インタビュー
「GT7」をもっと良くすることにフォーカスする。「グランツーリスモ」クリエイター・山内一典氏インタビュー
2025年12月21日 14:21
- 【グランツーリスモ ワールドシリーズ 2025 ワールドファイナル -福岡】
- 開催期間:12月20日〜12月21日
- 会場:福岡国際会議場 メインホール+多目的ホール
12月4日に大型アップデート「Spec III」と有料DLC「パワーパック」が配信されたばかりの「グランツーリスモ7」。特に「パワーパック」はシリーズ初の“リアルレーシング”ということもあり、既に多くの「GT7」プレーヤーがレースに挑んでいることだろう。
今回は、世界大会「グランツーリスモ ワールドシリーズ 2025 ワールドファイナル」が開催されている福岡で「グランツーリスモ」シリーズのクリエイターである山内一典氏へインタビューする機会をいただいた。「Spec III」や「パワーパック」、そして世界大会について色々と伺ってきたので、本稿ではその模様をお届けしていく。
当面は「GT7」をもっと良くすることにフォーカスする
――初代「グランツーリスモ」が1997年12月23日に発売されて、もうすぐ28周年を迎えます。この28年を振り返って、今のお気持ちをお聞かせください。
山内氏:『グランツーリスモ7』は毎月アップデートしていて、2023年11月に「Spec II」、そして今回「Spec III」と2回の大型アップデートも行ないました。今は「グランツーリスモ」を作り続けていられることへの感謝の気持ちがすごくあります。
かつ、「グランツーリスモ」は変わらないようでいて、実はかなり新しいことをずっとやってきていますよね。そういったチャレンジングなことをやっていても、ユーザーの皆さんがしっかりと受け取ってくださっていることは、すごく幸せだなと思っています。
――12月4日にリリースされた有料DLC「パワーパック」投入の狙いと、今後の30周年に向けた取り組みについて教えてください。
山内氏:『GT7』は発売からかなり時間が経ちましたが、今もフルプライスで売れ続けています。月間アクティブユーザーも200万人水準をキープしていて、言ってみれば全然古びていないんです。
そこで「Spec III」をやろうとなった時、今回はちゃんとしたレースを「グランツーリスモ」の世界に追加しようと思いました。プラクティス、予選、決勝があって、途中抜けができず、参加費用もかかる。「グランツーリスモ」が変化するというよりは、そういうポーションも追加しようということで、今回「パワーパック」を作りました。
30周年に向けては、今回の「Spec III」と「パワーパック」でまた新しいユーザーが入ってきていますし、ロイヤルユーザーはずっと遊び続けてくれているので、当面は『GT7』をもっと良くすることにフォーカスしています。
――今回の「Spec III」では前作「グランツーリスモ6」で実装されていたデータロガーが復活しましたが、「GT7」で実装までに時間がかかった理由はありますか?
山内氏:特に時間がかかった理由はないのですが、「パワーパック」でリアルなレースを完全に再現したいと思った時に「それならデータロガーも欲しいよね」ということで追加しました。
――今回、国内メーカーとして初めて「ダンロップ」がタイヤパートナーに参加しました。コラボレーションへの思い、今後の協業の可能性などを教えてください。
山内氏:今回、ダンロップが「グランツーリスモ」に対して熱意を持ってくださって、結果としてこのパートナーシップが生まれました。僕らとしてもタイヤのテクノロジーにはずっと興味が持ち続けていて、今後は時間をかけて、本当の意味で「グランツーリスモ」のリアリティを物理シミュレーションレベルまで進化させていくことにすごく興味があります。
――「Spec III」で追加された「ジル・ヴィルヌーヴ・サーキット」と「ヤス・マリーナ・サーキット」はF1の開催地としても有名ですが、今後F1関連のコンテンツを追加する予定はありますか?
山内氏:ないとは言えないんじゃないでしょうか。
――今回の「Spec III」で山内さんの以前の愛車でもある「FTO」が追加されましたが、そのような懐かしい車を追加した意図を教えてください。
山内氏:FTOは初代『グランツーリスモ』のヒーローカーの一つでした。それはまだまだ若かった僕らの「若気の至り」みたいな感じで、自分自身が乗っているクルマが入ってたら嬉しいというのもあります(笑)。今でもそういう感覚は変わっていないです。
プレーヤーから毎日多くのフィードバックがあって「このクルマを入れてくれ」や「あのクルマを入れてくれ」といった声がたくさん届いています。クルマの要望は広く分布していて、例えば日本のユーザー向けに「ハイエース」を追加すると、ヨーロッパのユーザーから「なんで入れるんだ」という声があがったりもします。ですが、必ずユーザーはいるので、世界中の要望が合わさって今の「グランツーリスモ」になっています。
――AIの活用についてお伺いします。「パワーパック」ではAIドライバーの最新版「GTソフィー3.0」が投入されましたが、山内さんのAIに対する考えや今後どう活用していくかについて教えてください。
山内氏:GTWSに出場している選手たちと話していたら、既にAIを活用していました。彼らは自分のタイムトライアルの映像をそのままAIに読み込ませて、ドライビングのアドバイスをもらっているそうで「このコーナーでこうすればもっとタイムが出る」といった、自分では気づかないアドバイスを得られると言っていました。
僕自身もAIはすごく有効なツールだと思っていて、本当に使い手次第だと思っています。ですが、僕はAIの専門家ではないので、AIの未来を占うとかはできないです(笑)。
何十人もの子供を育てているような感覚。世界大会「GTWS」について
――今回、福岡で「グランツーリスモ ワールドシリーズ」のファイナルが開催されましたが、会場や選手たちの雰囲気はいかがでしたか?
山内氏:今日(12月21日)は少し天気が悪いですが、初日は午前中までとても天気が良かったです。特にこの時期の福岡は寒くなることが多いのですが、今回は寒くない福岡をお見せできて本当に良かったです。以前「福岡モーターショー」時代に「レッドブル・X2010」の1/1スケールをブースに持ってきた時は、めちゃくちゃ寒かったんですよ(笑)。なので、今回は良い体験をしていただけたと思います。
もう一つ、観客の皆さんに「グランツーリスモ」ファンの方がとても多かったです。東京はなんとなくたくさん居るんだろうなと思いますけど、九州は実際にイベントをやってみるまで、どれくらいのファンがいらっしゃるのか分からなかったのですが、チケットも完売して、九州や福岡の方の熱意と愛情をすごく感じました。
――レース観戦について、ビジュアルの進化で「GT7」は実写とほぼ変わらない印象を受けますが、デジタルゲームならではの観戦の魅力や面白さはどこにあるとお考えでしょうか?
山内氏:まず根本的に違うのは、ドライバーがそこにいて、皆さんがその姿をご覧になれるところです。リアルなモータースポーツはヘルメットを被ってクルマの中にいるので、ドライバーの表情や雰囲気を見ることはできません。そこが大きな違いです。
もう一つ「ヤス・マリーナ・サーキット」でいうと、サーキットの中に何百というカメラがあって、それぞれのクルマにもカメラが搭載されています。それを臨機応変にスイッチングしてお見せできる「自由度の高さ」もデジタルならではの魅力です。
――イゴール・フラガ選手や小林利徠斗選手など「グランツーリスモ」出身のドライバーがリアルレースで活躍されています。この状況をどのようにご覧になっていますか?
山内氏:素朴に嬉しいですよ。イゴールに初めて会ったのは彼が18歳くらいの時、GTWSの初年度でしたが、当時の彼はなかなかお金がなくてレースを続けられない時期でした。その時に手書きの手紙をくれて、大会で勝って、ワールドチャンピオンにもなりました。こんなに若くて、賢くて、努力家の彼に感銘を受けました。
イゴールがスーパーフォーミュラで勝ったり、ルーキーオブザイヤーになるというのはもちろん嬉しいですが、なるべくしてなったとも思いますし、色々な理由で何年か遅れてしまったのが少しもったいないなとも思いますけど、彼が夢を実現しつつあることは本当に嬉しいです。
小林くんの活躍ももちろん嬉しいです。彼は若いので、結果を出していくこともそうですし、どんどん成長していってほしいなと思います。
――今回は山内さんと選手たちのサイン会もありましたが、選手とファンのコミュニケーションを間近で見て、何か思われたことはありますか?
山内氏:僕の隣にヴァレリオ・ガロ選手がいたのですが、彼も含めて本当にきちんとファンサービスをしていました。「GTWS」も歴史を重ねて、選手のドライビングスキルだけでなく、人間的な魅力もどんどん上がっていると感じています。
やっぱり世界のトップ選手は人間的にも素晴らしい方が多いです。彼らがお客さんと接することで成長していく姿を間近に見られるのはやっぱり嬉しいですし、何十人もの子供を育てているような感覚になります(笑)。
――今回、福岡という地方都市で開催されましたが、今後、東京や福岡以外の日本の都市で大会を開催したい気持ちはありますか?
山内氏:福岡にはポリフォニーのアトリエもありますし、僕らの第2の故郷のような場所なので、福岡市や西日本新聞さんとのネットワークも元々ありました。なので、簡単に他の都市でも開催できるとは今のところ思っていません。
ただ、何らかの機会があればやってみたいです。日本といえども都市によってカルチャーが違うので、そういう方々と一緒に仕事ができたら面白いだろうなと思います。
――2025年シーズンのワールドシリーズは、ロンドン、ベルリン、ロサンゼルス、福岡で開催されて、そして2026年シーズンはアブダビで幕を開けます。これまで開催していなかった地域を回っていますが、今回の開催都市が選ばれた理由はありますか?
山内氏:毎年、たくさんの開催地候補の中から検討して、翌年の開催地を決めています。アブダビは、ある日UAEの大使からご連絡があり、スタジオにお越しいただいたのがきっかけです。実は大使が「グランツーリスモ」のファンで、実際にアブダビでロイヤルファミリーの方々にお会いした時は、お子さん含めて皆さんプレイされていて驚きました。
異なるカルチャーの人たちがコミュニケーションを重ねて、プロジェクトを一緒にやっていくこと自体がエキサイティングなので、あちこちで開催することにはそういう意味合いがあります。
――今後、まだ「GTWS」を開催していない地域、例えば中南米やアフリカで開催する予定などはありますか?
山内氏:中南米は何度か検討したことがあります。ですが、一度オーストラリアでやりましたけど、ヨーロッパから遠くて時間がかかって、かなり大変だったんですね。本当はブラジルのサンパウロとかでやりたいですし、何度か検討したこともあるのですが、まだ実現には至っていません。
――会場では親子で大会を楽しんでいる姿も多く見かけました。今後、親や子に対して「グランツーリスモ」がこうあってほしいという希望や構想はありますか?
山内氏:28年も経つと、ユーザーはもう2世代目に入っています。ワールドシリーズはどのラウンドでも親子連れが本当に増えていて、同じタイトルを長く作ることの良さはそういうところにあると思います。「グランツーリスモ」をプレイすることで、彼らの人生が豊かになってくれるような、そういうゲーム作りを心がけています。
――ありがとうございました。
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