レビュー
「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」レビュー
本格的推理アドベンチャー、35年の時を経て復活! 「隙のないシナリオ作り」は本作も。始終脳汁が出っぱなしな展開
2024年8月28日 20:00
- 【ファミコン探偵倶楽部 笑み男】
- 8月29日 発売予定
- 価格:
- パッケージ版 6,578円
- ダウンロード版 6,500円
- COLLECTOR'S EDITION 9,878円
任天堂は、Nintendo Switch用推理アドベンチャーゲーム「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」を8月29日に発売する。
「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」は、任天堂の人気推理アドベンチャー「ファミコン探偵倶楽部」シリーズの最新作。シリーズ第1作目は「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者」が、1988年にファミリーコンピュータ ディスクシステムで発売。そして第2作目は「ファミコン探偵倶楽部PartII うしろに立つ少女」が1989年に発売されており、その間に「BS探偵倶楽部 雪に消えた過去」や、フルボイス化したリメイク版などを挟んではいるものの、「ファミコン探偵倶楽部」としては実に35年ぶりの新作となる。
本稿では、「ファミコン探偵倶楽部 笑み男」のレビューをお届けする。
登場人物は推理アドベンチャーにしては少なめ、シンプルでわかりやすい
本作の主人公は、空木探偵事務所所長・空木俊介の助手を務める少年探偵。デフォルト名はなく、プレイヤーが自由に名前をつけられる。残念ながら性別は選べないので、少年キャラクターに合った名前を今から考えておくのがおススメだ。実際筆者は推理シーンよりも、この名前入力シーンに一番時間がかかってしまった。
この主人公だが、第1作目「消えた後継者」の中で、崖から転落し記憶喪失となった過去がある。本作は前作2作を知らずともプレイできる内容ではあるが、主人公がしばしば記憶喪失になった頃の記憶を振り返ることもあるので、覚えておきたい前情報のひとつである。
そして主人公と共に空木探偵の助手として働いているのが、橘あゆみ。あゆみも、「消えた後継者」、「うしろに立つ少女」と登場し、「BS探偵倶楽部」では主人公にもなった。本作では主人公とあゆみとの共同調査という形が取られ、これまでのアドバイザー的な役割と変わってあゆみも探偵として聞き込みなどにまわることになる。主人公とあゆみの調査がどう交わっていくことになるのか、見どころのひとつだ。
主人公とあゆみが働いている空木探偵事務所の所長は、空木俊介。本作は主人公とあゆみを中心に事件が進み、空木所長は別行動となるので、これまでと同様に空木所長の出番は比較的少なめだ。
他、空木探偵事務所に便宜を図ってくれる優しい鎌田公晴警部、今回の事件を担当する仕事人間な久瀬純子刑事、久瀬刑事とコンビを組んでいるおちゃらけキャラの神原大輔刑事、今回の被害者が通う学校の教師であゆみの先輩にあたる福山翼など、個性豊かなキャラクターたちが登場する。
メインとなる登場人物は推理アドベンチャーにしては少ないほうで、ストーリーは非常に追いやすい。そしてキャラクターが少ない分、ひとりひとりの性格やバックグラウンドの掘り下げもよくできている。キャラクターがとても丁寧に描かれているので、各キャラクターに感情移入できるようになっており、キャラクターを重視したい人にはうってつけのゲームだ。
また、キャラクターがすごく滑らかに動くのには驚いた。数パターンの立ち絵で切り替えるものが多い推理アドベンチャーとは、明らかに一線を画していると言えるだろう。
各キャラクターの細やかな動きには心情もにじみ出ており、すごくリアルだ。また、会話がフルボイスになったのも嬉しい。筆者はリメイク版の「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者」や「うしろに立つ少女」をプレイしていなかったので、今作で初めて緒方恵美さんが演じる主人公を見たのだが、「なるほど、主人公はこういう雰囲気のキャラクターだったんだ」と、とても新鮮な気持ちで臨むことができた。
なお、音声音量は設定で0にすることもできるので、昔ながらのテキストだけで読み進めたいという古参ファンにも優しい。ただ、声ありきのキャラクター設定にはなっているので、できれば音声込みで楽しんでほしいところである。
個人的な推しは、KENNさんが演じる神原刑事で、チャラチャラ系のどこか抜けているへっぽこ刑事でありつつ、本気で真面目になるとぐっと雰囲気が変わる、という演じ分けが素晴らしかった。声がなければ神原刑事推しにはならなかったかもしれない、と真面目に思うほど感情表現豊かなキャラクターなので、ぜひとも音声はオンにしてプレイしてほしい。
「笑み男」とは? 調査パートと推理パートを駆使して、真実に迫る
本作は基本的に、日中は各所をまわって調査をし、一日の最後には探偵事務所へと戻って、主人公とあゆみとでその日の調査の内容から推理をし、そして次の日の調査へ……というルートで進んでいく。
推理パートは必ずしも一日の終わりで行なうわけではないが、大体は一日の終わりの総まとめ的に行なうことが多い。
物語の冒頭で死体となって発見されたのは、中学校三年生の佐々木英介。絞殺死体だったが、何より異様だったのは彼の頭に笑顔が描かれた紙袋が被せられていたことだった。
すると、空木所長はこれと似たような事件が18年前にも起こっていたことを語る。それは連続少女殺人事件で、3人の少女が絞殺され、笑顔の描かれた紙袋を被せられたというものだったのだ。
それを聞いたあゆみは、「笑み男」の都市伝説と同じだ、と笑み男の話をする。笑顔が描かれた紙袋を被った男が悲しい女の子の前に現われ、泣いている女の子に「悲しいんだね。でももう泣かなくていいんだよ。君に永遠の笑顔をあげるから」と言い、女の子は殺されて笑み男と同じ紙袋を被せられる、というのだ。
果たして、18年前の少女連続殺害事件と、この笑み男の都市伝説はどうつながっていくのだろうか?
物語後半になってしまうのであまり言及はできないが、この点と点がつながって線になっていく様はなかなか見ごたえがあり、こちらとしても推理のし甲斐がある。
ただ、漠然と物語を読んでいるときょとんとしてしまうかもしれないので、物語のあちこちに点在している”点”をきちんととらえて、自分なりの推理を一緒に考えながら進めていくと楽しいだろう。
いわゆる「コマンド選択型」のコマンドもの
本作は、基本的にその箇所でできるコマンドを何回も繰り返して、コメントが変わらなくなったら他のコメントが見れるコマンドを探して、またコマンドを何回も繰り返して……という、「コマンド選択型」のアドベンチャーだ。これは「ファミコン探偵倶楽部」シリーズの過去作と同様の作りになっているのだが、現在遊ぶと少々古臭いとは感じてしまう。
ただ、コマンド選択型なりに考えられた作りにはなっている。UIこそひと昔前感があるものの、既読スキップ機能があったおかげで、コメントが変わらなくなっても一瞬でコマンド選択まで戻れるので、ストレスは感じにくい。さしずめ今昔折衷と言ったところだろうか。
それでも筆者のようなオールドタイプのアドベンチャープレーヤーにとっては懐かしさ香るものになっているのだが、最近のアドベンチャーに慣れている人は少々不便さは感じてしまうだろう。
あくまで「古き良き時代のアドベンチャー」を踏襲しているということは、シリーズ初心者にも知っておいてほしいところだ。
もちろん、2021年にリメイクされた「ファミコン探偵倶楽部」シリーズをプレイしており、既に「ファミコン探偵倶楽部」シリーズがこのようなディティールの作品であるのだと知っていれば、全く違和感なく世界観に入り込めるはずだ。
さらに本作は、「笑み男」というひとつの事件の真相を解き明かす物語なので、少々ボリューム不足感を覚えてしまった。
これも「ファミコン探偵倶楽部」シリーズという視点で見ればお馴染みではあるのだが、昨今の1本のソフトに何本もの事件が入っている推理アドベンチャーと比べると、若干見劣りする。
とはいえ、ひとつの事件を長時間かけて描いているので、物語運びの丁寧さについては段違いで素晴らしい。ここまで手が込んでいる作品にはなかなか出会えないのは、間違いない。
事件の数を取るか、質を取るか、という比較にはなってしまうのだが、量より質派であれば、本作を手に取ってみてほしいところだ。
怪談と推理が融合した傑作
「ファミコン探偵倶楽部」シリーズは歴代、怪談と推理アドベンチャーとの融合作品だが、本作でも笑み男の都市伝説をベースに、一本の壮大なサスペンスドラマを見事に描き切っている。
これはあくまで筆者の個人的な気持ちなのだが、筆者はアドベンチャーで「起承転結」の「起」の部分までの導入が長いとそこでダレてしまう。しかし「ファミコン探偵倶楽部」シリーズは事件の始まりが物語の始まりなので、気持ちがダレることなく最後までプレイすることができた。詳しいことはネタバレになるので書けないのだが、最後まで含めて始終脳汁が出っぱなしな展開だ。
そして、「ファミコン探偵倶楽部」シリーズが今でも愛されている理由のひとつに、「隙のないシナリオ作り」が挙げられると思うのだが、本作でもそれは継承されている。特に筆者の背筋がぞわっとしたのは、やはり全ての謎が明かされる解決編。これ以上語れなくて申し訳ないが、実際にプレイしたプレーヤーの方たちから同じ声が聴ければ幸いである。
なお、「ファミコン探偵倶楽部」シリーズといえば、BGMを楽しみにしている人もいるのではないだろうか。本作でも、笑み男の不気味なイメージを表現した曲、しっとりした落ち着いた曲、ちょっとコミカルな曲……と、多彩な音楽が楽しめる。ただ、音声と音楽の音量をデフォルトの設定のままにしておくと、音楽が若干音声に埋もれ気味になってしまうので、音楽を楽しみたい人は設定を少し変えるのがオススメだ。
35年ぶりに復活した「ファミコン探偵倶楽部」なだけに、筆者のような「当時ディスクシステムでプレイしたなぁ……」というファンから、リメイク版プレーヤー、はたまた全く新規のプレーヤーまで様々いると思うが、どの方面のプレーヤーにも全方位楽しめる作品になっているのは間違いない。
なお、クリアまでの時間は、既読スキップ使用で15時間ほど。一本のシナリオでこれだけの時間がかけられているので、各シーンや登場人物の解像度はかなり高く丁寧に描かれているのがわかっていただけると思う。
前述の通り、過去2作のプレイは必要ない作りになっているので、アドベンチャーが好きな人にはぜひともプレイしてほしい。
(C)Nintendo