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【devcom 2017】日本発のミドルウェア「Live2D」をオランダのインディ開発者が紹介
アニメ調キャラとは“似て非なる”絵画タッチのビジュアル表現
2017年8月21日 17:58
Gamescom 2017の開催に先立って、ドイツ、ケルンでは、本日20日(現地時間)から24日までの会期で、ゲーム開発者向けのイベントdevcom 2017が開催されている。devcomは、GDC Europeの後継ともいえる開発者イベントで、2014年から開催されているインディゲーム開発者イベントのRESPAWNを巻き込んで、装いも新たにスタートしている。
devcom 2017初日となる20日には、日本発のミドルウェアで、モバイルを中心に2Dキャラクター描画のスタンダードともいうべき地位を獲得している「Live2D」を、インディ開発者が自身の活用事例を交えて紹介するセッションが行なわれた。「Live2D」から想像するイメージとは、“似て非なる”ビジュアルへの応用事例であったため、ヨーロッパの開発動向としてお伝えしたい。
Casual Connect受賞作品「Herald」に採用された「Live 2D」
登壇したRidder氏は、自身がアートディレクターを務めたインディゲーム「Herald: An Interactive Period Drama - Book I & II」(以下「Herald」)を題材に、「Live2D」をヨーロッパの開発者に紹介していった。「Herald」といっても、筆者にはまったくピンとこないタイトルだが、Steamを通じて配信されているインディゲームで、Casual Connectが主催する2015年のアワードにおいて、アート部門にノミネートされたほか、ナラティブ部門ではウイナーに輝いた作品だ。
「Herald」の3Dビジュアルについては、インディであることを割り引いても、かなり残念な出来と言わざるを得ないものの、「Live2D」を活用した、キャラクター同士の対話イベントの2Dアニメーションには見るべきものがあった。
対話イベントのシステム的な作りは、ファミコン時代から脈々と受け継がれているオーソドックスなもので、キャラクターのバストアップとともに、キャラクターのセリフをウインドウに表示して物語が進行する。プレーヤーは、表示される選択肢から好みのものを選ぶことで、物語が紡がれていくことになる。このゲームシステムの部分だけを捉えると、キャラの魅力を最大化した、日本のモバイルゲームと変わりはない。
日本のゲームイメージと大きく異なるのは、キャラクターの描きかたの部分で、アメコミやディズニーアニメのタッチとも異なる、なんとも言えない“バタ臭さ”がにじみ出ている。日本のゲームでは、ちょっと考えられない、絵画調の塗りのタッチを残した2Dイラストを採用しているのだ。
この「Herald」の絵画調のビジュアルは、確かに2Dには変わりないものの、日本のアニメ調のものと比較して、なかなかに考慮事項が多い。ある種のリアルさを残したキャラクターは、肌階調の単純化も目鼻立ちの記号化もなされていないことから、目パチひとつとっても、まぶたのライン部分を動かすだけというわけにはいかないようだ。眉や瞳の動きと組み合わせて、複雑に表情を変化させている。
目や顔全体を左右に動かす時も、タッチを残した肌の塗りの部分に伸び縮みが発生しても違和感がないように描いているほか、大きな動きの際には、口の周りや、眉間、額に影やシワが浮かび上がるように、特別なパーツも用意している。
日本のアニメ調キャラクターも、愛情を込めて丁寧に作られているものも多いが、トータルでみて、「Herald」の「Live2D」アニメーションは、かなり芸が細かい。実際、1体のキャラクターをアニメーションさせる準備(セットアップ)に5日~10日もかけており、絵のテイストの性質上、テンプレートを適用して、そぐわない部分を微調整といった作業で済ませることはできないとのことだ。それぞれのキャラクターの絵や表情に合わせて、1体ごとに専用のパーツを用意したり、変形用の頂点位置を設定しており、必要に応じて下位のアニメーションノードも追加している。
この「Herald」の事例で、リアルなタッチを残した作品でも、「Live2D」を活用して表情豊かなアニメーションが具現化できることが証明されたように思える。典型的な日本のアニメ表現を主眼において開発されていることから、必ずしも容易ではないだろうが、「Live2D」には、多様な2D表現に対応できる懐の深さがあることが確認できた。
日本にいると気がつかないことだが、本セッションでは、見知らぬ「Live2D」なるものを、非常に新鮮なものとして受け止めている開発者の姿が多く見られた。また、セッション中、セッション後を問わず、南アジアから参加していると思われる開発者から、Ridder氏がひっきりなしに質問を受けていたことから、「Herald」のようなビジュアルが人気を集める地域というものが、世界には確かにあるということが感じられた。
認知度はまだまだではあるものの、Live2Dを開発しているスタジオ自体がイベントに参加しなくても、海の向こうのヨーロッパで「Live2D」を活用する開発ユーザーが進んで紹介してくれる状況というのは、ミドルウェアとして、またひとつステップアップした感がある。インディ開発者に対するライセンス上の優遇策が奏効している証拠と言えるだろう。
今後も、さまざまなイラスト表現に対して、ますます活用されていくであろう「Live2D」が、世界の荒波に揉まれることで、さらに応用範囲の広い、タフなミドルウェアに成長していくことを期待したい。