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「劇場版 FFXIV 光のお父さん」エオルゼアパート山本監督が語るゲーム内撮影秘話

現役の“ヒカセン”だから聞ける撮影苦労話をロングインタビューで紹介!

【劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん】

TOHOシネマズ日比谷他 全国ロードショー

6月21日より公開中

 仕事一筋だった父親が、出世を目前に突然退職して単身赴任先から戻ってくる。息子、岩本アキオは寡黙な父親の本心を知るために、自分が遊んでいる「ファイナルファンタジーXIV」に父親を誘うことにする。

 ゲームブログ「一撃確殺SS日記」の大人気連載を映画化した「劇場版 ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん」が6月21日から全国公開された。本作の特徴はなんといっても、ゲーム内の映像を実際のゲーム内で撮影していることだ。

 TVドラマ版では、ライブサーバーで撮影が行なわれたが、今回はスクウェア・エニックスがサーバーを撮影用に開放した。また、TVドラマ版と同様にマウスコンピューターが撮影用の機材を提供している。

 ゲーム内の撮影は、アキオの心象風景ともいえるセリフ付きのゲーム内映像と、主演の坂口健太郎さんと吉田鋼太郎さんがプレイしている時にモニターに映るゲーム画面として使われている。これらの映像をすべて統括したのが、エオルゼアパート監督の山本清史氏だ。

 今回は、その山本氏と、株式会社あまたのプロデューサーで、「ぴぃさん」こと渋谷恒一氏ににエオルゼアパート撮影の苦労話や、もう一度映画を見直したくなる小ネタなどを聞いてきた。ネタバレは最小限にとどめているが、観るまでは絶対に情報を入れたくないという人はぜひ視聴後にご一読いただきたい。見逃していた小ネタを、また確認しにいきたくなるはずだ。

ブロンズレイクは撮影にぴったりの場所

――今回ゲーム内のたくさんの場所が映画の中に登場していますね。現役のプレーヤーから見ても、こんな場所があったんだと驚くような斬新な構図で撮影されていたりもしましたが、ゲーム内でのロケハンはどんな形で行なわれたんですか?

山本氏:  「今日ロケハンするぞ」という感じではなくて、シャキ待ち(編集部注:コンテンツファインダーのマッチング待ちのこと)の間だったり、今日は特にやることがない日ってあるじゃないですか。月曜のにトークン集め終わっちゃったなあという時なんかに、「じゃあ、ロケハンでもするか」と(笑)。本当に暇つぶしの感覚であちこち行って、こんな所があったんだとその都度アップデートしていました。

――その時にも撮影はされていたんですか?

山本氏:  テスト撮影的な雰囲気で撮ってみたり、資料用にスクリーンショットを残しておくという感じでした。

――意外な場所が多いですよね。例えば、マイディーさんが「よしだあああ」と叫ぶブロンズレイクの屋根の上とか。

山本氏:  あそこは単純に好きなんです。ちょっと人が行きづらい場所じゃないですか。登り方を知らないと来られない場所なので、わりとマイディーさんも好きな場所なんです。簡易的な宿屋みたいな感じで。人が来づらい場所、なおかつ登らないと行けないという場所なので。わりと僕らは好きな場所で、今回はあそこを使おうということになったんですよね。あれは、ロケハンというかずっと前から我々はよく使っている場所です。

ブロンズレイク。遠くにワンダラーパレスが見える

――よく行かれるんですか? あそこを使ったのはマイディーさんの提案だったんですか?

山本氏:  「今回のよしだーはどこでやりましょうか?」と言われて、結構話をしたんですが、あそこはどうですか?と提案すると、ああ、そうしましょうとなりました。

――ワンダラーズパレスが見えるところの風景は、他にも何度も出てきましたが、あの風景がお気に入りなんですか?

山本氏:  新生エリアでいうと、あそこが圧倒的に完成度が高いと思うんです。建物の形であったり、日の落ち方や空気感。あそこは湖なので、水の反射や揺らぎであったりだとか。温泉もあるので街には湯気が出ていて、撮影環境としていろいろなシチュエーションが撮れるということもありますし、景色として秀逸だと思います。それに人もあまり来ないので(笑)。

――色々と撮りやすいわけですね。ほかにも蒼天エリアでいうと、ハルドラス像の上なんかも使われていましたが。

山本氏:  今回の映画ではエオルゼアパートの方に壮大なイメージというか広い絵が求められていたので、それなら空撮かなと思うわけです。空撮をする場所としては、ドーンと抜けていてかつ対象物としてはっきりしているものがないと壮大感がでないので、あの像いいよねという話になりました。下の方でNPCが作業をしていますが、あのNPCが何をしているのかはヒカセンでなければ分からないですよね、ずっと復興しているんだなと。そういうシチュエーションが結構良くて、ぐるっと回って撮ってみたら壮大な感じになったので、これはいいなと。

クルザス西部高地にあるハルドラス像

――まず撮りたい絵があって、それに合わせて風景をチョイスするわけですか?

山本氏:  そうですね。クルザス西部高地の辺りはドラマ版でも番外編でも使っていますが、高さの表現が計算されているので、景色のヌケ感とか高さとかが秀逸なんですよ。飛びたくなるエリアと言うか、あそこって、最初に風脈を開ける場所じゃないですか。飛んで楽しいエリアになっているから、非常に壮大感があります。「紅蓮」のエリアではもう飛ぶのが当たり前になっているので、壮大なイメージというよりは、飛んで探すという感じが多いですけれども、西部高地はかなり立体的なんですよね。そこが良いなと思っています。

――ああいうゲームの地形は基本的に意図を考えて作られているわけですが、リアルな撮影のロケハンとの違いはありますか?

山本氏:  リアルなロケハンとの一番の違いは、僕が空を飛べることかな。上から見たらこうなるんだと。実写のロケハンでは、誰の許可もなくちょっとここ空から見てもいいですかとは言えないですから(笑)。

――レンズフレアも印象的に使われていましたね。光がかなり効果的に使われていたように感じました。

山本氏:  実写の場合は逆光だと、シャドウ部分が暗くなるんです。でもエオルゼアの場合は自動的に補完されて、照り返しが入り、顔が全く見えないということにはならないんです。撮影の安田さんと、そこがちょっと面白いよねという話になって、逆光の表現を敢えて狙っています。逆光でポートレートを取る時には、前の方からも押さえで光を入れるといい感じになるんですが、エオルゼアではそれがやりやすいという発見があって。ブロンズレイクあたりだと晴れの時には、下からの照り返しもあって微妙に照明の表現が良くなるんですよね。そこが、僕らの狙いというか、あえてやっています。

――そういうことまで考えられているから、あの絵作りができたわけですね。

山本氏:  実写の知識を使って撮影しているというか、「あ、これができるんだ」という発見があります。

――ゲーム内で動画を作っている方の「なかなか、ああはいかないな」と言うコメントも見かけました。

山本氏:  いや、そんなことはないと思います。照明などは確かに知識が必要だと思いますが、ライブサーバーで撮影されている方たちは限られた天候の中でやらざるを得ないということもあると思いますので。そういえば、エオルゼアでは快晴の時光が強くて、顔が白飛びしてしまうんです。吉田さんに、この照明の光を抑える機能を付けて欲しいと言ってるんです(笑)。

ベスパーベイのロロリト像

――太陽光がまぶしすぎるということですか?

山本氏:  そうです。または光を遮るなにかを置ける機能が欲しいと。僕らの世界ではフラッグという光をさえぎるための板があるんですが、それを使うと、例えば木漏れ日が顔にかかると絵としてはよくないですが、フラッグを使えばいい感じになるので。でも用途が限られ過ぎているので実装は難しいと(笑)。

――確かにあればSSを楽しんでいる人たちが喜びそうですね。

山本氏:  絶対に喜びますよ。

――今回TVドラマ編と比べてグループポーズもかなり進化していると思いますが、それで始めて可能になった絵作りなどはありますか?

山本氏:  非常に有効だったのはレンズですね。広角の場合はちゃんと魚眼ぽくなるし、望遠にしていくとちゃんと背景の遠近感もなくなるよう計算してレンズが作られているので。これは普通のゲームにはあまりない機能だと思います。我々監督サイドからすると、非常に嬉しい機能です。ひとつ難点があるとすれば、本物のレンズは望遠になればなるほど背景がぼけるものなんですが、「FFXIV」の場合はパンフォーカス(画面全体にピントが合うこと)がかかりまくっているので面白い絵になりますし、使いづらいときもあります。でもそこはゲームならではなので、使い方かなと思っています。
 後は、グループポーズではエモートをオン、オフできるのは大きいですね。他人のエモートも操作できると一番いいんですが(笑)。ただ今回は印象的なシーン以外ではグループポーズはなるべく使わずに、主観で撮るようにしています。

「にゃんにゃんぷー」は3回とも意味が違う

――今回、マイディーさんたち以外にも、じょびネッツアの人たちにセリフがありますね。個人的な感想なのですが、メル君の声優さんというか、声が、わりとイメージと違ってたんです。あぁいうのはどういった感じで決められたんですか。

山本氏:  メル君は軽薄な感じでやろうねと。途中で彼のキャラの種族が変わっているのに気付きましたか? 最初はミコッテだったのに、途中でアウラになってるんですよね。

――最後の方で、見慣れないアウラがいるなと思っていました(笑)。

山本氏:  誰なんだこいつは、みたいな。なんで途中でキャラ変わってんのっていうか(笑)。誰も指摘はしないですけど、そういうことをノリでやっちゃうタイプ。

メル君の気持ちを尊重してアウラとミコッテ両方を使った

――あれは途中で幻想薬使ったよっていう設定のもとにああなっているんですか?

山本氏:  実はメル君が勝手にやってるんです。開発サーバーに入るためにはキャラをライブサーバーからコピーする必要があるので、この日のこの時間には入りたい恰好でキャラを置いてログアウトしておいてねと、じょびネッツアのみんなに言ってあったんですよ。そしたらメル君がアウラになっていたという(笑)。

 マイディーさんとアルちゃんと僕らで、「どうするか」と相談して、まあ彼の意思もあるからアウラのメルを使って、ミコッテのメルもそういうアイコンになっているからそちらも使おうと。ストーリー的には全く説明がないんですが、そういう経緯があって、途中でキャラを変えるタイプだから、ちょっと軽い人にしようみたいな。そういう逆算です。

――それであの少し軽い感じの声になったんですね。

山本氏:  そうです。一人一人のキャラクターには必ずエピソードがあるはずなので。

――見ている時にも、あれ、このアウラ最初からいたかな? とは思ってたんです。

山本氏:  メル君らしさはあるので、一応は分かると思いますが。

――そうですね。装備が同じだし。

山本氏:  黒魔道士で、髪に入っているメッシュも同じなのでメルかな? という感じはするんです。

――これは「FFXIV」をプレイしていないと気付かない面白さですね。

山本氏: そうですね。「FFXIV」をプレイしている人なら幻想薬使ったかな? と思ってくれると思います。突然変わったぞこいつ、っていう人もいるんでしょうね、多分(笑)。

――さっきまでいた猫はどこに行っちゃったんだろうっていう。

山本氏:  そこまで見てくれたら逆に嬉しいですけどね。

――ほかの声優さんたちのキャスティングも、監督が全部決められているんですか?

山本氏:  声優さんは専門にキャスティングしてくれている人がいます。そこは何の心配もなくお任せしています。

――実際の会話はテキストチャットで行なわれているじゃないですか。例えばきりんちゃんの「にゃんにゃんぷー」の言い方なんかは、監督が指導されるんですか?

山本氏:  「にゃんにゃんぷー」は無数に録ってます。ドラマ版の時から5、6パターンは録っているかも。悠木さんに「にゃんにゃんぷー」お願いしますというと、いろいろなパターンでやってくださるので、いいのが出たら「あ、それいいです」って止める感じです。「にゃんにゃんぷー」だけ何度もリフレインしてもらってるので。何が違うか、本人もわからないかもしれないですけど。全部違うんです。

――どういうイメージだったんですか?

山本氏:  シチュエーション次第かなと思っています。今回は「にゃんにゃんぷー」という所が3回あるんです。インディとサスタシャ前で「にゃんにゃんぷー」と言うところは、任せてねっていう意味の「にゃんにゃんぷー」なのでそういうニュアンスです。イフリートに行く時の「にゃんにゃんぷー」は、タンクとして仕事するぞ的な、「いくぞ!」的な感じの「にゃんにゃんぷー」なので、ちょっと声にも張りがあるとか、そういうよくわからない微妙なこだわりです。でも、全部違う音声ファイルなんですよ。

NPCや背景のモブの動きにもこだわり

――そういえば、背景に映っている人のなかに踊っている人がかなりいましたね。あれは意図があるんですか?

山本氏:  エンドレスの動きをさせたい時にはやはり踊りかなと。後は見ていて可愛いじゃないですか。試写会に来てくださった方がTwitterで可愛いところがよく推されていると言ってくれていたんですが、装備や種族的な見た目だとかエモートは、一般的に見て可愛いと思えるものを入れていこうとしていて、踊りもその1つです。「FFXIV」って踊りがたくさんあるじゃないですか。ゲームをプレイすると、ああいう楽しみ方もあるんだと思ってもらいたいなという、少しよこしまな想いもあって入れてみました。
 ベスパーベイでは「ボム踊り」を踊っているララフェルがいるんですが、実はあれには裏設定があるんです。ベスパーベイに大きなララフェル像があるじゃないですか。彼らはララフェル像詣でをしているララフェルという設定なんです。一応仲間としてミコッテもいますが、彼女は立って見ているだけなんです。ベスパーベイはNPCが多いので、人がたくさんいる場所を見せるにはちょうどよかったです。

――グリダニアのバノック練兵所では、お父さんが来るときに他にも新人ぽい人が走り回ってましたね。

山本氏:  あれは同じような新米冒険者のつもりです。「どこに行ったら良いのかな?」みたいな。後はベテランの冒険者が単純に木人を叩きに来ているとか、そういう色々な設定で置いています。

――ライブサーバーらしさが出ていましたね。

山本氏:  誰かが動かしている感が絶対に必要だったので、あえてあそこを選びました。あそこでずっと訓練しているやつらがいるんだぞという所を見せたかったんです。好きなんですよね。たまに僕も行くんです。上で槍を突いている奴とか。

バノック練兵所にいる壮年の新兵

――あのNPCだけ声が入っていましたね。

山本氏:  わざわざ入れたんですよ。しかも結構こだわって、2テイクも(笑)。年寄りの顔をしているので、最初声優さんがベテラン冒険者っぽい声でやったんですが、そうじゃないんです。この人新米なんでもっと軽くやってくださいと。

――主演の方たちの演技もすごかったですが、周りも見ていて楽しかったです。

山本氏:  あそこもNPCが意外に多いので絵としてはすごく映えるんです。

――キャラクターへの表情の付け方がすごいなと思いました。TVドラマ版のノウハウが生きたといったところですか?

山本氏:  表情に関しては結構手探りな部分がありました。こうやったら、こうなるんだと色々やりつつ。完成した今になっても発見があるんです。マイディーさんがブログに書いていましたが、この間ついにリップシンクの秒数を自由自在にできることを発見したんです。本当にやりながら発見していく感じなので。表情なんかも、この流れでいくとこう見えるっていうのが、もうそういうゲームをやっている感じですね。

――操作にはマクロを使っているんですか?

山本氏:  マクロだけでやると不自然になるので、その間に別のエモートを入れたりします。この動きでウェイトを2秒入れておくとこうなる、とか。メンバーはみんなそれぞれ自分なりの方法でやっているので、誰1人として同じことはやっていないという。

――だからこそ、バラエティ感があってCGに見えるということなのかもしれないですね。

山本氏:  そうですね。モーションキャプチャではないですが、動かしている人がいて、種族的な動きの違いもあるので、それが自然に見えるポイントかなと思います。

――日比谷のイベント(参考記事で吉田(直樹氏、「FFXIV」プロデューサー兼ディレクター)さんが、ポリゴンの埋まりが気になるところがあったと話していましたが、あれはどういったところだったんですか?

プレイしていると当たり前になって気付いていないこともあった、と山本氏

山本氏:  たとえば家の中で撮影するときには床の座標がゼロになっていて、この上にじゅうたんなんかを敷くと、立っているキャラクターは足が埋まらないように座標が+1とかになっているんです。でも座るエモートを使うとゼロに戻るので、一瞬頭の位置がガクっと下がるんです。

 撮り方によっては、一瞬頭が下がる数フレームを編集でカットすることで自然に見えるんです。それができるところは編集して、できないところは撮り直しというのをいちいちやっています。歩き出しも同じで、最初に一瞬下がるのでそこを全部切って、歩き出しのぶぶんだけスローモーションにすることによって緩和されたりといったことを編集の人と延々とやっていました。

――フレーム単位で編集してるんですね

山本氏:  そうです。立ち上がりの時はこの数フレームを切るといけるとか、座りはこれでいけるとか。だいたいノウハウがありますね。

――ゲーム内のキャラクターが着ている服はどのように選んでいるんですか?

山本氏:  普通の人にプレイして欲しくて、今回かわいい系を多少押したので、こんな可愛い衣装を着てみたいと思ってくれたらいいなと。

――服は自分で用意するんですか?

山本氏:  リストを作って発注すると翌日来るみたいな感じでした。

――コーディネーターが必要なところですね。

山本氏:  しかもカララントも用意してもらって、色も変えられるようにしました。ここはあるちゃんの力が強かったですね。じょびネッツアのメンバーのキャラクターを把握しているので、この子はこういうのは着ないというのがわかるわけです。そこには割と気を使っています。

ビギナー装備がもらえる初心者の館

――インディがサスタシャに行く前にちゃんと初心者の館でもらえるビギナー装備に着替えていましたよね。

山本氏:  あそこは当然ビギナー装備ですよね。

――ああいうのはゲームをやっている人にとっては面白い所だと思います。

ツイスターやドレッドナイトを避けながらの撮影

――今回の撮影の中で、ここが一番苦労した、難しかったとこはどこですか。

山本氏:  やはりツインタニアですね。ボス戦は全部難しかったです。イフリートはそうでもないかな。最初のブルートジャスティスとツインタニアはめちゃくちゃ大変でした。

――ブルートジャスティスは、冒頭にちらっとしか出ていないのに、そんなに大変だったんですか?

山本氏:  撮影を開始するまでにある程度ちゃんとバトルもしなくちゃいけないという。出てからは怒涛の攻撃で、向こうは待ってくれないので、みんなとあっちだこっちだとわちゃわちゃしながら。合体シーンの撮影がうまくいかなかったり全部撮り直しですから、またやり直して。開発環境にいたわりには、ボス戦でやっていることは前とかわらなかったですね。

ブルートジャスティス

――そんなに何度も撮りなおしたんですか?

山本氏:  向こうは待ってくれませんからね。同じ攻撃を繰り返してくれるコマンドがあればいいんですが、そんなものはないのでボス戦は本当に大変でした。

――あのブルートジャスティスはノーマルですか?

山本氏:  ノーマルです。

――難しいと評判だった「律動編」の4層ですものね。

山本氏:  音の収録も大変でした。ひとつひとつのギミックの音を個別に録るんですが、それが大変でした。音を録る時には、まわりが動くとSEが入ってしまうので「一歩も動くな、抜刀もするな」と。みんな素立ちのままで、ブルートジャスティスがガトリング撃ったりしているのを、僕が延々と収録するという。

ツインタニア

――ツインタニアでも同じような苦労があったんですか?

山本氏:  ツインタニアは、今回はフェーズごとに撮影しています。ダイブボムまで、ダイブボム、その後と。ダイブボムも来る回数が決まっているのでなかなか大変でした。狙ったとおりに行かないというか。こっちのアイテムレベルがどれだけ高くても、攻撃をくらうと吹っ飛ぶじゃないですか。撮影中に吹っ飛ばされて「撮れねー!」と。何度も何度もやりました。

 ツイスターもあれ、どれだけレベルを上げても普通に死ぬんです。ドレッドナイトも一撃で死ぬうえに、インビンシブルのような無敵技も無効化するんですよね。ツインタニアはほんとに強いなと思いました。

――ツイスターやドレッドナイトを回避しながらの撮影なんですね。

山本氏:  もし僕にドレッドナイトが来たら絶対に倒せというのが至上命令でした。死にますから。戦いながら撮影って、異常な撮影現場ですよね(笑)。僕はUIを全部消しているので、ツイスターも詠唱が見えないんです。でもここで来るというパターンは分かるので、とにかく動こうと。主観のまま動いていると、ぶわーっと出てきて気付いたら死んでいるということもよくありました。そうなるとまた第1フェーズからやり直しです。本当に膨大な時間がかかってます。あれをやったからこそ、開発チームの苦労もわかるというか。

ツインタニア後半はツイスター、ドレッドナイトと即死ギミックが目白押しだ

――何か月もそれを繰り返すんですものね。

山本氏:  日比谷のイベントで祖堅さんが、ここの音の処理がどうとかこの音の付け方がどうとか、そういう話をしていたじゃないですか。そういうことをずっとやってるんだと思うと、大変だなと思いますね。

バノック練兵所は監督お気に入りの場所

――映画の中で、一番気に入ってるシーン教えてください。

山本氏:  細かいことなんですが、バノック練兵所の倒木の中から、マイディーたちが見てるってシーンがあるんですが、あそこはすごく気に入っています。

――あるちゃんときりんちゃんが交互にジャンプしながら、マイディーさんといっしょにインディを見守るシーンですね。

山本氏:  あそこはすごくライブ感があってよかったなと思ってます。倒木の隙間からマイディーが見ている。アルちゃんときりんちゃんが飛んでいる。そこから、カメラが引いていって、新兵が4人が見えて、そこにNPCではないプレーヤーが入ってきて、さらにお父さんが現われて周囲を見回す。この一連の流れが、すごいよくできたなと思いました。やっていることが、まじで実写と変わらんなと。

 何気ないシーンなんですけど、キャラクターを動かしてくれているみんなの一体感があったなというところが好きです。もちろん僕も、止まり方を間違えたらNGなので。主観視点で下がりながら、フレームのここにこれが映ったら止まるというのを決めてやっていました。本当はマーカーがあればいいんでしょうけど。マーカーも映ってしまうので画面の情報だけでやっていました。

バノック練兵所

――全員の演技がぴったりはまったんですね。

山本氏:  エモートの数を減らそうかなと思うことはたくさんあったんですが、それをやるとつまらないなと思って頑張りました。後はマイディーさんが羅刹衝でお父さんを助けるシーン。あそこも主観でマイディーさんと並走しながら後ろ向きに走るんですが、木があるのでぶつかるんです。止まっては撮りなおしで、カメラがうまくいったら今度はマイディーさんの羅刹衝のタイミングが合わなかったりと、2人で延々やりました。でもそのおかげで迫力のあるシーンが撮れたので、あれは気に入っています。

――ああいうシーンは実写ではどうやって撮影するんですか?

山本氏:  多分実写もほとんど同じです。ああいう撮影って、手持ちでやる以外ないんですよ。カメラマンは後ろが見えないから、本来ならアシスタントが全部整理してくれるんですが、ゲーム内では僕しかいないので全部自分で処理しつつ、役者と息を合わせてやるという。実写と変わらないということですね。伝わらないかもしれないですが、我々としての満足感は高いです。実写でもなかなかああはできないぞというところは、分かる人にはわかると思います。

――絵作りとして、満足いくものができたということですね。

山本氏:  その場で一緒にやってるからこそできたと思います。あれをチャットで伝えるのは無理ですね。こう撮りたいというのは伝えてあるのでみんな分かっていますが、その通りに撮れるかどうかは、僕のコントローラーさばき次第なので、みんな「監督ガンバ!」みたいな感じで。プレッシャーはありますが、僕が頑張れば、ほかの人も頑張るしかないので、そこは意地というか実写もエオルゼアも変わらない部分です。

――今回、実写パートとのつながりの中で、ポーズを合わせたりというシーンがありましたが、ゲームパートから実写パートへこうしてくださいと要望したことはありますか?

山本氏:  お互いずっと話し合いをしてたので、当然両方はありました。例えば、アキオがこっち向きならマイディーもこっちを向く。走りに関しても、マイディーが走るところはウルダハなので、設定上は右から左へ行きたいですというのを伝えて。だから実写もそう走ってますよね。もちろん実写でも走れる場所次第ではあるので、どちらでもいいとは言っていたんですが。

 最初のブルートジャスティスを倒した後の、「よし!」というカットも、アキオの「よし!」となるべく同じ構図にしたかったので、サイズ感を調節して見せたりとか。これ以上引くと後ろにララフェルが映ってないとおかしくなるから、ウェストアップが限界ですとか。そういう意見の交換をしました。

――ポーズ合わせはそういった作業を全部やっているんですね。

山本氏:  チャット画面の大きさもそうですね。文字を何行にします、何文字にしますかとか。今回はドラマ版と違ってフルネームで表示するので一行目が短いですとか。そういうのを全部言って全部テストしました。

――チャットはちゃんと読めなければいけないですし、大変そうですね。

山本氏:  そうなんです。長すぎてもいけないし、短すぎてもいけない。画面にこう映るというコンセンサスをお互いに持ってやっています。

――実写パートの役者さんの演技について、監督から注文を付けたところはありますか?

山本氏:  吉田鋼太郎さんに関しては、ゲーマーなのを後で知りました。素人らしさについては、マイディーさんが指導していましたね。坂口健太郎君に関しては、僕らの撮影現場に来て、どういうゲームか触って帰って行きました。佐久間由衣さんも来ました。彼女はあまりゲームをやったことがなかったので、まずはどういうゲームかを教えてちょっと動かしてもらったんですが、結構ゴリゴリやるタイプでした。それを観つつこういう時にはこうですよと教えたり。みんなゲームに親しみがある人たちでしたので、特になんの苦労もなかったです。

――今回の映画を経て、次にやってみたい、挑戦してみたいということがもしあれば教えてください。

山本氏:  僕がそこはかとなく不安なのは、実写の仕事に戻れるのかなと(笑)。ゲームでこういうことができる仕事が増えるといいなと、純粋に思っています。こういうエオルゼアパートのような撮影方法でYouTubeの動画が作れないかなと。なんてことない日常生活を見せる3分くらいのアニメってあるじゃないですか。ああいうのができるようになったと思うので、それを延々作れたら幸せだなと。単なる趣味ですが。

――YouTuberとしてってことですよね。

山本氏:  そうですね。実際はどうかわからないですが、やってみたいとは思っています。作品としてどうってことではないんですけど。

――あくまで趣味としてということですね。

山本氏:  映画やドラマって水ものというか、これからどうなるのかよくわからないので、次はこれがやりたいというものはないですね。できれば、せっかくゲームのお仕事でやってきているので、ゲームに関わる実写ものだったら出番はあるかなと思っています。

――最近はゲームも主演俳優を紹介するようなものが出てきて、どんどん映画との垣根がなくなってきている気がします。E3ではキアヌ・リーブスさんがゲーム内にキャラクターとして出演することが大きな話題になりましたし。実写の撮影技術をゲームに活かしていくチャンスは、どんどん出てきそうですね。

山本氏:  確かにそうですね。

――プロの視点から、ゲーム内で動画を撮影しようと思っている人たちへのアドバイスをいただけますか?

山本氏:  恐れ多いですけどね。これは作家性にもよるんですが、せっかくリップシンクがあるのだから、僕は声があった方がいいと思うんです。僕らが自主製作映画をやってた時にも、8ミリの無声映画のようなものもあったんですが、やはりアマチュア感がぬぐえないところがあって。下手でもいいからきっちり音声で芝居をするっていうことをやっていった人たちが、どんどん技術力を高めてのし上がっていきました。

 アフレコに関してはそれほど難しい技術が必要ではないので、恐れずに声を出して芝居をして欲しいと思います。僕が言えるとしたらそのくらいかな。みんな上手い声優の声ばかり聴いているから、「こんなのできない」と思うかもしれませんが「できるよ」と。

 僕は自主製作映画の出身で、超下手くそな素人芝居みたいなものを延々とやってきたから、なんとかなると思うんです。もちろん「僕の作品は字幕でも大丈夫」という人もいると思いますが、せっかく「FFXIV」でやるなら台詞にしたほうが臨場感があると思いますし、面白いんじゃないかと思っています。編集しがいがあるので、そういうコンテンツですよね。

――リップシンクにいかに声を合わせるかというゲームですね(笑)。

オーバーパワーなマシンだからできることが広がる

――TV版ではGeForce GTX 980MのSLIを搭載したゲーミングノートでしたが、今回はGeForce RTX 2080 Tiのデスクトップを撮影に使用されたと伺いました。世代が変わって、かなりパワーアップしていたと思いますが、使用されていかがでしたか?

山本氏:  ちょっとオーバースペックかなと思いました。「FFXIV」にこれがいるかなと思ったくらいで。撮影に関してはなんの問題もなかったです。今回はメインモニターと収録用のキャプチャー画面の2画面で使用しましたが全然問題なく動きました。4Kで、なおかつ120Hzでもまったく何事もなく動いてどうなってるんだと(笑)。

今回撮影に使ったものと同系のPCとモニター、キーボード

――撮影は4Kの120Hz環境だったんですか?

山本氏:  4K/60fpsとフルHD/120fpsの2つで撮影しました。メインは120fpsの方ですね。景色や人が動かないところは、4Kで撮っているところもたくさんあります。なるべく滑らかにしたかったので、フレームレートを上げて撮るために、解像度は下げたんです。そうすることで負荷がなくなるので。

――4K/60fpsで2画面となると、やはりこのくらいのスペックが必要になってきますね。

山本氏:  自分が使ったパソコンと、劇中で坂口さんが使っているパソコンが同じなんです。だから2台借りてもらいました。

――以前のノートと比べて、編集作業の効率などは変わりましたか?

山本氏:  スペックが上がっているので、全然違いますね。今は宣伝用のTwitter動画やYoutube動画を作っていますが、昔だったらレンダリングしなければ動かなかったところが普通に動くので、レンダリングの意味が減っていますね。

PCなら、4Kの画面で広大な景色を楽しみながら快適にプレイできる

――映画のクオリティと同じ風景を見たいなら、やはりPCでのプレイがおすすめということですか?

山本氏:  ゲームは好きだけど、PCを自作するほどの興味はないという人は結構たくさんいると思うんです。僕もそうですし。そういう人はBTOPCを購入するのがお手軽でいいんじゃないでしょうか。

山本氏:  昔は映画を作るのにGeForceは使わなかったんです。でも今は逆にGeForceですね。ソフトが対応してきたので、実写ではRTX 2060があれば十分映像制作ができるので、映像制作をやっている人の中では今はGeForceが割とトレンドな気がします。2080までいくと、やれることは相当増えるなと思います。たぶん4Kのレンダリングでは相当スピードが違うんじゃないでしょうか。僕は4Kでゲームをするのが割と好きで、ちょっと横長のモニターで左右にUIを配置するとプレイエリアが広くとれて快適です。PCはそういう選択肢があるのがいいですね。映画の中ではアキオが会社で使っているモニターとネットカフェのモニターもゲーミングモニターなんです。営業が使うモニターじゃないという(笑)。

――ゲームをする人や、映像制作をする人に向けてPCのオススメポイントを教えてください。

山本氏:  また2年くらいすると変わってしまいますが、今なるべく最高のものにしてしまえば、我々の世界なら5~6年は使い続けることができます。いい時代ですね、なんの問題もなく動くし。映像を作るにはお勧めです。これでadobeのソフト関係も一通り動かしていますが、After EffectsやPremiere Proなんかはものすごく早いです。昔は、レンダリングをしておいて、「風呂に入るか」という感じだったんですが、今は服を脱ぐ前に終わりますから風呂に入る余裕がない(笑)。「こんなに早かったっけ?」という感じです。今はmpeg4が多いですが、圧縮率が高いので時間がかかっていたはずなんですが、とにかく早いですね。

――マシンパワーさまさまですね。

山本氏:  道具と言うことで考えたら、カメラにお金をかけるよりは、今はパソコンにかけたほうがいいんじゃないかと思います。カメラを買うと、次はレンズにいっちゃいますから、それよりは安いです(笑)。

アキオが職場で使うモニターにも同じゲーミングモニターが使われている

――キャプチャーには何を使われているんですか?

山本氏:  今回も外部出力していて、ATMOSというメーカーの「SUMO19」というレコーダーがあるんですが、それでやっています。

――まえは「SHOGUN」でしたよね。

山本氏:  あれの上位互換です。

――今回撮影用にどのくらいの機材を借りたのですか?

山本氏:  ノートを含めて、マウスコンピューターさんから33台のパソコンを借りてもらっています。キャラクターはモブキャラであってもやはりログインしなければいけないし、誰かが操作しなければいけないということで。通常だと助監督がするんですが、エキストラまで統括しています。マウスさんから借りたパソコンを一室にずらっと並べて、スクウェア・エニックスさんと繋いで操作していました。

――その環境を作るだけでも大変そうですね。

渋谷氏:  そうなんです。2月7日からベースの構築が始まって、山本さんと話をして、クランクインは2月18日にして、そこから1カ月以上かけて撮影しました。その期間中のマシンをすべてご提供いただいています。マウスさんがいなければ、撮影ができませんでした。映画の宣伝ではあまりそれを話す機会がなかったんですが。ただ実際は本当にエンドロールの協力企業の中で、マウスさんだけ4倍くらい大きくしたいというくらいご協力していただいています。

――撮影環境もご自分たちで構築されたんですね。

渋谷氏:  実写パートとエオルゼアパートの撮影は完全に同時進行だったので、たとえば実写の方からこういう撮影をこのアングルでするんだけどという話がきて、山本さんのほうで急遽エモートを作ってそれに合わせて実写の絵作りをするとか。そういう作業があったので、山本さんはほとんど実写の現場にはいけなかったです。

山本氏:  ほぼ同時だったんですが、画面に関してはこちらが先行しないといけないので、こちらで作ったファイルにどのシーンで使うのかを書いて送りました。

実は一番作るのが大変なチャット画面

――実写パートでちらっと映るゲーム内の映像もすべて山本さんが作られたんですか?

渋谷氏:  ドラマ版の時は、違っていたんですが、映画版ではそこも山本さんが作っています。

――あの画像は本当にゲームをしている臨場感を出すのが難しそうですね。

山本氏:  そうですね。UIもそうですし、立ち位置もエオルゼアパートと密接に関わるので、全く違う場所にするわけにはいきませんから違和感がないようにしなければいけないし、天候も同じにしないといけない。まあ、僕がやるのが一番いいなと思ったんです。だからどうせなら、エオルゼアパートをやりながら一緒にやれるかなと。

――テレビ画面からエオルゼアパートにフェードインしていくカットもありますね。

山本氏:  アキオの画面はマイディーさんがやっているのでいいので、エオルゼアパートの撮影の時に、マイディーさんの画面も同時に録画しました。

――なるほど。マイディーさんのUI付きの画面なんですね。

山本氏:  今回は上でアキオがプレイしていて、下でお父さんが同じ画面を見ているというシーンが多いじゃないですか。同じ場所で同じ事をやっているから、ここが別撮りだとすごく大変だと思っていたんですが、一緒に撮れるので思ったより楽でした。
 画面撮影で一番大変だったのは、実はゴリオの登場シーンです。あそこはマイディーとインディとゴリオが絡むので、3画面必要になると思って作ったんです。実際に使われたのはアキオと里美の絵だけでしたが。

――実はインディ視点の画面もあるんですね。

山本氏:  インディもログインしているから、下でお父さんがプレイしている絵があるなら必要になるかなと思ったんです。

――リアルパートではちらっとでもモニターが映れば画面がないといけないわけで、そこはかなり厳密に決めていたんですか?

山本氏:  現場前に再三にわたって打ち合わせをしています。我々が「美打(美術打ち合わせ)」と呼んでいる台本を読み込む会があるんです。通常はこういうゲームの画面といったものは、美術扱いになるので、どういう画面が必要なのか事前に全部発注をするんです。

――大道具や小道具のような扱いなんですね。

 その段階でここにはゲーム画面が必要です、ここには必要ありませんと全部洗い出します。野口さんからも「ここは要ります」と言ってくれて、どういう画面が必要なのかも全部話し合って、エオルゼアパートではこうなるのでこうしますか? というような意見交換を。だかそこは全部計画通りです。「そこは必要ないって言ったじゃないですか」ということはありませんでした。

――後から撮りなおすのは本当に大変そうですね。

山本氏:  狙いと違っているので撮りなおそうということは何カ所からありましたが、ここの画面がないということはなかったです。

山本氏:  意外とすごい時間がかかるというか、チャット画面ですらそうなんです。実はチャット画面って絵が地味な割にはすごく大変なんです。ミスタイプでNGになりますし、それから打つタイミングがあるじゃないですか。実際にはそれも演技なので。例えばお父さんが何かを言うことをためらって手が止まる。そういうスピード感も芝居になるので、実際は現場でやるべきなんですが、でも今回はそれも録画でやったので想像以上に大変でした。

渋谷氏:  チャットのスピード感は演出と直結するんですが、そこも現場で打っているのではなく、全部動画なんです。

山本氏:  何人かの方に「あのチャットの演出は試金石ですね」と指摘されました。今後あういうチャットの表現は増えるだろうから参考になると言っていました。日本人ってチャット文化があるじゃないですか。なので、そういうスピード感も無意識で伝わるらしくて、そこが、この映画ではよく出ているとよく言われました。

――エオルゼアパートの撮影と言ってもいろいろなパターンというか、バージョンがあって大変ですね。

山本氏:  さらにYouTubeの攻略動画も作ってますからね(笑)。

渋谷氏:  本当は1つでよかったんですが、監督のこだわりで2種類作っているんです。

山本氏:  だって里美は学者で、お父さんは吟遊詩人ですから。動画を見せる時には違う動画でないと意味がないんです。

――ジョブごとに違う動画を作っているわけですか。

山本氏:  里美に「これは動画を見た方がいいいよ」と言っておきながら学者の動画を見せないと意味がないじゃないですか。だから一応作ったんです。ただ映画には全く映っていませんが。

――全く映ってないんですか?

山本氏:  全く映ってないです。「ツインターニアー」って言ってたあれの学者バージョンが。一応、映してはいるんですが画面が出ないんです。

――演技をしている方たちは見ているわけですね。

山本氏:  そうです。

――その攻略動画はどうやって撮影したんですか?

山本氏:  じょびネッツアの方に学者と吟遊詩人で参加してもらって、その人たちにそれぞれ動画を録ってもらいました。そのデータを僕に送ってもらって、チェックしてみたいなことをやっています。

――山本さんも参加されているんですよね?

山本氏:  僕は普通に白魔道士でプレイしていました。そして普通に死ぬっていう(笑)。こういうゲーム画面が映る作品は、美術の用意が非常に大変なんです。知識がないとできないので。

渋谷氏:  監督としての技量は絶対に必要ですが、それ以外にやはりゲームそのものに対する理解が必要ですよね。

――マイディーさんや山本さんのように「FFXIV」のことをよくわかっている人が映画製作にかかわっているからこそ、「あるある」と思えるようなシーンが撮れるんですね。

渋谷氏:  実際、実写パートのスタッフにもプレーヤーがいますし、今回宣伝をしてくれるGAGAのチームもプレイを始めています。そういう意味では、作っている人、現場の人、宣伝の人がみんなプレーヤーです。出資者の中にもいます。

――最後に、映画のファンにメッセージをお願いします。

山本氏:  この映画はゲームで撮ったということをあちこちで言ってきたんですが、それがすごいことだと思っているから言ってはいるんですが、映画に関していえばストーリーを紡ぐための道具に過ぎないので、そんなに本当は言うべきことではないと思っているんです。昔で言ったら、このカメラでこのレンズでこう撮ったとか、こういう照明がでてこう当てたとか、映画って道具の歴史と分けて考えられないので、その道具の1つにゲームというものが入ってきたということは、僕の中ですごく嬉しいことですし、これからの映画にとって必要になってくるツールだろうなと思います。ある意味、その試金石としてこの映画を作りました。

 ゲームに関わっている人や、CGをやっている人とか、そういういわゆる今まで映画の中のメインストリートじゃなかった部分ってあると思うんです。映画製作の中でゲームとかCGってどこかちょっと日陰と言うか、我々からすると扱いづらかった分野だと思うんです。それがもう少しメインに出てきたというつもりではあります。そういう人たちに向けて、新しい映画の作り方をしていきたいと思っているので、そういう人たちに見ていただきたいと思っています。一般の方たちは坂口さんや、吉田さんが好きで見ていただければいいと思うんですが、まったくそうではない世界の人たちにも見て欲しい。今はこうなっているというのを知ってもらいたいなと。

 やはり映画の中には、どこかCGとかゲームみたいなものに対する拒否感があるので、そうではないんだよというか、今はこういうものが道具として使えるんだよと言うことが伝わるようにやっていきたいし、そういう人達が見てフィードバックしてくれたら嬉しいですね。ゲームの中で映画を作ろうって思っているプロの人たちっていると思うんです。その人達が見てどう思うかが非常に気になるので。世界中でそういうことをやっている人たちに見てもらいたいなと思っています。

――こういうホームドラマの中にゲームが出てくる映画ってとても珍しいと思います。

渋谷氏:  実際こういう作り方をするのはかなり難しいんですよね。ゲームに対する知識や理解もそうですし、監督の技術もそうだし、インフラもそうだし、権利者の理解もそうだし、そういう意味では珍しい映画だと思います。

山本氏:  映画の作り方をよく知っているプロや評論家がこの映画を観たらどう思うかが気になりますね。できればなにかつぶやいて欲しいです。

――ありがとうございました。