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Unityの日本担当ディレクターの大前広樹氏に、「Unityとゲーム開発の未来像」を聞く!

VR/ARを使ったゲーム開発に必要なもの、その課題

5月8日 収録

マウスコンピューターのブース
Unityブースでの「MASTERPIECE」を使ったVRのデモ
GeForce GTX 1080をSLI構成で搭載したモンスターマシン「NEXTGEAR-NOTE i71130PA1」

 アプリケーションの制作ツール「Unity」の最新技術などが披露される国内最大のカンファレンス「Unite Tokyo 2018」が、5月7日から9日の3日間に東京国際フォーラムで開催された。

 このカンファレンスには、アマチュアからプロまで、ゲーム開発者からまったくの異業種まで様々な人たちが参加して、最新の技術や情報についての講演を聴講した。今年は会場が手狭に感じるほどの盛況で、バーチャルYouTuberや製造業、建築、医療などゲームに関係がない業界についてのセッションも多く開催され、Unityがデジタルコンテンツ制作のインフラとして認識されているという印象を強く受けた。

 そんな「Unite Tokyo 2018」では、マウスコンピューターの小型PC「LITTLEGEAR」がいたるところで活躍していた。マウスコンピューターは2013年から機材協賛という形で、イベント用のPCを提供しており、今回は「LITTLEGEAR」60台と、フルタワーのハイエンドゲーミングPC「MASTERPIECE」を基調講演のデモ機として提供している。

 「LITTLEGEAR」はハンドル付きの小型筐体に、Core i7とGeForce GTX 1080 Tiを格納したゲーミングPC。ハンドルがあるため持ち運びがしやすく、今回のようなイベントやVR環境の構築時にアドバンテージを発揮する。

 「MASTERPIECE」はCore i7-8700KとGeForce GTX 1080 Tiにメモリ32GB、512GBのNVMe対応M.2 SSDが搭載されたハイエンドマシン。今回の基調講演では、ハイエンド3D CADで作成されたトヨタ「レクサス」のデータを、5,000万を超えるポリゴンデータに変換する処理の実機デモや、HTC Viveを使った実験的なゲーム開発環境「Carte Blanche」のデモなどに使用された。

 会場のマウスコンピューターブースには「MASTERPIECE」とともに、GeForce GTX 1080のSLIが搭載された17.3型ノート「NEXTGEAR-NOTE i71130PA1」が展示されていた。ACアダプタを2つ接続して使用するというモンスターマシンだが、映像分野などから一定のニーズがあるという。ちなみに価格は589,800円(税別)。

 そのマウスコンピューターの隣のUnityブースでは、基調講演で紹介されたCADデータをVRで眺めまわしたり、建築データをUnityにインポートするBIM Importerを使って、リゾート温泉施設をVRで回遊できる実機デモなどが並べられ、多くの人が体験していた。

 ゲームの展示はもちろんインディーから、任天堂やプレイステーションのブースなど多彩だったが、ダイキンがアニメーションシステムとUnityとの連携を展示していたり、フォントメーカーのモリサワが、MRを使ったバーチャルなECサイトに使うフォントの調査をしていたりと、ゲームを超えた利用についても未来を感じさせる興味深いプロダクトが多数出展されていた。

 そんなUnityの将来像について、日本担当ディレクターの大前広樹氏から話を聞くことができた。VR開発の可能性や課題、マウスコンピューターとの関わりについてなど、色々と面白い話を聞くことができたので紹介したい。

VR開発環境の可能性と現状ではまだ難しい理由

Unity日本担当ディレクターの大前広樹氏

――「Unite Tokyo」は今回で何回目になりますか?

大前氏: 2012年に「Unity - Asia Bootcamp Tour:東京」というイベントを開催しました。それが「Unite」と呼ぶ前の最初のイベントだったので、「Unite」という名前では2013年からやっています。そこから数えると7年目です。

――ずいぶん長くなってきていますね。

大前氏: そうですね。毎年規模が大きくなっていて。

――それだけUnityへの注目度が高くなっているということでしょうか?

大前氏: ありがたいことですね。現在何千という会社に我々の有料のプロライセンスを使っていただいておりますし、無料のソフトウェアもリリースしていますので、本当に、ものすごく多くの方に使って頂いております。

 新しくリリースされるモバイルゲームの50%はUnityで創られていますので、そういう意味ではモバイルゲーム開発者の半分は使っていると言っても差し支えないかなと思います。

 注目度の高まりには、おそらく2つの理由があると思います。1つはモバイルゲームやコンソールゲームといった分野では、インフラのような立場になりつつあるということ。もう1つは今回のトヨタさんのセッションなどに代表されるような、ゲーム以外のジャンルにおいて、インタラクティブなソフトウェアを作るための環境として活用したいという方がすごく増えているということ。それが昨年よりも人が多く感じることの理由ではないかと思います。

大盛況だった7日の基調講演

――以前はゲーム開発者のカンファレンスであったものが、もっと広くクリエイティブという形になってきた感じですね。

大前氏: そういう風にとらえていただけると、とても嬉しく思います。実際に、現在のUnityというのは、だいたい3分の1から4分の1くらいのお客様は、実は常にゲーム以外のことをされていたのです。

 私たちも、例えば自動車などの大規模CADを取り扱える「PiXYZ」のソリューションであったり、建築用データを扱えるようになる「BIM Importer」もリリースしましたが、そういったゲーム以外のお客様の声に応えていこうという活動を始めてきました。今まではなし崩し的に、オーガニックな形でノンゲームの方々がいらっしゃったのが、もっと意識的にコミュニティの一部になっていただくべく、投資をすることができ始めたということだと思います。

――今回未来予測も含めて、すごく楽しみな未来を見せていただきました。今後VRを使った開発であるとか、そういうところにシフトしていくことになるのでしょうか?

大前氏: VRやARを使った開発というものは1つの方向性だと思います。3Dの空間に対してのクリエイションをするときに、モニタという平面上の世界からオーサリングをするのは、やはり手数が増えてしまうという問題があります。もちろんモニターでやったほうが良いこともあるのですが、直接触ってつくれたらもっと楽なのにと思うようなこともあります。そういう意味でVRやARを活用した開発手法にはとても未来を感じます。ただ、現在ではVRを使ってフルプロダクションをやるというのはまだ現実的ではないのですが、私どもの研究部門である「Unity Labs」の様々な研究成果が結構いいところまで来ていますので、そういったものが実際のプロダクトに昇華できるようなステージにきていると感じます。

 先日もOculus Goがリリースされましたけれど、今第2世代と呼ばれているVRのHTC VIVE Proなどがリリースされて、VRヘッドセットの解像度があがっていけば、クリエイターがバイザーをつけて仕事をするということが現実味を帯びてくると思います。僕も実は自分の家がマウスコンピューターのPCで、GeForce GTX 1080のGPUを載せてOculus RiftとTouchを繋げて、基調講演で紹介したようなVRのオーサリングツールとかを使ってみたり、後は「ビッグスクリーン」というデスクトップのモニターをVRの空間内に配して、ものすごく大きなスクリーンで作業できるものでプログラミングをしてみたりすることがあるんです。これを使って映像とか音楽とか、ニコニコ動画を見たりするのはすごく楽しいんですが、やはりまだプログラミングをするには解像度が足りないんです。ちょっとフォントなど細かいところが読みづらいんですね。

VRで簡単にゲーム作りができる「Carte Blanche」

――現実的ではないというのは、解像度が足らないという理由からでしょうか?

大前氏: Oculus第一世代で、まだ実際の作業が現実的ではないと思う理由の1つは、解像度が足りなくて現実のモニターで必要な情報量をクリエイターが手に入れることができない。特に文字を読んだり書いたりといったところですね。もう1つは、ツール類においてマウスで行なっている作業のような精度をVRのコントローラーがまだ獲得していないということです。

 これはどちらかというとインターフェイスとソフトウェアの問題なのですが。例えばゲームを作っている時には、目的の部分を1ドット動かすといったことをする必要があるわけですが、VRのツールはそういうことが苦手なのです。もっとオーガニックに、例えば部屋のデコレーションをしたりすることはマウスよりも得意だったりするのですが。使ってみるとわかるのですが得意なことが違うんです。

 今までデスクトップのモニタとマウスでやっていた作業を、全部VRの中でリプレイスする効率的な方法はまだ見つかっていないし、VRのなかで平面図的にやりたい作業をやろうとすると、解像度が足りないという問題のためにちょっと辛いということがあって、ズームしたり、手元に拡大鏡のようなインターフェイスを置いたりという工夫をしなければならないところがあるのです。遊びで使うのはいいのですが、これで毎日開発しろと言われたらちょっと辛い。解像度が上がって、より疲れない環境になっていったら解決するでしょう。

 逆に、ものが散乱した机を作ろうと思った時などは、例えばペンをばらまいてみたり、ノートをぐしゃぐしゃっととかき回してみたりといった舞台装置を作るデコレーションのことを映像製作ではミザンセーヌと言うのですが、現実世界では物を買ってきて実際においてみればいいので簡単じゃないですか。でもモニター越しにやろうとすると、コピペをして並べたりと、結構大変なんですよね。それを例えばUnityの「Editor XR」というUnityのエディタをVR環境で開いて作業をするツールがあるのですが、それで作業をすると楽なんです。そういう意味では、得手不得手があってよいなと思います。

 後は、もう1つの問題として、すごく昔から言われていることですけれど、例えば3Dのコントローラーは手を浮かした状態で操作しますが、手をずっと浮かしていると疲れちゃうんです。ずっと手を浮かせたまま8時間仕事はできないので、もっと机の上で作業ができるという環境を作らなくてはいけない。そのためのインターフェイスを発明する必要がある。

 今回基調講演で発表した「Carte Blanche」は、机の上で作業することを想定したデザインなのです。机の上にあるカードを取って、机に手をのせて作業ができるのです。今までのようにずっと空間の中に手を浮かべて疲れてしまうのではなく、ちゃんと椅子に座って長い時間作るために、手が机の上にあって、いわゆる普通の工作をするのと同じような形で休めながらできるということがデザインの背景にあるのです。

 例えば「Carte Blanche」のコンセプトでもう少し完成度が上がって精度を獲得する方法があって、普通のプログラミングとはまた違う方法で、あるいは今まで通りの方法でやるにしても十分な解像度があるヘッドセットで行なうような形になってくると、だんだんとモニタでやる時代ではなくなるのではないかと。そういう未来はおぼろげには見えていますね。どこが分岐点になるかはまだわからないですが、たぶんVIVE Proとか、Santa Cruzとかを触ると、そろそろいいんじゃないのという気持ちになってくるのかもしれないですね。

――ワコムさんがVR空間内での作業を想定したペンタブレットを開発中というニュースもありますし、周辺機器もだんだんと進化していって、どこかのタイミングでぽんと変わるかもしれないですね。

大前氏: 価格の問題もありますし、色々あるとは思うのですが。液晶タブレットも昔は高級品でしたし、あまりあれで仕事をする人は多くなかったのですが、最近では液晶タブレットを使うアーティストさんは多いじゃないですか。それもやはり変わる瞬間があるんですよね。例えばコミックスタジオのようなソフトが出てきたり、後は精度の話ですよね。

――価格と品質がつりあえば一気に乗り換えますね。

大前氏: そういうことは将来としてはあり得ると思います。

どんな方向の進化にも対応したアーキテクチャの開発を目指す

――新しいバージョン2018.1には多くの新しいフィーチャーが入っていますが、ガラッと変わる感じですか?

大前氏: 基本的な使い勝手はあまり変わらないように務めています。大きく変えると、今まで学習したことが無駄になってしまうので、そういうことがないようにしています。ただ、今までのものに加えてこれまでできなかったことが追加されたり、新しいツールが追加されたり、細かい使い勝手で不満だったことが直ったり、そういうことは少しずつ改善されています。なので、1年とか2年くらい経って久しぶりに触ってみるとガラッとかわっているような、似ているけれど自分の知ってるUnityとは違う、みたいな感覚には陥るかもしれません。

――今回の機能も、使いこなせるとすごく便利になりそうだけれど、覚えるのは大変そうですね。

大前氏: 今はチュートリアルがかなり充実してきましたので、チュートリアルを進めていくと新しい機能も順当に覚えられるようになっています。

 それに、正直なところツールを使いこなす必要はあまりないかなと思っています。やりたいことがあって、それが実現できればいいので。例えばUnityの機能をすべて使えるようになろうと思うと、結構大変なので。まずはやりたいことができるようになるように、そこに集中するのがいいのではないかと思っています。それが2つ、3つと物を作っていくうちに、あの機能はこの前使ったなという風になっていくので、そういうのが自然でいいのではないかと思います。

 それに、そのためのUniteですから。動画や発表資料もたくさん公開されますし、後日無料で見ることができますから、そういうものも参照しながら興味のある機能を実際に使ってみたり。講演でやっていることをまねしてみたりして、覚えていくと、できることが増えて楽しいのではないかと思います。

――動画で復習しないと、とても一気には覚えられないボリュームです。

大前氏: やはり物を作る時には絶対に目的が必要ですので、その目的を持って、それを楽しむ心が最初にあってという感じではないでしょうか。あとは早いPCがあればストレスなく作れるのではないかと思います。

――そうですね。ストレスがない環境が1番ですよね。基調講演でも処理の時間を0.5秒以内に抑えるといった話がありましたし。

大前氏: そうです。開発会社さんでも、結構古いPCのまま開発に臨まれているところもあるので、そんなに高い投資ではないので、早く新しくして欲しいと思いますね(笑)。

――古いPCを使い続けることで、時間を損失しているという話もありますね。そういった意味では今回マルチコア化とかそういうものを推進されているなと思いましたが、そこはハードウェアの進化を考えつつそちらの方向に向かっているということですか?

大前氏: プロセッサのスピードというところでは、進化が止まってしまっていますし、コアが増える方向にしかこれから物事が増えていかないので。Larrabeeのような失敗もありましたが、原則的にはそういう形かなと思っています。私たちの「Entity Component System」とか、「C# Job System」もそういった先にあります。「Burstコンパイラ」はマルチコアで色々な処理が早く同時にできて、たくさんのキャラクターを出したりといったことができるようになります。

 私たちのアーキテクチャは、本質的にはヘテロジニアスなハードウェアの構成であってもかなりうまくハマるようになっています。今はマルチコアのCPUが最適解ですけれども、例えばプレイステーション 3の時代には東芝さんやIBMさんが「Cell」を作ったり、また昔のPCやゲーム機でいうと例えばオーディオ専門のDSPが載ったりとか色々あるわけです。

 今でもCPUとGPUで処理を分担したりということもあります。今後のコンピュータの進化、いわゆるPCだけではなく、コンソールやVRデバイス、あるいはモバイルについて値段と消費電力とそしてプロセッサーパワーを考えた時に、そこの部分の区分けがどんどん曖昧になっていくというか、どんどん使えるプロセッサで全部分担させようということになったときに、そういう様々なプロセッサの構造であったりとか、様々な環境やデバイスでちゃんと100%のパフォーマンスが出せるアーキテクチャにしていこうというような考え方があって、Unity Labsのような技術投資をしています。

 そういう意味では、実はマルチコアよりももう少し先を見ているようなところはありますね。例えば「C# Job System」でジョブを書いて、それが「Burstコンパイラ」でコンパイルされた結果、今はアセンブラになってCPUで動いていますが、あれがコンピュートシェーダーとかになってGPUで動いたりということも、技術的には可能です。そういう形で複数のプロセッサで分散したりということも将来的には考えたりとか、そこまで頭を使いながらやっているみたいですね。IoTの世界とかも含めて考えていくと、そこは広く対応できるようにしていくことが必要な考え方かなと。

基調講演では「Entity Component System」で可能になるデータ格納の最適化などが紹介された

――イノベーションが起こった時に、それを使える人がすぐ使えるようにということですか。

大前氏: バッテリーはもっと長くもって欲しいとか、熱問題をなんとか解決したいと思った時に、どういうハードウェア構成が正しい選択なのかは、テクノロジーのイノベーションがどこかで起きた時にパラダイムシフトが起きると正解が変わって来たりするんですよね。正解が変わっても、いろんな構成に対応できるようにしていく必要がありますが、「いままではマルチコアだったけれど、これからメニィコアやメニィプロセッサに戻るから、もう1回DSPを使えるように一生懸命コードを書いてね」ということを僕たちはデベロッパーに言いたくない訳です。

 やはりエンジンを、どんなハードウェアの構成でもちゃんとパフォーマンスが出るようなアーキテクチャにしていこうということで、我々は技術投資と今後の10年先を見越したアーキテクチャを作るということをやっています。その結果として今のPCですでにあれだけの成果が出ているので、そういう意味ではすごく大きなボーナスなのではないかと思います。

――そういった技術の進化に対して、ソフトの開発会社さんよりも敏感に取り組むわけですね。

大前氏: そうですね。幸いなことに私たちは様々なハードウェアメーカーさんと非常に密接な関係にあります。例えば任天堂さんやソニーさんも私たちのパートナーですので、普通の開発者さんよりも一足先に、そうした次に作るべきハードウェアであったりとか、色々な情報というのをいただいたり、ご相談いただいたりということもあるわけです。

 例えばモバイルデバイスだけで考えても、結局世の中に出てくるゲームの50%が我々のテクノロジーを使って作ってくださっているので、それはやはり例えばGoogleさんやSumsungさんもUnityのアプリがデバイスで最適に動くようにということを考えてご相談いただくことはあって、実際にそういう取り組みを一緒にやったりもしています。

 そういう話もあって、「次はこういうことをしたいのだけれど、どうだい?」みたいな話は同期をとったりして、じゃあこちらもこういうことをしてみようかとかいうのは実際にあったりします。

――Unity Labsの研究以外にも、他社のそういう進化も織り込みながら開発をしているのですね。

大前氏: 例えば私たちが、GPUを使ったライトマップを高速に生成する「GPU Light Mapper」という機能を、Unity 2018の今後のバージョンで搭載する予定があります。こちらはレイトレーシングの機能を使っているのですが、これはAMDさんの作ったテクノロジーの上に載っていますので、そういったプロセッサのベンダーさんの作ったテクノロジーを活用しながら、デベロッパーに役立つソリューションに変えていくというようなことはよくやっています。

――Unityが研究してくれるから、末端の開発者はある程度そういう研究の負担が軽減されるんですね。

大前氏: 開発者の方はもっとコンテンツに近いところの研究に没頭できる時間が伸びてくれるといいなと思います。基礎研究的なことはやらなければなりませんが、クリエイターがやりたいことはその先にあるので。その先のことを研究できる時間が増えると嬉しいなと思っています。

異業種同士の出会いが新しいアイデアを生み出す

――今回の基調講演では、マウスコンピューターのハイエンドゲーミングPCであるMASTERPIECEがデモ機として使われていたと聞きました。

大前氏: ガッツリ使っていました。基調講演なので、デモがハングアップしたりといった危険性もあるので、すべて二重構成で、バックアップと実際に動かすやつとで、ものすごい数のPCでご協力いただきました。

――デモ用のPCを発注する時にはGeForce GTX 1080以上でという条件が付いたと聞いています。今後VRが開発環境の中に入ってくると、今以上にPCのパワーが重要になって来るのでしょうか?

大前氏: めちゃくちゃ重要ですね。特に開発では、実際のユーザーの環境で出す以上のパワーが必要になってきます。例えばエディタ。我々は「Editor XR」と呼んでいるのですが、エディタをVRの環境で動かそうとすると実際にいわゆるVRの中で体験する世界を描画する他に、編集用のインターフェイスなども全部描画する必要があります。VRはパフォーマンスが足りなくなってしまうと途端に使い物にならなくなってしまうので、ちゃんとしたパフォーマンスが担保できる余裕が必要になってきます。そういったことを考えると、ハイエンドゲーミングPCのような非常に速いPCが開発には適していると思います。

――基調講演では72KBのコアランタイムのものが出て、遊ぶ側はどんどん小さい容量になり、開発環境はどんどんリッチになっていくのですね。

大前氏: どちらもありうると思います。巨大なフルフィーチャーのVR体験をスマートウォッチでやりたい人はいないので、そういったことはそれなりのハードウェアでやりたいと思うでしょうが、それらすべてのデバイスにソフトウェアをデリバリしたいという気持ちには応えていきたいと思います。その時にこれの時にはこのソフト、これの時にはこの開発環境を使ってというのは、あまりフレンドリーではないのですね。

 結局作りたい人は「作る」という行為をしたいのであって、例えばスマートウォッチ向けに作るためには、別のソフトを最初から勉強しないとだめだよみたいなことが今までは当たり前でしたが、それがクリエイターに本当に優しい世界なのかと考えると、優しくないと思います。さっさと作る方にいけたほうがいいですよね。そういう理由もあって、もちろん72KBのコアでVRができるわけではないですが、そういったことにも取り組んでいって、同じ知識と手になじんだツールでどちらもできるようにしようと。そういう感じですね。

――確かに解像度を落とせば小さい環境でもグラフィックスなどは使いまわしがききますよね?

大前氏: 必ずしもそんなに簡単にもいかないのですが、ただそういう形でそれぞれのハードや環境に最適なソリューションが、自分でカスタマイズして選んでまとめていけるようにということで、ユーザーが選べる選択肢を増やす方向にUnityは向かっていますね。

カンファレンスの会場にはデモ用に「LITTLEGEAR」が置かれていた

――マウスコンピューターとのおつきあいはいつからですか?

大前氏: 最初にお世話になったのが、2014年です。その時、ちょうどユニティちゃんを発表した直後のUniteで、コラボPC作りましょうと言っていただいて、マウスさんのノートPCでユニティちゃんのノートPCを作って頂きました。あれはすごく楽しかったです。ちょうどVRが出たところで、あれもそこそこいいプロセッサが積まれていて、あれにDK2をつないで遊ぶということも結構していましたね。

――そこからずっとということで、マウスさんと一緒にやる楽しさは何ですか?

大前氏: やはりそういったことに興味をもってくださったりとか、デベロッパーを応援するという気持ちをもってくださっているので、それはすごく嬉しいなと思っています。

――マウスコンピューターもUnityも色々な開発者を支援しておられますものね。今後も続けられていく予定ですよね?

大前氏: それが我々のレゾンデートルですから。我々はそのためにいるので、やめるということはないですね。開発者がより成功できるように、脇道に落ちているめんどくさい事を取り除いて舗装することが私たちの仕事です。ゲーム開発に必要なテクノロジーのキャッチアップや、グラフィックスの向上など、私たちでなければできないこともあります。

 もちろん、実際にはアーティストやクリエイターさんの研鑽の結果として表れるので、私たちの成果ではないですが、それを可能にするテクノロジーは供給し続けなければなりません。例えば今日は10の労力が必要だったことを、明日は5の労力でできるようにして、1年後には1にするということはやっていく必要があります。そうすることで、皆さんがより自由にやりたいことをやって、そしてクリエイターさん達の自分の目標により短い時間でたどりつくことができる。そのためのお手伝いが、僕らが今後もやっていくことかなと思います。

――今回発表されたエディタの日本語化なんかは、まさに日本の開発者が待ち望んでいたことかなと思います。

大前氏: そうですね(笑)。あれはずっと言われていて、私たちもやりたいと思っていて。ただやはり逡巡や葛藤もあって。日本のコミュニティがそれなりに成熟するまで手を付けることを待っていた機能でもあるんです。でもこれだけコミュニティが大きくなって、学生の方々とか異業種の方々とかいろいろな方が参加するようになって、それで特にエディタを日本語で使えることの重要度が増した結果ですね。私たちの方もかなりの気合でなんとか形にすることができました。

――多言語化ということですが、全世界的にいろいろな言語に対応していっているのですか?

大前氏: そうですね。まずはやはりアジア圏の言語を中心に対応しています。韓国語、日本語、中国語といった言語はいまエディタを含めたローカライズの対象に入っていて、作業が進んでいます。世界にはいろんな国があって、いろんな言語があるのですが、例えばデンマークなどはデンマーク語を話すのですが、実は第二外国語の英語が1番上手い国なんです。なので英語に対して困っていない。こういった英語が上手い国のランキングなどのデータがあるので、そういったデータを見ながら次にサポートすべき場所を決めています。

 例えば、そこに我々のユーザーコミュニティが多くあって、かつ英語が苦手な人々という感じですね。そういうデータを見ながら、次にどういうサポートをしようかだとか、どの程度のことが必要か決めていきます。後はその国でアプリケーションを使う時に、英語のまま使う方が自然なのか、自国の言葉で使うことが自然なのか2通りあるので、それも加味しながらという感じですね。

――Unityはゲームのツールからスタートしていると思いますが、昨日も基調講演を拝見していると、ゲームを超えてアプリケーションの製作ツールという段階に入っています。そうなると色々なジャンルの産業から様々な要望があると思いますし、それぞれ違うと思うのですが、それらをすべてUnityがカバーするのはすごく大変なんじゃないかと思うのですが、いかがですか。

大前氏: ゲームだけでもそうですね(笑)。本当にバリエーションがありますし、どんなゲームでも作れるようにしようというだけでも、非常に野心的な発想ではあります。皆さん凄く多様でクリエイティブな使い方をされますので、これに優先度をつけて何からやっていくと決めるのはかなり大変な仕事ではあります。実際に今この瞬間でも、世の中で30万以上のUnityのプロジェクトが現在進行形で開発されていて、それらが全部違う使い方をしているので、色々な想定していないことをされたり、いろいろなバグを踏んだりといったこともあります。

 一方では我々の方でも優先度をもってやらなければいけないと思っていることがあります。例えばさっきの「Entity Component System」などもそうですが、どう調整をつけるのかはいつも考えている部分ではありますし、よく社内でも話題になります。1つのメソッドとしては、私たちはフィードバックというフォームをもっていて、そこでユーザーが投票できるようになっているので、そういったことのシステムを使ってユーザーとコミュニケーションをとることである程度民主的に必要なシステムの開発を整理したりといったことはありますね。こう言う機能を付けて欲しいとか。その中で実現した機能もいくつかあります。例えば、Linux版のエディタはそれが欲しいというユーザーの声で実現した機能の1つです。

――幅広くなるというのは大変ではありますが、逆に言うとUnityとしてもワクワクすることなんじゃないですか? 今までになかったことができるというのは。

大前氏: やはり世界が広がると面白いなと思うことはあります。

 私たちが物理ベースレンダリングのレンダリングエンジンを搭載したときに、それまではゲームのコミュニティだけがUnityに注目しているという状態だったのです。そこでリアルな絵作りができるようになったことで、コンピュータグラフィックスや映画を作るアーティストさんとかのコミュニティがUnityに興味を持ち始めて、参加してくださるようになったのです。そうすると、この人たちが持っている知見とかアイデアが、コミュニティ全体で共有される回数が増えてくるので、それでより混ざってより面白いことが起きたりとか、新しいことが発生したりということがあるんです。

 いろいろなコミュニティの人たちが、私たちをハブとして参加してくださることで化学反応が起きて、今までその発想はなかったわということがあちこちで起きて、次のステージに進んでいくというようなことが、やはり何度も起きています。

 BIM Importerが1つの例ですが、そういったものを提供することによって今まであまり興味を持たれてこなかった業界の方が参加して、その人たちの中では常識だけれど、こちらの人たちはまるで知らなかった新しいアイデアが、ぶつかって、混ざって、そこから新しい文化が生まれるみたいなことが起きて、そして開発者の文化やコミュニティが強くなるみたいなことがあればすごくワクワクします。どんどん壁を壊して、そういったことが起きる環境というのを作りたいと思いますし、そういったことをお手伝いしたり、ある時には仕掛けたりしたいと、感じるところはありますね。

――逆に異業種からのアイディアがゲーム業界に入り込んで、ゲームのためにもなっているということですね。ゲームユーザーとしても楽しみです。

大前氏: 本当にそうですね。その結果でいままでできなかったゲームだとか、新しい発想を持った人がコンテンツを作って、適応する立場になったりということがありますので、それはゲームファンにとってもとてもいいことだと思います。

 その証拠に、Unityのデモリールなんかを見ていただくとわかるのですが、圧倒的にユニークなゲームが多いですね。Unityがなければ、この人はゲームを作ってなかっただろうなという方が結構ゲームを作ることが多くて、その中には今までのゲーム開発者やゲームファンの中にある、ある程度固定化された発想のまったく外にあるゲームみたいなものが、結構たくさん生まれていて、そうしたことが体験できる世の中になってきているので、そういうことを見た時には素直にやってよかったなと思います。

 もちろん定番のゲームも好きなんですが、なんだこれというようなゲームで素晴らしいものがいまたくさん生まれていますので、それを遊ぶ時が1番ワクワクしますね。

新しい出会いのチャンスを作っていきたいと大前氏

――新しい人の流入もそうですが、今までゲームを作って来た人も、ほかの技術を吸収することで違ったアイデアを生み出すという動きが活発になるのですね。

大前氏: 今ゲームを作っている人達の常識というのは、10年前のゲームを作っている人の常識とはまるで違いますし、また今後5年後、10年後もまるで変ってくると思いますけれど、その背景にはそういう異業種、異文化の人たちと混ざり合って新しく生まれた発想であるとか、アイデアというものが根差しているものが結構あるのではないかと思います。

――Unityとしては作っているのはツールですが、コミュニティ作りも大切にされていて、そういった全体的な構造づくりが大きな成果だったかもしれないですね。

大前氏: もちろん私たちはテクノロジーを提供することでゲーム開発者の皆さんとコミュニケーションを取っているので、開発ツールが中心にはあるのですが、1番大事なものはテクノロジーではなくて、集まっている人達であり、コンテンツはこういった人たちが作っているので、そこがやはり原点であって、テクノロジーが必ずしも原点ではないかなと思っています。

――最後に、未来の開発者に向けてメッセージをお願いします。

大前氏: 何か作りたいと思う気持ちを大事にして欲しいと思います。それが新しいものではくてもいいと思うんです。

 今、インディゲームとかでものすごく素晴らしいゲームを作っている人たちも、実は根っこにあるのは昔好きだったゲームとか、それを自分なりの解釈で今のテクノロジーで作ってみたいというような気持がベースになっている人たちも結構多いので、とにかく今すぐに何か作らなくてもいいですが、新しいものや好きなゲームを楽しんで遊んで欲しいし、余裕があったらVRとかそうものもバンバン手を出して遊んでいってほしいですね。その楽しい体験が、俺もこれを作りたいなという気持ちになったときに、必ず糧になるので。貯金だと思って、いっぱい好きなゲームを思う存分楽しんで遊んでほしいなと思います。

 コンテンツを作りたくなったらUnityはいつでもそこにありますので、ぜひご利用いただきたいですし、マシンが遅いなと思ったらぜひいいマシンを買って欲しいと思います(笑)。

――ありがとうございました。