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「Life Is Strange 2」へ続く、ヒーロー「キャプテンスピリッツ」の物語

「THE AWESOME ADVENTURES OF CAPTAIN SPIRIT」インタビュー

日本発売未定

 「THE AWESOME ADVENTURES OF CAPTAIN SPIRIT(以下、「CAPTAIN SPIRIT」)」は、DONTNOD制作の、「Life Is Strange Universe」に属する作品である。北米では6月26日に無料配信される。

 本作は数時間で完結する物語であるが、「Life Is Strange 2」へとこれから続く、狭間の作品でもあるという。10歳の少年クリスの想像力に満ちた物語を、今回はプレイデモで見ることができ、ディレクターに話を聞くことができた。魅力的な本作の序盤と、開発者の思い入れを紹介したい。

【Captain Spirit Announce Trailer [E3 2018]】

キャプテンスピリッツに変身! クリスの想像力の羽ばたき

 クリスは想像力に満ちた少年だ。雪深い家で父親と2人暮らし、ママには会いたいけど……できない状況にある。父親はちょっと無気力でゲームに没頭してしまっている。クリスは1人、想像力を働かせ、ヒーロー「キャプテン スピリッツ」になりきるのだ。

 キャプテンスピリッツはスーパーパワーを持ったヒーローだ、赤いマントをはためかせ、悪い奴らと戦いを繰り広げる。マスクにアーマーと、装備も充実、カッコイイスーパーヒーローである。……キャプテンスピリッツはクリスが自分が変身する想像上のヒーローであるが、大人も感心させられるクリスの“イメージ力”を目の当たりにする。

部屋に1人でいる少年、クリス。彼は自由に想像の翼を広げる

 ゲームの序盤、クリスは父親に呼ばれて朝食を食べる。料理が下手なパパだが、ちゃんと息子のためにスクランブルエッグを作る。クリスはつい「ママはサニーサイドアップにしてくれた」と愚痴ってしまうが、それは仕方ない、今のパパとクリスはママに会えないのだ。

 息子には朝食を作ってくれたパパだが、自分はビール。「今日はゲームの日だ」と、クリスに背を向けて、ゲームに夢中になってしまう。しかし、決して悪いパパじゃない。おもちゃの銃で撃てば……ちゃんとノリノリで死んだまねをしてくれる。でもつきあうのはそこまで。再びコントローラーを握るパパを背に、クリスのキャプテンスピリッツとしての任務が始まる。

不器用な父親との2人暮らし。様々な秘密があるようだ

 「CAPTAIN SPIRIT」はアドベンチャーゲームだ。インターフェイスは手書き風の文字、クリスを動かし、様々なオブジェクトにインタラクトしていくことでストーリーを進めていく。「パパの卵料理を何も言わず食べる」か、「ママの思い出を話す」かなど、選択することで物語は変化していく。

 クリスは本当に想像力が豊かな少年だ。キャプテンスピリッツの絵も上手い。ダクトテープやアルミホイル、段ボールでしっかりしたアーマーを作るほど手先も器用で、家の外の鳥小屋を監視ステーションにしたり、地下の押し入れでうなりを上げるウォーターサーバーを暗闇の怪物にしたり、彼のイメージの豊かさにプレーヤーは感心せずにはいられないだろう。

 ゲームというところではクリスは「キャプテンスピリッツの任務」として、いくつものミッションをボードに書いており、これをクリアしていく。最も大きなミッションが「キャプテンスピリッツへの変身」である。アーマーやマントなど、様々なパーツを揃えなければ変身は完了しない。ダクトテープを見つけたり、物置小屋に行ったり様々なアイテムを見つけなくてはならない。しかも監視ステーションとの通信や、地下の怪物退治など、ヒーローは多忙なのだ。

 とても面白いのがヒーロー関係の選択肢は稲妻に囲まれているところ。何気ないオブジェクトからクリスの想像力が刺激され、驚くようなヒーロー物語りに変換される。ちょっとチープで短絡的で極端なところが、自分の子供時代の想像を思い出させる。

コスチュームを自作するクリス。ちなみにプレーヤーが、マスクか、ヘルメットか、アーマーは軽装か重装備か選べる

 しかし……本当にそれだけだろうか? と思わせるのが「Life Is Strange Universe」なのである。この世界は時間を巻き戻す超能力が存在する世界なのだ。キャプテンスピリッツは様々なところでスパーパワーを使う。おもちゃの飛行機の前で手をかざし力を込めると、飛行機はがたがた揺れて飛び上がる。テレビを前に手をかざすとスイッチが入る。牛乳パックが動き、コップにミルクが注がれる。

 今のところ、スーパーパワーには全部“タネ”がある。飛行機が浮き上がるのは左手で持ち上げたからだし、テレビがつくのはリモコンを隠し持っていたから、牛乳はパパが注いでくれたのだ。しかし、本当にそれだけなのだろうか? そう思わずにいられないのが、本作の面白さだ。

 もちろん、クリスの現実は重い。ママはどこに行ったのか、パパとは本当に良好な関係が続くのか? クリスはこの孤独な遊びにただ没頭してしまうのか……人間賛歌を前面に出しつつも、胸が締め付けられるような悲しみを持ちながら、しかし暖かい物語を描いたDONTNODが本作ではどのような物語を紡いでいくのか? 日本語版の展開も大いに期待したい。

無自覚なところでもきちんとにじみ出る「らしさ」。「Life Is Strange」を支えるスタッフ

 今回インタビューしたのはディレクターを務めるRAOUL BARBET氏。最初の質問はやはり「本作を無料で提供したこと」についてだ。BARBET氏は「ファンへの感謝」と答えた。「CAPTAIN SPIRIT」はこれまでのようにエピソードが複数あるわけではなく、本作で完結する、2から3時間ほどでクリアできる短い話になるとのことだ。

ディレクターを務めるRAOUL BARBET氏

 無料で配信できるのは、もちろんパブリッシャーであるスクエア・エニックスが協力してくれたおかげだ。そしてクリエイターとしては無料であるためにより多くの人にプレイしてもらえることはうれしい、とBARBET氏は答えた。

 本作のセールスポイントとしては、「新エンジンでの世界の構築」にある。今作から「Unreal Engine4」での開発になり、フェイシャル、ボディのアニメーション、技術的にも高度なものとなり、映画的な表現もさらに充実した。カメラワーク、被写界深度、物理演算……様々なものが一新された。

 しかし、「Life Is Strange」ならではの作家性のあるグラフィックスの質感や、インターフェイス、見せ方など、それらはもちろん変えず、大事に継承している部分だとBARBET氏は語った。

 さらに、“Life Is Strangeらしさ”について質問を重ねてみた。BARBET氏は「難しいね」と考え込んでから、言葉を続けた。本作はBARBET氏とMichelle氏の2人が、「Life Is Strange Universe」のゲームディレクターを務めているのだが、言葉にできない、自分たちも完全には把握できないところで、その「らしさ」が出ているのではないかと語った。2人のクリエイターがディレクターを務め作ることで生まれる独特の味、「Life Is StrangeのDNA」を、ファンが好んでくれるのはとてもうれしいとBARBET氏は語った。

 スタッフで大きく「らしさ」を提示するようなことはしていないが、脚本、音楽、その他スタッフも、意識せずとも統一された何かが注ぎ継がれているのではないか。そういった中で、BARBET氏は映画的演出、カメラワーク、物語を語るリズム、それはたぶん他のゲームよりゆっくりなリズムである。そして何よりも音楽のチョイス、こういったところが「らしさ」を生み出しているという。

 筆者が個人的に気になった点は、「CAPTAIN SPIRIT」に超自然的なモノはあるか? という疑問である。今のところ、動いたように見えて左手で動かしていたり、わざと超自然的なモノを感じさせておいて、肩すかしを食らわせる演出が続いている。ここはとても気になるところだ。

 “超能力”という意味では、クリスのとても豊かで、面白い想像力こそが、、超能力と言えるモノだとBARBET氏は指摘する。そして、前作でのマックスの力があったが、それでも大事にしているのは“リアルさ”である。リアルな世界で少しだけ超能力が入る、それが作品世界の雰囲気となっている。その上で同じ世界の「CAPTAIN SPIRIT」に関しては、「ぜひ全てをプレイしてから判断して下さい」とBARBET氏は語った。

クリスの想像力は非常に具体的なイメージを生む

 BARBET氏開発スタッフは、、「Life Is Strange Universe」でまだまだ語りたい、問いかけたいテーマを持っている。それはマックスとクロエだけでなくて、クリスなど、新しいキャラクターだからこそ語れる物語がある。新しいテーマ、新しいキャラクターだからこそ語れる、「Life Is Strange Universe」がある、そう考えているという。今回その思いが結晶となったのが「CAPTAIN SPIRIT」であるが、まだまだ語りたいものはあるとのことだ。

 そして最後に聞きたい質問は、「『Life Is Strange 2』にはマックスやクロエは出てくるのか?」である。予告されている「Life Is Strange 2」だが、何らかの情報はあるのだろうか? BARBET氏ははもう少しだけ、数カ月ほど待って欲しい、と答えた。

 BARBET氏は日本のファンに向け、「私達フランスの人々は、日本のアニメ文化に親しんできました。『CAPTAIN SPIRIT』には、人のアニメ、漫画、おもちゃの要素が濃密に詰めこまれておりオマージュもあります。日本の皆さんにはぜひそういったところを感じ取って下さい」とメッセージを送った。

 北米では無料で配信される「CAPTAIN SPIRIT」だが、日本ではまだ配信が決まっていない。それは、「日本語音声の搭載」というコストがかかる。しかし、わがままであるが、筆者は吹き替え音声での「Life Is Strange」が大好きなのだ。難しいところではあるかもしれないが、開発者達の思いが詰まった「CAPTAIN SPIRIT」を日本語版、できれば日本語吹き替えで楽しみたい。