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サードウェーブ松原氏が語るeスポーツの世界潮流と最新のビジネストレンド

いかにミレニアル世代にリーチしていくか? スポーツとeスポーツのWin-Winの未来

【スポーツビジネスジャパン2018】

8月30日、31日開催

会場:大阪ナレッジキャピタルコングレコンベンションセンター

 サードウェーブは、8月30日から開催されているスポーツ産業の活性化をテーマとしたビジネス展示会「スポーツビジネスジャパン2018」において、出展社としてスポーツ関係者向けのプレゼンテーションを行なった。

 ゲームに縁の無いスポーツ関係者向けの内容ということで、まったく知識がなくても理解できるように基礎的な内容が中心となっていたが、その中でサードウェーブがeスポーツの分野において目指しているポジションや、未来の方向性も語られていたためご紹介しておきたい。

サードウェーブ 上席執行役員 松原昭博氏

 セッションスピーカーを務めたのは、6月にサードウェーブに入社したばかりだというマーケティング担当の上席執行役員を務める松原昭博氏。もともとソニーでVAIOの販売を担当していた人物で、PCのマーケティングについては15年以上の経験を持つが、サードウェーブがPCの販売を上回る勢いで力を入れているeスポーツについてはまったくの未経験ということで、松原氏自身も勉強中だという。

 松原氏は挨拶代わりに、今年11月にアメリカシカゴで開催される「Counter-Strike: Global Offensive」の世界大会「Intel Extreme Masters Chicago 2018」の映像を公開し、米国でのeスポーツの盛り上がりをアピールした。

【IEM Chicago - Our new home! HELLO CHICAGO (Official Trailer)】

 サードウェーブはそのeスポーツに、2002年からスタートしたゲーミングPC「GALLERIA」の販売を皮切りに、PCゲームイベント「秋葉原PCゲームフェスタ」の開催や、JeSPAへのオフィシャルスポンサー就任、そして世界に繋がるeスポーツ大会「GALLERIA GAMEMASTER CUP」の主催と、eスポーツに関わり続けてきたことを紹介した。

 「でも、ゲームだよね?」という無言の声に対して、松原氏はゲームとeスポーツは似て非なる存在であることを説明。ゲームは、趣味や余暇として1人でコツコツ遊ぶ風景が含まれるのに対して、eスポーツは常に対戦相手や仲間を必要とするスポーツ競技であり、戦略眼や適応力、協調性、連帯感といったスポーツとしての効能が期待できるとした。

 また、別の側面としてアクセシビリティの柔軟性についても取り上げ、eスポーツは老若男女問わず誰に対しても開かれた存在で、性別、年齢、身体的ハンディキャップがあっても、同じ競技大会に参加でき、同等に競い合えることを強調。松原氏は、これらeスポーツの醍醐味を「挑戦と感動」とし、これを社のスローガンに掲げて全社一丸となって取り組んでいることを明らかにした。

【eスポーツに注力してきたサードウェーブ】

 続いて松原氏は、このセッションで聴講者が一番知りたいであろう、eスポーツがビジネスとして成立するのかどうかについての話題に移った。この点についての松原氏のスタンスは明快で、スポーツにおいて右肩上がりの成長を続けている数少ない分野という点と、ミレニアル世代(1980年代から1990年代に生まれた世代)にリーチできるという2点から、「大変有望である」と結論づけた。

 松原氏が調査会社のリサーチ結果から引っ張ってきた情報によれば、世界のeスポーツ競技人口は1億3,000万人以上。もっとも、うち9,000万人が「League of Legends」という時点であまり参考にならないデータだが、いずれにしても億単位で競技人口を抱えていることは揺るぎのない事実で、ゴルフ(6,500万人)や野球(3,000万人)を大きく上回り、クリケット(1億数千万)やテニス(1億人)と同等規模となる。この数字を上回るスポーツは、バスケットボール(4億5,000万人)とサッカー(2億5,000万人)しかなく、ビジネスとして非常に有望な競技人口を抱えているスポーツのひとつと言える。

 競技人口が増えるのに伴い、視聴者数も増えており、2018年で3億8,000万人に達し、2021年で5億5,700万人を見込む。この視聴者は、とりわけアジアが多く、全体の割合の実に53%を占める。ただ、現時点ではこの数字における日本の影響は小さく、中国、韓国、台湾が大きな割合を占めている。

 eスポーツの収入規模は2018年時点で約1,000億円。「たったそれだけ?」という気もするが、これはゲームコンテンツやサービス、ゲーミングPCやペリフェラルなど売上は含んでいない純粋なeスポーツ興行だけの数字で、eスポーツ全体の市場規模は、これより遙かに大きくなる。ここで重要なのは金額ではなく、放送権料が昨年比で72%も値上がりしているということで、eスポーツの分野においても、スポーツ同等の放送権料の高騰が始まりつつあるようだ。この収入規模の将来予測については、調査会社によって大きく数字が異なり、約1,815億円とも約4,387億円とも言われる。ともあれ、今後も右肩上がりは今後も続くと見られている点では一致している。

【右肩上がりに成長を続けるeスポーツ】

 この楽観的な観測の根拠になっているのが、eスポーツは「ミレニアル世代にリーチできている」ということだ。この点が斜陽化が著しいスポーツと、eスポーツの決定的な違いとなる。しかも、女性が4割を占め、男性のみならず、女性にも支持されている点も魅力的だ。

 ミレニアル世代が取れるかどうか、言い換えればマジョリティが視聴してくれるかどうかは、まさにスポーツにとって死活問題だ。スポーツの殿堂であるオリンピックも例外ではなく、ミレニアル世代の支持を獲得するために、スポーツクライミングやサーフィン、スケートボードなど、ミレニアル世代に支持されている競技を加えている。

【eスポーツの強みはミレニアル世代からの支持】

 こうした流れを受けて水面下で交渉が続いているのが、eスポーツのオリンピック公式競技化の動きだ。一面的には、eスポーツをグローバル規模で強力に推進しているインテルが、オリンピックの最高位のスポンサーに就任したことで、ゴリ押しするのではないかという見方があるが、eスポーツのオリンピック競技化はIOCにとってもWin-Winで、あとはどう軟着陸させるかだけが問題だ。

 松原氏は「大人の会話があるのではないか」と独特の表現で、その実現に期待を寄せたが、大きな試金石となるのが、2022年の杭州アジア大会だ。eスポーツが公式競技になることが決定しており、そこでうまく馴染めばその2年後に行なわれるパリオリンピックで、史上初の競技種目となる可能性がある。

 日本のメーカーとしてターゲットにすべきなのは、実はそれらではなく、そのさらに2年後、2026年の名古屋アジア大会だ。パリオリンピックでの実績を背景に、ゲーム大国である日本の威信を賭けて大々的にeスポーツを競技種目に盛り込む。サードウェーブが目指しているのは、そのタイミングで国内において中心的な役割を担っていることだ。今から8年後というと遠い未来のような感じもするが、ビジネスという視点でみればむしろ遅すぎるぐらいのタイミングなのだろう。

【そしてeスポーツはオリンピック公式競技化へ】

 松原氏は、世界のeスポーツの別のトレンドとして、米国やノルウェーでの学校教育の一環としての取り組みや、中国重慶やマカオでの都市開発にeスポーツを活用した事例などを紹介。翻って日本はというとまったく遅れを取っており、あらゆる点で極めて小さい規模に留まっている。松原氏は「これをどう見るか。ポジティブに見ればとてもチャンスがあるということ」と語り、とてつもないブルーオーシャンが眠っているマーケットであることを繰り返しアピールした。

【世界でのeスポーツを絡めた取り組み事例】

 実際、2018年は、eスポーツの20数年の歴史で、“もっとも大規模なeスポーツ元年”となっており、国内唯一のeスポーツ団体であるJeSUが発足し、多数のeスポーツ大会やリーグが誕生し、プロeスポーツチームが活躍の場を広げつつある。

 サードウェーブ自身も、「第2回 GALLERIA GAMEMASTER CUP」を主催するだけでなく、Rascal Jesterを買収し、プロeスポーツチームを自ら所有するようになっている。さらに、国内最大規模のeスポーツ施設「LFS池袋esports Arena」をオープンし、芸能事務所の浅井企画とゲーム部の活動を行なうなど、幅広い分野で活動している。

【国内でのeスポーツ分野の環境変化】
【サードウェーブの取り組み】

 そして今後の展開で、中核的なコンテンツと位置づけたのが、毎日新聞と共同開催する「全国高校eスポーツ選手権」である。8月30日に行なわれたパネルディスカッションでも、サードウェーブ取締役副社長の榎本一郎氏が語っていたように、商売っ気ゼロで文化事業として行なっており、「League of Legends」でチーム対戦が可能になるように、最大5台のゲーミングPCを3年間無料で高校に貸し出す。最低でも100校としており、500台以上のPCを無償で貸与する。

 榎本氏は、高校時代に野球部があったことが人生を決定づけたことを繰り返し語っており、このプロジェクトより生み出された高校のeスポーツ部が同じような存在になり、“ミズノのグローブ”、“アシックスのシューズ”などと同じように、“GALLERIAのゲーミングPC”を、高校生の心に強く植え付け、不動のナショナルブランドに昇華させようという“サードウェーブ百年の計”である。

【全国高校eスポーツ選手権】

 松原氏はまとめとして、サードウェーブはeスポーツビジネスに関してワンストップですべて賄えるメーカーになることを目指しており、最終的には、企業・自治体や、社会・コミュニティ、eスポーツ関連組織とのeスポーツバリューチェーンの一翼を担える存在になるべく努力を続けていると語った。サードウェーブのeスポーツ事業がどこまで成長していくのか引き続き見守っていきたいところだ。