レビュー
「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」レビュー
醜く、邪悪で、小さな怪物に救いはもたらされるか? テーマ性の強いアクション
2023年6月22日 00:00
- 【ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム】
- 6月22日 発売予定
- 価格:
- 通常版 6,800円
- プレシャスエディション 9,020円
「The Lord of the Rings: Gollum(ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム)」は、非常にユニークでとがったゲームだ。主人公は映画にもなった「ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語、以下、LOTR)」の主要登場人物の1人「ゴラム」だ。
ゴラムは"指輪"の魔力に囚われ、500年も暗闇で這いずり回って生きており、その肌は日に当たらないため青白く、目は暗闇で光を逃さぬように大きく不気味に光る。子供のように小さい体はガリガリで常に飢えている。1人で生きていたため言葉遣いも不明瞭で、2つの人格で話し合うようにいつも独り言を言っている。性格も利己的で邪悪、誰もが彼を見たとき嫌悪の声を上げてしまう"怪物"だ。
ゴラムは奪われた宝物「いとしいしと(ひと)」を探し求め、それを奪い去った憎いホビット・ビルボを追う。しかし彼の宝物は世界の未来を握る重要なものであり、その宝物をわがものにするため様々な勢力がゴラムから秘密を奪おうとする。本作「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」はそのゴラムの苦難の道を描くアクションアドベンチャーなのだ。
ゲームではゴラムを通じ「LOTR」やその前章に当たる「ホビットの物語」で描かれていなかった物語を描く。本作はアクションゲームである。ゴラムならではの特殊能力と閃きで、様々な仕掛けを突破していくゲーム要素は大きな魅力だ。
しかし本作は先行発売された欧米でバグなどの不具合で批判を浴びてしまった一面がある。その一方で世界観の作り込みや、何よりゴラムの描き方で高評価も得ているが、不具合の話題ばかりになっている感がある。
しかし不具合にばかり気を取られてしまっては、ゲームの本質の評価としては十分でない。今回は筆者のプレイの感触と、何より本作の魅力をしっかりレビューしたい。本作は「LOTR」ファンはもちろん、アクションゲーマー、この世界とコンセプトに魅力を感じた人に、強く薦めたいゲームである。
ゴラムとはどんなキャラクター? 彼の苦難の冒険を描くゲームの魅力とは?
「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」はゴラムという"怪物"を主人公にしたアクションゲームだ。ゲーム本編の前に、ゴラムというキャラクターとバックボーンを紹介しよう。ゴラムという名前は、彼が強くつばを飲み込む癖があり、その擬音「ゴラム(ゴクリ)」が彼のあだ名となっている。
彼の本名は「スメアゴル」。スメアゴルは500年前人間より小さいが頑強な種族ホビットの1人であったが、彼の友人デアゴルが川底から美しい金の指輪を見つけたとき彼に恐ろしい運命が襲いかかる。金の指輪に魅入られたスメアゴルはデアゴルと指輪の奪い合いになり、彼を絞め殺して指輪を自分のものにする。その後指輪の魔力で邪悪さを増した彼は住んでいた村を追放され、残忍な種族・オークの住む霧降山脈の奥深くでひとりぼっちで暮らすようになる。
通常ホビットの寿命は100歳ほど、しかしゴラムは500年の時を生きて未だ老いなかった。真っ白な肌、大きな目、ガリガリの手足……。暗闇での生活は彼の容姿を醜く変え、性格は邪悪さと狡猾さ、残忍さを増し、時には迷い込んだオークを殺すこともあった。彼を変えてしまった指輪こそ、冥王サウロンが持つ世界を支配する「1つの指輪」だったのである。ゴラムはその強大な魔力を引き出すことはできなかったが、指輪を指にはめることで姿を隠すことができた。彼は指輪を「いとしいしと(人)」と呼び、ひとりぼっちで暗闇の中を生きてきた。
しかしその指輪は奪われてしまう。霧降山脈に迷い込んだドワーフに同行していたホビットのビルボ・バキンズはゴラムと対峙する。ビルボは彼を食べようとするゴラムを出し抜き、指輪を奪って逃げおおせる。その後、ビルボはその指輪で大活躍をする。ビルボの冒険は、「LOTR」の前日譚にあたる「ホビットの冒険」で描かれる。
「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」は、「ホビットの冒険」と「LOTR」の間でゴラムがどんな冒険をし、苦難の道をたどったかが描かれる。「LOTR」において、1つの指輪はビルボからその甥フロドに託され、フロドはその指輪を破壊すべく冥王サウロンの本拠地であるモルドールの奥地「滅びの山」を目指す。その旅路、そして冒険の結末にゴラムは重要な役割を果たす。ゲームはゴラムを深く掘り下げ、やがて来る「LOTR」での運命の予感を非常にうまく提示している。
ゲームとして、「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」はかなり特殊な作品と言える。「LOTR」を知らない人には不気味な主人公のアクションゲームと写るだろう。彼はヒーローとはほど遠い存在で、独り言ばかり言っている。怪物であるオークにすら忌み嫌われている上に、善の存在であるエルフまでもがゴラムが隠している秘密を奪おうと追いかけてくる。
かなり暗いテーマではあるが、だからこそゴラムに救いがどうすれば来るかプレーヤーは考えてしまう。ゴラムは邪悪に落ちた自分に対して葛藤しており時にはその運命に抗おうとする。彼を邪悪なままでいさせるか、それとも光に向けるか、プレーヤーが選択できるところも本作の大きな魅力だ。彼の葛藤と活躍はゲームの大きな主題である。彼が光を手にする日が来るのだろうか?
ゲーム「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」ではその哀しいゴラムにフォーカスが当てられ、改めて人の心の本質を問うようような、しっかりとしたストーリーが展開する。またゲームステージとして表現されたフィールドは、美しいグラフィックスと盛り込まれたアイディアで「LOTR」の世界をしっかり掘り下げてくれる。「LOTR」を知らない人も本作をプレイすると彼の運命がどのようなものかを見届けたくなるだろう。
足場を見つけ、壁を駆け上り、冥王の要塞を脱出せよ!
ゴラムはビルボに奪われた指輪を取り返すため、500年近く住んでいた霧降山脈の奥地から這い出し、ビルボが彼の故郷であるホビット庄にいることを知る。ゴラムはしかし、途中から指輪を求める冥王サウロンの魔力に惹かれてか、冥王の国モルドールに足を向けてしまう。そこで彼は冥王の下僕「黒の乗り手」に発見され、冥王の拠点である巨大な要塞「黒坑(暗黒の塔:バラド=ドゥーア)」に囚われ、数年にわたる過酷な奴隷生活を送ることとなってしまうのだった……。
「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」はステルスアクションゲームだ。ゴラムはその醜く貧相な体にもかかわらず、卓越した身体能力を持ち、カエルのようなジャンプ力、少しの足場にしがみつく握力、身軽さを持っている。さらに暗闇に溶け込むことができ、影や草むらがあればそこに同化し、近くをオークが通っても発見されない。ゴラムはこれらの能力を使い、過酷な奴隷生活を生き抜いていく。
ゲームでは「オークの生活」の表現も魅力だ。オークは粗野で野蛮な種族だが、その知性は決して低くなく、彼等の文明も荒々しいが遅れたものではない。鉄と木を乱雑に組み合わせているがその要塞は堅固で、歯車やロープを使用したエレベーターや、ケーブルカーなどもある。
オークはさらってきた奴隷を使い潰してその生活を継続させている。ゴラムの仕事といえば自分をおとりに獰猛な獣「ボロク」を檻の中に入れたり、坑道での過酷な労働で倒れた奴隷達の監察札を回収したりする。作業の効率や安全性を考えず、他の種族や反逆傾向の強い同胞を処分するために作業をさせているような奴隷の扱い方が、オークと、モルドールという国の邪悪さを物語っている。
ゴラムはこの過酷な環境から逃げ出すための努力は惜しまない。作業の合間や隙を見つけて脱走し、要塞・黒坑の隅々までを探索し情報収集を図る。その中で様々な情報を得ていく。冥王の言葉を伝える黒坑の副官である「サウロンの口」と、黒坑の責任者である「灯り人」は完全な信頼関係ではないようだ。灯り人の娘は、サウロンの口と接触し、灯り人を出し抜こうとする動きを見せるなど不穏な予感も感じさせる。やがてゴラムは黒坑から逃げ出せぬまま、奴隷の中でも一目置かれる存在となっていく。
奴隷として"先輩"になったゴラムは新人奴隷のを指揮してボロクを捕らえさせたりもする。かつて先輩だった奴隷が自分は安全なところからあれこれゴラムに指示を出したように、新人をボロクの前に出し、追いかけてくるボロクを檻に入れたりするのだ。
原作である「LOTR」では「ゴラムはモルドールで捕らえられ拷問を受けた」という簡単な情報しか提示されていなかった。この情報を「ザ・ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム」では掘り下げ、ゴラムがどれだけ過酷な状況にあったかを描くと共に、オークという存在、モルドールという闇の国のありかたも描き出している。この丁寧な"悪の国"の描写は、「LOTR」という原作を知らない人にも興味深いものだろう。しっかりと悪の国を描くこの開発スタッフの情念はぜひ触れて欲しい。
2ページは本作ならではのゴラムの"心"、悪のゴラムと、善のスメアゴルの間を揺れ動くゴラムの心を表現したゲームシステムに迫っていきたい。
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