉しいことに、親子の姿が目立った。親が当時の「スペースインベーダー」の体験者で、息子たちにゲームの本来の姿を見せたかったという。これからも、Vigamusは過去のゲームの大切さを伝える為に、様々なイベントを提供していきたいようだ。最後に、Vigamusの館長、Marco Accordi Rickards氏への独占インタビューをお届けする!

Vigamusの館長であるMarco Accordi Rickards氏。現在も、ゲーム雑誌の編集長としてコラムやレビュー記事を担当している

Q. Vigamusはどういうきっかけで生まれたのですか?

 Vigamusは自分の住んでいる町に、ゲームの神殿を建てたいという、1人の子供の夢から生まれました。1つの人生の勉強や努力が、この博物館を建設するのに役立ちました。私たちにとって、Vigamusは家です。博物館に訪れた子供たちの笑顔を見る度、正しいことをしたと、あらためて実感します。そして、それと同時に、私たちのライフゲージがチャージします!(笑)

Q. Vigamusのミッションは何ですか?

 主に、2つのミッションがあります。1つ目は博物館を通じてゲームの歴史を語ることです。ゲームが芸術の1つとして認められるように。そして、2つ目はゲーマー達に、多くのゲームイベントが開催されるような、公共の施設を提供することですね。

Q. Vigamusというプロジェクトの実現において、何が難しかったですか?

 あらゆる問題に出くわしてしまいました。Vigamusというプロジェクトの実現は、「Dark Souls」をクリアするよりもずっと難しかったかもしれません(笑)。適切な場所を見つけること。館内をデザインすること。展示品を集めること。そして、レアなゲーム機を確保すること。その全てが難しかったですが、少人数のグループで実現できたので、本当に誇りに思います。全ての作業は少ない人数でやりました。仕事がハードだったぶん、達成感も格別でした。

Q. これから、どのようなゲームイベントを実現させたいと思いますか?

 これから、世界中のパブリッシャーと提携して、過去のゲームの紹介イベントや、最新ゲーム機などの人気ゲームのトーナメントを開催しようと思います。ゲームの歴史を網羅するようなあらゆるイベントの開催を視野に入れています。もちろん、博物館だけに、ゲームの歴史を作った過去のゲームに焦点を当てたイベントの開催が何より重要だと考えています。

Q. 特におススメするVigamusのレアな展示品はどれですか?

 最もレアなのは、紛れもなくid SoftwareのJohn Carmack氏自身から届けられたDOOMのmaster diskです。サイン付きの手紙も宝物です。さらに、1990年代にイタリア人の有名なゲームデザイナー、Dino Dini氏が、ヨーロッパでカルトゲームだったサッカーゲーム「Kick off」をプログラムする為に使用したコンピューターが展示されています。人気ぶりで言うと、当時の「PES」や「FIFA」だったと言っても過言ではありません。最後に、2000年のE3でCrytekが大手パブリッシャーに渡したという、Yerly兄弟サイン入りのデモディスクがあります。

Q. Vigamusを強化する為に、これから、何が必要だと思いますか?

 第一に、ゲーム愛好家からのサポートです。ゲーマーこそが、Vigamusの本当のヒーローだと思います。彼らが、口コミでVigamusの注目度を上げています。そして、もちろんゲームメーカーからのサポートも必要不可欠です。特に、日本のゲームメーカーの協力がとても重要だと思います。宜しくお願いします!

Q. 「スペースインベーダー」がVigamusの顔になりましたね。どうやって実現できたのか、語って頂けますか?

 おとぎ話のような話です。タイトーがWebで私達のことを知り、コンタクトしてきました。Vigamusに興味を持っており、サポートしたいという内容でした。そして、「スペースインベーダー」の採用が決まりました。「スペースインベーダー」は、ゲームの歴史を代表する最も力強いゲームだと思っていたので、採用が決まった時、本当に感動しました!

Q. あなたは、何故ゲームはアートとして認めるべきだと思いますか?

 もっと複雑な説明もできますが、皆さんの心に届くようにダイレクトに言い表したいです。テレビゲームは感動を与えてくれるからです。「Metal Gear Solid 2」の最後を見た時、涙を流したし、「スーパーマリオギャラクシー」で遊んでいる私の娘達は笑顔を絶やさないし、そして、「サイレントヒル2」で遊んだとき、鳥肌が立つほど本当の恐怖感を味わいました。このような反応を引き起こせるのは、アートだけなのです。

Q. 現在のゲームは昔のゲームに比べて、何を失ったと思いますか?

 ジョイスティックから離れられなくなるような、シンプルさです。昨今のゲームは操作が難しすぎるし、インターフェイスがわかりにくいこともあります。現在のゲーム機のコントローラーを使うことは決して簡単なことではないと思います。コアゲーマーだったら、全ての機能を簡単に使えるかもしれないませんが。その傾向と違うのは任天堂だけだと思います。任天堂のやろうとしていることはとても尊敬しています。それは、ゲームというものを“普遍的な遊び”にすることです。

Q. 最後に、日本のゲームメーカーへのメッセージをお願いします。

 喜んでメッセージを送らせて頂きます。Vigamusは、日本が誇るゲームという芸術をローマで披露したいと思っています。ゲームの代表国である日本からのサポートを願っております。展示品としてレアなゲーム機などを拝借できれば幸いです。タイトーのように他のゲームメーカーからもサポートを頂ければ、私たちは日本のゲーム文化と歴史を広める為に全力を尽くしていきたいと思っております。宜しくお願い致します。

誠にありがとうございました。これからも目標の達成に向かって頑張って下さい!

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