レビュー
「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」レビュー
2023年6月22日 00:00
分裂しているゴラムの精神をプレーヤーの望んだとおりに"説得"せよ!
「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」は世界観と共に、ゴラムというキャラクター自身にも掘り下げられる。ゴラムは指輪の魔力で怪物となってしまったが、その中にはこの呪わしい運命から逃れたい心も、他者への憐憫も、善への憧れも眠っている。
ゴラムは自身を怪物として開き直り悪への道を進もうとする「ゴラム」と、そこから逃げ出し良き人への憧れを持つ「スメアゴル」という2つの分裂した人格を持っている。その境界線は曖昧だが、ゴラムは常に自分自身と会話し、その行動も統一性がない。ゴラムの一人称は常に「わしら(We)」であり、まるで2人で1人かのように振る舞う。ゲームはそのゴラムの特質をうまくゲーム性に織り込んでいる。
「目の前の哀れな老人に協力をするか、それとも密告して売り渡すか?」、「新人の囚人グラシュニクを助けるか見捨てるか?」、「今にも死にそうな囚人の鑑札を死人として奪うか、まだ生きている人として見逃すか?」、様々なところでゴラムは選択をする。
スメアゴルは「助けろ」という。ゴラムは「見捨てろ」と自分の中でささやく。面白いのはプレーヤーがゴラムに決断をさせるためにはもう一方を"説得"しなくてはいけないのだ。ゴラムがスメアゴルを説得する場合、対象がいかに嫌な奴か、生きていれば自身の脅威になるかを恐ろしい口調と共に脅してスメアゴルを震え上がらせる。スメアゴルがゴラムを説得するためには対象を助けることで自身にどんなメリットがあるかを語りかけ、ゴラムを納得させる。
2つの人格を持つゴラムの決断がどんな物語を生み出していくか、分岐していく物語はゲームならではの楽しさだ。1つの決断は物語と共に、プレーヤーの心にも影響していくだろう。プレーヤーの選択でゴラムをお人好しにするのも、とんでもなく残忍なキャラクターにもできる。この決断要素は本作を何度も繰り返しプレイしていくエネルギーとなる。
……そして選択はただゴラムを善にしたいからスメアゴルを選び続ける、悪にしたいからゴラムの選択肢を選ぶ、という単純なものではないようだ。孤独におびえるスメアゴルは、妄執というような暗く利己的な心で対象を束縛しようとする一面がある。反対にゴラムの酷薄な心が事態をよくする場合もある。「何が良いことなのか?」がわからず、プレーヤーを悩ませる選択肢も現れる。複雑で生々しい人間の心をこのゲームはしっかりと表現している。
ゴラムは苦難の旅路の果ては? 「LOTR」をまた違った視点で楽しめる作品
もう1つ、「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」を語る上では欧米での発売直後の評価も触れておかねばならないだろう。本作は欧米では5月22日に発売されたが不具合報告が多く寄せられ、開発メーカーは謝罪文を掲載している。
今回筆者は発売直前のPS5版をプレイしたが、不具合として上げられていた動作の不安定な部分や、フレームレートの極端な低下といった問題は確認できなかった。しかし一方で本作が「優れたアクションゲームである」とは言えない点にも多く直面した。
ジャンプ主体のゲームなのに、同じようにジャンプしてもうまくいく場合と行かない場合がある。感覚を研ぎ澄ますとヒントが出る仕様なのに、その機能が必要なときに役に立たず、どう進んで良いかがわかりにくい。ちゃんと足場に着地できない場所がある……。などなど、発売前にテストプレイをきちんとやってバグや不具合を修正したのか、確認したくなる理不尽なところがあった。
ステルス要素では、特に石を投げて敵をおびき寄せるギミックが限定されているところがあった。音を鳴らせば周囲のオークが反応するはずなのに、特定の場所で石を投げないとオークが反応しないのだ。この不具合はステルスゲームとしての楽しさをスポイルしている。バグや不具合は他のゲームでも見られるが、「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」はアクションゲーム、ステルスゲームとしての楽しさこそがゲームの中心なだけに、不完全な要素が目立ってしまう。
なお、日本国内での発売時には、最新パッチ:1.003.000(PS5)/1.03(PS4)が配信されている。複数の不具合の修正やグラフィック・UIの改良、パフォーマンスやゲームの品質の改善が反映されているので、プレイする前にゲームのアップデートを行ってから開始して欲しい。筆者が見つけた不具合も修正されている可能性がある。
本作に関しては開発チームがユーザーに真摯に向き合い、不具合を解消していく約束をしている。今後の修正も期待したい。今回挙げた筆者の不満点は多くのユーザーが指摘しているポイントなだけに、修正を確信している。個人的にはもっと踏み込み、ステージを短縮するなど思い切った「スーパーイージーモード」があっても良いのではないかと思っている。「LOTR」ファンでアクションゲームが苦手な人にも楽しんで欲しいからだ。
筆者はやはりゴラムの行く末が気になって、夢中になってプレイしてクリアしてしまった。不具合や理不尽なところはあっても、先に進む道を探し、困難をゴラムの能力でクリアしていく爽快感は大きいし、何より「LOTR」の世界を詳細に再現したこのゲームの世界観はとても魅力的だからだ。
「LOTR」で語られているとおり、ゴラムは何とか要塞である黒坑を脱出できても、今度はエルフに捕まってしまう。エルフはゴラムを慎重に扱うが、多種族を見下す傲慢さとゴラムへの嫌悪が透けて見えるエルフの"本音"は、ゴラムの心を癒やしてくれはしない。美しい風景の中、黒いシミのように這い回るゴラムの哀しさは、その境遇に同情を感じざるを得ない。「LOTR」ファンには、「ホビットの冒険」で扱われた"闇の森"をたっぷり探索できるのも面白い要素だろう。詳しくは書けないが、このエルフの地での物語もまたすごく良いのだ。
筆者自身は「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」をプレイし、かなり好きになった。弱く醜くいびつな"怪物"を主人公に、暗い展開が続く本作は決して万人向けとはいえない、とがった作品であるが、ゴラムが主人公だから語れる物語があり、問いかけられるテーマがある。人間は運命とどう戦えるのか、過酷な境遇に人はどう立ち向かっていけるのか、本作は怪物を主人公に"人間性"を問う、奥深いテーマが描かれている。
オークのぶっ飛んだ文明と地獄そのものの世界、美しいが得体の知れないエルフの世界と不思議な魔法……。トールキンの「LOTR」ならではの世界を、困難にくじけず突き進んでいくゴラムは、独特のカッコ良さがある。不具合も含めて困難なステージを突破していくことでアクションゲーマーとしての興奮と達成感も大きな魅力である。
繰り返すがとがったゲームである。この癖が強いだけに独特の魅力のあるゲームに触れてみてはいかがだろうか?
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