「ライフイズストレンジ」レビュー
ライフイズストレンジ
もしもあのときをやり直せたら……
美しい田舎町での“青春”を描くアドベンチャー
- ジャンル:
- アドベンチャー
- 発売元:
- 開発元:
- DONTNOD Entertainment
- プラットフォーム:
- PS4
- PS3
- WIN
- 価格:
- 4,800円(税込)
- 発売日:
- 2016年3月3日
- DL版:
- 3月2日発売
- プレイ人数:
- 1人
- レーティング:
- CERO:D(17歳以上)
(2016/3/2 00:00)
「ライフイズストレンジ」は故郷の思い出を感じさせる風景描写、子供の頃を思い出させる学校風景、そして友達との関わり……などなど様々なポイントで、これまでのことを振り返りたくなる。筆者のようなオッサンは遠くなった過去を、そして学生は昨日までのことを改めて考えてしまうだろう。
「ああ、時が戻せて人生をやり直せたら」。このセリフはゲーム中何度か聞くことになる。そしてゲームのメインテーマでもある。写真を学べるブラックウェル高校に通う主人公マックスは突然“時間を巻き戻す”能力を手に入れる。彼女にとって全ての事象は“やり直せるもの”となる。この能力でマックスは幸せになれるのだろうか……。
弊誌では【特別企画】等身大の“青春”描写が楽しい「ライフイズストレンジ」にて、あえて本作の魅力の一部分を切り取って紹介した。今回はレビューとしてゲームのキャラクターや序盤のストーリー、全体的な感触を語っていきたい。
親友クロエの命を救った「時を巻き戻す能力」を手に入れたマックスの物語
ゲーム冒頭、主人公マックスは突然「嵐の中にいる自分」を発見する。叩きつける雨に前に進むのが困難なほどの風。全身びしょ濡れだ。周りは木々に覆われており、状況もわからない。目の前には道があり看板には「灯台」と書かれている。灯台のある崖にたどり着いたマックスは、巨大な竜巻を見る。それは湾をまるまる覆うほどの巨大さで、町を、マックスの生まれ故郷であるアルカディア・ベイを飲み込もうとしていた……。
ここでマックスは自分が教室にいて、ジェファソン先生の写真の講義を受けていることに気が付く。
今のは夢だったのか? それが気になり授業にも集中できない。授業が終わったとき頭をはっきりさせようとトイレで顔を洗うマックス。そこにいきなり男子生徒が入ってきた。思わず隠れてしまうマックスの目の前で、男子生徒と後から入ってきた少女は口論となり、男子生徒は少女を銃で脅す。
そしてもみ合ったとき銃が暴発し、少女は撃たれてしまう。「だめ!」。くずおれる少女にマックスが手を伸ばしたとき……マックスは自分が教室にいることに気が付く。さっきの授業が行なわれている教室に。
繰り返される授業、ケイトに紙くずをぶつける意地悪な同級生がいて、ビクトリアの電話が鳴って……記憶の通りに起きる物事に動揺し、マックスは自分のカメラを落として壊してしまう。しまったと思ったとき、ビデオの逆回しのように目の前の全ての事象が巻き戻りカメラが机の上に戻った。マックスは自分が“時間を巻き戻す”能力を得ていることに気が付く。この力を使えば、あの女の子を助けられる! 「ライフイズストレンジ」の物語は、こうして始まる。
「ライフイズストレンジ」は全5話の、アメリカの連続TVドラマを思わせる構成となっている。話の終わりには次の話でピックアップされるであろう人物のカットが映り、予告では次の話の1シーンが切り取られ、プレーヤーを話に引き込む。そして次の話では「前回までの『ライフイズストレンジ』では」という感じで、という感じで、これまでの話をつなぎ合わせたショートムービーが挿入される。
ゲームでは各ステージでは歩き回れるものの、キーとなるイベントを発動させたり、フィールドを移動することで次のシーンに移行する。基本的なストーリーは物語の進行に従っており、大筋のストーリーは何度プレイしても変わらない。しかし、ゲームの中での選択や行動は動はその後の人間関係に影響する。例えば、キャラクターを傷つけるような選択をした場合、そのキャラクターがこちらの言うことに耳を貸さないなどの変化がある。
面白いのはマックスが時間を巻き戻すことで選択肢そのものを選び直すことができる点だ。Aにするか、Bにするか、プレーヤー自身が実際に選び、その結果を見てから、もういちど時間を巻き戻してどちらかを決めることすらできるのだ。しかし、マックスはほんの短い時間しか巻き戻せない。その場では良かれと思った選択が、実は後々で悪い結果を生んでしまうことになるかもしれないのだ。そのときこそプレーヤーは強く「全ての時間を巻き戻せたら!」と思うかもしれない。こういった葛藤を感じさせる物語とゲームの構造は、とても見事だ。
筆者は1話の終わりのシーンが大好きだ。このシーンは上のシネマティックムービーにも引用されている。マックスは5年間離れていた親友クロエと再会し、最初は不良となったクロエに戸惑うものの、変わらない部分、そして出会うことをためらっていたわだかまりから解放されるのだが、次の瞬間、再び“嵐の幻影”を見る。そして自分とクロエが今いる灯台と幻影の場所が同じであること、町が嵐に巻き込まれるのが今から4日後であることを知るのである。
幻影が終わり、クロエと灯台にいる自分を発見したとき、マックスはパニックを起こす。そしてクロエに自分の能力を告白したとき、突然雪が降り始めるのだ。まだ秋になったばかりの季節の異常な雪。その不気味な現象を前にクロエは言う。「マックス最初から話して、ちゃんと聞くよ」。雪が降るときから挿入されるBGMもいい。ゾクゾクさせられる“物語の始まり”を感じさせられる演出だった。筆者はこの時、「ああ、俺このゲーム好きだ」と強く思った。特にオカルトや、ミステリー、そして学園ドラマが好きな人には強くオススメしたいタイトルである。
クロエ、ウォーレン、ケイト、そしてレイチェル。多彩なキャラクター
ゲームに登場するキャラクターをピックアップしていこう。クロエはマックスが5年間連絡もしなかった“親友”だ。彼女は5年前に交通事故で大好きな父親を失ってしまった。その失った直後にマックスは父親の仕事でシアトルに引っ越してしまった。父親を失ったクロエの悲しみは大きく、そのクロエに向き合う勇気がなかったのが、5年間連絡もできず、生まれ故郷に戻って1カ月たっても会うのをためらっていた原因でもある。
しかしふとしたきっかけで2人は再会する。クロエは学校を退学し、体にタトゥーを彫り、髪を青く染め、たばこや飲酒も平気の不良少女になってしまっていた。なにより、冒頭で撃たれて倒れた少女こそクロエだったことを知り、マックスは驚く。しかしその変貌に驚きながらも、徐々に親友の変わらない部分を見つけ、再び親友としての絆を取り戻していく。
クロエはレイチェルという少女を探していた。彼女はクロエにとってマックスが去った後の親友だった。彼女は美人でモデルになる夢を持っていた。ブラックウェル高校に通っており、人気者だったが、半年前いきなり行方不明になってしまった。クロエは尋ね人のビラを自宅で作り、学校や様々な場所に貼りだしていた。
そしてマックスの協力を得て、何としてもいなくなった親友を探し出そうとするのだ。「パパ、マックス、そしてレイチェル……私の大事な人は、みんないなくなる」というクロエの叫びは悲しく、何としてもクロエを助けたいと思ってしまう。
そしてマックスの学校生活を彩る人々。マックスは学校に来てまだ1カ月、学校になじみ切れていない。しかし明るいオタク青年ウォーレンは照れながらも好意を向けてくれている。かわいらしい絵を描く信心深いケイトも、マックスと親しくなった女の子だが、最近深刻な“失敗”をしてしまい、それが原因で色々な人からからかわれ、深く悩んでしまっている。プレーヤーは彼女に手をさしのべる選択をすることもできる。
ビクトリアはお金持ちのお嬢様で、美人なのに、周りの人に意地悪な対応をする嫌な女の子だ。写真の才能もあるのだが、周りの人間を蹴落とそうと必死で、マックスにも何かとちょっかいをかけてくる。おまけに人気の高いチアリーダーに陰謀を巡らすなどかなり腹黒い。マックスの能力を使えば、彼女を徹底的にやり込めることもできるかもしれない。
そして冒頭でクロエに銃を向けたネイサンは危ないやつだ。彼はこの地方の名家であるプレスコット家の息子であり、学園の“イケてるやつら”を集めた「ボルテックスクラブ」の主催者でもある。しかし金をちらつかせて悪さをしているという黒い噂があるし、クロエとのトラブルも含めその“暗さ”には危険なものを感じさせる。
元軍人の学校の警備主任ディビットは学校中に監視カメラをつけようとしている意図がよくわからないし、校長はプレスコットの寄付を気にしているし、校長室で隠れて酒を飲むような気弱なところもある。素晴らしいカメラの才能を持つジェファソン先生だがケイトの相談に乗らない鈍感なところも見せる。レイチェルの失踪も含め、この学校には“何か”がありそうだ。
筆者は現在本作の2周目をプレイ中だが、自由に歩き回れるパートでの探索が非常に楽しい。「ライフイズストレンジ」は生徒やダイナーで出会う町の住人達の設定がかなり細かく設定されている。初回プレイはやはりゲームを進めようという気持が強く他のキャラクターへ話しかけたり、細かくフィールドを見ていなかった。歩き回ることでレイチェルの人気や、人物の繋がりなどがさらに細かく見えてきて、面白かった。ぜひ複数回プレイでフィールドを探索して欲しい。
思い出や記憶を刺激する序盤から、プレーヤーを引き込む驚愕の展開へ
不思議な力を手に入れたマックス。クロエはそんな親友との再会にはしゃぎ、調子に乗る。町の郊外にある廃品置き場で、手に入れた拳銃を試し撃ちするのだ。この時はマックスの能力を使い、1度銃を撃ってからマックスが時を巻き戻し撃ち方を“修正”することでクロエは次々と的に弾を当てる。クロエ自身は拳銃の素人なのに、マックスに言われたとおりに撃つと百発百中になるのだ。その事実に、クロエは大喜びする。
しかし選択を誤ると跳ね返った弾がクロエ自身に命中してしまうということもあるのだ。もちろん時間を巻き戻して事なきを得るが、能力が何かで使えなくなったらとぞっとさせられる場面でもある。しかもこのシーンの後、マックスは気分が悪くなって倒れてしまう。能力には限界があるようなのだ。
この廃品置き場も子供の頃を思い出させる場所だ。車や洗濯機ボートなど、不法投棄なのか、管理者がいるのかわからないがそこかしこに置いてある。何人かの人がここを使っていることが感じられ、使い古した注射器まで捨ててあり危ない雰囲気も感じさせられる。しかし子供はこういう場所が大好きだ。子供の頃こういう場所に“秘密基地”を作った思い出のある人は多いだろう。クロエもこの場所にレイチェルとの隠れ家を作っている。
酒を飲み、たばこを吸い、“売人”とも面識があるクロエ。平凡な学生であるマックスとはかけ離れた顔を見せる彼女だが、本質的なところは父親を亡くした悲しみを受け入れきれない寂しい子供なのだ。ネイサンに銃を向けられたときや、マックスの能力を確信したとき、いつもは粋がっている彼女が一瞬非常に弱々しい表情を見せる。クロエのその表情は、マックスの気持ちになって親友と離れてしまった罪悪感を感じさせるし、この娘を守ってあげたいと思ってしまう。そのキャラクター描写は非常に見事だ。
「ライフイズストレンジ」は2話の中盤までで様々な魅力的なキャラクターを描き、そして様々な“背景”をプレーヤーに想像させる。この学校に何かが起きている、そして数日後にはあの恐ろしい竜巻が来る。マックスとクロエはその謎の鍵を握るレイチェルの姿を追い求める。
2話後半からは物語が一気に動き出し、マックスとクロエはその流れに巻き込まれていく。筆者自身、物語の疾走感に圧倒されてやめるつもりがゲームが終わるまでコントローラーを離せなくなり、結果徹夜してしまった。できれば翌日が休日の時にプレイするのがいいだろう。予告編などの演出も相まって、「どうしよう、やめられない。でもこれは先を見ないわけにはいかない」と自分に言い聞かせながら進めてしまった。この物語にのめり込んでいく感覚はぜひ体験して欲しい。
「時間を巻きもどせる能力」はまさに奇跡としか言いようのない、ものすごい能力だ。クロエは「人を殴っても、なかったことにできるんだぞ!」というが、後悔や失敗をしてしまう人生において、この能力があればどんなに心強いことだろう。しかし、その能力を持ったマックスは、そしてプレーヤーはどんなことができるのか?
本作は「ライフイズストレンジ」というタイトル通り、キャラクターの、そして自分自身の“人生”を感じさせる作品だ。PS4だけでなく、PS3、Windowsでプレイできるところも、比較的価格が抑えられているところもうれしい。多くの人に手にとってもらいたい作品だ。
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