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東京モーターフェス2018にて「グランツーリスモ ネイションズカップ アジア・オセアニア選手権決勝」開催!!

優勝は安定した強さを発揮したRyota Kokubun選手の手に

10月7日開催

 10月6日から8日までの3日間、東京・お台場で開催された「東京モーターフェス2018」の会場において、「グランツーリスモSPORT」のアジア・オセアニア地区最速レーサーを決める「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ 2018 ネイションズカップ アジア・オセアニア選手権 決勝」が開催された。

 タイトルに「FIA」の文字があるように、これは国際自動車連盟公認の「eモータースポーツ」の国際イベントの一環として行なわれたもの。今年の6月から9月にかけてオンラインで行なわれた同レースのポイントランキングの上位30名によって、まずは10月6日に「ワールドファイナル出場決定戦」が行なわれ、今秋開催予定の「ワールドファイナル」に出場できる10名のドライバーが決定した。

 筆者が取材したのは、10月7日のネイションズカップ「アジア・オセアニア選手権 決勝」。これはワールドファイナル出場を決めた10名のドライバーたちが、アジア・オセアニア地区最速の称号を求めて争う最終決戦なのだ。

前日のレースでワールドファイナル出場権獲得の10名が決定

 そもそもこの「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ ネイションズカップ」は、世界を北米・中南米リージョン、EMEA(欧州・中東・アフリカ)リージョン、アジア・オセアニアリージョンと3つのリージョンに分け、それぞれのトップ10ドライバーを選出し、世界最速のドライバーを決める戦いだ。

 日本が属するアジア・オセアニアリージョンには、日本、香港、台湾、シンガポール、マレーシア、韓国、インドネシア、タイ、中国、オーストラリア、ニュージーランドと、10以上の国と地域が含まれている。6月から9月にかけて行なわれたオンラインのシリーズ戦においては、これをさらに日本ブロック、オーストラリアブロック、香港・台湾・ニュージーランドブロックと3つのブロックに分割。それぞれのトップ10にランク入りした選手により、10月6日の「ワールドファイナル出場者決定戦」が戦われた。

 ワールドファイナル出場権を得た10名の選手は、以下の通り。

日本ブロック

Ryota Kokubun(Akagi_1942mi)選手
Tomoaki Yamanaka(yamado_racing38)選手

オーストラリアブロック

Cody Nikola Latkovski(Nik_Makozi)選手
Matthew Simmons(MINT_GTR)選手

香港・台湾・ニュージーランドブロック

Kai Hin Jonathan Wong(saika159-)選手
Yat Lam Law(NegiFISH_NaF)選手

敗者復活戦Aブロック

Yuki Shirakawa(yukiku)選手(日本)
Shogo Yoshida(gilles_honda_v12)選手(日本)

敗者復活戦Bブロック

Daniel Holland(TRL_holl01)選手(オーストラリア)
Adam Wilk(Adam_2167)選手(オーストラリア)
※()内はPSNでのプレーヤーネーム。

 国別の内訳は、日本人選手4名、オーストラリア人選手4名、そして香港人選手2名となる。10月7日のネイションズカップ「アジア・オセアニア選手権 決勝」は、この10人によって最速の座が争われたわけだ。

ネイションズカップ「アジア・オセアニア選手権 決勝」に出場した10人の選手。このなかからアジア・オセアニア地区における最速のプレーヤーが決まる

3つのカテゴリ、3つのレース。アジア・オセアニア地区最速は、誰だ?

 今回のイベントでは、まずはMCの平岩康佑氏の紹介で、ドリキンことARTA Project(AUTOBACS RACING TEAM AGURI)でエグゼクティブ・アドバイザーを務める土屋圭市氏、「グランツーリスモ」の元アジアチャンピオンで現在はポリフォニー・デジタルで開発に携わるYAM氏、鈴鹿や岡山国際サーキットをメインにモータースポーツの実況を行なっているシャーリー半田氏が登壇。この4人によってプログラムが進められていった。

左からシャーリー半田氏、YAM氏、土屋圭市氏、平岩康佑氏。リアルのレース実況や解説に慣れたシャーリー半田氏、土屋圭市氏、そして「グランツーリスモ」の凄腕プレーヤーにして開発にまで携わるYAM氏による実況解説は的確で非常にわかりやすいものだった

 決勝は、1回の予選と、3つのレースによるポイント制で争われる。まずは鈴鹿サーキットを舞台に予選が行なわれ、そのタイムによってレース1のスターティンググリッドが決定。以降、各レースの順位は次のレースのスターティンググリッドとなるので、序盤でなるべく上位に入ったプレーヤーが有利となることは間違いない。序盤からひとつでも高い順位で終えることが勝利の条件となる。

 予選はレース1と同じくN500カテゴリーで争われた。これはカンタンに言えば、エンジン出力を500馬力前後にそろえた市販車クラスになる。使用タイヤは→ハードタイヤのうえ、市販車なのでコーナリング性能は高くないため、丁寧な走行が不可欠だ。また、1回以上のタイヤ交換が義務づけられているので、燃料消費による車体の軽量化、残り時間を見極めつつ、どんなタイミングでタイムアタックを仕掛けるか、という点が見どころとなった。

 結果は残り時間いっぱいで自己ベストを更新したポルシェ 911 GT3(997) '09に乗るRyota Kokubun選手が2分19秒738で1位、2位には0.151秒差でフェラーリ 458 イタリア '09に乗るKai Hin Jonathan Wong選手、3位にはJonathan Wong選手と1/1000秒差でホンダ NSX '17に乗るTomoaki Yamanaka選手が入った。以降、Tomoaki Yamanaka選手が4位、Yuki Shirakawa選手が5位と、日本人選手の健闘が光る予選結果。

 現実問題としてレース1は予選タイムを2分19秒後半でまとめた上位4台の争いになりそうだが、解説のYAM氏によれば、日本人選手は単独走行は速いものの、抜きつ抜かれつのバトルを苦手とする傾向があるとのこと。タイム更新に苦戦していたオーストラリア勢がどこまで巻き返すか気になるところだったのだが……。

 レース1は予選と同じクルマ、同じ鈴鹿サーキット、周回数は8周で争われた。序盤は予選通りの順位のまま、Kokubun選手が2位のJonathan Wong選手以下を引き離しての独走状態。レースが動きはじめたのは3周目だ。車体重量がタイヤの消耗に影響したのかタイムを落とし始めたNSXのYoshida選手を、メルセデスベンツ AMG GT S '15に乗るYamanaka選手がパスし、3位に浮上した。結果的にはこの後は上位陣には大きな波乱もなく、順位そのままでゴール。先行逃げ切りで独走を続け、ポール・トゥ・ウィンを見事に決めたKokubun選手の冷静さが光るレースだった。

予選では最後の最後にスーパーラップを決め、レース1ではポールポジションから安定してトップをミスなく走りきったKokubun選手。「自分のペースで走る」ことを信条とする同選手らしい勝利だった。しかし、本人は予選から眼鏡も曇るほどの汗だく
ポイントテーブル
1位2位3位4位5位6位7位8位9位10位
レース 1、212pt10pt8pt7pt6pt5pt4pt3pt2pt1pt
ファイナルレース24pt20pt16pt14pt12pt10pt8pt6pt4pt2pt

高度な戦略でJonathan Wong選手がレース2を征す

 レース2はサーキットをドラゴントレイル・ガーデンズ IIに移し、市販車ベースにかなりの改造が施されたグループ3カテゴリーで争われた。周回数は13。レース1でトップを獲得したKokubun選手はこのグループ3を得意としているといい、このままファイナルレースまでポイントランキングトップをひた走る可能性も見えてきていた。

 このレース2では2度のピットストップとソフト、ミディアム、ハードと3種類のタイヤを必ず1度は使わなければならないという義務が課せられている。タイヤをどのタイミングで交換し、どの順番で使うかがレース展開に大きな影響を与える。スタート時には上位4選手のうち、フォルクスワーゲン ビートル Gr.3のKokubun選手とスバル WRX Gr.3のJonathan Wong選手がミディアム、ポルシェ 911 RSR(991)'17のYoshida選手がハード、そしてメルセデスベンツ AMG GT3 '16のYamanaka選手がソフトを選択。つまりはYamanaka選手はグリップはよいが寿命が短いこのタイヤで、序盤のうちにより多くのアドバンテージを稼ぐ戦略に出たわけだ。

 そのYamanaka選手はファーストラップで思惑通りにJonathan Wong選手を抜き、2位に浮上。すると、ここでKokubun選手がコーナーをショートカットしたことに対し、0.4秒のペナルティが課せられるアナウンスが表示され、バックストレートで0.4秒間のアクセルオフという自動減速が適用された。これにより、Kokubun選手は3位、さらにはにシボレー コルベット C7 Gr.3にソフトタイヤを履くShirakawa選手にまで抜かれ、一時は4位にまで後退してしまう。

 首位に立ったYamanaka選手はソフトタイヤのメリットが生きているうちにある程度のマージンを稼ぐと、早めのピットインでタイヤをミディアムに変える。一方、はじめて追う立場でレースを展開していくことになったKokubun選手は、1度目のピットインでソフトタイヤを選択。ペナルティによって生じた遅れをほぼ取り戻し、首位へと返り咲いた。

Yamanaka選手が猛追するも、Jonathan Wong選手はそれを寄せ付けない。見事な戦略がハマってJonathan Wong選手がグループ3カテゴリーのレース2を征した

 しかしこのレース2でもっとも観客を沸かせたのは、Jonathan Wong選手だった。最後までソフトタイヤを温存していた同選手は、2回目のピットインでハードタイヤに履き替え3位に順位を落としたKokubun選手、そしてやはり最後にハードタイヤを履くことになったYamanaka選手を抜き去り、12週目で首位に立つと、そのままチェッカーを受け優勝。2位のYamanaka選手はタイヤのグリップが低下し苦しい戦いを強いられるも、なんとかKokubun選手を抑えて2位のゴールとなった。その差は0.049秒。車体半分の位置で並んでのゴールだった。

 試合後のインタビューでJonathan Wong選手は、他の選手はみんな最後にハードタイヤを履き、ペースが落ちると予想。自分は燃料消費によって車体が軽くなってから最後にソフトタイヤを履くことで、その寿命を最大限に延ばしつつ、アドバンテージを得るのが戦略だったと明かした。

レース2での反省を活かしたKokubun選手、独走状態でファイナルレースを制覇

 レース2を終えた時点ではJonathan Wongが10+12の22ポイントで首位、Kokubun選手は12+8の20ポイントで2位、そしてYamanaka選手が8+10の18ポイントで3位となった。ファイナルレースは獲得ポイントが2倍になるため、4位のYoshida選手、5位のShirakawa選手にも上位を狙える可能性が残っている。

 ファイナルレースに使われたコースは、富士スピードウェイ。クルマのカテゴリーはグループ1。19周を走るこのレースでも3種類のタイヤを使わなければならないため、レース2同様、タイヤチョイスのタイミングと使用順が順位に大きな影響を与えることになる。

 ファーストラップ、ソフトタイヤをチョイスしたポルシェ 919ハイブリッド '16のJonathan Wong選手、マツダLM55 VGT(Gr.1)のYamanaka選手を抑え、トヨタ TS050 ハイブリッド '16Kokubun選手がホールショットを決める。同時にスタート時の混乱で悪質な幅寄せがあったということでYamanaka選手に3秒のペナルティが課せられてしまった。

 一時はペナルティによって順位を落としたYamanaka選手だったが、すぐにソフトタイヤならではの速さを見せつけダッジ SRT トマホーク VGT(Gr.1)のYoshida選手を抜き、3位に復帰。一方、同じくソフトタイヤを履くJonathan Wong選手は前を行くミディアムタイヤのKokubun選手を抜く隙をずっとうかがっていたが、5周目のホームストレートでスリップストリームに入ることに成功。1コーナーで首位に立つ。

 5周目が終わったところでJonathan Wong選手、Kokubun選手ともにピットイン。前者はソフトからミディアムへ、後者はミディアムからハードへとタイヤを変えた。常にタイヤの条件では分の悪いKokubun選手だったが8周目にはJonathan Wong選手をかわし、首位に。

 Jonathan Wong選手は11周目の終わり、Kokubun選手は12周目の終わりにピットイン。それぞれハード、ソフトへとタイヤを履き替えた。これで残り6周のあいだ、Kokubun選手は2段階有利なタイヤでJonathan Wong選手と戦えるというわけだ。

 解説陣からはフィニッシュまでの6周もソフトタイヤが保つのかどうかという疑問の声も聞かれたが、圧倒的なトラクションを活かして首位に立つと、2位以下を引き離しにかかる。折しも14周目の1コーナーでは、Yamanaka選手がJonathan Wong選手をかわし、2位に浮上。ここからYamanaka選手とJonathan Wong選手がバトル状態に突入することで、周回ごとに首位との差は開いていき、まさにKokubun選手の思惑通りの展開になっていった。

中盤まではJonathan Wong選手より常に1段階不利なタイヤを選んでいたKokubun選手。しかしミスを極力抑え、ビハインドを最小限に抑えてぴたりと追尾。最後は満を持してソフトタイヤを履いたKokubun選手が独走を決めて圧倒的大差でフィニッシュ

 けっきょくこのまま5秒以上の差をつけてKokubun選手が優勝、2位にはYamanaka選手、3位にJonathan Wong選手が入った。レース2でのライバルの戦略を学習し、発展させると同時に、反省を活かして自分なりのレースを組み立てたKokubun選手の戦略は見事というしかない。

 ファイナルレースを終えてのネイションズカップ「アジア・オセアニア選手権 決勝」の最終的なランキングは以下の通り。ファイナルレースは獲得ポイントが2倍になるというルールによってYamanaka選手がJonathan Wong選手を抜き、総合2位へと浮上した。

RANKDRIVERRACE 1RACE 2RACE 3TOTAL POINTS
1Ryota Kokubun(Akagi_1942mi)1282444
2Tomoaki Yamanaka(yamado_racing38)8102038
3Kai Hin Jonathan Wong(saika159)10121638
4Shogo Yoshida(gilles_honda_v12)771226
5Cody Nikola Latkovski(Nik_Makozi)531422
6Yuki Shirakawa(yukiku)66820
7Yat Lam Law(NegiFISH_NaF)141015
8Matthew Simmons(MINT_GTR)42612
9Adam Wilk(Adam_2167)25411
10Daniel Holland(TRL_holl01)3126
大会終了後、優勝したKokubun選手、2位のYamanaka選手、3位のJonathan Wong選手を中心に、決勝戦を戦った10人が並ぶ。この10人は全員が今後行なわれるワールドファイナルへ出場する権利を持つ

 レース終了後には今大会のスペシャルアンバサダーであり、「グランツーリスモ」シリーズのプロデューサーを務めるポリフォニー・デジタルの代表取締役、山内一典氏が壇上でマイクを取った。山内氏は「『グランツーリスモ』の公式な国際大会は今日が初めてのこと。つまり今日この日がeモータースポーツのスタートとなります。僕は常々優秀な選手が走って初めて『グランツーリスモ』の世界は完成すると思っていました。この2日間の戦いを見て僕は『グランツーリスモ』を作ってよかったと思います。皆さんの頑張りが僕と200人の制作チーム、全員に部で200人にエネルギーを与えてくれたと思っています。皆さんお疲れさまでした」と語り、大会を締めくくった。

より劇的にeモータースポーツを演出「e-Circuit」

 最後になったが、今回のネイションズカップ「アジア・オセアニア選手権 決勝」における会場となった「e-Circuit」について触れておきたい。

シート背面に置かれたディスプレイには各選手の名前ととも走行状態が表示される。白い水平線の数は車速、赤いバーがブレーキランプ、中央に順位。ピットインや周回数なども表示され、とてもわかりやすい

 このe-Circuitは、10月6日から8日に開催された「東京モーターフェス2018」の期間中、トヨタが運営するクルマのテーマパーク「MEGA WEB(メガウェブ)」のライドスタジオに開設された、eモータースポーツ専用のサーキットだ。ステージ上には10台分のレースゲーム用コックピットが並び、正面の巨大スクリーンにはゲーム画面のほか、その両脇に各ドライバーの表情など、状況に応じてさまざまな情報、映像が映し出されるようになっている。

 また、室内のLED照明やフラッシュ、スポットライトがレースの内容に応じて点灯することでレースを盛り上げるだけでなく、各シート背面には、客席に向けて大型のディスプレイを設置。そこには車速やブレーキランプ、ピットイン、周回数といったそのドライバーの走行状態が表示され、現在レースがどんな状況で争われているのか、観客が理解しやすいよう配慮もなされている。

 特に感心したのは、どこに座っているプレーヤーが何位を走っているのかが、観客にひと目でわかる点だ。プレーヤーに思い入れを抱き、応援する楽しさを味わうにはかなり有効な方法だと思えた。

 eスポーツが今後、普及するにつれ、こうした「観客をより楽しませるための設備」を持つ専用の競技場の整備はひとつ重要なキーポイントになるのかもしれない。「東京モーターフェス」というイベントの一コンテンツとして組み込まれたことも含め、このe-Circuitを舞台に行なわれた「グランツーリスモSPORT」のイベントは、今後のeモータースポーツを考えるうえで、大きな意味を持つものであったと言えるのではないだろうか。

 次のページでは、レース終了後に行なわれた入賞者3名と山内氏へのインタビューの模様をお伝えする。

この日のレースは日本語だけでなく5カ国語でリアルタイムの動画配信が行なわれた。会場後方には各国語の実況解説者が詰めるコメンタリーブースが設置され、これも「サーキットらしさ」の演出に一役買っていた