レビュー

『マリーのアトリエ Remake』レビュー

初代「アトリエ」に最新の“遊びやすさ”が融合。シリーズ入門にオススメしたい一作

【マリーのアトリエ Remake ~ザールブルグの錬金術士~】

開発・発売元:コーエーテクモゲームス

ジャンル:新感覚RPG

プラットフォーム:PS5、PS4、Nintendo Switch、PC(Steam)

発売日:7月13日

価格:
[通常版/DL版] 6,380円
[Digital Deluxe] 8,580円
[プレミアムボックス] 10,230円
[スペシャル コレクションボックス] 19,800円

 1997年5月23日に、PlayStation用タイトルとして発売された『マリーのアトリエ ~ザールブルグの錬金術士』は、その当時のRPGとしては王道だった「主人公が仲間たちと冒険を重ねて強くなり、世界を滅ぼさんとしている悪を倒して平和を取り戻す」という道筋をなぞらず、“落ちこぼれ主人公を5年という限られた期間で成長させ、アカデミーから卒業させる”という、それまでにはなかった新感覚RPGとして誕生した。

 それから26年……ほぼ四半世紀が経過した2023年7月13日に、オリジナル版をフルリメイクした作品として発売されるのが『マリーのアトリエ Remake ~ザールブルグの錬金術士~』だ。プレーヤーは、王立魔術学校(通称:アカデミー)の落ちこぼれ生徒であるマルローネ(マリー)として、先生から卒業試験のために与えられたアトリエにて、5年以内にアカデミーの先生を納得させられるアイテムを完成させることが目的となっている。

 マリーは、さまざまな場所に出かけて材料を採取し、参考書などでアイテムのレシピを覚え、アトリエにてアイテムを調合・作成する錬金術士。とはいえ、錬金術ができるということ以外は普通の女の子なので、材料集めの最中に魔物に襲われたりすれば、序盤はあっという間にやられてしまう。それを防ぐために冒険者を雇うのだが、その冒険者たちと交流を深めていくのも、また本作の見所となっているのだ。

登場人物はゲーム中、可愛らしいミニキャラで描かれる。近年のシリーズ作品ではリアル等身寄りだったので、新鮮に見えるだろう。ザールブルグの街は3Dで表現され、自由に歩き回ることが可能だ。
ゲーム中のボイスは、オリジナル版のものを使用している。当時プレイした人には懐かしく、初めて遊ぶ人には新鮮に聞こえるだろう。

冒頭には丁寧なチュートリアルが追加。遊びやすくなったリメイク版

 今回プレイするのは、PS4版の『マリーのアトリエ Remake』。ゲームを起動すると、最初に選択する項目として“通常モード”と“無期限モード”が表示される。前者であれば、オリジナル版と同じく5年の期限が終わると何らかのエンディングを迎えることとなり、後者では卒業試験の期限を越えて遊べるだけでなく、6年目以降はいつでもエンディングを見ることができるのだ。

 一度でも「アトリエ」シリーズをプレイしたことがある人ならばわかるのだが、調合というのは本当に沼で、比喩ではなく永遠に遊べてしまう。本作での調合の魅力については後述するが、期限があることで延々と調合を続けてしまうことを防げる。ということで、今回は素直に“通常モード”で進めることにした。以下が、メインとなる登場人物たちだ。

主人公のマルローネ(マリー)。錬金術士になるために、単身片田舎からシグザール王国の王都ザールブルグにやってきて、アカデミーに通うようになる。が、創立以来最低の成績を記録した落ちこぼれに。
右が、マリーの幼馴染みにして唯一無二の親友であるシア・ドナースターク。ザールブルグでも5本の指に入る資産家の一人娘だが、病気を患っており身体が弱っている。
海の向こうのエル・バドール大陸からやってきた、アカデミーの教師を務めるイングリド。落ちこぼれのマリーを厳しく叱咤するが、実は彼女のことを心から案じている優しい人。

 アカデミーの担任であるイングリド先生にお説教される夢から目覚めると、早速チュートリアルがスタートする。ここ数年の「アトリエ」シリーズをプレイしている人ならば自然な流れになっているので、戸惑うことはないだろう。

オリジナル版が発売された当時は、最初に何をしたらいいのかわからない、という話を良く聞いたが、リメイク版ではしっかりとしたチュートリアルが入っているので心配ない。

 チュートリアルに従って飛翔亭に行くと、初めての依頼を受けることとなる。そのアイテムを作成するために必要となる材料は、街の外にある採取地で入手できる。しかし、マリーは錬金術士である前にただのか弱い女の子なので、一人で出かけてしまうと魔物に袋だたきにされる恐れが……つまり、冒険に出かけるには仲間が必要。そこでここでは、幼馴染みであるシアやほかの冒険者たちに声をかけ、“近くの森”に一緒に出かけてもらうことに。

一緒に冒険に行ってくれる仲間は、シアだけではない。ただし、彼女以外のほとんどの冒険者は探索に行くたびに一定額の賃金を支払わなければならないので、強さと自分の懐具合を天秤にかけて、誰を仲間にするかを選ぶ必要がある。

 採取地では、採取ポイントで○ボタンを押し材料を採取するか、敵と戦闘を行うと1日が経過する。採取時に、何がゲットできるかは吹き出しの中に表示されているので、欲しい材料かどうかを確認してから採取作業を行なえるのが便利。今回は、アイテムを作成するのに必要な“ニューズ”を6つ回収すればOKだ。

材料は草むらにあったり、木の上になっているなどさまざま。どちらの場合でも、近づいて○ボタンを押せば採取完了となる。
採取地には、敵もウロウロしている。触れるか、□ボタンで杖を振って当てると戦闘シーンへと突入。杖を当てた時には“FIRST MOVE”と表示され、パーティ側が先制攻撃となる。
戦闘は、素早さが高い順にターンが回ってくるコマンドバトル。右下に行動の順番が表示されているので、それを見ながら作戦を立てていく。

「アトリエ」シリーズの原点となるシンプルな調合システム

 材料を確保して工房に戻ると、いよいよメインとなる調合に入る。「アトリエ」シリーズには、これまでに数多くのバリエーション豊かな調合方法が採用されてきたが、その原点となる本作は非常にシンプル。必要な材料が揃っていれば、あとは作成する数を決めるのみ。作成数を増減させるごとに、消費する材料と費やす日数が変化するので、それらを確認してから決定ボタンを押せばアイテム作成開始となる。

調合は、方向キーの上下で1個単位、左右で10個単位での個数変更が可能。作成する数を決めたら、早速調合開始!
調合時に□ボタンを押すと、調合に必要なレベルなどをチェックすることができる。チュートリアルでは必ず成功するが、このレベルが足りないと調合時に失敗することも。
調合を行うと疲労が溜まっていくのだが、それが高くなるほど失敗する確率が高くなる。最近の「アトリエ」シリーズでは失敗することがなかっただけに、この点には注意が必要だ。

 この後、再び飛翔亭に出かけて依頼を報告すればクリアとなり、報酬と名声がゲットできる。この流れを繰り返してゲームを進めていくのだが、工房と飛翔亭の往復だけではすぐに行き詰まってしまうので、新しいアイテムを調合できるようにしなければならない。そのためには新規にレシピを覚える必要があるのだが、その方法はアカデミーで販売されている本を購入すること。合わせて、街中や飛翔亭で噂話を聞くなどすることで、これまでにはなかった採取地もマップ上に出現する。これで新たな材料もゲットできるため、新規アイテムの作成も可能になるのだ。

オーソドックスなRPGのように冒険に出かけて敵をバッサバッサと倒せるほどマリーは強くないし、バトルで得られる金額も僅かなので、飛翔亭の依頼を数多くこなすことが稼ぎのメインとなる。

 なお本作は、ゲーム中でいくつかの条件を満たすことで、さまざまなイベントが発生するようになっている。それらの中には、登場キャラクターから「××を作成してほしい」と頼まれたり、「一緒に××へ行ってほしい」などのほか、採取や調合後に起きるものもあるのだ。イベントは一定の確率で発生するものがほとんどなので、条件を満たした段階でセーブし、起きなければロードという作業をすることも多い。そのためか、方向キーの左を押せば最後にセーブしたデータを即座にロードできるようになっているのだが、これが非常に便利だった。イベントの具体的な条件や確率は、メニューの「思い出」からイベントリストを見れば確認できるので、攻略データいらずなのもありがたい。

イベントは、条件を満たせば発生するものと、確率が絡んでくるものの2種類がある。それらの詳細はイベントリストに書かれているので、先に目を通しておきたい。
クイックロードは、工房でも採取地でも方向キーの左を押せば即座に発動できて便利。

 このように、基本的には錬金術のための材料を外へ採取しに行き、採取した材料を調合し、アイテムを作成し、これを使用してイベントをクリアしたり、飛翔亭での依頼をこなして報酬を稼ぎつつ、よりレベルの高いアイテムを作成するように進めていき、5年後の卒業試験合格のために邁進していくこととなる。最初のうちは何をすれば良いのかで戸惑うこともあるかもしれないが、そんなときの指針になるのが“イングリド先生の課題”だ。プレイしていて行き詰まったと感じた時は、課題をクリアしながらゲームを進めると、気がつけば新しい道が拓けている、ということもあるだろう。

一定期間ごとに、イングリド先生から課題が出される。何をするべきかで迷ったら、課題に挑戦するのも良い。

 とはいえ、ゲームが進行していくとマリーの手だけでは足りなくなってくることもある。そんなタイミングで発生するのが、妖精さんイベント。条件を満たすとマップに“妖精の森”という場所が追加され、そこで毎月の賃金を払うことで妖精さんを雇うことができるようになる。妖精さんは、マリーの代わりに採取地で採取してくれたりアイテムを調合してくれる、頼もしい助っ人。彼らの力を借りて作業すれば、効率も一気にアップするというもの。

妖精の森では、妖精さんを雇うことができる。毎月賃金を支払えば、マリーの代わりに採取や調合を行ってくれるのだ。

 こうしてプレイを重ねていくと、ほぼ丸3年でほとんどのアイテムは調合できるようになるはず。5年という期間があるものの、よほど変な過ごし方をしなければ時間には余裕があるので、シビアなプレイを求められないのは助かるというものだ。

 そんな本作の面白いところは、この5年間をどのように過ごしても何らかのエンディングは迎えられるというところ。一番簡単なのは、ゲームスタートと同時に5年後まで休憩を取り、寝て過ごすというもの。また、簡単に作れるアイテムだけ作成して寝ていても良いし、さらには錬金術そっちのけで、か弱いマリーとシアを立派な冒険者に仕立て上げる遊び方もできる。非常に自由度が高い設計になっているので、プレーヤーが遊びたいように進められるのだ。

あとは5年間が過ぎ去るまで休憩を取るだけでも、何らかのエンディングを迎えることができる。どんな最後を迎えるのかは、プレイしてのお楽しみ。

オリジナル版を遊び尽くした人でも、もう一度楽しくプレイできるような仕組みが満載

 ここまでは主に新規プレーヤーからの観点で見てきたが、オリジナル版をプレイした経験を持つ人なら、どのあたりが変わったのかが一番気になるところだろう。

 まずは採取方法だが、オリジナル版では採取地で○ボタンを押すごとにランダムで採取とエンカウント判定が行われて1日が経過するシステムだった。これが本作ではフィールドエンカウント方式になったことで、敵を避けて採取に専念するといったことが可能になっている。また、集めたい材料のみをゲットできるのも便利になったところだ。

オリジナル版での採取
『マリーのアトリエ Remake』での採取
採取地で○ボタンを押すというシンプルな採取方法が、今風の「アトリエ」シリーズっぽくなり、やりやすくなっている。オリジナル版と同じような形でランダムでアイテムを採取できる方法「簡易採取」も、OPTIONボタンを押すことで可能だ。

 敵との戦闘シーンも、オリジナル版はマス目状に区切られた3×6のフィールドを舞台に、奥に味方パーティで手前に敵という配置の中を、素早い順に行動するというシステムだった。この部分は大幅にパワーアップされて、ターン制はそのままに見た目が3Dバトルへと進化。たこ殴りにされがちだった序盤の高い難易度も、遊びやすいように低めに調整されたようだ。また、トドメをさしたキャラクターしか経験値がもらえなかったオリジナル版とは違い、リメイク版ではパーティ全員に経験値が入るため、成長させやすくなったのも嬉しい部分だ。

オリジナル版の戦闘
『マリーのアトリエ Remake』の戦闘
斜め上から見下ろしたアングルのフィールドは3D表示になり、戦闘終了と同時に全員に経験値が入るようになった。さらに、任意のタイミングでパラメータが上がることもあるので、オリジナル版と比べると成長させやすい。なお、オリジナル版のシアは最初は丸腰だが、リメイク版では最初からはたきを持っているので、いきなり「必殺」が使えて便利に。

 本作のメインである調合システムも見た目が大幅に変わり、材料のアイコンと作成アイテムの数量の表示のみだったオリジナル版から、消費する材料の数と経過する日数がパッと見で判別できるように変化。このおかげで、とんでもなく遊びやすくなったのだ。

オリジナル版の調合
『マリーのアトリエ Remake』の調合
調合時は材料のアイコンしか表示されないので、消費する材料の数量などある程度下調べが必要だったオリジナル版と比べ、リメイク版ではすべての情報が一度に表示されているので非常に分かりやすくなった。

 飛翔亭の依頼だが、オリジナル版は序盤から、その時点では絶対に調合できないレベルのものも並んでいたのだが、リメイク版ではそのようなことが起こらないように調整されたようだ。これで、選ぶ際に混乱しにくくなったといえる。これも、プレイするには嬉しい改善点だろう。

オリジナル版の依頼
『マリーのアトリエ Remake』の依頼
依頼品は、そのときに調達できるアイテムが表示されるように調整されたようだ。また、即座に報告可能なアイテムには“報告可能”との文字が表示され、メニューの“やる!”から即座に“報告する”で完了できるように改善された。

 街中はリメイクされて3D表示になったものの、オリジナル版と同様にショートカットで行きたいところへ一発移動できる。また、追加された場所として“思い出の館”があるが、ここでは最近のシリーズには必ず搭載されているフォトモードを利用してのさまざまな記念撮影が可能だ。

思い出の館でのフォトモードでは、「たる」などのオブジェクトを置いたり背景を変更するなどして自由な撮影が可能になっている。文字通り、プレーヤーだけの思い出を残すことができるのだ。

 イベントはオリジナル版のものに加えて、リメイク版で新規に追加されたものも収録されているので、ボリュームもしっかりと増えている。オリジナル版イベントに関しては、当時の攻略情報がほぼ使えるので、当時の攻略本や攻略記事などを手元に残している人は、それを見ながら進められるのもまた嬉しい限り。とはいえ、それらを参照しなくてもチェックボックス付きのイベントリストが収録されているので、全イベントを見るのも容易になっているのだ。なお、オリジナル版にも入っていたミニゲームは、そのどれもが見た目も中身もパワーアップして帰ってきている。ついついハマってしまうので、ぜひ遊んでほしい。

イベントは、オリジナル版に収録されているものだけでなく新規に追加されたものも。それらはすべてイベントリストで条件などを確かめられる。
オリジナル版に収録されていたミニゲームは、どれもがリニューアル。見た目は大幅に変わって意外と難易度も高いので、昔と同じ感覚でプレイ可能だ。

最近のシリーズ作品と比べればスケールは小さいものの、思わずのめり込んでしまう面白さは昔も今も同じ

 シリーズ原点にして、まさにシンプルイズベストな内容で完結していたオリジナル版は、近年の「アトリエ」シリーズとは違い周回前提で設計しているため、ゲーム本編はコンパクトにまとまっている。そんなにボリュームがあっても……という人には、まさにうってつけの仕上がりだ。だからといってやり込み要素がないわけではなく、全イベントコンプリートやマルチエンディングの全制覇など、深く遊べるような要素も豊富に存在するため、プレーヤーにはぜひ何度も楽しんでほしい。

 オリジナル版をプレイした人ならば、リメイク版に対しては当時のままのゲーム内容やイベント、程よくアレンジされたBGMにボイスなどの部分に懐かしさを覚えることだろう。それでいて操作感やシステム周りが大幅に改良され遊びやすくなっているので、一度でも始めてしまうと懐かしさから面白さへと感情が変わり、そのまま最後までプレイしてしまうこと間違いなしだ。また、序盤がかなり進めやすくなっているので、当時挫折してしまったという人でも、本作ならばエンディングまで悩まずに進められるはず。

 タイトルとしては以前から気になっていたけれど、シリーズ作品が多すぎて手を出しづらいなどと思っていた人は、この機会にぜひプレイすることを勧めておこう。