2020年1月23日 19:27
今年で18年目を迎える「うたわれるもの」。アドベンチャーとシミュレーションRPGでつづられる、恋愛要素あり、戦争あり、ドラマありの壮大なファンタジーだ。
シリーズ第1作となる「うたわれるもの」はWindowsゲームとして2002年に発売された。2006年にはTVアニメの放送や、プレイステーション2ソフトとしてリメイクされた「うたわれるもの 散りゆく者への子守唄」(CERO:C、15歳以上対象)が発売、2009年にはPSPにも移植された。
さらに2015年には13年ぶりの正式な続編となるPS3/PS4/PS VITA「うたわれるもの 偽りの仮面(以下、偽りの仮面)」が発売された。その翌年には、完結編となる「うたわれるもの 二人の白皇(以下、二人の白皇」も発売され、大団円を迎えた。
2018年には、グラフィックスをHD化しバトルシステムを続編に準じたものに変更した第1作のリメイク版も発売している。さらに、2019年には新たな物語、Android/iOS版の新作「うたわれるもの ロストフラグ」がサービスを開始した。同時に「うたわれるもの」3部作のストーリーをスマホで読むことができるスマホアプリ版「うたわれるもの」の無料配信もスタートしている。
そして、2020年1月23日、DMM GAMESからSteam版の「偽りの仮面」と「二人の白皇」が配信された。価格は各3,980円(税込)。ゲームコンソール版についていたDLCユニット「環」と「ささら」(それぞれの水着バージョンを含む計4種)も同時に発売される。こちらは各612円(税込)となっている。
2度のアニメ化、多数のコラボ、ドラマCDやコミカライズと様々なメディアミックスを展開してきた「うたわれるもの」。18年を経ても、その魅力はいまだ色褪せず新たなファンを増やしている。今回は、Steam版の2作のプレイを通して、改めてその魅力や面白さを紹介したい。
「二人の白皇」は基本的なシステムが「偽りの仮面」と共通していることに加え、内容的なものを紹介するとどうしても「偽りの仮面」の完全なネタバレになってしまうため、本稿では順番に遊んでいくことを前提に「偽りの仮面」を中心に紹介していきたい。
壮大なファンタジー大河ロマン「うたわれるもの」の世界観
「うたわれるもの」の舞台となる世界には、獣耳やしっぽ、羽のある“亜人種”たちが暮らしている。住民たちは、アイヌ文化と和風、中華風が混じりあったアジアンテイストの町や生活様式で暮らしている。電気やガスはなく、剣や弓のほかに呪法と術法という魔法のような技が存在している。
世界のあちこちには、皇(オウルォ)と呼ばれる王によって支配される封建制の國がある。「偽りの仮面」と「二人の白皇」の舞台となる大國ヤマトは、そんな國々を束ねる帝によって支配されている。
主人公は、雪山で気づいたとき自分の名前を含むすべての記憶を失っていた。そんな主人公を保護してくれたのは、旅の薬師クオン。薬の知識だけでなく、國の情勢から古代遺跡まで深い知識を有し、腕も立つ美少女だ。クオンは主人公にハクという名前を与え、生活や仕事の面倒を見てくれる。ハクとクオンは、山中の集落で出会った無頼漢ウコンに頼まれ、属國クジュウリの姫ルルティエを護衛して、帝都に向かう。
「うたわれるもの」シリーズの1つ目の魅力は、作りこまれた世界観だ。例えばハクとクオンが最初にたどり着いた宿で食べる食事風景ではこの地域の食生活が豊かに語られる。この地域の主食はアマムというヒエに似た植物。これを挽いた粉を薄くのばして焼いたものに、野菜や肉、魚などをくるみ、たれをつけて食べるアマムニィは定番の食事だ。アマムを蒸留して作るアマム酒もあるが、麦焼酎のように独特の風味とクセがあるらしい。
ほかにもヤマト南方の伝統的な魚料理イソカッツォ、ひき肉と野菜を三角形の包に包んであげる屋台料理カムカなど本作には多くのオリジナル料理が登場する。他にも道具や生活習慣など多くの専門用語が登場する。
ゲームのシステムメニューにある「用語辞典」には、ゲームの中に登場する人名、地名、生き物の名前、文化、生活など多くの専門用語がまとめられている。ゲーム内には出てこない料理のイラストなども掲載されているので、時々ここを覗きつつプレイすることで、よりゲームの世界観を楽しむことができるはずだ。
記憶を失った主人公ハク
本作の主人公ハクは、第1作の主人公ハクオロに比べると少し年齢が若く、かなりチャラい性格をしている。ハクオロは父親的な落ち着きや生真面目さがあったが、ハクは基本が軽薄、常に「働きたくないでござる」とつぶやきつつ任務をこなしているような性格だ。かと思えば、妙に鋭いところもあり、國の重鎮である右近衛大将オシュトルからも一目置かれている。
オシュトルは、ヤマトの重鎮で、ミカドから賜ったという仮面で常に顔を隠している。ヤマトでは一部の将軍たちは同様に仮面(アクルカ)を授けられており、仮面の者(アクルトゥルカ)と呼ばれている。この仮面は人にすさまじい力を与えるが、使いすぎると逆に仮面に取り込まれてしまうという危険なものだ。
ハクはオシュトルに隠密として雇われ、帝都で様々な問題に当たっていく。その中で、おっとりした話し方とは裏腹な強さを秘める豪族の姫アトゥイや、史上最年少で最難関試験に合格した才女ネコネ、義賊のノスリ、ヤマトの皇女アンジュらと出会っていく。
本シリーズを通してキャラクターデザインとイラストは、萌えイラストの一時代を築いたアクアプラスのイラストレーター甘露樹(あまづゆたつき)氏とみつみ美里氏が担当している。柔らかい筆致で描かれたヒロインたちだけではなく、個性的でかっこいい男性キャラクターも多数登場する。
笑いあり、ドラマありのアドベンチャーパート
本編の大部分を占めるアドベンチャーパートは、キャラクターの立ち絵とフルボイスで進んでいく物語を読み進めていく。序盤はほぼ一本道で進行するが、拠点が定まると、いくつかの場所から選ぶ形に変わる。
メインでは政治劇あり、戦争あり、人間ドラマありのシリアスなストーリーが展開する。この重厚なスト―リーももちろん「うたわれ」シリーズのはずせない魅力だが、そんなメインストーリーの面白さを生み出しているのは、キャラクターたちを深堀するサブストーリーだ。
例えば、ハクたちの拠点となる帝都には、女性ばかりが集まる小路がある。煌びやかなコスプレ(?)めいた人影もうろつくこの場所には、男同士の恋愛を扱った書籍が多く取り扱われている。普段は内気であまり自分を主張することがない美少女ルルティエは、この通りの常連らしい。こうしたメインストーリーには一切影響のない要素が、キャラクターに厚みを与え、生命力を与える。
ストーリーは、新キャラがどんどん登場してくる序盤、キャラクターや設定を掘り下げつつ少しずつストーリーが進む中盤、伏線が明らかになりドラマが急展開していく終盤に大別できる。ミニストーリーが連続する中盤には、提示される謎の多さや、あまりにも進まないストーリーにじりじりさせられることもあるが、ここを超えると一気にカタルシスが押し寄せる終盤へと突入する。
途中にあるミニストーリーにはただ酒を飲んでどんちゃん騒ぎをするだけの話や、吉本新喜劇のように定番のオチで笑わせてくれるものもある。敵の大将が「これは撤退ではない、転身である!」と言ったり、モンスターに向かって「森へ帰ろう」と言いながら結局襲われてしまったりと、テキストベースならではのパロディやオマージュもそこかしこに散見できる。
テキストのボリューム量もすさまじいといっていいレベルで、大長編の小説なみに、個々のキャラクターや事象が掘り下げられていく。キャラクターのセリフにはすべてボイスが付いているので、文章を読むのが苦手という人でもアニメを見るように楽しめる。文章はオート送りと手動が選べ、自動送りのスピードも設定から変更できる。ボタン操作で簡単に過去ログをさかのぼることもできるので、読み飛ばしてしまった文章を、ゆっくり読み直すこともできる。
世界観や雰囲気を味わうシミュレーションパート
本作の戦闘はターン制のシミュレーションRPG形式。戦闘画面は見下ろしの固定視点で、3Dキャラクターを操作する。難易度は「普通」と「難しい」の2段階。難易度は毎回の戦闘開始画面で変更できる。
出撃できるユニットの上限は8キャラ。それぞれのキャラには属性があり、戦場の天候に合わせて能力が変化する。それぞれ使用する武器が決まっているが、例えば同じ弓を使うユニットでもノスリとキウルでは使える技や射程、効果が異なっていたりと、それぞれのユニットに個性がある。
ほとんどのユニットは得意な攻撃や回復などに特化しているが、ハクやクオンは近接攻撃、遠隔攻撃、回復を射程によって使い分けることができ、オールマイティに使える。筆者のお気に入りは、おっとりしているのに凶悪な強さを誇るアトゥイと、直線の範囲攻撃が便利なノスリだ。お気に入りのユニットは常に戦場に出すので成長が早いが、ミッションによっては特定のユニットが強制出撃になるので、まんべんなく育てておいた方がいい。
レベルが上がるとBPというポイントをステータスに振り分けて、ユニットを強化することができる。戦闘終了時に覚える様々な特性はユニットに装備させることで有効になる。
戦闘中には、ストーリー進行に合わせてキャラクターたちが吹き出しでいろいろなセリフをしゃべったり、時にはカットシーンが挿入されたりと、イベントとしての演出にかなり力が入っている。難易度については、本作に何を求めるかで評価が変わってくるところだが、ある程度ごり押しでも行ける難易度なので、ユニット選びや戦闘に慣れていないというシミュレーションRPG初心者でも難しく考えることなく遊ぶことができるのは、シミュレーションゲームが苦手な筆者としてはありがたい。
ちなみに「二人の白皇」ではユニットとして使えるキャラクターにヤマトの皇女アンジュが加わるなど細かい入れ替えはあるが、ルルティエやアトゥイ、ノスリら使い慣れたキャラクターもそのまま登場する。また、「紅白試合」や「ムネチカの試練」といったストーリーとは関係なく楽しめるバトルコンテンツも追加される。
シリーズを通して、だんだんとバトル部分の比重が大きくなってはいるが、基本的にはアドベンチャーパートがゲームの本質であり、バトルは世界観や雰囲気を味わうエッセンスとしての要素が大きい。もちろんコンソールゲームとしてコンボや属性など多彩な要素が盛り込まれており、決して底が浅いというわけではないが、戦闘で詰まるということはほとんどない。
バトルが開始すると、敵味方のスピードの速いユニットから順次攻撃順が回ってくる。1回のターン内でできるのは、移動と攻撃が1回ずつ。但し、気力が溜まって2回攻撃ができることもある。
同じ弓ユニットでも、キャラクターによって使える技能が違っており、攻撃範囲や回数なども違ってくる。味方として使える汎用ユニットはなく、全てのユニットがそれぞれ独自色ある攻撃を複数持っている。敵が射程に入ると、その時使えるスキルが自動的に表示される。敵や味方との距離によって、使える攻撃や回復技能が変わってくる。まずは移動させて、どのスキルが使えるかを確認し、意図にあわなければキャンセルして移動からやり直す。スキルの発動を確定するまでは何度でも位置取りを考えることができる。
攻撃中、敵に重なるように表示されるリングの動きに合わせてタイミングよくスペースキーを押すか左クリックすることでクリティカルが発動する。表示されるリングには、中央に向かって小さくなっていく「ノーマルリング」と、表示されている間ボタンを押しっぱなしにしてタイミングよく離す「チャージリング」がある。さらにレベルが上がると、スキルによっては連撃が可能になる。
リングに合わせてタイミングよくキーを押すことで攻撃がつながり、2段、3段のコンボ攻撃になる。初段は単体でも3段目には範囲攻撃になったりと、上手く攻撃をつなげることで大ダメージを狙うことができる。また、連撃を成功させることで、回復に防御効果が付いたり、攻撃力低下や移動速度低下などの状態異常が付加されたりもする。普段は一撃では倒せない敵でも、うまくクリティカルを発動しつつ連撃をつないでいくと、気持ちよく一撃で倒せたりもするので、常にコンボは狙っていきたい。
さらにレベルを上げていくと、連撃の最後に使う必殺技を習得できる。専用のカットシーン演出が入る非常に強力な技だが、使用するには気力ゲージがMAXになっている必要があり、使用後には気力が0になってしまうなど、シビアで使いどころを選ぶ技だ。
また、「二人の白皇」では、「偽りの仮面」でなかった「協撃」が復活した。射程が届く仲間が一緒に攻撃してくれるというもので、特定のキャラ同士で専用の動画付き「協撃必殺技」を繰り出すこともできる。
DLCとして購入できる環とささらはバトル時にユニットとして出撃させることができる。環はなぎなた使いのアタッカーだが、ささらは回復役もこなす。出撃できるユニット数が増えてきて、上限を超えるようになると出番が減ってしまうが、出撃できるユニット数の少ない序盤にいれば、かなり有利に戦闘を進めることができる。
できることなら3部作すべてをプレイして欲しい!
「うたわれるもの 散りゆく者への子守唄」3部作と、後継の2作は設定的には密接につながっているが、ストーリー的には直接のつながりがないため、「偽りの仮面」からでも楽しくプレイすることができる。だが、筆者としては可能であればぜひ3部作の最初からプレイして欲しいと思う。やはり第1作目があってこその「うたわれるもの」だからだ。あるいはまずは「偽りの仮面」からはじめて、「二人の白皇」までクリアした後は、第1作目に戻ってプレイするのもいいと思う。
かわいくかっこいいイラストと、引き込まれるテキスト、カジュアルながら凝った演出と駆け引きが楽しいシミュレーションバトルなど、本作が長い間支持され続けている理由はプレイしてもらえればすぐに分かってもらえるはずだ。アニメを見たことがあるだけという人も、今回初めて知ったという人も、昔第1作目だけプレイしたという人もぜひ、「偽りの仮面」と「二人の白皇」で綴られる大河ロマンを結末まで見届けて欲しい。
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