「ISLAND」レビュー
ISLAND
人物たちが紡ぎ出す「せつなとえいえんのおとぎばなし」。アニメ化もされた珠玉のビジュアルノベルを今再び振り返る
- ジャンル:
- アドベンチャー
- 発売元:
- プロトタイプ
- 開発元:
- プロトタイプ
- プラットフォーム:
- Nintendo Switch
- 価格:
- パッケージ版 6,490円(税込)/ダウンロード版 6,200円(税込)
- 発売日:
- 2021年4月8日
2021年4月7日 00:00
「せつなとえいえんのおとぎばなし」――美少女アドベンチャーと題されるゲームの多くは、「あいとゆうきのおとぎばなし(マブラヴ オルタネイティヴ)」や「世界に刃向かう、6つの果実。(グリザイアの果実)」のように、その作品を一言で言い表すジャンル名やキャッチコピーが付けられる。今回Switch向けに発売されることが決定した「ISLAND」にも、特徴的な二つ名が付けられている。
「ISLAND」はフロントウイングが制作し、Switch版の移植をプロトタイプが手がけるテキストベースのアドベンチャー作品だ。2016年にPC版として発売された後、他プラットフォームへの移植やTVアニメ化も行なわれた作品である。美しく儚い世界を描く本編の密度は高く、順を追って世界の理が明らかになる展開は唯一無二の体験を味わうことができる。
筆者はSteamにて販売されてるダウンロード版を購入し本作を初めてプレイしたが、怒涛のストーリーに感動し限定版をすぐさま購入。手軽にプレイできるSwitch版の発売は非常に嬉しいニュースであった。本記事ではそんな本作を複数の視点から語っていきたい。なお、レビューでは極力ネタバレに配慮しているものの、物語のストーリーに関して言及する記載もあるため、注意して欲しい。
キャラクターとの関わりを通して描かれる「ISLAND」のストーリー
本作の舞台は浦島という小さな島。物語の冒頭、本作の主人公は記憶がなく名前すら覚えていない。断片的な記憶はあるものの、しっかりと思い出すことができない状態にある。海岸で目覚め困っているところ、ヒロインの「御原凛音(おはらりんね)」に助けられ、その後「三千界切那(さんぜんかいせつな)」という名前をもらう。島の御三家に属する3人のヒロインたちとの関わりを通し、様々なものを目にすることで本来の記憶が戻り始め、記憶の中で思い出しつつある「世界を救う」という使命を果たすため奮闘する。主人公やヒロインたちの名前は個性的だが、そういった点に関してもストーリー中ではしっかりと深堀りされる。
作中では様々な背景が登場するが、これらは伊豆諸島の新島(にいじま)をモチーフとしている。白い砂浜が広がる海岸や、新緑が生い茂る林に立つ神社など、自然豊かな風景を描いたイラストも多数登場。ちなみに、TVアニメではゲーム中では描かれなかった実際の名所をモチーフにした場所がさらに登場しており、アニメ放送時には催しなども実施されていた。
物語では記憶喪失の主人公が自身の記憶を取り戻すことが目的となっているが、一方でヒロインたちも悩みや問題を抱えており、彼女たちと関わることで物語の全体像が見え始める。舞台となる浦島には風土病である煤紋病や神隠し、島に残された伝承など、物語に深みを生む要素が盛り込まれている。序盤は多くの謎が提示されるが、次第に明らかになってゆく。加えて、主人公が記憶喪失であるという性質上、プレーヤーと主人公との認識度がある程度揃うため、物語を理解しやすい。
物語序盤はギャグとも取れる会話や、会話中に発生する選択肢によってはあっさりと終わってしまうバッドエンドが用意されており、ラストの展開が想像しにくい。しかしながらストーリーを読み進め、物語全体を把握していくうちに、本作はただの恋愛アドベンチャーではないということに感づくはずだ。
「ISLAND」を作り上げたチームや人物にフォーカス
本作を制作したフロントウイングは数々の美少女アドベンチャー作品を手がけるメーカーである。「魔界天使ジブリール」シリーズや「グリザイア」シリーズなど数々の名作を世に送り出してきた。そんな中、本作はPC向けの全年齢向け作品としてリリースされることとなった。近年では全年齢へ向けた作品を制作しているが、全体から見ると成人向けゲームが多くを占めており、本作はキャラクターやシナリオの魅力に加え、クリエイター陣で勝負していくという強い気概が感じられるビジュアルノベルとして仕上がっている。
そして本作に関わる声優陣も著名な人物が集結しており、御原凛音は「魔法少女リリカルなのは」で高町なのは役を演じる田村ゆかりさん、伽藍堂紗羅は「Re:ゼロから始める異世界生活」のラム役を演じる村川梨衣さん、枢都夏蓮は「這いよれ! ニャル子さん」のニャル子を演じる阿澄佳奈さんだ。アニメで引っ張りだこな声優陣が本作のシナリオを彩っている。キャラクターに息を吹き込む声優たちの演技は、コミカルなシーンから、終盤の展開に至るまで役作りが素晴らしく、感情的なセリフをぶつけ合うシーンは本作の見所の1つになっている。
そんな本作「ISLAND」は2016年にPC版として発売された後、PS VitaやPS4、Steamでも発売。2018年には全12話によるアニメーションも放送された。そしてこの度、Switchへの移植が決定した。
Switch版としてのリリースにあたりいくつかの要素が追加されている。プロトタイプが手掛けるSwitch向けのビジュアルノベルには片手用の操作機能が搭載されているが、想像以上に便利である。文章を進める・オートモード/スキップモードの切り替え・選択肢の変更/決定が片手で解決するため、リラックスした姿勢でプレイ可能。その上、ゲーム内でボタン設定を変更できるため、押し間違いなどを極力減らし、自分にあった設定で快適に遊ぶことができる。
膨大なテキストより紡ぎ出される珠玉のストーリー
本作のシナリオはフルプライスのビジュアルノベルということもあり、かなりの長編で筆者もクリアまでにおよそ27時間ほどを要した。しかしながら、伏線の引き方と回収が非常に巧みである。普段あまり聞き慣れない「神隠し」や「島に伝わる伝承」といったワードが登場するが、理解を深めるための解説やそれらに対する的確な答えが用意されており、違和感なく話に引き込まれる作りになっている。その単語や物語の展開、小さな会話などの1つ1つにも意味があり、すべてがまとまる結末に驚かされるはずだ。
本作の世界は非常に美しく、同時に儚い。保たれていた均衡が崩れた時に物語は大きく進み始める。エンディングに辿り着く頃には一辺倒では終わらない本作の魅力に引き込まれているだろう。真夏の島でのストーリーをぜひとも自身の手で遊んでみてほしい。
??凛音の夏??
— 新島観光協会@TVアニメ『ISLAND』 (@TVISLAND1)August 17, 2020
毎日暑いですが皆さん、熱中症には気をつけて下さいね!
本日は暑い中、頑張ってもらいました。
『テラスで涼みませんか?』
『玄関にてお迎え』
どちらの凛音が好きですか…?pic.twitter.com/30e3UhIDyU
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