ニュース

初めて観たプロリーグで思わず号泣。ドラマに満ちた「モンストプロツアー 2019-2020」名古屋大会観戦レポート

2月15日 開催

 ミクシィのXFLAGスタジオは2月15日、「モンスターストライク(以下、モンスト)」のプロツアー「モンストプロツアー 2019-2020(以下、モンストプロツアー)」のレギュラーシーズン第7戦をポートメッセなごやにて開催した。

 「モンストプロツアー」は一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)が発行するプロライセンスを持った全12チームが参加し、「モンスト」のプロNo.1チームを決める戦いだ。全国7箇所で順次1Dayトーナメントを実施し、順位に応じたポイントを獲得。全7戦のシーズンを終えた段階で累積ポイントの成績上位4チームは「ツアーファイナル」のトーナメントの参戦資格を得る。

 今季は2月29日に東京・ユナイテッドシネマ アクアシティお台場にてツアーファイナルが開催予定だが、その直前、レギュラーシーズンの最終戦にあたる今回の第7戦は、これまで重ねてきた6戦の成績に加え、この7戦目の結果でツアーファイナルに駒を進められるチームもいれば、この名古屋大会が今回のプロツアー最後の試合になるチームもいるというまさに瀬戸際の戦い。どのチームも文字通りに負けられない戦いが繰り広げられた。

【【第7戦 名古屋】モンスト プロツアー 2019-2020】

 筆者は「モンスト」の競技性を持った大会、要するに「モンスト」のeスポーツ大会を観戦するのが実は今回が初。そのため、率直に言って細かいキャラの性能や相性、友情コンボといったゲーム的な深い内容までは理解することができなかった。

 それでもプロ選手のレベルの高さ、それを伝える実況・解説、そして一緒に盛り上がる観客、何よりも各プロチームが意地とプライドを懸けて試合に挑む姿勢とそこから生まれるドラマに感動して、会場でボロボロと泣いてしまった。それだけ感情を動かされるイベントだった。

 本稿ではまず「モンスト」のeスポーツ大会とは、というところから始めて実際にどんなドラマが起きたか、について順々にお伝えしていきたい。

【会場の様子】
プロの記録を使って擬似的にプロと対戦できるコーナーが設けられていた。行列ができるほどの人気だ
各プロチームのバナー。この前で記念撮影をするファンも多かった

個々のプレイスキルとチームワークが求められるハイレベルなタイムアタック

 これまで「モンスト」という表現を使ってきたが、「モンスト」のeスポーツ大会は実は「モンスト」を使用しない。対戦に特化してお互いが公平なプレイができる「モンスターストライクスタジアム」という専用のアプリを使用する。このアプリはストアで配信されており、端末を持っていれば誰でもプレイすることができる。

 アプリこそ異なるもののゲームシステムは「モンスト」とほぼ同じ、違うのは一切の課金要素がなく、全キャラクターを使用可能なことだ。「特定のキャラを持っていないので相手に勝てない」ということは起きず、ピュアに「モンスト」のスキルを競い合うタイトルになっている。

 また、対戦ゲームのように他のチームに直接干渉する要素がないので、僅かなランダム性はあれどミスがあればそれはすべて自分の、自分たちのチームに要因がある。「モンスト」は引っ張ってキャラクターを飛ばして敵にぶつけて敵を倒していくという、文字にすると簡単なルールだ。だがシビアな大会になると、とても“簡単”なんていう言葉で片付けられないテクニックの応酬であることがわかった。具体的には精密なショット、スピード、キャラクターの編成の3つの組み合わせがキーになる。

 正直に告白するとeスポーツといえば対戦、モバイルだと例えば「荒野行動」や「シャドウバース」、 「クラッシュ・ロワイヤル」などが王道のeスポーツだと思っていた。一方の「モンスト」は対戦ゲームではないし、操作もルールもシンプルなのでeスポーツタイトルになるとは思っていなかったのも事実だ。しかし、プロ同士の試合を見ていて、これまでの見方が180度変わるほど、「モンスト」の大会は競技性が高く、eスポーツの要素や熱さに満ちていることを痛感させられた。

マップの特性とそれにあわせたキャラクター編成が鍵になる

 まずは「精密なショット」についてだ。「このマップのここに敵がポップする」、「ボスはこういうギミック」というのはすべて事前にわかっている。そのためプロの頭の中には「どの角度、どの位のパワーで撃つとここに当たるので敵を倒せる」といったことがすべてインプットされている。理想通りのショットを完璧に撃ち続けることができれば理論上最速記録を出すこともできるが、操作するのは人間なので完璧に撃ち続けることは難しい。

 強く弾きすぎては想定外の方向に飛んでいってタイムロスや今後の配置にも影響するし、弱すぎてはそもそも当てることができない。だが「モンスト」では角度やパワーが絶対的な数字で表示されるわけではないので、角度とパワーは大まかなマーカーを元に自分の指先のコントロールする必要がある。ここがまずスキルが大きく反映されるところだ。

 そしてもう1つが「スピード」だ。先程は精密なショットが求められるということを書いた。当然じっくりと狙いを定めてショットを撃ちたいところだ。だが大会のルールはタイムアタックである。試合によっては数秒単位の差が大きく響くこともある。じっくりと狙いすぎてはその分相手チームが有利になっていくのだ。

研ぎ澄まされたシュート。その精度の高さとスピードには驚いた

 そして「キャラクターの編成」だ。「モンスト」のキャラクターはそれぞれ特徴がある。ステージごとに有利な特徴やキャラクター同士でシナジーを生む組み合わせもあるため、キャラクター編成もキモになる。プロツアーではキャラクターのピックという概念があり、片方のチームが選んだキャラクターは選択することができない。このキャラクターピックも試合をさらに奥深くさせる要素のひとつだ。

 キャラクターのピックに頭を悩ませチーム内で相談をする。実際のバトルが始まるとお互いが声を出し合いながら、自分の手番の一手一手を着実に決めていく。もしミスをしたり想定外のことが起きたらリカバリーして巻き上げていく。

会場でしか感じられない熱気、強い絆で結ばれるファン同士のコミュニティ

 試合を見ているだけでも面白いのだが、配信ではなく会場で生で観戦する事の面白さは“会場の熱気”にあると感じた。

 バトルの開始前は観客も含めて5カウントを行なうし、観客から選手への声援も多く飛ぶ。素晴らしいショットが出るたびに会場からは歓声が上がる。この生だからこその熱気、ライブ感というのは会場でしか味わえない。

 特に「モンスト」のプロツアーには熱狂的なファン同士のコミュニティがあり、みんながチームのお揃いのパーカーを来てチームの応援に来ているのが印象的だった。

チームのパーカーを着てみんなで応援に来ているファンコミュニティ

 これまで他のeスポーツ大会も見てきたが、「モンスト」の大会は観客の年齢層や性別の幅が広いように感じた。これは「モンスト」というアプリがみんなでワイワイとプレイするコミュニケーションに重きを置いたタイトルというルーツにあるのだろう。

 もちろん試合終了後にはプロ選手との交流の場も設けられ、プロチームとファンという縦のコミュニケーションと、ファン同士という横のコミュニケーションが非常に密で、その結果熱狂的なファンが生まれ、会場の盛り上がりに繋がったように感じた。

地元出身のチームということもあり、一際ファンが多かったように感じたのが「今池壁ドンズα」だ

ドラマに次ぐドラマ。感情を揺さぶられるドラマがあった

 さて、試合の結果から言うと名古屋大会で優勝したのは「アラブルズ」。そして準優勝は「AliceWithAce」だった。

 こう書くと1文で終わってしまうのだが、だがそこに至るまでの約9時間にも及ぶプロチーム同士のバトルには濃厚なドラマがあった。筆者が初めて大会を見たにも関わらずボロボロと泣いてしまったのにはそのドラマがあったからだ。

 まず「アラブルズ」を見ていこう。「アラブルズ」は第6戦終了時点では第5位とツアーファイナルへの出場が十分に視野に入っている状況で7戦目の名古屋に挑んだ。

 1Dayトーナメントは大きく分けて「タイムアタックラウンド」と「バトルラウンド」の2つのフェーズに分かれている。まずは全チームが同じマップを使用する「タイムアタックラウンド」でトーナメント表のチーム位置を決める。タイムアタックラウンドで良い成績を残せばトーナメント表で有利な場所を選択できるので重要なラウンドだ。

 バトルラウンドではトーナメント表に基づいて実際にチーム同士がバトルを行なっていく。タイムアタックラウンドでもポイントは付与されるが、バトルラウンドで付与されるポイントの方が多い。

 「アラブルズ」のタイムアタックラウンドの成績は悪くなく4位につけた。だが同じくツアーファイナルへの出場圏内にある「今池壁ドンズα」が2位、「4Sleepers」が3位と「アラブルズ」から見ると目前に壁が立ちふさがっている状況だ。

タイムアタックラウンドの結果。「アラブルズ」は4位、「AliceWithAce」は12位だった。今シーズン成績が振るわなかった「はなっぷ」が1位の座につく

 このタイムアタックラウンドの終了時点でポイント獲得状況から「アラブルズ」がツアーファイナルに出場するためには本大会で優勝する必要があることが確定した。他のチームの順位が固まった結果、決勝戦の時点では具体的に言うと第7戦名古屋で優勝するとツアーファイナルに1位で通過、準優勝の場合は5位でツアーファイナル出場ならず、という展開だ。こんなに劇的なことがあるだろうか。

「アラブルズ」のファンは最前線に陣取りメンバーを応援する。あとで話を聞いたところ「アラブルズ」が出場する試合は遠方でも必ず足を運んで応援しているファンもいるそうだ

 負けられないのは一方の「AliceWithAce」も同じだ。

 「AliceWithAce」は今大会で凄まじいドラマを見せてくれた。まずは1ラウンド目、今シーズンで1位の成績を残していた「ᎶᏤ(GV)」とぶつかる。「AliceWithAce」は全12チーム中11位かつ今シーズン勝利なしという、成績を見る限りではかなり厳しい展開に見えたし、恐らく多くの観客も同じ見方だったと思う。だがジャイアントキリングというべきか、番狂わせというべきか。「AliceWithAce」が「ᎶᏤ(GV)」にストレートで勝利したのだ。プロツアー初勝利を強豪「ᎶᏤ(GV)」からもぎ取るという誰もが驚く結果を見せてくれた。

 勝利した「AliceWithAce」のメンバーは勝利の嬉しさで涙が止まらない様子だった。リーダーであるだちゅら選手が嬉し涙を流しながら叫んだ「やっと勝てましたー!」という勝利の言葉に心を揺さぶられて思わず泣いてしまった。それは自分たちが勝てた喜びというよりも、ずっと応援してくれるファンや観客に向けた“報告”だと感じたからだ。

 試合に勝った、しかも強豪チームに勝ったのだから最初に出る言葉は「やったー!」とかそういう類のものであるだろう。だがだちゅら選手はまずファンに向けてのメッセージを送った。2019年にプロ入りし、そのままプロツアーに参戦。最初の勝利の言葉がファンへのメッセージなんて、素晴らしいじゃないか。

だちゅら選手の言葉にはグッとくるものがあった。それれほどこの1勝が大きいのだ
「AliceWithAce」のファミリー(応援団)の皆さん。一際声援が大きかった印象だ

 そして「AliceWithAce」はまだメイクドラマを続ける。次の試合は「4Sleepers」、こちらも今シーズンでは3位の成績を残していた優勝候補チームだ。お互いが1ラウンドずつ取った最終ラウンド。タイム的には「AliceWithAce」が不利な状況に見えた。だが「4Sleepers」がボスの攻撃で全滅するというまさかの展開で、実況席も観客も、なにより選手達も驚いて言葉を失ってしまった。その結果優勝候補チームの「4Sleepers」を下し、準決勝に駒を進め、さらに今大会で絶好調の「はなっぷ」を下し決勝戦へと駒を進めた。

はなっぷの躍進にも泣いた。今シーズン12チーム中12位という成績からタイムアタック1位通過、そしてそこからさらに1勝を勝ち取るドラマが熱い。どの試合にも感情移入してしまって涙が止まらなかった

 「アラブルズ」は名古屋大会の優勝とツアーファイナルへの出場を懸けて、「AliceWithAce」は観客からの応援に応えるための初優勝を懸けて、どちらも譲れない戦いになる――というストーリーが決勝戦の前にあったのだ。

 そうして迎えた決勝戦。最初のマップは「翠撃の隊士」。序盤はお互いがミスのない展開でほぼ互角かと思われたが、途中で「アラブルズ」が一歩リード。ミスなく着実に素早くショットを決めてそのリードを守りきりまずは1勝を勝ち取った。

 続く第2マップ目では「死を招く漆黒の禁忌召喚」。こちらは序盤から「AliceWithAce」が優勢だった。難度の高いスーパーショットを決めてタイムでは「アラブルズ」に差をつけていた。だが最後のボス戦でHPを削りきられ「AliceWithAce」がまさかのダウン。そのまま「アラブルズ」の名古屋大会の優勝、そしてツアーファイナルへの1位通過が決まった。

勝利が決まった瞬間の「アラブルズ」はメンバーと喜びを共有した

 試合後のインタビューで今大会で優勝できた理由について聞かれた「アラブルズ」のリーダーのKEVIN選手は、「普段の練習でできているプレイを今大会でもできたから」と振り返る。ファンへのメッセージとして「今シーズンのツアーであまり良い成績を残せてない『アラブルズ』に付いてきてくれていることに感謝しています」と話し、「ツアーファイナルで優勝することが一番の恩返しですね」とツアーファイナルでの優勝へ意気込む。

賞金430万円と、ツアーファイナルへの出場権を獲得した「アラブルズ」

 ドラマに次ぐドラマが生まれた今大会。本大会での優勝を決めツアーファイナルへコマを進めた「アラブルズ」、そして「ᎶᏤ(GV)」、「今池壁ドンズα」、「【華】獣神亭一門」が雌雄を決するツアーファイナルは2月29日に東京で開催され、チケットも発売中。もちろん配信もされると思うが、現地でしか感じられない観客の声援や、選手との交流、ファン同士のコミュニティもあるのでぜひ現地での観戦をオススメしたい。

 「モンスト」の深い知識があればより楽しめることは間違いないが、初見でも問題はない。それは競技的に「早くクリアしたほうが勝ち」というシンプルな見方ができることが1つと、人間ドラマ的に各プロチームが背負っているファンからの期待や、プロであることのプライド、そしてツアーファイナルへ至るまでのストーリーを楽しめるからだ。これらがあった上でプロ選手が試合に挑み、ファンが会場でそれを応援し、実況・解説が試合を盛り上げる――この組み合わせは初見でも泣けるほど感情を揺さぶられるからだ。

【ツアーファイナルへ出場する4チーム】
アラブルズ
ᎶᏤ(GV)
【華】獣神亭一門
今池壁ドンズα