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【devcom 2018】UBI Blue Byteが「ANNO」最新作とプロシージャル地形ツールを解説

ご当地感高まる欧州開催開発者イベントは独自路線へ

8月19日~20日開催

会場:Koelnmesse(独ケルン)

イベント会場のNRW州インディコーナー

 ドイツのケルンで開催されているGamescom開幕に先立つこと2日、本年は19日、20日の2日間の日程でゲーム開発者向けカンファレンス「devcom 2018」が開催された。devcomはGDC Europeやその後継イベントRespawnの流れをくみ、ヨーロッパを中心に世界各地からゲーム開発者が集うイベントだ。

 昨年は3日間の日程で開催されていたが、その規模は残念ながら縮小傾向。今年は当初予定より1日短縮されたうえに、フロアも1フロアのみとなり、なかなか窮屈なイベントとなってしまっていた。

 それでも、ケルンの属するノルトライン=ヴェストファーレン州がバックアップしているインディゲームの展示ブースが拡大したり、フランス政府の支援によってアフリカからのブース出展があったりと、なかなかにユニークだ。

 また経営難が噂されて以降、トルコ政府からの投資を受けたと報じられているものの、世界各地のスタジオを閉鎖し、GDCへのブース出展を取りやめて久しいCrytekがCryEngineの現況を披露する数少ない機会となっている。

 本稿では、そんなdevcom 2018の1日目となる19日の模様として、まずは2つのセッションをお伝えしたい。昨年は、開催地がヨーロッパというだけで、言ってしまえばGDCの簡易版といった印象が強いセッション構成だったが、本年はがらりと変わって、非常にローカル色の強い、これぞドイツといった内容のものが多く見受けられたので、そのあたりのところに注目してほしい。

【イベント会場アフリカコーナー】
ケニアからやってきたというモバイルゲーム

高性能プロシージャル地形生成ツール「World Creator 2」

Ubisoft Blue ByteのSenior Producer、Braun Mark氏

 ひとつめに紹介したいは、Ubisoft傘下のスタジオでケルンからもほど近いデュッセルドルフに本拠を置く、Blue Byteによる「World Creator 2」のデモストレーションだ。「For Honor」や「Settlers」シリーズ、後述する「Anno」シリーズで知られる同社だが、実は自社のゲーム開発の副産物であるこの「World Creator 2」を社外にもライセンス提供している。

 本セッションでは、フランス人作家Jules Verne作のサバイバルストーリー、いわゆるロビンソンクルーソーもの「Mysterious Island」(邦題「神秘島物語」ほか)に登場するリンカーン島を、「World Creator 2」によって3D化してみる、という趣向でデモが行なわれた。

同じく「World Creator」をエンジニアリングするStefan Kraus氏

 「World Creator 2」はプロシージャルにランドスケープを生成できるのが特徴のツールで、ハイトマップをペインティングの要領で加工して、おおまかに製作したテラインに対して、パラメータを与えると、積雪や降雨、斜面の滑落などの自然の事象をシミュレーションして、よりリアルで緻密な地形へと進化させてくれる。テラインの生成は、演算にGPUを活用していることから、精密なシミュレーションにもかかわらず、ほぼリアルタイムといっていいほど高速で、ものの数秒で結果が得られるのは驚きだ。

【World Creator 2】
ハイトマップからシミューレーションで地形にディティールを生成

 このテライン生成機能に加えて、テラインのハイトマップと、自然界の気象条件や物質の依存関係をノードベースのエディタで作成したものを与えると、生態系を表現するbiomeマップを生成してくれる。biomeマップからは、河川、湧き水、河川の流れによる堆積や侵食、降雨といった流体の動きや、地形から妥当に導き出される路面、気象状況に応じて繁殖する樹木といった事象がシミュレーションされ、最終的なランドスケープが生成される。

 このランドスケープは非常に美しく、またリアルに感じられる。ちょっとした絶景がデスクトップPCのパワーでプロシージャルに生成可能ともなると、欲しがる開発スタジオは少なくないだろう。

 ただし、プレゼンテーションを行なったBlue ByteのMarc氏によると、「World Creator 2」は決して省力化のためのツールではないという。あくまで、アーティスティックに作成しただけでは不足する情報量を、シミュレーションによって与え、よりディティールを持ったクオリティの高いテラインにするのが目的で、導入によってアーティストの作業量が減るといったことにはならないとしていた。

 また、ある程度他のツールからの類推は可能だとしても、「World Creator 2」固有の使用法を習得する必要もあり、初期データとして与えるテラインのハイトマップはアーティスティックに感性で製作できるものの、それ以降の段は、いわゆるテクニカルアーティストか、それに類するスキルを有する開発者向けのツールと言えるだろう。

 生成したテラインデータは各種ファイルフォーマットの画像データとして出力可能で、ハイトマップとして利用できるほか、類似ツールのTerragen形式や頂点やメッシュデータのxyz形式やobj形式もサポートする。ほぼすべてのゲームエンジンやDCCツール、スカルプトツールでインポート可能になっているから、データの出口で困ることはないだろう。さらにUnity開発環境向けにはプラグインとしても提供されており、Unityのアセットストアから導入することもできる。

 本ツールの開発には、かなり力が入っているようで、Ubisoft傘下といえども、ゲームのリリースサイクルには一定の周期が必要なことから、ゲームのリリースに依存せず、コンスタントに収益を上げる開発ツールをBlue Byteにとって大きな柱に育てたいのだろう。

 特定の領域にピンポイントで攻めるツールは、欧州を本拠地とする会社に多く見受けられる。ランドスケープのディティールを追求するツールで勝負できると確信できるのも、美しい自然に囲まれたドイツらしい発想のように感じられた。

【World Creator 2】
Biome(生態系)マップから流体、路面、森林といったサーフェイスを生成

箱庭シム「ANNO」シリーズ最新作「ANNO 1800」を解説

Ubisoft Blue Byteの「ANNO 1800」担当プログラマ、Johannes Eichner氏

 ふたつめに紹介したいのは、これもまたBlue Byteによるゲームタイトルで、いわゆる箱庭シミュレーション「ANNO」シリーズを題材にしたセッションだ。むしろオールドファンほど「ANNO」シリーズと聞いてピンとこないかもしれない。日本語版が発売されていた「ANNO 1701」までは「創世記」という邦題が付けられていたから「創世記」シリーズといえばわかる人もいるだろう。

 そんな「ANNO」シリーズは、1998年の「ANNO 1802」から2年から3年周期に時代背景の異なるバージョンが発売されており、Gamescom初日の21日には、来年2019年2月28日に最新版「ANNO 1800」をリリースすることが発表されている。

 この「ANNO」シリーズは素性が少々ややこしくて、第1作は当時オーストリアにあったゲーム会社Max Designが手がけている。ゲームから撤退したMax Designは本作の権利をドイツのパブリッシャーSunflowers Interactiveに売却、その後2007年に同社はUbisoftに買収されている。すでにUbisoft傘下であったBlue Byteが第2作を、以降3作~6作を同じくドイツのRelated Designsが担当した後、Ubisoftが2013年に今度はRelated Designsを買収、2014年にはBlue Byteと合併してBlue ByteのMainzスタジオということになっている。3作目の「ANNO 1701」以降は、現在のBlue ByteのMainzスタジオが一貫して手がけているということになる。

 本セッションでは、「ANNO 1404」を例に既存のタイトルに共通する「ANNO」ゲームシステム、それが「ANNO 2205」そして最新版の「ANNO 1800」ではどう変化したか解説されていった。

 「ANNO」の世界の住人たちは、ブロック構造を持つマップの中で、それぞれに行動ロジックを持ち、それぞれの行動原理に従って、生産的な活動と休息を繰り返している。ストーリーによってコントロールされる特別な事象が発生した際には、それに従って行動を変化させる。

【「ANNO」シリーズの概要と「ANNO 1404」】

 近未来を舞台にした「ANNO 2205」では、当然のことながら、あらゆる建築物が一新された。また交通システムの変遷により、人とビークルは当然のことながら動線が区別されなければならない。

 活動の最小単位時間も変更され、1ユニットが1分単位で結果を出す管理のルールから、複数のユニットで数分に渡って活動を行い結果を出すルールに改められている。

 活動の視覚化という点では、2205年のテクノロジでは、空中が高度に利用されている設定が導入されたため、4つのレイヤーに多層化されてビークルが移動することとなった。そのためコリジョンも従来の単一平面から各レイヤーごとに判定するように改められている。

【ANNO 2205】

 リリース前の最新版「ANNO 1800」ではどうかというと、群衆の見せる動きは、より多彩で人間らしい雑多な振る舞いをするように変更されている。ゲーム全体や個々の住人の状態管理も、より自律的な管理に改められており、カメラが捉えているときだけ、表示すべき状態の更新がなされるようになっている。

 列をなして移動するさまや、火事、暴動といった群衆が大挙して行動するときは、群衆が次に移動すべき対象のブロックを事件経過とともに変化させると、個々の住民が自律的に判断して追従していくシステムになっている。

 群衆の個々の住民同士や、住民と車両、車両同士の衝突判定は真円の平面同士で取られ、衝突しても回り込むようにして目的の移動先を見失わない。汽車が通過する線路では、道路との線路との交差に汽車が差し掛かる少し前から汽車が通り過ぎるまで、車両も住民も立ち止まるというやや例外的な挙動になっている。特に衝突判定の範囲について言及はなかったが、汽車の前方と後方に不可視の衝突判定が伸ばされていて、その衝突が発生した場合には立ち止まるように制御されているのだろう。

【ANNO 1800】

 解説された「ANNO」シリーズの近年の変更について、全体感としてはすべて順当なもののように思える。それぞれの話題に対して、さほど難しいことをしているわけでななく特に大きな驚きはなかったが、ゲームデザイン的にも、ビジュアルに要求的にも、最先端の技術が要求されるというものではないからだろう。特に難しいことをしていなくても、愛すべき箱庭の表現としては秀逸で、作りのいい古き良きPCゲームの印象がする。

 さて、この最新版「ANNO 1800」で近世の終わりごろまで回帰した「ANNO」シリーズだが、これで1400年代からほぼ100年おきに1800年代までの近世、そして空想の2070年と2205年の近未来と、15世紀以降のほぼすべての時代をやり尽くしたことになる。

 数字を足して素直に9にならないばかりか、たとえば1909年や1990年を許容するとしても、ドイツにとって何かと鬼門な時代背景であろうから、次は一気に1,000年ほど遡って、801年の中世ということになるのかもしれない。歴史考証の難しい側面もあるだろうが、史実にある程度目をつぶれば素朴なファンタジー世界は何かと都合が良い一面もある。北米のスタジオでは、マネはできても本当に説得力のある作品は作れないだろうから、ドイツ発の「ANNO」シリーズには、今後も欧州の雰囲気を大切にしてもらいたい。

SIE Santa Monica Studio、Cory Barlog氏

 その他、初日の冒頭の基調講演の流れのなかには、SIE Santa Monica Studioから「GOD OF WAR」のクリエイティブディレクター、Cory Barlog氏が招聘され講演を行なったが、ゲーム内容については抽象的なスピーチに留まり、どちらかというとゲーム開発プロセスにおける苦労話や、挫折感そしてそこから立ち直って得た教訓で内容の多くが占められており、メイキング解説的な話題は少なかった。

 それでも、ワールドワイド・スタジオプレジデントの吉田修平氏を招いてのお披露目をすることで、長い間かかってしまっていた戦闘のコア部分の開発を完了させようとしたエピソードは興味深い。初見で吉田氏がむっすりとした表情を見せたことからチームの動きが加速して、次のお披露目では無事に表情を和らげてくれたという逸話に、メジャータイトルのスタジオでも、こうした節目が原動力となることを知り共感する声があがっていた。

 ただ、コントローラーを握ってはいても吉田氏の視察時の立ち姿や表情が、1度目と2度目であまり変わらないのに対して、「変化がないように見えても満足している日本人の姿」というウィットに対して、会場の理解があったのかはわからない。

【Santa Monica Studio開発風景】

 思えば、NVIDIAのイベントの時も、アメリカ式のウィットに対して特に反応を見せないドイツ人の姿も多かった。Gamescom会場で、個々の試遊台にアテンドしているスタッフに対してプレイした人の感想はどうかと聞くと、ドイツ人はゲームを黙々とプレイするためプレイ中の表情は変わらず、プレイの持ち時間が終わると、名残惜しそうな顔も見せずに、そそくさと退場してしまうから、たとえゲームプレイ後でもスタッフの方から問いかけないと、なかなかプレイフィールを話してくれないのだという。

 イベントでもゲームでもツールでも、日本人に向けた施策が日本で必要なのと同様、ドイツ人に向けた施策がドイツでは必要なのだということを改めて認識させられた。日本人の視点では欧米をひとくくりに考えてしまいがちだが、今回のように「devcom」がご当地化するのも当然の流れというべきなのだろう。