レビュー

「SEASON: A letter to the future」レビュー

失われる季節を記録し未来へと繋げる唯一無二のアドベンチャー

【SEASON: A letter to the future】

発売元:Scavengers Studio

開発元:Scavengers Studio

ジャンル:アドベンチャー

プラットフォーム:PS5/PS4/PC

発売日:1月31日

価格:4,389円(PS5/PS4)、2,800円(Steam/Epic)

 COVALENT MEDIAは、プレイステーション 5/プレイステーション 4/PC用アドベンチャー「SEASON: A letter to the future」を1月31日に発売する。

 本作は終わりが来ることがわかった世界を1人の女性が、今の世界を記録する旅に出るところから始まる。プレーヤーはその女性を通して自転車で世界を回り、様々な写真を撮り、様々な音を録音してこの世界を記録していくことになる。写真や音など集めたものを地球の果てにある芸術と記憶の宮殿「博物殿」に運ぶことが本作の目的となっているので、とにかくたくさんのものを記録して進んでいくことになる。

【SEASON: A letter to the future - Release date reveal】

 本作では終わる世界を“季節”という表現がされており、ひと昔前は「戦争の季節」、現在はまだ確定してないためか「?の季節」という形で表現されている。正直この季節という表現に戸惑ったが、物語の中で語られている内容からすると「時代」や「元号」という感じに似ている気がする。ただ、似ているだけでそもそもの世界の構造が少し違うようなので「季節」という表現が1番しっくりくる。

 ゲームとしては自転車で旅をして様々な場所を訪れて記録していくというシンプルなものになっているが、その記録の自由度や物語や世界観の独特さが印象的なアドベンチャーゲームなっている。

 今回はそんな本作の序盤を体験することができた。今回は本作の特徴と魅力をお伝えしたい。

日記帳はプレーヤーそれぞれ唯一無二のものに

 本作の最大の特徴は、主人公が終わりゆく季節を目的地に到着するまでに訪れた様々な場所を独自の目線で日記として記録していくことだ。

本作の主人公
主人公は世界を自転車で駆け巡る

 主人公は村を出てから自転車に乗って様々な場所を訪れていく。そこで見たもの聞いたものを記録してくことになるのだが、時には散策中に手紙やチラシ、願い事が書いてあるリボンなど様々な記録された物に出会う。これらのものは読むだけでもいいし、拾って持っていくこともできる

道中で見つけたものは読むだけでなく拾って持っていくこともできる

 主人公は見たものをカメラで、聞いたものをレコーダーを使って訪れた場所の特徴的なものを記録していくことができる。とはいえ、写真や音はどこをどういう角度で撮らなければいけないというものではなく、プレーヤーが思うままに記録していくことができる。

 基本的には自転車を使った移動と各地での探索を交互に繰り返していく流れで、ロケーション間の移動に自転車を用いる。勾配が急なあぜ道や脇に線路が引かれた石造りのトンネル、元々は栄えていたと思われる整備された道路まで、記録を残すべく旅を進める。好きな場所があれば自転車を止めて写真を撮影してもいいし、足早に次の目的地に向かっても良い。次の目的地などは直接的に示されないものの、あまり道に迷うことなく各ロケーションにたどり着くことができるだろう。

気になったものはカメラで写真を撮ったり、レコーダーで録音することができる
世界を巡る旅だが、移動だけで数十分かかるということはなく、寄り道をせずに向かえば数分で次の目的地に到着する

 撮った写真や録音した音は記念品として日記帳に貼り付けていくことができるようになっている。特に印象的なものを撮影したり録音したりすると、引用として主人公のコメントも日記帳に載せることができるようになっている。日記帳には撮った写真や録音した音など好みのものを貼ってもいいし、主人公のどのコメントを載せても構わない。逆に言えば集めた記念品すべてを記載する必要はなく、気に入ったものや印象に残ったものをチョイスしてプレーヤーが好きなように日記帳へと書き込むことができる。記念品や引用は角度や大きさなどもプレーヤー自身の好みやセンスに合わせて自由に変えることができるようになっている。また、写真や音のほかにも道中で拾ったものも日記帳に貼り付けることが可能だ。

 一定数の記念品や引用を日記帳に貼ると飾りが追加され、デコレーションできるスタンプやイラストなどが使えるようになる。飾りも付け足していくとよりプレーヤーオリジナルの日記となり、目的地が同じ旅路でも同じ日記帳は絶対にできないと感じた。

集めたものは記念品として日記帳に記録することができる
主人公の思いも載せることができる
飾りも付けて唯一無二の日記になっていく
重要な場所ごとに記載することができる

 日記帳は重要な場所ごとにページが区切られており、その場所内で撮った写真、音、コメント、デコレーションのみを記載することができる。ただ、別の場所に移動してからも前の場所の日記を書き直すことが可能となっている。

 写真撮影では高コントラストやモノクロ、セピアなど写真のフィルターを変えたり、しゃがんで撮影したりと同じ構図でも撮れる写真の種類はたくさんある。その時受けた印象や感じたままに位置を変えてみたり、フィルターを変えて撮ってみるのも楽しいと感じた。何度でも気に入った写真が撮影できるまで撮りなおすことができるのでこだわりの写真を撮ってみるのもいい。

同じ場所でもフィルターをかけると印象が変わる

 日記帳にはプレーヤーが貼り付けるもののほかにも、主人公のスケッチや思い出したものなど物語が進むにつれてどんどん記載されたページが増えていく。撮ったものを記載していくだけでなく、時には読み返してみるのも旅の思い出を振り返ることができ、かなり楽しいのでおすすめだ。

プレーヤーが綴る日記以外にもいろいろなものが日記帳には記録されていく

 物語が進んでいくと日記帳に記載できるチャプターが1度に複数出てくることもあるので、その時々でマメに記録していくことも大切だと感じた。

独特の世界が織りなす人間臭い世界

 本作はその世界観と物語がかなり独特なものとなっている印象を受けた。

 主人公が故郷の村を離れる朝から始まるのだが、その際に作るお守りペンダントの作り方があまりに衝撃だった。子を病から守る願いを込めて主人公の母親が主人公との大切な記憶(思い出)をペンダントに詰めていく。そして詰めた記憶は母親の中からすっぽり消えてしまった。旅に出る娘のことを思ってのことでも、大切な思い出をわざわざ消してしまうのはどことなく寂しい。というか、手元を離れてしまう娘との思い出まで消してしまうのが悲しい。いなくなるならせめて記憶だけでもたくさん残してあげたいと思ってしまう。この世界の子を思う大切なペンダントとはいえ、スタートからかなり切ない印象を受けた。その分、大切な記憶をいくつか消してでも、我が子の身の安全を思う気持ちも強く伝わってくる。

母親の大事な記憶を切り取ってお守りのペンダントに込めるのは切ない

 本作では身体の病気のほかに心の病気も蔓延しているようで、永遠の眠りについてしまう「夢見病」や、時間の感覚がおかしくなってしまう「時間誤認症」など様々な病気がある。中には心の病気で滅んでしまった町もあったりと状況はかなり深刻なように感じた。

この世界には心の病気も蔓延しているようだ

 また、本作では前の季節での遺産がたくさん散らばっている。中には大型のクレーンアームや風力発電の風車、高速道路などもあり、自然の中に見るそれらの産物はちょっとミスマッチな感覚を受ける。廃れてしまったものに対して悲しい感情や怖い感情はなく、ただただ終わったものという印象が強いからかもしれない。どうしてそう感じるのかと思ったが、淡々と話す主人公の印象がそのまま筆者にも伝わっているように感じた。

 主人公はこれまで村を出たことはなかったが、それでも学校などで習って情報として知っていたり、遠くから見ていたりしていたことで、驚きというよりはだた知っているものを近くで見たという感じで話しているからかもしれない。ただそういったスタンスで見ると穿った角度ではなく「そういうものなのだ」とすっと入ってくるようにも感じたので、それらの遺産を記録として見ているという感覚が1番いいのかもしれないと感じた。

時には風力発電のように見たことがある建造物も見かける

 主人公以外にも登場する人物が少なからずおり、村を出てからも数人に出会うことができた。筆者は特に前の季節の終わりも生きていた村の長老や、道中で出会ったグレイハンズという組織に属しているおじさんがおもしろいと思った。村の長老は聞けば辛いことも包み隠さず話してくれるいいおばあちゃんで、組織のおじさんは村を出て初めて会う人なのに怪しさ満点でおかしかった。どことなく出会う人、出会う人が人間臭くてそれがまたこの世界をおもしろく感じる要因かもしれない。

筆者は村の長老とグレイハンズのおじさんに興味が沸いた。どちらも違う方向に人間臭くていい

 人々との会話は選択肢の中から選ぶことで会話ができ、1度選択すると選び直すことはできない。聞きたいことが確実にある場合は聞き漏らすことがないように注意することが大事だと感じた。

会話は選択肢から選ぶ

 本作では主人公がただただ自転車に乗って颯爽と世界を駆け巡るのかなと思っていたが、思った以上に様々な場所を探索したり、人と交流したりと、この世界をしっかり体感できると感じた。最初こそいろいろな情報に戸惑いもしたが、外に出ていろいろな場所を見て回っているとそこには確かに人がいた形跡があり、思惑や情念が残っている。環境は違えど人が生きていた場所なんだと知ることで身近に感じることができた。

 ただ今回プレイしたところまでではどうして季節が終わりを迎えるのか、どうやって終わるのかなどわからないこともたくさんあり、この後どうなっていくのか非常に気になる。終末期を迎えた季節がどうなっていくのか気になる方はもちろん、荒廃的な世界を旅して記録するという唯一無二のアドベンチャー体験をしてみたい人はぜひプレイしてもらいたい。