「DEATH STRANDING」レビュー

DEATH STRANDING(デス・ストランディング)

ゲーム史にその名を刻むAAAタイトル!世界中で様々な評価が飛び交う本作について、思うことを語っていく

ジャンル:
  • アクション
発売元:
  • ソニー・インタラクティブエンタテインメント
開発元:
  • コジマプロダクション
プラットフォーム:
  • PS4
価格:
6,900円(税別)~
発売日:
2019年11月8日

 発表直後から世界中のゲーマーが注目していた、小島秀夫氏が手掛ける新規タイトル「DEATH STRANDING」がソニー・インタラクティブエンタテインメントより発売された。リリース前から海外メディアでは、“この10年で最も価値のあるゲーム”という賞賛の声とともに、一方では辛口な意見もあり、賛否両論の声があがっている。

 筆者も本作を50時間ほどプレイしてエンディングまで見て、先日ファーストインプレッションを書いた。その中で筆者は“両手放しで誰にでも勧められるゲームではない”、“とても人を選ぶタイトル”と語った。そして今回、その内容について踏み込んでいきたいと思う。初めに結論から言ってしまうと、筆者自身は残念ながら“この10年で最も価値のあるゲーム”とは思うことができなかった。

 正直を言うと、今回の記事を書くことについてはかなり悩んだ。「DEATH STRANDING」が大成功を収めることは容易に想像でき、そして小島氏のファンならば間違いなく絶賛できるクオリティに仕上がっている。その中に一石を投じるというのはとてもエネルギーのいることだ。だが、それほど注目度の高いAAAタイトルだからこそ、多少ネガティブな内容になってしまっても率直な感想を語っていきたいと思ったのだ。

 ストーリーについてのネタバレは極力避けたつもりだが、序盤から後半までのゲーム画面を掲載しているので、そこは注意していただきたい。

作品のクオリティは芸術の域。しかし、“ゲーム”という観点で見ると厳しい面も……

 筆者は代表作である「メタルギアソリッド」はもちろんのこと、「スナッチャー」、「ポリスノーツ」から小島監督作品に触れており、映画的な物語の見せ方や、ユーモラスのある演出など、小島氏が生み出す作品の魅力に惹き込まれた1人だ。「DEATH STRANDING」は、プレイするまでゲームの概要が掴めていなかったにもかかわらず、発表当初から「これは間違いなく名作だ」という確信を持つほどの期待のタイトルであった。

 オープニングムービーで映し出される、ゲームの舞台である荒廃したアメリカ大陸。美しくも哀愁の漂う世界観を見た瞬間、正直背筋がゾクゾクした。こんな魅力的な世界を自分の足で歩いていくことができるのかと心が躍った。

終末感が漂う「DEATH STRANDING」の世界

 本作の主人公、「サム・ポーター・ブリッジズ」は配達人という設定。アクションゲームといえば敵を倒して進んでいくというのが王道だが、本作は物を配達するという部分にフォーカスした斬新なゲーム性。配達の依頼(クエスト)をこなしていき、ストーリーを進めていく。

 クエストでサムが運ぶ配達物はかなりの重量がある。重い荷物を背負って凸凹な道を歩くとよろけてしまい、L2・R2ボタンで状態を立て直さないとそのまま転倒してしまう。このリアクションを見たとき、アクションゲームにここまでのリアルを詰め込むのかと驚かされた。

 小島氏は過去のインタビューでゲームの特徴について「ノーマンを動かすアクションゲーム。基本的な構造は一緒だが、他のゲームとは見える風景が違う」と語っていた。プレイするまではイマイチ理解できなかったが、触れてみて初めてそのメッセージの意味を理解できた気がする。ノーマン・リーダスというリアルな人物をキャラクターとして操作するにあたって、それを取り巻くゲーム性やシステムなども限りなくリアルを追求して作られているのだと感じた。

 フィールドは山や谷といった天然の障害物に加えて、BTやミュールといった敵なども出現し、届け先への道のりはとても険しい。そこをいかに最短かつ安全なルートを見つけ出して効率的に運ぶかがこのゲームの肝となる。本来進めない場所であっても、ロープや梯子などを使用して自ら道を切り拓ける自由度の高さも素晴らしい。苦労の末、物を送り届けたときの達成感は強く、まさに自分自身がサムを通して配達人になることができる。頼まれた物を運ぶという、本来のアクションゲームならばオマケ扱いの要素を軸にして1つの作品を作ってしまうという新しい切り口は、時代の先を行く小島氏の挑戦だろう。

荷物の重さが伝わってくる、サムのリアルなリアクション
決められたルートは存在せず、最適な配達ルートを自分で考えるのが本作の肝

 物を送り届けて物語を進めていくというのは、これまでにない新しいアクションゲームの形である。本作に初めて触れたときの感覚は、初代PSの「メタルギアソリッド」で初めてステルスゲームというジャンルを体験したときに受けた衝撃に近い。ゲームを進めると、さまざまな建造物や、配達を楽にする乗り物、サムの身体能力を強化させる外骨格など、様々なアイテムが作れるようになる。先に進めば進むほどゲームの幅が広がっていく作りは流石だ。

乗り物を使えば、走りよりも格段に早く移動することができる

 遊び始めて10時間、ここまでは文句無しの面白さだ。しかし、長くプレイしていると徐々に本作の欠点も見えてくる。筆者がプレイしていて最大の欠点と思えたのは“変化の乏しさ”だ。クエストを延々繰り返していくゲームは他タイトルでも存在するが、それらはクエスト内容の変化によって新鮮味を演出している。しかし本作は、配達人という枠に囚われ過ぎて、クエスト内容は物を配達するのみ。ゲームスタートからエンディングまでの50~60時間、“ゲームプレイ”としては配達だけを延々繰り返すことになる。定期的に敵を殲滅するクエストなどのバリエーションがあってもゲームとしては面白かったのかもしれないが、それをあえてしなかったのは小島氏ならではの制作のこだわりがあったのだろう。

 本作のプレイ時間の大半を占めるのはフィールドの移動だ。ゲームを進めていけばバイクや車などの移動手段が増え、歩きや走りよりも遥かに速いスピードで移動することができる。これにより目的地までの移動時間が大幅に短縮できて楽になるハズなのだが、実際にはプレイしていて一切楽になったという感じがしない。それは何故かというと、乗り物が追加されると共にクエストの受注場所から届け先までの距離がとても遠くに設定されるようになり、その途中に待ち構える障害も大きなものになるからだ。オープンワールドの広大なフィールドを、ときには端から端まで渡り歩かなければならない。ファストトラベル(ワープ)も用意されているが、ファストトラベルで移動できるのはサムの体1つのみで、荷物を持ちながら飛ぶことはできない。なので、この機能を使う場面は少なかった。

 移動時間の長さは、フィールドを回るのが楽しくなるような工夫があれば解消される問題だが、筆者がプレイした限りでは残念ながら小島氏ならではのプレーヤーを驚かせるような仕掛けも特に見当たらず、非常に間延びした時間が続いた。

配達クエストのみという部分が、筆者的には単調に感じた

 本作の魅力の1つであるリアルさだが、そのリアルさを求め過ぎていてプレイの快適さが損なわれているのも惜しいと筆者は感じた。“よろけ”や“転倒”、サムと一緒に行動するBBのストレスを下げるためにコントローラを振って子守をする要素など、初めは斬新で面白いシステムと思えるが、常に付きまとうとなると非常に蛇足的に感じてしまった。リアルさの面で言えば細かな部分までゲームに落とし込んでいて素晴らしいのだが、純粋なゲーマー目線で見てしまうと遊び難さに繋がってしまっているように思える。

BBの子守や、川を渡る途中にスタミナが切れると荷物が流されてしまう仕様も、ゲーム的に見ると楽しさに繋がらない要素だと思えた

 筆者が感じた“純粋にゲームとして見た”「DEATH STRANDING」の残念な点を挙げてきたが、これらを悪い点と見るか、逆に良い点と見るか、プレーヤーによって評価が大きく変わる所だと思う。「そこがいいんだよ」という意見の当然あるだろうし、その意見も理解できる。

 ここまでネガティブな感想が続いたが、本作がゲーム史に名を刻む超大作であることは揺るぎない事実だ。オンライン要素も革命的で、直接的なマルチプレイではなくソロプレイをベースにしつつ、建設施設やアイテムを共有させることで、間接的に全てのプレーヤーが同じ世界を歩いているという“繋がり”が感じられる斬新な仕様。カイラル通信というゲーム内の設定を活かした、全く新しい形のオンラインシステムを見事に構築しているのだ。

 小島氏の真髄ともいえるストーリー展開はもはやゲームの域を超えている。魅力的なキャラクターたちに秘められた過去と人間ドラマ。クライマックスに掛けての激しい戦い、想像を裏切る展開などとにかく見所が詰め込められている。物語の情報量がとても多く、難解な部分もあったため、正直に言うと理解しきれていない部分も多い。今回は駆け足気味でエンディングを迎えたので、今度は改めてもう一度じっくりとプレイし直したいと思う。

まるで映画を観ているかのような演出。ここまでプレーヤーを物語に引き込む作品も無いだろう

 「DEATH STRANDING」の旅路はとても苦しく、純粋にゲームとして見ると筆者は両手放しで絶賛することはできなかったが、1つのエンターテイメントとしての完成度は非常に高く、これ程のクオリティの作品にはこの先なかなか出会えないだろう。プレーヤーそれぞれが「DEATH STRANDING」をプレイして、この作品をどのように感じるのか。プレイした人の数だけ評価が存在するAAAタイトルだと思う。全てのゲーマーに体験してもらいたいタイトルである。