レビュー
「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」レビュー
広大なオープンワールドと、それを彩る澤野弘之氏の音楽。癖は強いがJRPGの最高傑作の一本
2025年3月20日 00:00
- 【ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション】
- 3月20日 発売予定
- 価格:
- 7,678円(パッケージ版)
- 7,600円(ダウンロード版)
任天堂から3月20日に発売されるNintendo Switch用RPG「ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション」(以下、「ゼノブレイドクロスDE」)。
「ゼノブレイドクロスDE」は、2015年4月29日に発売されたWii U用ソフト「ゼノブレイドクロス」の“決定版。Wii Uで発売された欧米版「Xenoblade chronicles X」をベースにしており、Wii U版で有料DLCとして登場したコンテンツが最初から収録されているほか、新たに追加ストーリーが収録されている。
その名の通り、一部システムは前作である「ゼノブレイド」を踏襲したものになっているが、ストーリー上の繋がりはない。作中には「ゼノブレイド」シリーズと共通する単語などが登場するが、基本的には独立した別の作品という扱いで、「ゼノブレイド」シリーズを知らない人でも遊びやすいものとなっている。
「ゼノブレイド」シリーズとは大きく異なるのが、マップが全てシームレスに繋がった完全なオープンワールドであること。世界の広さは、シリーズの中でもかなり広い部類に当たる。また、マップは起伏が多く、一部は「ドール」と呼ばれるプレイヤーキャラが搭乗可能な人型ロボット兵器を手に入れるまで行けない場所などもあるが、基本的には移動には特に制限はなく、自由行動が可能になって以降はストーリーに関係なく、世界のどこへでも行く事ができるのが特徴だ。
本稿では、Wii U版「ゼノブレイドクロス」は日本の三大RPGに入る作品であると豪語する筆者によるプレイレビューをお届けしたい。
「ニューロサンゼルス」を拠点に、惑星ミラを開拓
西暦2054年7月。地球の上空で突如異星文明同士の争いが勃発。争いに巻き込まれた地球は焦土と化す。事前に地球圏への攻撃を察知した統合政府は、「地球種汎移民計画」を発動。移民船で宇宙へと脱出するのだった。
地球から放浪の旅に出て2年。脱出に成功した移民船の一つ「白鯨」は航海の最中に異星人の追撃部隊に見つかってしまう。防衛部隊の必死の応戦と一人の英雄の活躍により追撃部隊は退けられたが、激しい戦闘で白鯨の主要機関が大破してしまう。
そして2カ月が経過。人々は白鯨の居住ユニットを「ニューロサンゼルス(NLA)」と命名し、謎に満ちた惑星ミラで生きていくこととなる。そのため、地球人はミラで様々な開拓作業を進めていく。しかし、ミラには地球を襲った異星人「グロウス」も降り立っていたのだった。
……というストーリーの中で、まずはプレーヤーの分身となるアバターを作成する。
アバターのCVは非常に豪華で、男性は浅沼晋太郎さん、内山昂輝さん、宮下栄治さん、立花慎之介さん、柿原徹也さん、保志総一朗さん、浪川大輔さん、関俊彦さん、小野坂昌也さん、田中秀幸さんから選択可能。
女性は前田愛さん、佐藤利奈さん、小倉唯さん、勝田詩織さん、内田真礼さん、上坂すみれさん、田中敦子さん、小清水亜美さん、白石涼子さん、鈴木麻里子さんから選択が可能だ。
主人公は「原初の荒野」に墜落した脱出ポッドの中で眠っていたところを、「ブレイド」のチームリーダーを務めるエルマに救出され、やがて自身もブレイド隊員となる。
NLAまで戻ってメインストーリーを進めると、やがて自由に行動できるようになり、惑星ミラの探索を進めていくことになる。
ゲームの基本的な流れは、クエストを受けて、ミラやNLAを探索しながらクエストを達成する、という繰り返し。クエストはメインストーリーが進む「ストーリークエスト」、キャラクターの好感度を一定以上あげると受けることができる「キズナクエスト」、NPCから受注する「ノーマルクエスト」などがある。その数は非常に多く、とにかくクエストをこなしていくだけで、時間があっという間に過ぎていってしまう。
なお、メインストーリーが進むストーリークエストは、「原初の荒野の探索率を15%以上にする」、「○○のクエストをクリアする」というような一定の条件が設けられているのが大半で、メインストーリーだけをひたすら突き進むことができる作りにはなっていない。
基本となるのは、「フロンティアネット」と呼ばれる情報システムの構築。フロンティアネットは惑星ミラの各地にある「フロンティアネットスポット」に、情報探査機「データプローブ」を設置し、周辺地域のデータを取得することで拡充されていく。
Wii U版ではWii U GamePad(以下、ゲームパッド)上にミラのマップが表示され、NLAや各大陸の地図を見ながらプレイできたのだが、本作ではYボタンで地図を表示する形式となった。
正直に言って、Wii Uのゲームパッドがある前提で作られたRPGのため、やはり常にマップを手元に置きながら探索することができない、という点では少々マイナス。どこにフロンティアネットスポットがあるのか、何回もマップを開いて方角を確認したりしなければならないし、その点は若干面倒ではあるのだが、これについては仕方ないと諦めるしかないだろう。
こう書いても「そうか」とだけ思われてしまいそうなのだが、このフロンティアネットスポット探しがまず楽しい。
なぜ楽しいのかというと、マップのセグメントにフロンティアネットスポットの場所が記されているからに他ならない。ただし、フロンティアネットスポットがあるセグメントがわかるだけで、詳細な場所は自分で探索するしかないため、これがとにかく夢中になって探してしまうのだ。フロンティアネットスポットを開放すれば、手軽に探索率があがるということもある。
フロンティアネットスポットはわかりやすい場所にあるものから、ドールがないといけない場所まで色々あるので、セグメント上で「ここの近くにフロンティアネットスポットがあるはずなんだけどな」ということがわかってうろうろしていても、ドールがないといけない場所だった、なんてことは、ままある。しかし中には、ジャンプで登った山の洞窟の中にフロンティアネットスポットがあったりするので、本当にこまなく探索していかなければならない。データプロープを設置したフロンティアネットスポットはファストトラベル先にもなるので、とにかく見つけておいて損はないのだ。
ちなみにデータプロープにはいくつか種類があり、データプロープの繋ぎ方を工夫することで多くのミラニウムやお金を得ることができるようになる。ミラニウムは装備やドールの開発に必要となるので、ただデータプロープを設置するだけでなく、どの種類をどうつないでいくかも重要となってくるのだ。
コマンドとアクションが融合した戦闘。システムは徐々に解放されていく
戦闘は「ゼノブレイド」のシステムをベースにしているので、シリーズをプレイしたことがある人ならば比較的とっつきやすいだろうと思うが、逆にシリーズをプレイしたことがないと少々わかりにくいだろう。
まず、バトルリーダーに設定したキャラクターのみ操作可能となり、残りのメンバー(主人公含めて最大4名まで)はオートで行動する。キャラクターはそれぞれ「射撃武器」と「格闘武器」の2種類を装備しており、随時切り替えられる。
敵はアクティブなものから非アクティブなもの、「オーバード」と呼ばれる強敵まで様々。唐突にレベルが高い敵がいても非アクティブなことも多く、非アクティブであればするーっと横をすり抜けていってしまえる。逆にアクティブな敵は、スルーしたくても見つかるとかなり追いかけてこられるため、逃げ切るのは難しいように感じた。
本作はコマンドバトルでもなければ、アクションバトルでもないのだが、強いて言うならコマンドとアクションが融合したようなバトルとなっている。
攻撃手段は、近くの敵しか攻撃できないが一撃の威力が高い「格闘」と、遠くまで攻撃できヒット数が多い「射撃」の2種類があり、キャラクターは現在装備している武器でオートアタックも行なうのだが、オートアタックだけで勝てるようにはなっていない。そこで、アーツと呼ばれる「技」を次々に使っていく必要があるのだ。
アーツは、それぞれのキャラクターが持つ特別な技。メニューから最大8種類を選択し登録することで、戦闘中に使用できる。ドールの場合はアーツを使用するのに燃料を消費する。
リキャストが完了した後、アーツに対応した武器を構えた状態だとさらにリキャストが進み、ゲージが最大になるとダブルリキャストとなり、通常の2倍以上の威力を発揮する。
また、戦闘中に突然Bボタンの表示が現われる、「ソウルチャレンジ」というQTEが発生するが、タイミングよくボタンを押すと「ソウルボイス」を発動することができる。ソウルボイスとは、仲間キャラクターの掛け声に対応するアーツを使用することによって、威力や効果のアップが得られるシステムだ。
他、クラス毎に使用できる武器やパラメーター補正が異なり、ランクが上がるとクラスに応じて様々なアーツやスキルを習得できる。
ランクが一定の値に達するとクラスチェンジが可能になる。主人公のみ全てのクラスに変更でき、上位クラスをマスターすると「武器マスタリー」を会得し、対応する武器やアーツをクラス変更後も使用する事ができる。
メインストーリーが進むと、オーバークロックギアやドール戦など、様々なシステムが開放されていく。ただし、主人公の機体はストーリーには関わらず、入手は任意となっている。そのため、ドールでのバトルを楽しもうとすると、必然的にドールを入手するための大量のお金などが必要だ。そうなってくると、フロンティアネットでデータプローブのつなぎ方などをよく考えて、入手できるお金を増やしていくことが必要になり……、と考えることが多い本作だが、そこが本作の楽しいところだとも言える。
なお本当にドールが必要になるのは最終盤のときだけなので、そこまでドールなしで進めることは可能になっている。
このように、物語の途中で徐々にバトルシステムが追加されていくのは、「ゼノブレイド」シリーズではお馴染みともいえるだろう。それでも本作では一応物語中盤くらいで大体の戦略は出そろうので、シリーズの中では比較的早くバトルシステムが完成するほうである。
非常に完成度の高いオープンワールドとそれを彩る澤野氏のサウンド
本作の魅力は、まず間違いなく広大なオープンワールドである。ドールでしか行けない場所もあるとはいえ、逆に言えばドールさえあれば本当に全ての地に行くことができる、と言える。
高所から落下してもダメージを受けず、ジャンプ力も高いので、ドールがなくてもかなり自由に行動できるのが魅力だ。
エリアこそ「原初の荒野」「夜光の森」「忘却の渓谷」「白樹の大陸」「黒鋼の大陸」と5種類だけなのだが、その内部は各大陸とも非常に広く、探索の楽しみは抜群だ。同じエリアでも昼と夜、天候でも色々と見え方が変わるので、景色をただ見てまわっているだけでも楽しい。
街はNLAひとつしかないが、街ひとつも非常に広大で、これだけ広い宇宙船が今から約30年後(本作は西暦2054年から始まる)に本当に作れるのかと思ってしまう。そこはSFの世界ということでスルーしておくとしても、とにかく世界が広大で、セグメントごとに様々なクエストなどが設けられており、惑星ミラの探索率を100%にするだけでも数百時間を要するレベルである。
マップは前述の通りWii Uのゲームパッドではなくなった分、少々使い勝手こそ落ちたが、むしろ手元のマップばかりつい見てしまっていたWii U版と違い、ただひたすらに美しいミラの世界を楽しむことができるようになったとも言えるだろう。
Wii U版のころから高クオリティだったグラフィックは、本作になってより一層美しくなり、AAA級タイトルとして充分相応しいものと言える。
そして本作を語る上でどうしても外せないのは、澤野弘之氏によるBGMの数々である。澤野氏といえば、これまではアニメやドラマなどの劇判を中心に活動している作曲家で、「機動戦士ガンダムUC」や「進撃の巨人」などで有名だ。
そんな澤野氏の音楽は筆者も氏のデビュー当時から注目していたのだが、本作でも澤野氏の音楽の作風が非常によく表れている。
通常バトル曲の「Black tar」は、本作のX公式アカウントでも紹介されているので、まだ聞いたことがない人はぜひ聞いてみてほしい。
『ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション』のバトル時に流れるBGM「Black tar」ですも。激しいギターの音が、惑星ミラでの厳しい戦いを想起させますも。途中から始まるラップがカッコいいですも!#ゼノブレイドクロスpic.twitter.com/e5hyMVLHmU
— ゼノブレイド総合 (@XenobladeJP)March 6, 2025
オーバード戦で流れる「Uncontrollable」は小林未郁さんとmpiさんの掛け合いが素晴らしいのだが、オーバードとは序盤であまり戦えないこともあり、今回の試遊ではあまり回数を聞けなかったのが残念だ。序盤でチュートリアル的に倒すオーバードがいるので、そこでぜひBGMに注目してほしい。オーバークロックギア発動時に流れる「Wir fliegen」もこの曲が全部聞けるようになるころが、いよいよ本作のバトルが楽しくなり始める頃だとも言え、オーバークロックギアの爽快感を一層盛り上げてくれる楽曲となっている。
また、原初の荒野で流れる「N周L辺A」、夜光の森で流れる「N木ig木ht木L」、忘却の渓谷で流れる「亡KEI却KOKU心」(曲名がバグっているように見えるかもしれないが、これが正しい曲名である)など、いずれもゲーム音楽で澤野氏の音楽が100時間以上楽しめるのは「ゼノブレイドクロス」だけである。澤野氏の音楽を堪能する、というだけでも本作の価値は非常に高いと言えるだろう。
なお、「ゼノブレイドクロスDE」ではドール飛行時のBGM「Don't worry」が、アレンジ版(Vo.あり)、アレンジ版(Vo.なし)、オリジナル版の3つのタイプから選べるようになっているので、Wii U版をプレイした人は好みのものに切り替えるのがいいだろう。筆者の個人的なオススメは、アレンジ版(Vo.あり)だ。
『ゼノブレイドクロス ディフィニティブエディション』では、ドールで飛行するときに流れるBGMがアレンジされていますも!BGMはアレンジ版(Vo.あり)、アレンジ版(Vo.なし)、オリジナル版から選べますも。#ゼノブレイドクロスpic.twitter.com/jN0X9Aavkd
— ゼノブレイド総合 (@XenobladeJP)February 28, 2025
筆者は元々ライブに行くほど澤野氏のファンだというひいき目もあるのだが、本作をきっかけに澤野氏の音楽のファンになったというプレーヤーもWii U版当時多数見かけたため、ぜひBGMには注目してほしいところである。
本作から新ストーリー・第13章が追加
本稿ではあまり多くは触れられないのだが、本作にはWii U版になかった「第13章」が追加されている。
元々本作はメインストーリーが謎を残したまま終わっていた点が指摘されていたのだが、この第13章の追加によって本作の評価がどう変わるのかは筆者としても気になるところである(とはいえ、基本的にメインストーリーのボリュームが薄目ではあるのだが)。
特にほとんどのキャラクターは声優さんが変わっていないのに、亡くなった藤原啓治さん演じるラオ役が星野貴紀さんに変わっているのは重要な点かもしれない。
なお星野さんが演じるラオについては、藤原さんファンである筆者も充分納得の演技であった。本作で初めて「ゼノブレイドクロス」に触れる人はもちろんのこと、Wii U版のプレーヤーも新しいラオを受け入れられるはずだ。
相変わらずシステムは複雑だが……理解すればとにかく面白い
「ゼノブレイド」シリーズは基本的にシステムが複雑だが、これまで「ゼノブレイド」全シリーズをプレイしてきた筆者の眼からすると、難しさとしては「ゼノブレイド2」>「ゼノブレイドクロス」>「ゼノブレイド3」>「ゼノブレイド」といったところだ。
特に「ゼノブレイド2」ではゲーム中で全く理解できず、友人に戦い方をかみ砕いて教えてもらわなければならないほどだったのだが、そこまでは難しくないものの、それでも親切な設計になった「ゼノブレイド3」に比べると少々説明不足感が否めず、難易度は少々高めな部類に入る。特にTIPSは開くと「うわぁ……」という声が零れてしまうほどの量で、これをいきなり全部頭に入れろというのには多少無理がある。
しかし、これは歴代の「ゼノブレイド」シリーズに言えることだが、システムの複雑さを理解してからが本当の面白さである、という点は本作でも同じで、とにかく「理解さえすれば面白い」というのは重ねて言いたいところである。
理解できる前に投げ出されてしまう可能性もなくはないため、本作はどうしてもハマれる人とハマれない人の二極化してしまう作風であるが、筆者は激ハマりしてしまい、Wii U版を発売2カ月のころには1,000時間を超えるほど遊んでしまった。MMOを除いたら、歴代ゲームプレイ時間の中で本作が一番プレイ時間が多いくらいである。
少々癖は強いものの、「ゼノブレイド」シリーズを初めてみたい、という初心者プレーヤーから、Wii U版が好きだった人、当時環境がなく「ゼノブレイドクロス」だけプレイできていなかったという人、オープンワールドが好きという人にまで、ぜひ遊んでみてほしい一作である。
長時間かかるだけに、時間のない人にはハードル高めの作品ではあるが、惑星ミラでの体験はきっと何物にも代えがたいものとなるはずだ。
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