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eスポーツはスポーツを超える? スポーツ関係者向けのeスポーツパネルが初開催
「eスポーツを文化にしたい!」 部活動のひとつとしてスポーツと共に成長していく未来
2018年8月31日 02:23
スポーツ産業の活性化を目的としたビジネス展示会「スポーツビジネスジャパン2018」では、カンファレンスも同時開催されている。今年から国内のeスポーツを支援する団体である日本eスポーツ連合(JeSU)が後援に加わったことで、スポーツのカンファレンスに、eスポーツを扱うパネルディスカッションが行なわれた。
「eスポーツはリアルスポーツを超えるのか?」といういささか刺激的なタイトルが付けられたeスポーツパネルでは、eスポーツビジネスに携わる4名のプロフェッショナルをパネリストに迎え、日本政策投資銀行の坂本広顕氏をモデレーターに、eスポーツのビジネスとしての可能性や、スポーツビジネスへどのようなインパクトを与えうる存在なのかが語られた。
セッションの内容に入る前に、どうしても書いておきたいのは、「eスポーツはリアルスポーツを超えるのか?」というセッションタイトルは、想定されうるタイトルの中でも最低だということだ。これはパネリスト側ではなく、主催側が勝手に付けたタイトルということで、露骨に反発するパネリストもいたほどだが、スポーツ関係者サイドが、正確にはタイトルを付けうるポジションにいる関係者、それを採決する権限を持つ関係者が、eスポーツに対して「この程度の煽りで丁度よかろう」という認識でいるということに軽いショックを覚えた。
彼らの潜在的な意識の中にあるのは、恐怖感、拒否感、嫌悪感、侮蔑感、あるいは別の何か、いずれにしても得体の知れないeスポーツという存在に対する負のイメージだ。今回のパネルは、eスポーツ識者による、まさにそうした“負の認識”を改めて貰うための第一歩となるような内容だった。
パネリストは、JeSU専務理事の平方彰氏を筆頭に、ビットキャッシュ代表取締役社長/eスポーツコネクト代表取締役社長 伊草雅幸氏、サードウェーブ取締役副社長 榎本一郎氏、スポーツブランディングジャパン取締役 醍醐辰彦氏の4名。いずれも国内のeスポーツシーンをリードする経験と実績のある人物ばかりだ。
パネルは、「eスポーツの今!」、「eスポーツは『スポーツ』なのか?」、「社会的なゲームのネガティブなイメージをどうすべきか?」、「eスポーツの未来」という4つのテーマに対して、数人のパネリストが丁寧に答えていくというスタイルで進められた。
「eスポーツの今!」を紹介したのはスポーツブランディングジャパンの醍醐氏。筆者がこの会社の存在を知ったのは、7月に行なわれた「ハースストーン」の東京大会「ハース ストーン選手権ツアー 2018 Tokyo Tour Stop」だ。
スポーツブランディングジャパンは、東京オリンピックや名古屋グランパスエイト、日本ハムファイターズのブランディングやプロデュースを担当しているほか、NFL、UFC、ESPNなど北米の人気スポーツの日本展開の一切合切を取り仕切っており、その延長線上でBlizzardと提携して、「ハースストーン」の大会運営を担っている。
筆者はHCT Tokyoを会場で取材したが、過去にアナハイムで行なわれた国別対抗戦や、アムステルダムで行なわれた世界大会とまったく同じレギュレーションで行なわれており、初運営にもかかわらずそのクオリティの高さに驚かされた。eスポーツの分野にスポーツのプロが入ってくる、そういう時代になりつつあるのだということを改めて気づかされた。
これは言い換えれば、この20年、ぬるま湯に浸りきっていた国内eスポーツ界にとっては黒船にも相当する出来事であり、イベント運営のみならず、広報、マーケティング、メディア、そして何と言っても選手たち。あらゆるレイヤーでスポーツのノウハウ、あるいは人材そのものが、eスポーツに流入してくることを意味している。波に呑み込まれて淘汰されることもありそうだが、トータルで見れば競争原理が働いて良い刺激になると思う。
「eスポーツは『スポーツ』なのか?」というビジネスサイドならではの問いかけに答えたのは、JeSU平方氏とビットキャッシュ伊草氏、スポーツブランディングジャパンの醍醐氏。
平方氏は、もともと電通でスポーツを担当し、独立後スポーツコンサルタントとして、現在のJeSUに繋がるJeSPAの理事に就任し、eスポーツの普及に努めている。JeSUは、今月マーケティング専任代理店に電通を指名したが、その橋渡し役を担っている人物だ。
平方氏は、“eスポーツアスリート”という点に着目し、「動体視力や反射神経を研ぎ澄まさないと勝てない、という意味ではアスリートそのもの」と回答。平方氏は具体的なエピソードとして28歳で格闘ゲームのプロを引退した選手を挙げたが、引退の理由は年齢に伴う動体視力の低下であり、動体視力をトレーニングで養う行為はまさにアスリートだと感じたという。
伊草氏が経営するビットキャッシュは、eスポーツファンならご存じの通り、プリペイド型電子マネー「ビットキャッシュ」で急成長を遂げた企業だが、今やeスポーツを本業の一部とするeスポーツ総合企業だ。eスポーツメディア「SHIBUYA GAME」を運営し、イベント運営ではもっとも長い歴史を持つJCGを子会社化、さらに国内有数のプロeスポーツスポーツチーム「CYCLOPS ATHLETE GAMING」を運営するeスポーツコネクトを傘下に抱える。
伊草氏は、その問いには正面から答えず、代わりに「CYCLOPS ATHLETE GAMING」の国内外での活躍や、大阪野田にあるというゲーミングハウスでの一日12時間にも及ぶトレーニングや、試合後の反省会などに振れながら「いわゆるPDC(サイクル)をしっかり回していかないとチームとしてまったく勝てない。このあたりがeスポーツのリアルスポーツと似て特徴ではないかと思う」とコメントした。
スポーツブランディングジャパンの醍醐氏は、直接運営に携わったHCT Tokyoを例に、「ただ、ゲームをやっているのではなくて、アスリートだと感じた」と追認しつつ、醍醐氏自身は、リサーチの段階からスポーツとの類似性があることを感じていたという。それはアスリートだけではなく、リーグ、チーム、スポンサー、ファン、メディア、そして放送権の売買といったビジネスサイドの話も含めてで、「まさにスポーツだ」と感じたという。
実際、Blizzardには、eスポーツの担当役員として元UFCの人間を入れたり、スポンサーセールス担当者をNBAから引っ張ってきたり、スポーツからeスポーツへの人材流入も起きているという。
醍醐氏の意見でおもしろかったのは、eスポーツはオンラインで行なわれるため、「世界とすぐ繋がれることが凄いと感じた」、という意見だ。リアルスポーツは、当然のことながら物理的な制約があり、バスケのようなチームスポーツで、場所や時間を問わず海外のチームと練習試合を行なうことは難しいが、eスポーツではオンラインで自由に繋がることができるのが凄いと感じたという。
実際にはこの意見はやや浅く、eスポーツでは、国内のトップ選手が練習相手に困るという問題が長年の課題として存在し続けている。言葉や文化だけでなく、練習時間帯のズレやレーテンシーの問題もあり、オンラインで繋がっていることは、必ずしも即対戦できるということを意味しないことが多い。ただ、視点も発想も非常にユニークで、eスポーツビジネスの水面下で、スポーツという側面から非常におもしろい地殻変動が起きつつあるのではないかという期待感を持った。
3点目の「社会的なゲームのネガティブなイメージをどうすべきか?」については、それぞれ様々な視点から意見が出されたが、独自の視点で語っていたのはサードウェーブの榎本氏だ。
榎本氏はモデレーターの坂本氏より提示された「ゲームの依存性」という問題提起に対して、「整えていかなければならないレギュレーションはたくさんある」と率直に認めつつつ、「ポジティブに考えて解決していけばいい問題」とした。
続けて障碍者をeスポーツアスリートに育成する施設ができたことについて問われると、自身が野球人だったことを踏まえながら、「女性やシニア、ハンディキャップを持った方と試合をしたことがない」と切り出し、「野球では同じグラウンドに立てないが、eスポーツならそういった自分とは立ち位置が異なる人たちとも繋がって試合ができるおもしろさがある」とユニークな視点でeスポーツの潜在的な良さを語り、「サードウェーブではそういう場をどんどん広げようと努力してる」とまとめた。
最後のeスポーツの未来についても話を主導したのはサードウェーブ榎本氏だった。榎本氏は、「eスポーツを文化にしたい」と繰り返し語り、その具体的なプランのひとつとして、現在準備を進めている「全国高校eスポーツ選手権」を取り上げた。
これはすでに発表されているように、ただ単に、高校生を対象としたeスポーツ全国大会を開くだけでなく、全国の学校に“eスポーツ部”を発足させるための支援プログラムがセットになっている。eスポーツ部の設立と、大会への参加を条件に、先着申し込み100校に対して、「League of Legends」のチームが編成できる5台のゲーミングPCを3年間無償貸し出しするというものだ。榎本氏は「気持ちとしては応募があっただけPCを送りたい」とも語っており、商売を度外視してでも文化として根付かせる、その一翼を担いたいという強い意志を感じることができた。
学校教育では、国から文化として認められた行為を教育の一環として部活動と認めている。eスポーツをこのランクまで引き上げるのが狙いだ。文化にこだわる理由は、自身の体験だという。野球がなかったらその学校に行っていないし、野球好きと巡り会うこともなかったという。つまり、野球が部活だったことで人生が変わったわけだ。その野球好きとは現在も付き合いが続いているというが、そういうリアルスポーツの良さを、eスポーツでも実現するために、学校教育の現場から変えていこうという壮大なプランだ。
エントリー開始は9月からだが、すでに学校から問い合わせが数多く届いており、予算を掛けずに学校にハイスペックPCを導入できる斬新なモデルとして、校長自身が賛同を示す高校もあったほどだという。ただ、校内の施設を使う以上、校長の独断で決めることはできず、教育委員会の教育長の認可も必要となる部分もあり、「一筋縄ではいかないかもしれない」(榎本氏)ということだが、「全国高校eスポーツ選手権」は、まさに日本のeスポーツの未来に大きなインパクトを与えうる事業として大いに注目されるところだ。
最後に各パネリストのコメントを掲載して本稿の締めくくりとしたい。
平方氏:環境整備という部分で、JeSUとして、選手の皆さんが輝ける場を増やしていきたい。実際に今TVで放送しているアジア大会でも、JeSUはまだJOCに加盟していないが、JOCの派遣として、初めて日本選手を送り出すことができた。来年、茨城国体では、47都道府県で予選を実施し、その勝者が国体の文化プログラムで大会をやるということにも着手している。引き続き選手が輝ける場を増やせるように頑張っていきたい。
伊草氏リアルスポーツを超えるかどうかという議論ではなく、リアルスポーツとの連携をもっともっと計れるのではないかと考えている。今年、大企業とeスポーツのイベントを実施した。それはeスポーツという言葉は使わずに、リアルなフットサルと「ウイニングイレブン」を連携させたもので、フットサルだけだと子供はいいよってなるかもしれないが、ゲームもあるよとなると親子が一緒になって遊ぶ。フットサルはお父さんが息子に教えるが、ゲームになると息子が親に教える。これは単なる一例だが、リアルなスポーツとeスポーツとの連携の一例。最近は「若者のなんとか離れ」という話をよく聞くが、ゲームをきっかけにリアルスポーツにもっともっと興味を持つという流れも生み出せるかもしれないと考えている。
榎本氏「全国高校eスポーツ選手権」で部を作ってくれた学校には、PCを3年間無償貸与するという“部活支援モデル”は、9月末までにJeSU公認PCとしてドスパラで発売する。そういったハードの販売から、LFSのような競技場の提供、競技団体への支援、大会の運営サポートなどをカバレッジしている。「eスポーツと言えばサードウェーブ」という形で、何かアイデアをお持ちの方がいれば、どしどしお声がけ頂きたい。
醍醐氏:今回唯一リアルスポーツ側の人間として参加させて頂いた。スポーツの知見をeスポーツに使って盛り上げていく、それはできるなと実感している。逆にスポーツの分野では、どこのリーグでも、プロスポーツでも、“ファンの高齢化”に苦しんでいる。そこの解決策としてeスポーツと連携していくのは大いにあり得るのではないか。どっちがどっちを超えるじゃなくて、お互いがお互いを高めていく。リアルスポーツ側の人間としてeスポーツを盛り上げていきたいと考えている。