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【devcom 2017】Tim Sweeny氏が語るゲームとグラフィクスの今後10年

「UE4」はCGの標準プラットフォームに!?

8月20日~8月24日 開催

会場:Koelnmesse(独ケルン)

Epic GamesのTim Sweeny氏

 「devcom」も3日目となった23日(現地時間)、Epic GamesのTim Sweeny氏は、「The Next Decade of Graphics and Game Development」(グラフィクスとゲーム開発の今後10年)と題して、基調講演を行なった。

 講演の内容は、同社のゲームエンジン「UnrealEngine 4」(以下、「UE4」)と、「UE4」採用タイトルの、今年上半期の動きを総括したものが多数を占めていた。ともあれ、Sweeny氏が「UE4」以外のものを含めてトレンドを語る講演を行なうのは珍しいので、今後のゲームトレンドを占うという意味でお伝えしたい。

 Sweeny氏の講演のうち、大きなトピックのひとつは、プラットフォームを問わずCPU/GPUパワーの増大とともに、ゲーミングにおいて、ハイエンドグラフィクスが実現している現況の総括だ。

 モバイルでは、初月に1億7,600万ドルの収益を上げ、最高記録を更新したオープンワールドゲーム「Lineage II Revolution」、ARでは、「WWDC 2017」で公開されたWingnut ARのテーブルトップをステージに見立てたSF空中戦ゲームのデモなどを直近の明るい話題として紹介した。一方で、ハイエンドPC向けHMDのセールスが60万台と、市場の期待に対してやや残念な結果になっているVRでは、Oculus Touchコントローラ購入特典となった同社の「Robo Recall」とPixarスタイルのアニメ「Henry」を新しい体験をもたらすものとして紹介した。

【 Unreal Engine 4採用ゲーム作品 】

 Sweeny氏は、この流れで、次世代のARデバイスについて触れていった。Oakleyは、普通のメガネやサングラスと変わらない大きさ、重さのARグラスの研究を続けており、ディスプレイ以外の機器は、無線接続したデバイスをポケットなどに入れるようにすれば、実現はそう遠くないとしていた。また、カメラに向かって入射する光原を通常の撮像以上に記録して、画面中の物体の位置や距離を特定するライトフィールドは、ゲームチェンジャーとなりうる技術だとして大きく期待を寄せていた。

【 これからのAR 】

 続いての大きなトピックは、フォトリアルなグラフィクスのリアルタイム化だ。ゲームのトレーラー映像にとどまらず、近年では、ハリウッド映画、CM、工業デザイン、建築ビジュアライゼーションといった、ありとあらゆるコンピュータグラフィクスを活用する分野から、リアルタイムゲームエンジンが注目を集めている。

 これには、GPU処理速度の向上によって、フォトリアルなビジュアルを得るためのグローバルイルミネーションに、よりリアルな結果をもたらすシミュレーションモデルが採用できるようになったことが寄与している。とはいえ、膨大なオブジェクトをDCCツールで製作することは現実的ではないため、EpicGamesが「A Boy and His Kite」のデモ映像でとったように、現実のロケーションで必要なオブジェクトを写真撮影して、撮影データから、光成分を分離したマップデータを生成して、ランタイムで描画エンジンによって再構成する方法が紹介された。

【 UE4のリソース製作 】

 具体的な採用実績については、そうそうたる顔ぶれが並ぶ。「SIGGRAPH 2017」で公開されたばかりで、シドニー大学のMike Seymourと共同製作したリアルタイム「Meet Mike」デモや、同社のMOBA「Paragon」のサブサーフェイススキャッタリングが効いた肌に透明感のあるリアルなキャラクターには、やはり目を見張るものがある。

 「GDC 2017」で初披露され、「SIGGRAPH 2017」ではRealTime Live! ウイナーに輝いたThe Millの実車ARソリューション「Blackbird」や、インドのジャイブルに拠点を置くRAGHU氏の建築ビジュアライズ画像は、とてもゲームエンジンが作り出すCGとは思えないほどフィトリアルなものだ。

 また、映像分野では、「War for the Planet of the Apes」のプリビズ製作に活用されたほか、「Rogue One: A Star Wars Story」では、ILMが「UE4」のレンダラをカスタマイズして製作したK-2SOが登場するシークエンスが、ポストプロダクションを経て実際の映画に使用されている。ほかにも、Dreamworksが製作するアニメ「ZAFARI」や、Epic Games自身がゲームのプロモーションのために、ゲームグラフィクスに手を加えてブーストした「Fortnite」のトレーラーといった映像作品にも、次々と「UE4」が活用されている。

【 Unreal Engine 4採用映像作品 】

 いかに最終レンダリング結果の品質が優先で速度は二の次といっても、あらゆる製作物には納期が存在する。待ち時間に過ぎないレンダリング時間を短縮することは、クリエイティブな作業や再試行の時間を増やすことにつながる。また、情報量が多くなる一方の映像において製作期間の短縮は無理でも、少なくとも現状維持につながるゲームエンジンのリアルタイムレンダリングは、喉から手が出るほど求められていた機能で、この傾向は今後も増加の一途をたどるだろう。

【 UE4で描画されるフォトリアルキャラ 】

 最後の大きなトピックは、誰もがコンテンツを創造するゲームが今後も含めてトレンドになるという話題だ。Sweeny氏はプリミティブな好例として、「Minecraft」を挙げている。プレーヤーそれぞれが、コンテンツクリエイターであり、この流れは、ASTRONEERといった探索型ゲームや、「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS」や「Paragon」といったゲームで、自分のプレイシーンを自由なアングルで記録編集して、他のゲーマーとモーメントを共有する楽しみ方にも見られる。また、「WWDC 2017」で紹介された「スター・ウォーズ」の世界のVR体験アミューズメントで、作品世界を自分の好みにカスタマイズしながら体感するというVRエンターテイメントも、この新しい流れの一端だと言えるだろう。

Epic GamesのTim Sweeny氏

 いつもの「UE4」イベントのように、同エンジンに関するニュースは聞かれなかったものの、各分野に多くのパートナーを抱え、おのずと情報が集まってくるSweeny氏のコメントからは、今後10年でゲームやコンピュータグラフィクスが向かう方向がなんとなく見えてきたように思う。もちろん、完全にゲーム体験が様変わりしてしまうとは思えないが、ポストスマートフォンとしては、スマートフォンと連携するARグラスが有力だろうか。

 また、コンピュータグラフィクスにおける技術的な標準プラットフォームへと変貌を遂げつつあるゲームエンジンも、この流れに乗って進化し続けるだろう。ゲームエンジンの雄である「UE4」からは、これからも目が離せそうにない。