【特別企画】
「神津恭介」世界の探偵体験。「呪縛の家」推理体験上映会レポート
「雑司が谷旧宣教師館」で没入するミステリーイベント
2024年3月18日 15:37
- 【「呪縛の家」推理体験上映会】
- 3月16日・17日 開催
- 場所:雑司が谷旧宣教師館など
- 参加費:無料
3月16日と17日、豊島区の13の区民ひろばと雑司が谷旧宣教師館で、ノサカラボと池袋ミステリータウンが主催する「呪縛の家」推理体験上映会が開催された。今回こちらに参加できたので、内容をレポートしていく。
推理体験上映会とは、ミステリー映像作品を、事件が起きるまで視聴してから、手がかりとなる資料を分析し、犯人やトリック、動機などを推理していく、新感覚推理アトラクションである。事件が起こるまでの映像を見る「事件編」→制限時間内に謎を解く「推理編」→答え合わせの映像を見る「解決編」という流れを何回か繰り返すことで、事件の全貌が見えてくるという没入型イベントである。
今回のこのイベントは、名探偵「神津恭介」を主人公としたノサカラボの新作舞台「わが一高時代の犯罪」の上演を記念して企画されたもので、参加費は無料となっていた。なお「わが一高時代の犯罪」は、3月8日から3月10日まで大阪のCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホールで上演され、3月20日から3月31日まで東京池袋のサンシャイン劇場で上演される予定である。
本イベントで上映された映像は、昨年上演されたノサカラボの舞台「呪縛の家」の撮影映像と新たに撮り下ろした神津恭介のシーンを組み合わせたものである。神津恭介は、作家の高木彬光が生み出した名探偵であり、江戸川乱歩の明智小五郎、横溝正史の金田一耕助と並んで、「日本三大名探偵」と称される。ノサカラボの舞台で、神津恭介を演じているのが、元ジャニーズ事務所(現SMILE-UP)のジュニア俳優部門の林一敬(はやしかずとし)氏だ。
事件当時の雰囲気に近い「雑司が谷旧宣教師館」で開催
「呪縛の家」推理体験上映会は、豊島区の13の区民ひろばと雑司が谷旧宣教師館の合計14箇所で開催されたが、雑司が谷旧宣教師館で行われた推理体験上映会は“特別版”という位置付けで、プレイヤーは探偵らしい服装での参加が推奨されているほか、他のプレイヤーと推理した内容を分かち合いながら進めていく形式をとっており、より上質な推理体験を楽しめるように企画されていた。
舞台となった雑司が谷旧宣教師館は、明治40年(1907年)に来日したアメリカ人宣教師のマッケーレブが自らの居宅として建てたもので、マッケーレブは昭和16年(1941年)に帰国するまでの34年間、この家で生活をしていた。豊島区内に現存する最古の近代木造洋風建築であり、平成11年3月3日、東京都指定有形文化財として認定された。現在は豊島区が所有しており、保存修理工事などを経て、平成元年1月から館内に関連資料などを展示し、一般公開を行っている。
雑司が谷旧宣教師館を推理体験上映会の舞台に選んだ理由として、進行役から、呪縛の家の事件が起こったとされる時代とほぼ同時代の建物であり、事件現場にいるような体験ができるからだという説明があった。
映像を見て、隣の部屋に移動して推理を行なう
雑司が谷旧宣教師館でのイベントの参加者は15名ほどで、それぞれ探偵らしい格好をしていた。雑司が谷旧宣教師館は2階建ての建物だが、本イベントでは1階の2部屋しか利用せず、玄関から入ってすぐの部屋が映像を見る部屋、その隣の部屋が推理を行なう部屋となっていた。
本イベントは、池袋に多発する難事件を解決するために、神津恭介が探偵候補を探すという設定で行なわれており、参加者がその探偵候補となっている。神津恭介からの課題をクリアした優秀な探偵は、神津恭介がその力を認めた探偵として、今後一緒に事件の解決に取り組むことになるわけだ。
前述したように、一連の推理は「事件編」→「推理編」→「解決編」という流れで行なわれるが、本イベントではこの流れが3回繰り返された。つまり、3回推理を行なう時間が設けられていたのだ。参加者はABCDの4グループに分けられ、同じグループの参加者と議論しながら推理を行なうことになった。少人数になったことで、一人一人が事件現場にいる探偵として、物語に没入していく。
「呪縛の家」の物語は、神津恭介の親友である松下研三が、一高時代の同級生の卜部鴻一からの手紙を受け、八坂村を訪れることから始まる。その手紙には、「大伯父の舜斎と三人の又従妹が奇怪な死を遂げる予感がする。できるなら神津さんと一緒に来て欲しい」と書かれていた。松下は、その旅の途中で怪しげな男と出会い、「今宵、汝の娘は一人、水に浮かびて殺さるべし」という卜部家への予言を告げられる。その夜、舜斎の孫娘のひとりが浴槽の中で死体となって見つかった。この事件を発端に連続殺人の幕が開く。はたして神津恭介はこの凶事の連鎖を止めることができるのだろうか……。
参加者には、あらかじめ大きな封筒が渡されていたが、この封筒の中には「水」と「火」と「土」を表す小さい封筒が入っており、神津恭介の指示に従って小さい封筒を開けて推理を行なう。封筒の中には写真と警察捜査資料などが入っている。
映像をしっかり見て、登場人物のセリフを聞き逃さないようにして、捜査資料を隅々まで読み込んで推理を行なえば、神津恭介からの質問にも答えられるようになっているはず……なのだが、なんと言っても制限時間には限りがある。最初の課題の制限時間は6分、2回目の課題の制限時間はわずか4分しか与えられず、資料を読み込む時間も足りないほどだ。
課題への回答は、資料に書かれている番号を選ぶ形式と自由に記入する方式がある。これがなかなかの難易度で、犯人は消去法や状況証拠で特定できても、密室トリックまで暴くことはかなわなかった。回答編の映像を見て「あっ!そうか!」と思わせられることもあった。
短い制限時間に苦しみながらも、全グループが真犯人に到達
3つめの挑戦状は、土の封筒に入っていた。これが最後の推理編となるが、最後は封筒内の回答記入用紙と別に、大きな回答記入用紙や画用紙が配布され、そちらにグループでまとめた回答を記入するように指示が行なわれた。最後の推理タイムは制限時間が12分とやや長めであり、これまでの流れや新たに公開された捜査資料を元にグループ内で活発に議論を行なっていく。
制限時間が終了し元の部屋に全員が戻ったら、各グループのリーダーが自分たちのグループの推理結果を順に発表した。全グループの発表が終わったら、最後の解決編の映像を上映。解決編の最後に、神津恭介が登場し、見事真犯人を当てた探偵は優秀な探偵であり、是非難事件の解決に手を貸していただきたいというメッセージが公開された。
映像終了後、今回のイベントを主催したノサカラボの演出家の野坂実氏が登場。各グループの発表と解決編の内容を照らし合わせて、講評を行なった。今回のABCD全グループは真犯人を正しく当て、さらに犯行の動機や手法についてもほぼ真相にたどり着いていたのだが、この優秀さについて野坂氏は正直に「驚いた」とした。
一方で、最優秀グループを決めないといけないということで、全体がほぼ横並びながら、犯行に使われたある物の入手経路について正しく推理していたCグループを最優秀グループとした。最優秀グループには、賞品として3月20日からサンシャイン劇場で上演される新作舞台「わが一高時代の犯罪」のチケットが授与された。
サプライズゲストとして林一敬氏も登場
一般向けのイベントはこれで終了したのだが、優勝したCチームとメディアの前には、サプライズゲストとして舞台で神津恭介を演じる林一敬氏が登場した。林一敬氏も、そっと参加者が推理する様子をそっと見ていたとのことで、参加者の推理力と集中力の素晴らしさに驚いたとコメントしていた。野坂実氏と林一敬氏は、3月20日からサンシャイン劇場で上演される舞台「わが一高時代の犯罪」について、大阪公演での経験や反省を活かし、もっとよい舞台にすると、アピールを行なった。
なお他の会場では、グループを作らずに一人ずつ回答を行う形式であり、課題ももう少し簡単なものが出されていたそうだ。筆者も、今回のイベントのCグループに参加させてもらっていた。ほとんど推理の役には立っていなかったが、制限時間に追われながら推理をするという非日常の体験ができ、とても面白かった。
最初の事件編のスタートから、神津恭介からの最後のメッセージが公開されるまでの時間は約2時間30分だが、退屈する暇などなく、あっという間に終わった印象だ。原作の「呪縛の家」が面白いことはもちろんだが、ノサカラボによる舞台化も素晴らしかった。林一敬氏以下、出演俳優の演技も見事で、回り舞台も効果的に使われていた。
舞台映像からもその面白さや迫力は十分に伝わったが、もちろん芝居は生の舞台に優るものはない。3月20日から上演される新作舞台「わが一高時代の犯罪」も、きっと素晴らしい舞台になるだろう。
今回は新作舞台に合わせた2日間限定のイベントとなったが、ぜひ今後も続けていただきたいと思わせる体験だった。