「The Red Strings Club」レビュー

The Red Strings Club

美しいピクセルアートから紡ぎ出される、サイバーパンクの世界観

ジャンル:
  • アドベンチャー
発売元:
  • Devolver Digital
開発元:
  • Deconstructeam
プラットフォーム:
  • Windows PC
価格:
1,520円(税込)
発売日:
2018年1月23日

 ハードのスペックが向上し、よりリアルな3Dキャラクターも難なく描写するのとのできるこのご時世に、わざわざピクセルアートで世界観を描く必要があるのか、と思う人もいるかもしれない。しかしながら「The Red Strings Club」の魅力はなんと言っても美しいピクセルアートだ。サイバーパンクの世界観と相極まってネオン街の表現や夜景の表現など非常に美しく描かれている。ピクセルアートというゲームならではの表現を用いてこの世界を上手に表現している。このゲームが終わるころにはきっとあなたもドット絵の美しさに惚れていることだろう。

 「The Red Strings Club」は、どこか「VA-11 Hall-A」にも似ているインディーゲームである。「VA-11 Hall-A」は、Sukeban Gamesが開発し、2016年にリリースされたサイバーパンクの世界観をモチーフとしたゲームである。こちらもドット絵を基調としたアドベンチャーゲームであり、海外産の作品でありながら日本で大ヒットし、先日PS4版とNintendo Switch版のパッケージ版も発売された作品だ。

 「VA-11 Hall-A」は主人公視点で描かれるのに対し、「The Red Strings Club」は主に3人のキャラクターの視点で描かれるナラティブ型のストーリー展開となっている。どこか似ているようで似ていない「VA-11 Hall-A」とは違った魅力を持ち合わせたゲームである。

【The Red Strings Club - Reveal Trailer】

この世界の主人公たちと世界とのかかわり

 「The Red Strings Club」の主人公たちは、体を改造してこの世界で自由に生きる「ブランダイス」、企業のインプラントを人間に埋める仕事をこなし、アンドロイドでありながら人の感情を読み取り、考えることができる「アカラ」、そして体にインプラントを埋めて感情をコントロール出来る技術を拒み、多くの裏社会の情報屋のバーテンダーの「ドノヴァン」。この3人を主体としたナラティブ型のストーリーとなっている。

 ある日、いつものように「ブランダイス」と「ドノヴァン」がバーで過ごしていると、突然アンドロイドの「アカラ」が負傷した状態でやってくる。「ブランダイス」は体を改造しているため接続を試みる。そこでは「スーパーコンチネント社」が人の感情を抑制する活動をしていることを知ることになる。企業の陰謀を知った2人は、社会に根付いた悪を阻止すべく大企業に対し少人数で挑むというのが主なストーリーがになっている。ハッキングや推理などを組み合わせ、テンポよくストーリーが進行することにより、ノンストップでラストまで進めたくなる。

いつもの日常に突然高性能アンドロイド「アカラ」が負傷した状態でやってくる

マニアックなゲームプレイを体験させられる

 このゲームでは、画面上に表示されているマウスカーソルを用いて操作を行う。お客さんにお酒を提供したり、轆轤を回して型を作ったり、集めた多くの情報から調査したりする。

 轆轤を回すパートではマウスを右クリック連打することで回転し、手に持っている棒をマウスを用いて近づけていくことで余分な周りが削れ、型に合わせて形を整えていくという珍しいゲームプレイを体験できる。

インプラントを作るパート クリック連打で轆轤が回り型に合わせて削っていく

 その他にも、お酒を提供するパートではいくつかの種類のお酒を組み合わせてお客さんの感情を引き出し話を聞くこととなる。こちらとしては多くの情報をお客さんから引き出したいが1日に聞き出せる情報は決まっているため、お酒の組み合わせを考えて作らなければならない。

 お客さんの感情には「不安」、「後悔」など人によってさまざまな感情を抱いており、プレーヤーはその一つに合わせて感情を引き出す。多くの感情を抱いている人もおり、どれを選択すべきか非常に悩ましい。それらが後のストーリーに少しずつ関わってくるというのがとても新しい手法であると思う。

適切なお酒を注ぐことでお客さんの感情を引き出していく

次第に把握してくこととなる世界観

 ストーリーを進行していくと画面左上に矢印のようなものが表示される。そこをクリックしてみると多くの点が表示され最初はそれが何を意味しているのか分からない。次第にストーリーを進行していくことでそれが今まで自分が進んできたストーリーであるということに気付き「ハッ」とさせられることになる。当然ながら、分岐をしながら進行していくため1度をクリアしただけでは全部のルートを見ることができず、それが何度もプレイしたくなる理由となる。別のルートではどんなことが起こり、どんなお客さんが来て、新たにどんな情報を得ることができるのか。プレーヤーは気になって2回目の周回を始めてしまうこととなる。一周は約3時間から4時間程度で終わるので何度も周回できるところも魅力だ。

多くのルート分岐を可視化してくれるシステム

ドット絵だからこその感情

 全編を通して美麗なピクセルアートで作られており、顔の表情など当然ながらは分からない。しかし、お酒を飲む動作や、たばこをくわえたり捨てたりする動作。また、ドット絵だからこその不気味さ、怖さも表現しており、プレイヤーに選択を委ねるといったような場面では、あえてキャラクターの表情などが分からないことで、キャラクターの思いに左右させられず、プレーヤー自身がそのキャラクターと一心同体となり選択をすることができる。

ストーリーのメインとなるバー ドット絵による細かい表現が素晴らしい
なかなかに印象的なこのシーン

ダイアログの選択画面でここまで考えさせられることになるとは

 どのパートでも出てくるのがダイアログ形式の選択である。2択だったり、4択だったり、シチュエーションによって変わってくるのだが、これが非常に悩ましい。所謂「究極の2択」というやつである。どちらの選択も正しいと思うし、間違っているともいえる。完全に画面も向こうにいる「私」に対して直接投げかけられているようで、自分で決めた選択には責任を取らなければならないという感情が生まれる。もちろんゲームなのでやり直してもう一方の選択を見ればいいのではないか、と思うかもしれない。しかしながら、自分で決めた選択が今後のストーリーにどう影響してくるのかを最後まで確認したくなってしまい、いても立ってもいられないというのも事実。心理的な質問を投げかけられることもありそれを自分で選択するというのはゲームでしか成り立たない手法だと改めて感心させられた。

当然すべてを聞くことはできず今までの話から推理したりして自分が本当に聞きたいことを決めなければならない

 いくつかのキャラクターを操作し、自分たちに与えられたミッションをクリアすることができるかどうかはプレーヤーにかかっている。「スーパーコンチネント社」の陰謀。ドノヴァンやブランダイスたちの運命。それらの結末がどうなるのかは是非ともエンディングに導き、自分の目でラストを目撃してほしい。

 なお、「The Red Strings Club」はSteamサマーセールにより7月10日早朝まで50%オフの760円で購入することができるので、気になった方はぜひ試してみてほしい。