レビュー

「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT」レビュー

より深みを増した“人々を繋ぐ”アクションを、PS5という理想の環境下で楽しめる幸福

【DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT】

ジャンル:アクション

発売元:ソニー・インタラクティブエンタテインメント

開発元:コジマプロダクション

プラットフォーム:プレイステーション 5

発売日:2021年9月24日

価格:
6,490円(通常版)
7,590円(デジタルデラックスエディション)

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントは、コジマプロダクションが開発を手がけるアクションゲーム「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT」を9月24日に発売する。2019年11月に発売された「DEATH STRANDING」をPS5向けにリマスター化したものとなるが、単純に映像の高解像度化やフレームレートの向上のみならず、ゲームの要所に改良や新要素の追加などが施され、これまで以上にプレイがしやすい作品に生まれ変わった。

 主人公のサムが、謎の現象「デス・ストランディング」により分断されたアメリカ大陸を繋いでいくゲームが展開する本作は、そのゲームシステムや世界観設定などがこれまでにあまりない斬新なもので、発売後にはその賛否を問う議論も巻き起こった。

 今回のレビューは、本作の製品版と同等のものをネットワークに接続した状態でのプレイをもとに執筆している。ゲームの発売前ではあるが、このレビューに向けてゲームサーバーが開放され、本作の売りである「ソーシャル・ストランド・システム(プレーヤー同士が間接的に繋がり助け合うシステム)」なども併せて体験することができている。ただしこれは発売当日以降に大勢のプレーヤーが体験するものとは多少異なるため、ゲーム画面などに多少の違いが生じる可能性があることをご留意いただければと思う。

【DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT ファイナル・トレーラー】

新しい世界観設定と新しいゲームシステムを備えた「DEATH STRANDING」を、より優れた環境とシステムのもとにプレイできる

 2019年当初、筆者はこの「DEATH STRANDING」を仕事ではなく、プライベートでプレイしていた。事前情報はあまり気にせず、「小島秀夫監督独立後の最初の作品なので、きっとMSXの『メタルギア』のときみたいな面白いことをやってくるんじゃないか」程度の軽い気持ちで発売日に買って遊んでみたらとんでもなくハマってしまい、その年末いくつかの仕事に穴を開けそうになったという思い出もある。同年末の弊誌の納会で、本作が2019年のベストゲームだと筆者が熱弁したことを担当編集が覚えていて、それが今回の執筆に繋がったというのだから、ありがたいことである。

 ゲームは荒野で大雨に見舞われた主人公「サム・“ポーター”・ブリッジズ」がバイク事故を起こすところから始まる。事故の原因となった女性「フラジャイル」との会話では、サムがこの世界で物を運ぶ仕事に携わる「伝説の配達人」であり、手形のような跡を残す目に見えない何かが存在し、先ほどの雨が「時雨(ときう=タイム・フォール)」という名前であることを知る。この世の物質に滅びを促す季候だということがなんとなくわかるわけだが、正直なところ知識がない段階ではそれらの設定はあまり理解できず、それよりも2人がアップになったときの表情や肌の表現、そしてそれらを映すカメラワークのほうに強く目を惹かれた。

プロローグの会話シーンでは、キャラクターのアップ時の映像に驚かされた

 この「DEATH STRANDING DIRECTOR'S CUT」(以下、「DSDC」)では、PS5のマシンパワーに準じて4K×フレームレート60fpsが基準(映像の「パフォーマンス優先」設定の場合)となり、その美麗さが倍増している。当時も美しいと思って見ていたが、比較してみるとその滑らかさは段違いだ。さらには「ワイドモード」によるアスペクト比21:9の比率の映像を16:9に映し出すことにより、映画のスクリーンを見るようなウルトラワイドな画面でこれらを楽しめるのも大きな特徴となっている。

フレームレート60fps基準の映像は、ムービーはもちろん、ゲーム本編にも反映されている
ワイドモードはより広い範囲で周囲が表示される。それに伴い文字などは小さくなるので、大画面モニターで楽しみたい

 舞台となるのは謎の巨大爆発によって崩壊しかけた北米大陸で、その爆発や急激な環境変化(この一連の出来事を「デス・ストランディング」と呼ぶ)が原因で孤立している都市や人々に必要な物資を届け、その場所を「カイラル通信」のネットワークで繋げていくのがサムの役目ということを、ゲームを進めることで少しずつ理解できていく。これらの作りはさすがの小島監督作品という印象で、同時に本作がこれまであまり体験したことのないゲームシステムとプレイフィールを備えていることに気づかされるのだ。

目的地まで物資を運び、人々の信頼を得て通信を繋げる。これが本作の大きな目的となる

物資の配達と移動をゲームへと昇華。独立後の小島秀夫監督が提示した新しいゲームデザイン

 本作は「物資の配達とそれに伴う移動」を主軸に置いたゲームだ。都市や施設などで人々から配達の依頼を受け、それを目的の場所に届ける、いわゆる“お使い”という行動がメインであり、実際にプレイをしてみると、依頼される配達の内容とともに、一見ランダムに作られているように感じられるフィールドがゲームデザインの一部として作り込まれていることを実感する。

 その序盤から平坦な道のりはほとんどなく、サムのアクションと地形の関係は物理計算によって制御されているので、適当に歩いていると、思わぬ障害物につまずいてしまうこともある。地面を分断する河川は流れと深みがスタミナを奪い、転ぶと荷物を落として流されてしまう。坂道は背負った荷物の重量によって姿勢を制御しないと転がり落ちる。道中で降ってくる時雨に晒されると荷物や道具が劣化するので、天気予報を見たり、劣化を防ぐ手段を考えたりしなければならない。

 特定の地点で遭遇する目に見えない「BT」(Beached Things:ビーチ=あの世と繋がった危険な存在)や、サムの荷物を執拗に奪おうとする“配達依存症”の集団「ミュール」などもまた、フィールドにおける障害の一種であり、それらに事前の対策をもって正面から挑むか、あるいはそれらを回避するための別のルートを見つけるか、目的地までの道程を常に模索していくことが、筆者が最初に本作で感じた面白さであった。

走っているとちょっとした起伏につまずくことも。バックパックの肩紐を両手で掴んで踏ん張り、転倒を防ぐのだ
背負った荷物の重量や高さは、サムの動きにも影響。より重い荷物を持つための装備もある

 筆者がオープンワールドのゲームを遊ぶときは、そこで体験するイベントやアクションよりも、作り込まれた世界を歩き回って、自分がその場所にいるような気分を味わうのが好きで、本作は配達というゲームシステムのもと、「デス・ストランディング」に見舞われた世界をサムの足元から感じられたことが、仕事を忘れてハマった原因に繋がったと思っている。

 終末的な世界観設定も筆者の大好物で、荒廃しているのにとても美しく見える情景の見せ方も素晴らしく、この「DSDC」では、最初から備わっているフォトモードで、世界を自由に撮影できるのも楽しい。

本作の情景は本当に素晴らしい。プレイ中にカメラを回すだけでも画になる
フォトモードは各種機能やフレームなども充実。発売後のSNSなどの投稿も楽しみとなった

 ゲームを進めてカイラル通信を繋げていくことで、サムにとって便利な道具や乗り物が増えて、新たなルートを開拓できるようになる。さらに物語中盤で赴くフィールドには、かつて大都市を繋げていた「国道」の残骸があり、道中で手に入れた素材を使ってそれを復興させることで、移動のインフラが劇的に改善されるといった仕組みもある。筆者を含め、この国道復興に心血を注いだプレーヤーは多いはずだ。

 筆者はこれらの便利な手段を積極的に用いて、効率よく荷物を運ぶルートの開拓に勤しんでいたのだが、ゲームクリエイターの友人から「俺は便利な装置はあまり設置せずにむりやり走破した」という話を聞いて、「そういう楽しみ方もあるのか」と目から鱗が落ちたこともあった。便利な手段を使うのは最低限に抑え、プレーヤーのテクニックや忍耐で依頼をこなすプレイスタイルもありだろう。

橋などの便利な建造物は積極的に建てて使っていきたいが、カイラル通信の上限により、設置できる数が決まっている。通信量の上限は依頼をこなすと増えていく
一部のプレーヤーが夢中になった国道の復活。整備された道路は移動がしやすく、BTやミュールなどと遭遇することもほとんどなくなる

 こうしたゲームデザインは、小島監督が独立したからこそ成立した野心的な内容で、開発に携わる人員が少なかった(ゲーム発売後に出演したラジオで「開発スタッフは80人ぐらいで、あとは外部スタッフ」と述べている)ことから構築されたのではないかと筆者は予想している。開発に手のかかる建物や人間が極力少ないフィールドで、その場所を歩くこと自体をゲームに昇華し、少数のスタッフでも開発ができるゲームデザインを成立させ、ストーリーや世界観、そして魅力的なキャストによってその説得力を持たせているのだ。

 これは冒頭で述べたMSXの「メタルギア」にて、マシンパワーの乏しいハードで敵と戦うシーンを作ることが困難だったことから、敵から隠れる「ステルスゲーム」という新しいゲームデザインを生み出したことと被るものがあり、今の時代にこうした新しいゲームデザインを構築した小島監督の手腕には脱帽する。

フィールドは人の姿もほとんどない寂しい荒野だが、建造物を置いて自分だけのフィールドを作ることもできる。これはコラボ作品「Horizon Zero Dawn」のトールネックのホログラムを建造物に表示したところ
主要なキャラクターには俳優を起用。サムの幻の中に現れる謎の人物「クリフ」は、マッツ・ミケルセンさんが演じている
「プレッパーズ」と呼ばれるシェルターで暮らす人々の中には、著名人をモデルとしたキャラクターも登場する

ソロプレイなのに、他のプレーヤーの気配を感じられる。「ソーシャル・ストランド・システム」は今回も健在

 そしてもうひとつ、本作のポイントとなるのが、「プレイヤー同士の繋がり」だ。本作は「オンラインでプレイするソロプレイのゲーム」であり、一般的なオンラインゲームのように、プレイ中に誰かが操作するキャラクターと出会ったりすることはない。オンラインでやりとりされるのはプレーヤーの行動そのもので、それがあるときからゲームの進行に少しずつ共有されていくのだ。「ソーシャル・ストランド・システム」と名付けられたこの仕組みは、今回の「DSDC」でももちろん健在である。

自分のものではない看板や建造物、落とし物などがフィールドに現れ、そのかたわらにはIDが表示されている

 フィールドを歩いている最中に何気なく辺りを見ると、自分が歩いたところとは別の場所に足跡が付いていて、何度か往復するとそこが獣道になっている。苦労してたどり着いた目的地の帰り道に、いつの間にかハシゴやロープがかけられていて、すんなり帰ることができる。BTがいる「座礁地帯」で見つけた足跡をたどることでBTと接触せずにやり過ごせる。時雨に見舞われ痛んでしまった荷物や道具を直せる施設が視界に入ってくる……。

 こうした恩恵は、別のプレーヤーの行動が共有されるだけのものなのだが、満身創痍のサムがその恩恵にあずかったりすると、本当に「助かった」という気持ちがあふれてくる。そして次に道具を使ったり施設を建てたりする機会に、「ここにこれがあると便利なんじゃないか」という他のプレーヤーのことを思いやる感情が芽生えるのである。

自分が便利だと思うところに設置する道具や建造物は、自ずと他のプレーヤーにも便利な物となるのだ

 フィールド上にはサム1人しかいない孤独なゲームなのに、他のプレーヤーの気配をなんとなく感じることができるのが心地よく、さらにそれがゲームプレイに多少なり影響する設計も絶妙だ。この「DSDC」の発売により世界中のプレーヤーがまた繋がり、ソーシャル・ストランドにより新たなフィールドが形成されていくのが今から楽しみで仕方がない。

他のプレーヤーが置いたものを使ったり該当のボタンを押したりすると、「いいね」を送れる。恩恵を受けたときは「いいね」ボタンを思わずたくさん押してしまう
「DSDC」で追加された新たな建造物が共有されることも。これは車両を使って大ジャンプができる「ジャンプ台」

リマスター化における改良点や新要素は、「DEATH STRANDING」のゲームプレイを快適に進化させた

 この「DSDC」における新要素や改良点については、ゲームの冒頭からその恩恵を受けられる。冒頭でも述べた全編高フレームレートの映像や、PS5における機能であるローディングの速さは、一度体験してしまうと、PS4版には戻れないだろう。

ロードの速さにより、サム本人だけを瞬間移動させるファストトラベル「フラジャイルジャンプ」も使いやすくなった

 ゲーム本編も、プレーヤーに対して序盤から遊びやすくなるようなバランス調整が入っている。例えば最初の東部エリアで受ける依頼で遭遇する敵ミュールに対抗するショック銃「メーザー銃」が比較的早い段階で手に入り、さらにサム自身が「飛び膝蹴り」や「ボディアタック」といった肉弾戦を身に付けたことで、戦闘の選択肢が増え、戦闘がさらに楽しいものとなった。またこのメーザー銃も含め、特徴的な武器を使えるようになったときは、「訓練場」という仮想空間にアクセスし、その武器の使い方を学べるようになっている。訓練場での演習はオンラインランキングの要素もあり、発売後のスコアアタックは白熱するのではないだろうか。

 さらにこの東部エリアには、謎の「廃工場」へと潜入する依頼が新たに追加されている。単に多くの敵が巣くう場所というだけでなく、何かしらのストーリーも用意されているようで、その展開も楽しみなところだ。本作のメインストーリーは「DEATH STRANDING」と同様だが、「廃工場」で待ち受ける新たなエピソードにも期待したい。

人間に対して電撃で気絶させられるメーザー銃。電撃を一定時間浴びせ続ける必要がある
サムの体技が増え、格闘戦も面白くなった。ボディアタックは複数の相手をなぎ倒せるが、当てるのにコツがいる
新しい武器の使い方を確認できる訓練場。拠点からアクセスできる
廃工場への潜入依頼を進行中。ここには何度か訪れることとなるようだ

 追加要素でもうひとつインパクトがあった追加要素が「レース場」だ。これはストーリーとは関係のない、とある場所に新たに用意されたレース用のコースで、ゲーム中に登場する乗り物を使ってタイムアタックを行なえるのだ。ゲームはコースを走るだけのごく単純な内容だが、ゲーム中では国道以外に平坦な道を走る機会がなく、ここではドリフトなどのドライビングテクニックを使って走れるのが新鮮だ。こちらにもオンラインランキングがあるので、ゲームの合間やクリア後に挑んでみるのもいいかもしれない。

フィールドのどこかに現れるレース場。複数の種目が用意され、それによりコースの形状も変わる

 またPS4版を長くプレイしていた身としては、ゲームのちょっとしたところに手が入っているのも評価点だ。例えば乗り物やフローターなどに荷を積むときに、手で掴んでいるものに関しては、いちいちメニューを開かずに掴んでいる手のボタンを放すだけで直接乗せられるようになった。ミュールの拠点を襲撃したときなど、多くの素材が入手できたときなどは、車両を近くに置いておけば重量のある素材もいちいち背負わず直接乗せることができるのだ。

 他にもフローターに乗せた荷物が崩れないようにストランド(縄)で縛ったり、目的地へのマーカーやラインを少量のバッテリー消費と引き替えに常にオンにしておけたり、一度見たムービーシーンはボタン一つでスキップできるようになったりと、かゆいところに手が届く改良点が多く、この「DSDC」でゲームを改めてプレイをする人にも嬉しい仕様となった。

手に持った荷物は、車体後部に接近してボタンを離すと自動的に収納される。逆にボタンを押して積んだものを下ろすこともできる
目的地へのマーカーの常時表示は、サムの持つバッテリーを消費する
BBポッドのカラーカスタマイズも可能に。コーディネートも楽しくなる

 今回は発売から2年程度しか経っていないタイミングでのリマスター化で、正直どの程度プレイに影響があるのかという思いもあったのだが、実際にプレイをしてみると、想像以上に手触りがよくなっていて驚かされた。今回比較のためにPS4版も並行してプレイしてみたのだが、一度この「DSDC」に触れてしまうと、戻るのは難しいと感じるぐらいに改良されていることがわかる。

PS5ならではのハプティックフィードバックやアダプティブトリガーにも対応。雪原など特殊な地形を歩くときは、振動だけでなくDualSenseのスピーカーから地面を踏む音が聞こえる演出も加わり、緊張感が増した

 小島監督は本作のタイトルに関してTwitterで「『DIRECTOR’S CUT』という名前は僕の本意ではありません」と述べていて、確かに単純に監督個人の意向で要素が追加されただけではなく、ユーザーの声を反映した改良が施されているということを、PS4版を遊んだプレーヤーとして感じ取ることができた。これは新規に本作を遊ぶ人にとっても嬉しい仕様だ。

プライベート・ルームから、一度戦ったボスとの再戦も可能となった
バックパックのカスタマイズは、デザインパッチを付けて飾り付けも楽しめる
「サイバーパンク2077」とのコラボ車両の「リバース・トライク/YAIBA KUSANAGIタイプ」も登場

 冒頭でも述べた通り、本作は賛否両論があったタイトルではあるが、この「DSDC」で最新の仕様に改まったことにより、天秤が多少なり「賛」のほうに傾いたような手応えを感じられた。PS4版を遊んで馴染めなかった人に強く薦めることはないが、評価を見て敬遠していた人にはぜひ触ってみてほしいと思った。

 一方のPS4版をやり込んだ人には絶対的に薦められる内容で、PS5で改めてプレイをすることで、新たに気づくことも多いはず。またセーブデータの移行もできるので、ゲームを途中で止めてしまっていた人もぜひこの「DSDC」で、改めてその先へと歩みを進めてみてほしい。