レビュー

「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女」レビュー

令和でも輝きを失わない昭和の正統派アドベンチャーが復活!

【ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女】

ジャンル:アドベンチャー

発売元:任天堂

開発元:MAGES.

プラットフォーム:Nintendo Switch

価格:
各4,378円(税込、DL版)
10,978円(税込、特別限定版)
発売日:5月14日

 今回レビューするのはNintendo Switch版「ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者」(以下、消えた後継者)、「ファミコン探偵倶楽部 うしろに立つ少女」(以下、うしろに立つ少女)の2作だ。オリジナルの第1作である「消えた後継者 前編」が発売されたのが1987年4月27日、第2作である「うしろに立つ少女 前編」は1989年5月23日。ちょうど、昭和と平成をまたぐような形で発売されている。

 「ファミコン探偵倶楽部」はファミリーコンピューター(ファミコン)のソフトで、フロッピーディスクのような「ディスクシステム」向けとして発売された。筆者は当時大学生だったが、両作ともに発売日に購入してプレイした記憶がある(多分書き換えはしてないと思う)。前後編に分かれて発売されたので、前編をクリアしたあとは後編を楽しみに待つ、というより、後編が発売されるまで1カ月という期間があまりにも長く、しびれを切らした思い出がある。

 しかし何にしても30年以上前の記憶だ。当時の状況はあやふやだし、確かなことは言えない。ストーリーにしても詳細は覚えていないし、「面白かった!」という記憶が残っているだけだ。そしてファミコンやディスクシステム本体だけでなく、「ファミコン探偵倶楽部」のソフトも手元には残っていない。

 「ファミコン探偵倶楽部」はまた、2004年になって、ゲームボーイアドバンス用のソフトシリーズ「ファミコンミニ ディスクシステムセレクション」の中の1作として復活。これについても購入しているのだが、今回のレビューに当たって確認したら未プレイのままだった。原因は分からないが、仕事が忙しかったのだろうか。これもやぶの中である。ちなみにこのあとバーチャルコンソール向けにも配信されているので、「ファミコン探偵倶楽部」に触れている人は結構多いのかもしれない。

 そんな個人的にもミステリアスな状況の中、Nintendo Switch版としてリメイクされた「消えた後継者」、「うしろに立つ少女」をプレイした。30年の年月を経てリメイクされた本作は果たしてどのようなテイストに仕上がっているのだろうか。筆者は「ニンテンドウパワー」を利用しておらず、「サテラビュー」は持っていなかったので、スーパーファミコン版の「うしろに立つ少女」と、第3作の「BS探偵倶楽部 雪に消えた過去」も未プレイ。久しぶりの「ファミ探」にワクワクしながら臨んだ。

 なお、本稿にはストーリー序盤のネタバレも含むため、その点のみご注意いただきたい。

【ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女 紹介映像】
ゲームボーイアドバンス版「ファミコンミニ ファミコン探偵倶楽部」
何とも懐かしい画面

綾城家で起こる人の死を解明する「消えた後継者」

 「消えた後継者」、「うしろに立つ少女」に共通するゲーム自体の進め方だが、「聞く」、「取る」、「呼ぶ」などのコマンドを選択して、次に表示される選択肢を選んで決定していく方式だ。「聞く」-「善蔵」などのようにしていけばよい。また中には「見る・調べる」というコマンドがあり、これを選ぶと虫メガネのアイコンが現われる。そこで左右のジョイスティックか矢印ボタンで虫メガネを動かし、調べたい場所を選んでAボタンを押せば調べられる。一番上の「移動する」を選ぶと場所を移動することができる。

左に表示される選択肢をAボタンを押して決定していく
「見る・調べる」では虫メガネのアイコンが登場して、任意の場所を調べられる

 さて、まずは「消えた後継者」からスタートしていこう。とある地方にある「海上海岸」の崖の下で目を覚ました主人公。知らない男「天地」に助けられ、再び目覚めるとそこは天地の家。天地によると、何かの原因で崖の下に転落したらしい。しかし落ちて頭を打ったせいか、自分の名前を含めてまったく何も覚えておらず、記憶をなくしていた。ようやく名前を思い出し、自分の手がかりを追って崖を訪れると、「橘あゆみ」が登場する。あゆみによると、自分は明神村一の資産家である「綾城家」当主である「綾城キク」が、謎の死を遂げた事件について調べている探偵だという。そして主人公は、自分が何をしていたのか確かめるために、依頼者であり、綾城家の執事である「田辺善蔵」を訪ねる――。

 なんかこの前振りからしびれてしまうのである。崖の下に倒れていた記憶喪失の主人公。それだけでも事件感がたっぷりではないか。また、誰も通りかからない崖であるにもかかわらずそこにいて、自分を助けてくれた天地という謎の男性。そしてかわいさたっぷりの橘あゆみ。その地方一の資産家で、「綾城商事」という大企業を始めとしてさまざまな企業を経営する綾城家。もうここまででわくわくしてくるのである。

明神村の崖で主人公が目覚めたところからスタート
天地によると、崖の下で倒れていたらしい
落ちていた草むらを調べる
そこに登場するあゆみ
同じ探偵事務所に所属していたという
調査を依頼されたという善蔵の元へ
明神村に伝わる綾城家の伝説

 そして主人公の記憶とともに、筆者の記憶もよみがえってくる。タイトルバックのテーマ曲を聴いたときに「あ、これこれ!」と思いだし、「そうそう。あゆみちゃんが来るんだよ!」と、一番最初にプレイしたときの気分を再び味わう。しかし今回はリメイクなので、ファミコン当時の絵柄とはまったく違い、とてもきれい。サウンドもステレオで雰囲気を盛り上げるメロディーを奏でてくれる。しかし当時感じていた聞こえ方とまったく同じように思える。音源がまったく違うのに。

 オリジナルと異なるのは、絵柄とサウンドだけではない。CVが加わっているのだ。しかもフルボイスである。主人公の声を務めるのは緒方恵美さん。言わずと知れたアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公である「碇シンジ」の声を演じた方だ。緒方さんが演じる10代の青年の声はさすがというべきもの。また、あゆみちゃんの声は皆口裕子さん。皆口さんは「BS探偵倶楽部」でも橘あゆみ役を演じている。皆口さんというとアニメ「YAWARA!」の主人公である「猪熊柔」が筆者的な印象としては強い。

 今回フルボイスとなったことでよかったのは、そのキャラクターにさらに命が吹き込まれたことだろう。オリジナルのストーリーでも十分に感じられたが、声が加わることでなお印象深いキャラクターとなっている。緒方さんも皆口さんももちろんいいのだが、中でも筆者が好きなのは明神駅の駅員さん。取り立てて重要そうな人物ではないのだが、演じているのは千葉 繁さんなのだ。あのひょうきんなトーンはなんとも素晴らしい。長い芸歴を持たれている千葉さんだが、筆者の世代であれば印象に残っているのはアニメ「うる星やつら」のメガネだろう。あのエキセントリックな演技は千葉さん独特のもの。駅員さんも千葉さんならではの持ち味が光っている。

千葉繁さんが演じる駅員

 物語はその後、綾城商事の社長を務めていた、キクの夫でもある先代・徳兵衛の弟の息子「完治」が何者かによって殺害。それを機会に綾城商事の実権を握った完治の弟「二郎」、完治の妹である「あずさ」が次々と殺されていく。こうした連続殺人は、実は「綾城家の呪い」によるものだという。最初に殺されたキクが、無念の死を遂げた恨みを晴らすために完治や二郎、あずさを殺したのだと村人はうわさする。

 また、綾城家の膨大な遺産を受け継ぐことのできる「後継者の印」を持っているとされる、キクの娘「ユリ」の行方を探しながらストーリーが進む。綾城家の呪いとは本当にあるのだろうか。物語は二転三転しつつ進んでいくので、謎の答えを知りたくて思わずどんどんと進めてしまう。

 そしてストーリーの終盤では、意外な事実を主人公は知ることになる。そして実はあの人物が重要なポジションにいたとは……。最後までたっぷりと楽しめる良質なミステリーだ。

綾城商事の社長を務める長男の綾城完治
次男の綾城二郎。綾城商事の専務だ
長女のあずさ。あずさによると完治と二郎は対立していたようだが……

 ストーリーは章ごとに分かれており、プレイ時間は1章あたり1時間~1時間半くらいだろうか。それほど重くない形で進めていくことができる。最も筆者の場合は、プレイしていくうちにストーリーやコマンドを思い出したのでその程度の時間で進めることができたのかもしれないが。

 なお進め方に詰まった場合はまずコマンド総当たりで進めてみることだ。中には「どこ?」として画面内のある点を指すことで進める必要がある場面もあるが、その場合でも総当たりすれば答えは出てくるし、これまでのストーリーを思い出しつつ、怪しい箇所を考えればすぐにわかるだろう。分からないからといって安易に攻略サイトを見ながら進めてはいけない。それでは物語の面白さを自ら半減させているようなものだ。ミステリーの場合は特に。

 ちなみに今回のプレイでは参考のためにも攻略サイトを見て進めることもあったが、メインストーリーはオリジナルと変わらないものの、場面やコマンドが違っている場合があった。なのでこうしたサイトはある程度は参考になるものの、まったく同じとはならないのでご注意を。