レビュー

「インディ・ジョーンズ/大いなる円環」レビュー

楽しすぎてもはや本編最新作。期待通りのインディがゲームで帰ってきた!

【インディ・ジョーンズ/大いなる円環】

12月9日 発売予定

価格:
通常版 9,680円
Premium Edition 13,829円

 ベセスダ・ソフトワークスは、12月9日にXbox Series X|S/PC用アクション「インディ・ジョーンズ/大いなる円環」を発売する。12月6日にはアーリーアクセスもスタートした。今作は、主演をハリソン・フォードが務める名作映画「インディ・ジョーンズ」シリーズを題材とした、一人称視点のシングルプレイ用アクションアドベンチャーだ。

 映画シリーズはこれまでに第1作目「インディ・ジョーンズ/レイダース 失われたアーク《聖櫃》」から、第5作目「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」までが制作されているほか、主人公インディアナ・ジョーンズの過去を描いたテレビドラマシリーズも存在していたりする。

 世界中で名作映画として名高い「インディ・ジョーンズ」シリーズだが、平成生まれの筆者も、幼い頃からビデオテープでインディのスリル満点な冒険にハラハラしていたし、テレビで放送されることがあれば父と欠かさず視聴していたほどには思い出深い映画作品でもある。

 今回は、ゲームの発売前にそんな「大いなる円環」を実機プレイ。現世代機の3Dグラフィックスで蘇る、インディの新たな冒険で感じたその魅力についてお届けしていく。

【『インディ・ジョーンズ/大いなる円環』公式ゲームプレイ公開トレーラー】

映画シリーズ第1作目から続くインディの知られざる冒険

 今作「大いなる円環」は、映画シリーズの第1作目と第3作目の間の時間軸を描いている。ゲームを始めてからプレーヤーが操作を学ぶ冒頭のチュートリアルでは、なんと「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」の冒頭シーンをインゲームコンテンツとして実際にプレイできてしまう。すでに著名なベテラン考古学者として経験値を積んできたであろう、インディの手腕が光る導入シーンだ。

 インディの付き添いで一緒に行動していた探検隊メンバーが原住民の毒矢について話すカット、探検隊の一人がインディを背後から襲おうと銃を引き抜こうとして、鞭で逆に反撃されるカットまで、原作第1作目の冒頭を忠実に再現している。驚いたのは、このシーンで同行していた探検隊メンバーの顔の再現度はもちろんのこと、胸毛の毛量まで近いということ(実際に見比べた)だ。冒頭部分は罠を避けた先で宝を見つけて、遺跡から脱出する場面までを再現している。そうしてようやく今作の物語が幕を開けていくのである。

映画第1作目でも中々インディの顔は映し出されないが、今作は主観視点なので尚更見えない
インディを裏切る探検隊のメンバー2人
ジャングル深部でようやく見つけた遺跡に意を決して入り込むインディ
罠を避けてついに秘宝を見つけるが……?

 新しい旅立ちのあらましはこうだ。嵐の夜、マーシャル大学の一室で目を覚ましたインディは、同室で眠りこけている友人マーカスを横目に、大学構内への侵入者を目撃する。その痕跡を追い、博物館でラテン語をつぶやく謎の大男と取っ組み合いになるものの、気を失ってしまったインディは翌朝マーカスに起こされた。

 博物館の展示物は荒らされ、調査を続けていると猫のミイラだけが盗まれていることに気づく。インディとマーカスは、侵入者が去り際に残した唯一の手がかりであるペンダントの紋章から、それがバチカン秘密文書館のものだということを特定する。自身が講師を務める大学の授業を代講にして、急遽ローマへと向かおうとするインディ。

 しかし、まだ学期中のために、大学がインディの休みを認めるはことはしないだろうと、マーカスはローマ行きを止めようとする。そんなもっとも過ぎる友人の指摘すら振り切って、スーツケースに仕事道具を収め、インディは愛用のカウボーイハットと共にイタリアへ旅立っていった……。

インディの友人マーカス。お酒が入っているのか、むにゃむにゃと寝言を言っている
荒らされた博物館の奥には謎の大男が。この後殴り合いに
冒頭では盗まれた猫のミイラを取り戻そうとする。ミイラにインディさえ知らない秘密があることも知らず……
映画でもお馴染みの国を跨ぐ移動シーン。今作は映画で使用された劇伴も収録されている

 インディがローマへ旅立つ直前のマーカスとの会話シーンでは、第1作目に登場し、共に危機を乗り越えたヒロイン、マリオンとの関係性が芳しくないことが明かされる。インディ自身も色々と思うところがあるのか、あまり多くは語らない。

 とはいえ、彼女からプレゼントされた手帳だけは肌身離さず持ち歩くことになる。彼がそれを単なる仕事道具として認識しているのか、あるいはリボンまで付けられたプレゼントだったので、彼女からの大切な贈り物として持ち歩いているのか気になるところではある。中々吹っ切ることができないインディの色恋沙汰が、ゲームなのになんだか妙に生々しく、冒頭のちょっとしたワンシーンなのに印象に残りやすい。

 作中には新たなヒロインとして、ジャーナリストのジーナが登場。彼女はインディの大スペクタクルな冒険に所々で同行するが、旅を通じて彼女との関係性もまた親しいものになっていく。映画を視聴しているプレーヤーとしては「マリオンはどうした」と、些か不安にならざるを得ない反面、「まあインディだし、また新しい現地妻みたいなものかな」と納得してしまえるところもある。考古学者として、遺跡や古代の文献を調査する冒険には理知的なインディも、男女のもつれが多い私生活の不甲斐なさが作中のあちこちで見られるのは、ファン視点で美味しいポイントとも言えそうだ。

マリオンからプレゼントされた手帳。しかしインディとマリオンは上手くいっていないようだ
ゲーム中はそんなマリオンがくれた手帳が大活躍。冒険のさまざまなヒントやメモを確認できる

 今作でインディが追うことになるのは、タイトルにもある通り“大円環”に関連する古代遺物だ。大円環とは、人類が歴史の中で建造してきた世界各地の遺跡について、その位置を線で結んだ際に出来上がる、地球を囲む円環を指している。その大円環にまつわる遺物の力を使って何か良からぬことを企んでいるファシストと、それに協力しているドイツの考古学者エメリッヒ・フォスの目論みを阻止することが作中の主題となっている。

 そのため、世界各地の遺物をファシストより先に回収するにあたって、探索するロケーションはローマ、ギザ、ヒマラヤといった具合に世界を転々とする。各地で古代の遺跡を巡りながら、シリーズ第1作目から続く、ヒトラーに忠誠を誓ったファシストたちとの遺物争奪戦が展開されていくわけである。

今作でインディの宿敵となるエメリッヒ・フォス
都市伝説のようにも思える大円環の解説。だが、彼らはその遺物が持つ超常的な力を目の当たりにする……
フォスとインディ、どちらが先に遺物を集められるのか
どこに行っても命を狙われるのがインディの運命なのかもしれない

 また、前述しているように「インディ・ジョーンズ」シリーズは、ただ遺跡の謎を解き明かし、秘宝を入手して終わる……という映画シリーズではない。毎作品、古代の秘宝を悪事に利用する、または利用しようと画策する不埒者共を成敗しつつ、その手から秘宝を奪還してのハッピーエンドがお約束の展開だ。

 しかし、その過程ではシリアスとコミカルが確かに内在していて、映画という尺の決まったエンタメで繰り広げられる、感情起伏とアクションのハイテンポなドタバタ感が、見ている者を夢中にしてきたのだと思う。そういった欠かせないポイントも、本作では健在だ。映画作品として広く知れ渡っているシリーズなので、今作がゲームと言えどもそういった魅力は抜かりなく取り入れられているように感じられた。

 ちなみにシリーズが持つドタバタ感で筆者の記憶にあるものと言えば、シリアスな空気を身に纏っているカリスマ的な悪党たちが、インディの泥臭い武力行使シーンに入ると、決まって意地の汚さと隠された保身が行動に現れ、なんだかイマイチ格好が付かないという場面だ。

 映画ではそういった私欲に溺れた悪党たちが大往生できるわけもなく、自らの策に溺れてあっけない最後を迎えることが多い。ゲーム中にも、そのような展開が度々やってくる。そうした中で、プレイしていて常に感じていたのが、本作はゲームというより“体験型の映画”に近いのでは、ということだ。

 ゲームとして楽しいのはもちろんだが、そこに「インディ・ジョーンズ」らしさがとことん散りばめられている。インディの知られざる冒険は、映画シリーズの最新作と捉えても良いほどに、エンターテイメントとして成立できているのではないだろうかと思う。

インディとジーナがピンチ!この後ヒロインと敵が入り乱れるドタバタとした取っ組み合いに
クールに装うフォスもインディのペースに嵌ればちょっとコミカルに。このままジーナに鼻をへし折られた
ファシストのガンツは高所恐怖症。インディから遺物を取り戻すためなら身体も張る

思わず身体が動いてしまう。プレーヤー自身がインディに成るという体験

 今作「大いなる円環」は、冒頭でも紹介したが一人称視点のアクションアドベンチャーだ。「FPS」としてシューターゲームで採用されることの多い視点構成で、確かに拾った銃で戦ったり、インディ愛用のリボルバー拳銃で射撃したりすることはできるのだが、実際のところは肉弾戦の方が遥かに多い。銃弾が作中で希少なことも理由の一つだろうが、インディは戦える考古学者であって戦士ではない。なので、キャラクター像的にも鞭と拳を駆使した戦闘スタイルがゲームの主軸になっているのだろう。

 ファシストと遺物争奪戦を繰り広げるあたり、インディは危険を顧みずに武装した兵士が集う駐屯地や発掘場に潜入する。ゲーム中はここがアクションアドベンチャーの、ある意味で“アクション”に通じるパートとも言える。目的地に向かうまでには武装した兵士たちが徘徊しているエリアを抜ける必要があるので、アイテムで音を出して敵を誘い出したり、安全を考慮して片っ端から気絶させていったりと、ステルスアクションがキモになっていく。

 ここで先ほどの肉弾戦に関する話題が絡む。今作はエリアにもよるが、ファシストの数が多めな上に、拾える銃弾の数も非常に少ない。そのため、いわゆる“ランボープレイ”といった、銃器類などの強引な武力行使が現実的ではないのだ。また、インディも集団に囲まれてタコ殴りにされようものなら、コロっと倒されてしまうくらいには打たれ弱いので、戦う場合でも1vs1の状況を作り出さないとだいぶ辛い。むしろ1vs1での戦いに持ち込めれば、拾った武器で殴りつけようが、ボクシング感覚で拳を撃ち合おうが、プレーヤーにとっては有利に進められる。

 ゲームとしてもあえて1vs1の状況に持ち込むようなバランスにしているのか、特に殴り合いではガード、回避、溜めパンチ、さらにはパリィなんて要素すら存在しているほど。ちなみに近接武器で攻撃を続けていると、ほんの数回程度で武器の方が破壊されてしまう。すると結局プレーヤーが戦闘の主軸にするのは「拳」による肉弾戦となってくるのだ。敵が武器を所持している状況ならば、インディ愛用の鞭を使うことで、その武器を無力化可能。「いや、鞭で攻撃した方が強いのでは?」そう感じた人もいるだろう。無論、鞭を敵に当てて攻撃もできるが、インディは殴った方が強い。

 裏を返せば、1vs1の状況に持ち込めないのであれば、基本的にはステルスプレイで道中の敵を確実に始末していくことになる。ときには倒した敵を移動して、見つからないよう隠しておくことも必要になるだろう。ちなみに筆者はあまりステルスアクションが得意ではない。なので、中には駐屯地のど真ん中で敵に見つかって、文字通り蜂の巣にされるという、哀れな醜態を幾度となくファシストに晒すことが多々あった。それでも突破できたのは、ステルスアクションゲームらしく、目的地に至るまでの進行ルートがそれなりに存在していたからだ。

バトルの基本は殴り。銃はあまり頼りにできない
鞭を使えば敵の武器を叩き落とすことができる
鞭を攻撃に転用してみたが、やっぱり殴った方がダメージも出やすい気がする。要検証
どこから目的地へ近づくか。ステルスアクションにおける潜入部分

 インディは鞭を巧みに操り、高所の崖や出っ張り部分に鞭を引っ掛けて、自在に移動できる。どこでも引っ掛けられる訳ではないのだが、進行ルートとして意図されている箇所にはそうしたポイントが用意されているので、登れるポイントを探すことがエリア探索の基本になる。これは遺跡内でも同様だ。特に遺跡の場合は入り組んだ箇所が豊富なので、鞭を使った移動頻度が多め。離れた足場に移動するため、鞭を引っ掛けてターザンの如く飛び越える場合もある。

 さらに遺跡内の探索に関してはトラップにも注意が必要不可欠。映画でもインディの命を刈り取ろうと、あの手この手の大仰なトラップが度々登場していたが、そうした要素はゲーム内にも漏れなく登場している。遺跡の仕掛けや謎解きにおいて、インディを邪魔するものは大体こういった罠の類である。ただし、遺跡の中で理不尽な死を迎えることは少ないので、そこは安心してもいいだろう。むしろ、もう少し遺跡内の罠に理不尽さがあった方が、映画のような遺跡攻略の緊張感を楽しめたかもしれない。

 なお、ステージの最奥で宝などを見つけて脱出する際、大体の場合は遺跡が崩壊の兆しを見せ、焦ったインディが大急ぎで出口まで走り抜けていくが、そこは一人称視点、つまるところインディの視点で体験する形になるため、コントローラーを手にしたプレーヤー側にもインディの焦りが伝わってくるようである。これが“プレーヤーがインディに成る”という、ゲームならではの醍醐味なのだろう。

 ジャンプでギリギリの足場を飛び越える瞬間などは、自然と筆者も身体を傾けてインディと一体化していたようだった。少なくともこの経験は、映画シリーズを視聴するだけでは味わえない唯一無二の没入感だ。

寄り道によってインディの活動がより深掘りされていく

 「大いなる円環」のようにシネマティック要素の強いアクションアドベンチャーは、ストーリー体験がもたらす没入感と引き換えに、プレイの自由度が少ないケースがほとんどだ。要するにゲームの流れが始まりから終わりまで制約されていて、ひたすらエンディングという名のゴールに向かってノンストップな展開が続く。

 そうした作品では、広大なマップがあってそれらを自由に探索したり、住人の生活感を感じられたりするようなことも少ない。実際、今作についてもゲームをプレイするまでは、クリアまでの導線がかなり決まっている作品だと感じていた。だがしかし、今作については寄り道ができるタイプのアクションアドベンチャーなのだ。

 物語が進むに従って世界各国を転々と回るゲームなので、一部のロケーションではストーリーの都合的にただ訪れたような箇所もある。それでも特定のロケーションはオープンエリアとして用意されており、そこではメインストーリーの目的以外にも、住民たちから話を聞いて依頼を引き受けるなど、サブクエスト感覚の遊びが備わっている。ちょっとしたエピソードが挟まれたり、本筋とは関係ない謎解き・探索に挑戦したりと、メインストーリーのシネマティックな体験こそが持ち味と言えるゲームにおいては、正直十分過ぎるほどの寄り道要素だ。

メインストーリーの目的をそのまま追っても良いし、旅の中で見つけた新たな謎に臨んでも良い
最初に訪れるローマもファシストだらけだがオープンエリア
ギザの観光も可能だ

 オープンエリアはそこそこ広い上、古代遺跡が眠るロケーションの近辺とあって、隅から隅まで探索したくなる密度感。ゲームの時代背景は1937年と激動の時代でもあるので、その時代の世界観をインディ視点で歩き回れるのは、それだけでもファンにとって大きな価値になり得るのではないかと感じている。

 今作は作中で訪れるロケーションはもちろんだが、映画シリーズを見ていると「ん?」と、既視感を感じたりする小ネタも随所に散りばめられている。「インディ・ジョーンズと言えば……」といったような要素が濃縮されたゲームなので、メインストーリーをただ進めるだけではなく、各オープンエリアの探索を入念に行ってみると思いがけない発見がありそうだ。

 映画では、世界の理を揺るがしかねないほどの大秘宝を巡って、インディをヒロイックに描いてきた。今作はゲーム版らしく、オープンエリアでの遊びが備わることから、インディの考古学者としての些細な活動などを、彼自身の視点から楽しむことができる。これもまた「ゲーム」という媒体を通して、初めて得られた楽しみ方だと言えるだろう。

大嫌いな蛇に餌を与えようとするインディ。
妙に既視感のある猿だが今作では可哀想なことにならない

 「大いなる円環」は、映画シリーズ第1作目と第3作目の間に位置する時間軸ということで、往年の「インディ・ジョーンズ」ファンに向けたアクションアドベンチャーといった作風だ。アクションゲームが苦手な人でも遊べるよう、難易度設定も細かく分けられている。インディに成り切って、歯応えある謎解きを楽しむこともできるし、物語重視で進めることもできる。インディが映画で体験してきたスリルやピンチをより深く味わいたければ、難易度「ベリーハード」に設定することで、ファシストたちの脅威を身を持って体感できるはず。

 一つのアクションアドベンチャー作品としてもしっかり作り込まれているので、映画シリーズを視聴したことがないプレーヤーでも楽しめるのは間違いないところだ。とはいっても、今作をプレイするのであれば、やっぱり第1作目「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」は履修しておきたい。その後で、今作をプレイ後に第3作目「最後の聖戦」を見ても良いし、先に見てしまうのもアリだろう。

 筆者ももう一度記憶を消して、時系列順にストーリーを楽しみたいところではあるが、それは叶わぬ夢。これから「インディ・ジョーンズ」シリーズに初めて触れられるファンが、非常に羨ましい。テレビドラマシリーズを除いて、もしも時系列順に楽しむのであれば、「魔宮の伝説」→「レイダース 失われたアーク《聖櫃》」→「大いなる円環」→「最後の聖戦」→「クリスタル・スカルの王国」→「インディ・ジョーンズと運命のダイヤル」となる。この機会にシリーズ視聴者の方も、ぜひこの時系列で今作と一緒に楽しんでみてはいかがだろうか。

なお、容量はSteam版で約112GB。空き容量とダウンロード時間は十分に余裕を持っておきたい