「ToeJam & Earl: Back in the Groove!」レビュー

ToeJam & Earl: Back in the Groove!

メガドライブ版から28年、クラウドファンディングで蘇ったローグライクお散歩アクションアドベンチャー

ジャンル:
  • アクションアドベンチャー
発売元:
  • HumaNature Studios
開発元:
  • HumaNature Studios
プラットフォーム:
  • PS4
  • Xbox One
  • Windows PC
  • Nintendo Switch
価格:
1,520円(税込)より
発売日:
2020年1月9日

 1992年にメガドライブで発売された「ToeJam & Earl(トージャム&アール)」というゲームをご存じだろうか。主人公となる2人の宇宙人が宇宙船で航行中に事故に遭い、地球に墜落してしまった宇宙船のパーツを探して歩くというアクションゲームで、当時としては非常に斬新なルールや一風変わったグラフィックス、そしてファンキーなサウンドが、一部の熱狂的なファンを生んだ作品である。

 このメガドライブ版の開発にゲームデザイナーとして携わったクリエイターGreg Johnson氏が立ち上げたHumaNature Studiosより、同作の最新作として企画されたのが、本稿で扱う「ToeJam & Earl: Back in the Groove!(トージャム&アール:バック・イン・ザ・グルーヴ)」である。

 2015年のクラウドファンディングを経て2019年3月に北米で発売され、この2020年1月9日には日本語ローカライズされたNintendo Switch版が、翌10日にはPlayStation 4版が国内にて正式発売となった(PC版、Xbox One版は国内でも2019年3月1日に発売済み。ローカライズはアップデートパッチにて対応)。今回そのSwitch版のレビューをお届けしていきたい。

【ToeJam & Earl: Back in the Groove Japanese PlayStation 4 Trailer】

ローグライクスタイルをいち早く取り入れた、メガドライブの怪作をリメイク

 まずは本題の前に、メガドライブで発売された「ToeJam & Earl」について説明しておきたい。北米や欧州では1991年に、日本では1992年に発売された本作は、3つの目を持った「トージャム」と、触覚のある太った「アール」のラッパー宇宙人のコンビが主人公となり、階層状になったフィールドで構築された地球上を歩き回って、飛散してしまった宇宙船のパーツを探して歩くというアクションアドベンチャーとして構築されていた。

 このフィールドはモードによってランダムで生成され、パーツが落ちている場所も遊ぶたびに変わるという、ローグライクゲームのスタイルを踏襲している。「プレゼント」として落ちているアイテムも、その中身は開けてみるまでわからない。中にはプレーヤーに害を及ぼすものもあって、この手のゲームらしい緊張感も備わっていた。

 メガドライブで本作をリアルタイムでプレイした筆者は、その面白さがわかるまでしばらくかかったものの、最終的にはエンディングを見るところまで遊んだが、難易度がかなり高く、セーブどころかコンティニューもなかったため、相当苦労したことを覚えている。

近年では昨年発売された「メガドライブミニ」の北米版「Sega Genesis Mini」に収録。これはその画面

 その当時ローグライクスタイルのタイトルは家庭用ゲームではまだ少なく、画面分割での協力プレイができるなど、内容的にもかなり革新的なゲームシステムを持つ内容だったが、後のJohnson氏へのインタビューによれば、セールス的にはあまり芳しくなかったそうだ。1993年に発売された続編「ToeJam & Earl in Panic on Funkotron」はゲームシステムがガラッと変わり、横スクロールのアクションゲームとなってしまったことでファンを困惑させ、しかもこれは日本では発売されなかった。

 “記録よりも記憶に残るゲーム”の典型的な1本であり、筆者と同様に根強いファンは今も存在していて、2002年には初代に近いフィールド探索型の第3弾「ToeJam & Earl III: Mission to Earth」がXboxにて発売(日本未発売)された他、Wiiの「バーチャルコンソール」やXbox 360の「セガエイジスオンライン」などでも移植版がリリースされていた。

 そして本作「ToeJam & Earl: Back in the Groove!」は、前述の「ToeJam & Earl III: Mission to Earth」から数えても17年(日本では18年)ぶりの新作となる。セガのパブリッシングを離れ、Johnson氏が率いるHumaNature Studiosが2015年にKickstarterにおいてクラウドファンディングによる出資を募り、設定した目標額40万ドルをキャンペーン終了の2日前に達成し、最終的に50万ドル以上を集めて、開発が決定した。

 なおこのとき、家庭用プラットフォームでのリリースはストレッチゴールに設定されていて、その額には達成しなかったためPCのみの発売予定だったが、後にPS4、XboxOne、Switchでも開発されることが決まり、4年が経過した2019年3月1日に発売となった。ちなみに筆者は当時、このクラウドファンディングの存在に気づいておらず、一般発売後の購入組である。メガドライブ版のファンながら情報のアンテナを張れず、出資ができなかったことを今も悔やんでいたりする。

ご覧いただけばわかる通り、ゲーム画面はメガドライブ版に近いものになっている

トージャム&アールのラッパーコンビに加え、個性の異なる新キャラクターも登場

 ゲームのベースとなるルールはメガドライブ版を踏襲していて、最新作をうたいつつも、リメイク的な内容でもある。今回は地球の上空を宇宙船で観光中に、アールが間違ってスイッチを押してしまった「ブラックホール生成機」によって発生したブラックホールに地球ごと吸い込まれた彼らが、なぜか洗濯機(ブラックホールに繋がっていた!?)から吐き出されて階層状になってしまった地球を舞台に、バラバラになった宇宙船のパーツを探して歩くというハチャメチャなストーリーが展開していく。

またも地球で災難に遭ってしまったトージャム達。宇宙船は借り物だったからまた大変だ

 ここで注目なのは、今回はプレーヤーキャラクターがトージャムとアールの2人に加えて、ガールフレンドの新キャラクター「ラティーシャ(Latisha)」と「リワンダ(Lewanda)」が参加しているということ。さらにメガドライブ版の姿を踏襲した「OLD SKOOL」のトージャムとアールが加わり、初期状態では6人のキャラクターから選択が可能だ。各キャラクターには初期ステータスと、特別なアビリティが設定されていて、プレイスタイルに合わせて好みのキャラクターを選んで始められる仕様だ。

最初に選べるのは6人。最初は体力の多いトージャムか、移動速度の早いアールをオススメする
新キャラのラティーシャは武器である「トマト」使用時の攻撃力が高く、リワンダはゲーム中のコインメーターを無料で使える
各ワールドをクリアすると、より難易度の高いワールドがアンロックされる

 階層状になったフィールドは歩き回ることで、その形が明らかになっていく仕組みで、場合によっては地続きになっていないところもあるが、フィールドの端を歩くと突然現われる隠し通路や、「スプリングシューズ」や「イカロスの翼」など地面のないところを飛べるプレゼントを使うことで移動が可能だ。フィールドにはエレベーターがあり、これに乗ることで上層に移動し、散らばっている10個の宇宙船のパーツを探すことがゲームの最終目的である。

エレベーターで次の階層へ。レベル1は最初のフィールドだが、プレゼントを使って周囲の海を越えるとちょっとした秘密が……!?
フィールド端は飛び出してしまうと下の階層に落ちてしまう。敵がいるときは特に注意

 フィールドを歩き回る過程で、タイル状に隠されているマップがオープンしていくわけだが、このときはプレーヤーに経験値が入るようになっている。“フィールドを歩き回ることでプレーヤーが成長する”という独自のゲームシステムは本作の最大の特徴であり、探索をより楽しいものとしている。

画面右下のマップがオープンすると経験値が入る。余裕があるときはできるだけ開けて経験値を稼ごう
宇宙船のパーツがある階層は画面上にアイコンが表示。なぜか丁寧にディスプレイされて置いてある

地球の上は危険がいっぱい! 助けてくれるフレンドリーな地球人達も!?

 フィールドにはさまざまな敵キャラクター(作中では「地球生物(Earthling)」と呼称)が登場し、プレーヤーを追いかけてくる。その多くは人間なのだが、歩きスマホの少年、一心不乱に芝刈り機を転がす庭師、黒服とサングラスのエージェント、罵声を浴びせてくる弱虫少年、電動ドリルを手にした医者、セグウェイに乗った警備員、お金を巻き上げるボランティア勧誘員など、どいつもこいつもまともではない。

 それに加えて悪魔や宇宙人、怪人など、人間以外の敵も多数現われ、メガドライブ版以上のクレイジーな展開を見せていく。敵によっては接触したときにダメージを受けるだけでなく、持っているプレゼントを奪われてしまったり、それらを勝手に使わされてしまったりと、深刻な事態が発生することがあるのだが、誰がそういったことを発生させるのか、やられてみないとわからないのが悩ましいところだ。

個性的すぎる敵キャラクター達。近づくと追いかけてくるものが多いので、接触しないように逃げよう
敵の追跡が厳しいときはフィールドに生えたひまわりに重なるとやり過ごせる。見当たらないときは水に飛び込むか下の階に落ちて回避しよう

 その一方で味方となってくれる地球生物も存在している。キラキラ光る星のエフェクトが見えるキャラクターが彼らであり、プレーヤーに対して恩恵をもたらしてくれる存在だが、力を借りるためにはお金が必要になる場合も多いため、フィールドに落ちているお金はできるだけ拾っておきたい。

光っているキャラクターは味方。接近してアクションボタンを押して話しかけてみよう
敵が多いところでは、周囲にいると無敵になる「ガンジー爺」や、お金を払うと敵を一掃してくれる「オペラ歌手」が頼りになる
リズムゲームの勝負を仕掛けてくる友達の宇宙人。成功するとお金やプレゼントがもらえる

 プレーヤーが敵に対して対抗する手段は、プレゼントを使うか、レベルアップをしてプレーヤーのステータスを上げること。前者はフィールド上に落ちているものを拾って使うわけだが、前述の通り開けてみるまではどんな効果をもたらすのかわからず、プレーヤーに対して大きなデメリットをもたらすものもあるため、できれば敵が少ない序盤からどんどん開けて使ってみることをオススメする。

プレゼントは一度使うと中身が判明する。それをシャッフルしてしまう困ったプレゼントもあるのだが……
プレゼントの効果時間は画面左下にあるタイマーで表示される。これは一定時間飛べる「イカロスの翼」

 なお後者のレベルアップに関しては、経験値が一定以上を超え、フィールドのどこかに存在するニンジンスーツを着た老人「ワイズマン」に話しかけることで行なえる。このときはスピード(移動速度)、ライフバー(体力)、プレゼント(プレゼントに関する運)、サーチ(周囲のサーチ能力)、インベントリー(持てるプレゼント数)、運(その他の運)というステータスがランダムで3つ上がり、フィールドの探索がしやすくなるという具合だ。

オンラインにより、気軽にマルチプレイが可能に

 「ToeJam & Earl」はメガドライブ版の頃からマルチプレイを前提としたゲームデザインが施されていたタイトルであり、今回ももちろん可能だ。マルチプレイならマップを探索するマンパワーが2倍になり、ピンチになった相棒を助けてあげることもできるなど、ゲーム的な恩恵は大きい。

 本作は画面分割によるローカルプレイのほか、オンラインによる手軽なマルチプレイも可能となった。メガドライブ版を遊んでいた当時は1度もマルチプレイの経験がなかった筆者だが、本作でめでたくマルチプレイのデビューを果たすことができた。

ゲームプレイ時にオンラインをオンにしておくと、他のプレーヤーが入ってくる。逆に誰かのゲームに入ってもいい
オンライン時のクイックチャットも用意。意外に真面目な内容で、もう少しノリがいいものがあればいいとも思った
ローカルプレイはメガドライブ版と同様、上下の画面分割で行なう。コントローラーがあればいつでも飛び入りOK

 今回の日本での発売にあたり、架け橋ゲームズが日本語ローカライズを担当している。ちょっと変な言い回しもあるが、元々がラッパーのスラングだらけのメッセージだったので、そこは仕方ないところだ。メガドライブ版や移植版では、メッセージのローカライズはされていなかったので、本編で初めてトージャムやアールが日本語をしゃべった記念すべき1本でもある。

スラングだらけで理解しづらかった英語メッセージもわかりやすくなった。もちろんオリジナルの英語のほか、8カ国の言語に切り替え可能だ

 ゲームは上層へ行くに従ってフィールドに現われる敵の数が増え、一度に受けるダメージが大きくなるというバランスになっていて、後半は敵の執拗な追跡に悩まされることになるかと思う。セーブによる中断は可能だがコンティニューはないという、ローグライクゲームならではのルールがあり、上層まで進んだところでのゲームオーバーは精神的にも結構痛いので、プレゼントをもったいぶらずに積極的に開けて対応することを勧める。

隠し通路から行ける「ファンクゾーン」。第2弾「ToeJam & Earl in Panic on Funkotron」のボーナスステージをオマージュ

 パーツを全て見つければその時点でゲームクリアとなり、新キャラクターとプレーヤーに恩恵をもたらす「帽子」がアンロックされるボーナスがもたらされる。繰り返し何度もやり込むような作りではないが、遊ぶたびにフィールドやプレゼントが変わるルールのおかげで、散歩をするような気分でたまに遊ぶと実に楽しい作品だ。セーブやオンライン機能のなかったメガドライブ版よりも気軽にプレイができ、ゲームのセールスポイントのひとつでもあったサウンドが大幅にパワーアップしているのもいい感じだ。

ゲームをクリアすると手に入る「帽子」。被るとちょっとした効果をもたらしてくれる

 1991年の発売当時、内容が革新的すぎてメガドライブユーザーにさえあまり認知されなかった「ToeJam & Earl」だったが、あれから30年近くが経過し、ゲームが多様化したことで、本作のシステムが受け入れられる土壌がようやく整ったように感じられた。ハードの進化やオンラインによって新たな付加価値も用意され、日本語ローカライズによって遊びやすくなった本作を、ぜひこの機会に楽しんでもらえればと思う。

30年近くを経ての続編。本作が初挑戦という人も、この独特な味をぜひ味わって欲しい