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愛と個性が「塊」を動かす——20年続く『塊魂』サウンドの哲学と「素敵ソング」の設計図【CEDEC2026】

開催期間:7月22日〜7月24日
会場:パシフィコ横浜 ノース/オンライン

 日本のゲーム開発シーンの最先端が集結する「CEDEC2026」が開催された。生成AIの実装やメタバースの進化など、技術的パラダイムシフトが続く昨今の業界において、本カンファレンスは単なる技術交流の場を超え、「ゲームの本質的な面白さ」を再定義する場としての熱気に包まれていた。

 その最終日となる7月24日のサウンドトラック・セッションでフィナーレを飾ったのは、誕生から20年以上愛され続けているアクションゲーム「塊魂」シリーズだ。

  2004年にナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)から発売された「塊魂」は、小さな「塊」を転がしてステージ上のあらゆる物を巻き込み、夜空に浮かぶ星へと大きくしていくという、極めてシンプルかつシュールなゲーム性を特徴とする。その独創的なビジュアルと並び、世界中で熱狂的な支持を得てきたのが「素敵ソング」と称される楽曲群だ。ジャズ、サンバ、エレクトロ、歌謡曲が渾然一体となったその音楽は、ゲーム音楽という枠を超え、ひとつの文化的なアイコンとして確立されている。

 シリーズのサウンドを支え続ける矢野義人氏、三宅優氏、そして野村彰浩氏の3名が登壇した「NANAーNANANANANAーNAーNAーNA、塊魂ここにあり! 素敵ソングのつくりかた」と銘打ったセッションでは、時代を超えて輝き続けるサウンドデザインの秘訣に迫った。

 矢野氏は「サウンド実装」、三宅氏は「サウンド演出 踏襲と刷新」と「素敵ソング」、野村氏は「塊魂 ローリングライフ」というテーマでセッションが行なわれ、それぞれの立場を交えながらサウンド制作について語られる内容となった。

 本稿では講演の内容を一部抜粋して紹介する。なお、「CEDEC2026」での講演はオンライン配信も実施されている。リアルタイムで視聴ができなかった人でも、受講登録を済ませている人であればタイムシフト配信を利用可能(利用可能パス:レギュラーパス、オンラインパス)。タイムシフト配信はセッション終了後に公開され、会期終了後でも8月3日10時まで視聴できるので、ぜひ利用していただきたい。

登壇した三宅優氏、矢野義人氏、野村彰浩氏

□「CEDEC2026」タイムテーブル / セッション一覧のページ

原点回帰と「素敵ソング」の誕生

 三宅優氏は、初代「塊魂」開発当時のエピソードを振り返った。まだ画面すら存在しなかった頃、1枚のコンセプトアート「富士山の上に巨大な塊が乗っている絵」を見た瞬間、三宅氏はその無限の可能性を確信したという。「人はいけるのか? 車、家、山や雲、星までいけるのでは?」と想像を膨らませながら、今までにないゲームシステムを面白くするために、サウンドとして全面的に協力しようと誓ったと語った。

三宅氏が見たコンセプトアート

 2004年の時点で掲げられた戦略は、北米や欧州の一般層にも向けた新規IPとして「ゲームを知り尽くしたインハウス作家が曲を書き、有名なアーティストが歌う」というものだった。この「作家×歌い手×ジャンル」の掛け合わせが、ゲーム体験と密接に結びついた「素敵ソング」には重要だという。

多様な個性が混ざり合う、最新のキャスティング術

 最新作において、その「素敵ソング」はさらなる進化を遂げた。参加アーティストは総勢14組。さくらまや氏による「民謡×R&B×ポップス」という異色の組み合わせから、DAOKO氏による過去作の解釈を広げた楽曲、松崎しげる氏や、やくしまるえつこ氏といったレジェンドまで、親子で遊ぶケースもあるとして、ジャンルをバラけさせターゲット層を絞らない「多世代へのアプローチ」を試みた。

キャスティングについてや、新しい試みについて語られた

 今回は海外アーティストを断念した代わりに、国内アーティストで声質やジャンルを徹底的に追求している。それに加え、インスト曲も大幅に拡充し、インゲーム曲やセレクト広場の曲など、前作よりもボリュームアップしているそうだ。

 さらに、王様のスクラッチ音は、実際にDJ世界2位の方が擦り、Mac OS(スノーレパード)の合成音を再現している。

ゲーム体験を加速させるサウンド実装の妙

 素敵ソングを「ただ流すだけ」で終わらせないのが、塊魂のこだわりだ。矢野氏は、CRI ADXのAtomCraftを駆使したテクニカルな実装面を解説した。

 開発ではCRI ADXのAtomCraftを駆使し、塊が大きくなりステージが賑やかになるにつれてリズムやベースの音量、メロディのレイヤーが増していくインタラクティブな変化を実現。また、王様シップ内のエレベーター移動では、階ごとに異なるキーの楽曲を作動ノイズのブリッジで力強くもスムーズに繋ぐといった工夫がなされているそうだ。

 さらに、タイムアップの瞬間にBGMをDJスクラッチのように歪ませて王様の話し声へと繋げるピッチカーブの制御など、細部にまでゲーム体験を加速させる巧みな演出が組み込まれているとのこと。ゲームの至る所に遊び心溢れる仕掛けが施されていることがわかった。

「塊魂 ローリングライフ」におけるサウンド制作

 野村氏は本作では、シリーズ伝統の「塊魂らしさ」を大切にしながら、現代的な新要素を加えたと語った。「塊魂」の音楽の魅力は、ポップでカラフル、かつジャンルに縛られない自由さにあり、制作にあたっては、作曲家が自分の個性を「むき出し」にできる環境を重視している。

今作を作成するにあたりどのような苦労があったのか語られた

 本作の物語のキーワードは「生配信」としており、この設定に基づき、楽曲『素敵なおかだパレード』では、壮大な楽曲の世界観に合わせ、名取さなさんのキャラクター性の強い歌声をマッチングさせ、インターネットの世界と親和性の高いアーティストを積極的に選定しているそうだ。

 野村氏は、このカオスとも言える多様性を維持するためのキーワードとして「洗練された歪(いびつ)さ」を挙げた。ポップミュージックのテンプレートにはめ込むのではなく、クリエイターの「好き」や「エゴ」をあえて剥き出しにする。会議用マイクで机を叩いた音をサンプリングしたり、声をギターのように歪ませたりといった「意図を持った音選び」こそが、「塊魂」らしい尖りを生むのだという。

深淵なる音楽理論:『水星日和』に見る時空の表現

 続いて、「ワンス・アポン・ア・塊魂」収録の野村氏によるピアノ生演奏を交えた『水星日和』(水曜日のカンパネラ)の楽曲について解説が行なわれた。

 「宇宙規模の圧倒的な愛」という壮大なテーマを表現するため、野村氏は「増五度・減五度」という極めて遠い関係にあるキーへの転調を多用したという。

 音楽理論的に「距離の遠い」キーを往復させることで、気が遠くなるような時間や空間の隔たりを表現。さらに、この転調を繰り返すと一周して元のキーに戻るという性質を利用し、「輪廻」や「繋がる命」を音楽の構造そのものに組み込んだのである。

楽曲づくりの技術的なところも語られた

 また、こっちのけんと氏が歌った「ええじゃないか」は民謡的なアプローチで、江戸時代のステージに合う「令和版ええじゃないかダンス」を目指したという。

コンセプトを練る時の考え方も公開された

「愛のあるモノづくり」の継承

 20年経っても変わらない「塊魂」サウンドの神髄。それは、過去の作品をリスペクトしつつも、作家自身の個性を全開にすること。「愛のあるモノづくり」を継承し続けていきたいと締めくくった。

 技術が進歩し、最新テクノロジーが開発環境を激変させるCEDEC 2026においても、結局のところ人を感動させるのは、クリエイターの熱量と「歪(いびつ)なこだわり」の塊なのだ。それを証明し続ける「塊魂」のサウンドチームは、これからも新たな「素敵」を巻き込み、世界を大きくしていくことだろう。