【特別企画】

「高機動幻想ガンパレード・マーチ」本日23周年! 20世紀最後の年に起きた奇跡の宴――あの熱狂の日々を今再び振り返る

ゲーム進行はゆる~い雰囲気。しかし油断するととんでもない事態が!?

 そんなゆるい学兵生活だが、なんといっても状況は戦時下。本作でも、漂う雰囲気に反してあっけなくキャラクターが戦死してしまうことがある。勝手の分かっていない初回プレイなら、まず間違いなく途中で誰かを死なせてしまうことだろう。そしてこの世界であっても、死者は生き返ることはない。死んだ者は死んだまま、残された人々が戦いを継続しなければならないのだ。1人欠けるだけでも小隊の全体的な戦力は低下する。高ランクのエンディングを拝みたいのであれば、1人も欠けることのないような立ち回りをしなければならないことを努々忘れてはならない。

戦闘シーンは画面見下ろし型の2Dタイプ……と思いきや、カメラアングルを自由に操作できる3Dで表現されている。これによって遮蔽物の実際の高さなどを把握しやすいようになっている

 筆者の場合、初回プレイでの初戦闘時に1人戦死者を出してしまった。なるべく多くの幻獣を士魂号復座型のミサイル斉射範囲に入れようとモタモタしていたところ、士魂号1番機の壬生屋が単騎突撃したあげく、多数の幻獣にボコられてあっけなく戦死してしまったのだ。

 配属初日の教室で出会った初めてのクラスメイトであり、きっと彼女もヒロイン候補の1人であろうと思っていただけに、初戦で死なせてしまったことに結構な衝撃を受けてしまった。……というより、このゆるい雰囲気の作品で死者が出るなんて思ってもいなかった。まったくもって油断のならない作品である。

 なお以後のプレイでは壬生屋自身は不本意だろうが、早々に他部署へ配置転換するか、両肩に展開式増加装甲を装備して身動き取れなくしていた。許せ壬生屋、君の命を守るためだ。

戦闘時はあらかじめいくつかの行動を設定してターンごとに実行していくタイプ。各行動にはコマンドと呼ばれる文字列が設定されており、この組み合わせで発生するコンボをいかに活用するかが戦闘のキモだ。たとえばパンチ(GPW)を2回連続行うとGPWGPWとなり、パンチとパンチの間にすり足(WG)のコンボが発生する、といった具合だ

 また戦闘以外でも、死の危険がいたるところに散りばめられている。よくわからない選択をした挙げ句なぜか先生に撃ち殺されたり、黒髪ショート美人の原さんに入れ込んだばっかりに、嫉妬深い彼女に刺し殺されたりすることもある。本作は自由度が高いと連呼しているが、そもそも自由とは代償が付きものだ。いくら自由に行動できると言っても、その大きすぎるツケを支払わされることのないよう、よく考えて行動すべきだろう。

八方美人は厄災の元? 登場人物(と動物)との付き合い方は慎重に!

 さて、本作のもう1つの大きな特長として、“AIでキャラクターが自律的に行動する”というものがある。ゲーム中、主人公を除く21人のクラスメイトと3人の教師(+1匹のネコ)は、独自のAIに従って自律的に行動しているのだ。この指針となるのが愛情評価/友情評価というパラメータで、各種イベントや会話終了時に相手への印象を“ファジー入力”で評価することによって変動する。要するに、このパラメータが高いほど愛情や友情を強く感じていることになるわけだ。

 この評価がくせ者で、誰も彼もを高くしすぎていると、やがてとんでもないことになる。これらの評価が高い人物がどこに行っても付いてくるストーカーじみた行動を取るようになったり、他の人と会話しているだけで話に割り込んできたりするようになる。特定の人物からコマンドや技能を習得したいときなど、会話を終了できずに割り込まれてばかりになり、ぜんぜん習得できなくなってしまう、といった事態に陥ることもあるので注意したい。

 また同様に、評価を上げすぎると大勢が主人公と仲良くなろうとして、訓練や作業をおろそかにしてしまうようになる。そうなると部隊全体の能力がどんどん低下していくことになってしまうのだ。さらに女の子同士で主人公の“争奪戦”が起き(ちゃんとそういうシステムがある)、「自分とあの娘とどっちがいいの!?」と双方から詰め寄られる事態が発生してしまう。こういった状況を避けるため、“密会”技能の習得が必須となるのがリアルと同様なのはなんとも皮肉だ。

 そして忘れてはならないのが、これらの評価は主人公と各登場人物の間だけに設定されているわけではなく、その他の登場人物同士の間にも設定されているという点だ。評価の高い者同士は放っておけば自然とくっついて恋人同士になるし、仲の悪い者は喧嘩を始めることがある(※)。イチャイチャし始めればやはり作業効率は下がるし、KOされた者はパラメータがガクンと下がる。登場人物同士の人間関係にまで気を配らなければならないとは、なんとも気苦労の絶えない作品である。

※……前述の通りヨーコ小杉と来須銀河は初期からお互いの好感度が高く、義理の姉弟という設定にも関わらずすぐに恋人関係になってしまう。また逆に田代香織は仲の悪い人物が多く、喧嘩で相手を一方的にボコって部隊の士気と能力を下げてしまう

クラスメイト同士の喧嘩が発生。仲の悪い2人を放置しておくとこうなってしまうので要注意だ。もちろん主人公自身が喧嘩を挑まれることもあれば、逆にこちらからふっかけることも可能である

 このように、本作では登場人物の好き/嫌い、仲が良い/悪いなどで自律的に行動が変化していくという。当時としても非常に高度なAIが搭載されている(※)。本作が発売された2000年当時といえば第二次AIブームの終末期にあたり、ビッグデータなどを活用した第三次AIブームはまだ始まってない時期だ。そのような端境期にここまで高度なAIをゲームに採り入れた例は珍しい……というより、今日に至るまでのタイトルにおいてもそう多くは見かけない。この点においても本作「ガンパレ」が、いかに先進的であったかが分かるであろう。

※……本作「ガンパレ」には群体型AI“カレル2”、アルファ・システム制作の「新世紀エヴァンゲリオン2」、「絢爛舞踏祭」では“カレル3”、そして「ガンパレ」ゲームデザイナーの芝村裕吏氏最新作「LOOP8」(マーベラス)では“カレル4”が搭載されている

1周目はチュートリアルだった!? 2周目からが本格的なゲームスタート

 さて、多くのプレイヤーは手探り状態のままで初回のエンディングを迎えることになるだろう。人類側の状況はボロボロでどの戦区も真っ赤、食糧難で全員が飢え、戦死者の1人や2人は出ているかも知れない。

 そこで2周目のプレイに突入するわけだが……、本作は2周目でガラリと様変わりを見せる。なんと2周目では速水厚志はNPCとなり、代わって芝村舞、来須銀河、田辺真紀、中村光弘の4名の中から1人を選んでプレイすることになる。また“人間関係”や“提案”、“場の雰囲気”などの基本システムは最初から全部使用できる状態でスタートする。何より驚くのは、2周目からはなんとキャラクターに“音声が付く”ことだ。

 要するに、本作では2周目からが本格的なスタートであり、裏を返せば1周目のプレイは壮大な(壮大すぎるが)チュートリアルだったのである。

 いやはや、1周目そのものが丸ごとチュートリアルとは、さすがに予想していなかった。今振り返ってみても、こんなゲームは他に思い当たるフシがない。まったく、このゲームはいったい何度プレイヤーを驚かせてくれるのだろうか?

 芝村舞は1周目の主人公・速水とほぼ同じ感覚でプレイできる(ただし所持している“天才3”の技能が強力で、毎日入手できるプログラムを売ればお金にも困らない)。来須銀河の部署はスカウト(歩兵)だ。士魂号や士翼号などの人型戦車とは違った緊迫感あふれる戦いが味わえる……のだが、実は彼はとんでもない強力なアイテムを所持しているおかげで、意外とラクにプレイすることが可能。不幸体質の田辺真紀はとにかくお金に困る。ガラスを割って弁償したり、実家が全焼してテント暮らしになったりと、いきなり所持金が0になるイベントが多発する。4人目の中村光弘は、前述した“ソックスハンター”のシナリオが展開する。ウカウカしているとライバルに先を越されたり靴下を捨ててしまう人物もいるので、いかに素早く集められるかがポイントだ。

 以上のように2周目では4人の主人公の中から多種多様なプレイを選択することが出来る。特に田辺や中村は、1周目の速水とはかなり異なる印象のプレイが可能なのでオススメだ。そしてなんと、ある裏技を使うと5121小隊の22人全員を主人公にすることが出来るようになる。ただしこちらはメーカー非推奨の遊び方で、一部には進行不能になるバグも存在している。まあファンサービスのおまけ程度に考えるといいのではないだろうか。

 それにしても、今思い出しても2周目3周目と、遊べば遊ぶほど沼にはまっていくように夢中になれるゲームだった。繰り返すほどに新たな攻略法を独自に発見し、同じ主人公でもプレイ方針によってまったく異なるストーリー展開が訪れる。「何度も繰り返しプレイできるのは名作の証」とはよく言われるが、本作「ガンパレ」はまさに名作と呼ぶにふさわしい、繰り返しプレイに耐えうるとんでもない奥深さを備えたゲームだったのだ。

すべての設定は欺瞞情報だった!? リアルへと波及し公式設定にまで組み込まれた儀式魔術“GMP23”とは

 最後に、筆者が本作において最大の特徴であると考える点を紹介する。それはゲームプレイ中には語られることはなく、ゲームの外で巻き起こったとある出来事についてだ。

 ここまで本稿を読んで頂いた読者の中には、当時筆者と同様に夢中になって「ガンパレ」をプレイしていた方も多いことだろう。そんなプレイの中で、所々気になる会話やゲーム中では説明されない謎のワードが散りばめられていることに気がついた者もいるかもしれない。

 そもそも、本作には明かされていない謎や不可思議なワードが多数存在している。黒い月と幻獣はなぜ突然この世界に現れたのか? その正体は? セプテントリオンとは、青とは、「A」とは何者? 竜とは、聖銃とは、あしきゆめとはいかなるものか? 士魂号や士翼号に隠された秘密とは? 芝村一族はいったい何を企んでいるのか? 絢爛舞踏や人類の決戦存在とは何か? OVERS・SYSTEMとはそもそも何をするためのシステムなのか? そして、なぜ“一度エンディングを見たあと、最初からプレイし直せる”のだろうか?

 もちろんこれらの謎を気にすることなく、純粋にゲームとして本作の表層を楽しむことはできる。だが世は21世紀を目前に迎えた世紀末、90年代半ばに起こった“エヴァブーム”によって、作中に秘められた謎や制作者が意図的に隠したメッセージを読み取る、いわゆる“考察”という新たなコンテンツの楽しみ方が定着しつつあった時代だ。各出版社からはそれら作品群のさまざまな解説本が出版され、まだ開設間もなかった2ちゃんねる(現5ちゃんねる)に書き込みが殺到した。

 そして、本作「ガンパレード・マーチ」は、“考察”にうってつけの作品だったのである。

 きっかけはこうだ。とある条件下で本作を5分間放置しておくと、壮麗なパイプオルガンの音色と共にとある人物たちの不思議な会話が表示される。

「第4世界、ベルカイン作戦失敗」
「第6世界、火星水質管理会社のシェアの67%を掌握しました」
「第2世界東方三王国、オデッセイを制圧しました」
「…第5世界。完全失敗です」
「田神…GSが裏切った可能性もあります」

 一見本作と関係なさそうな一連の会話だが、“謎”を探究することに貪欲な一部のプレイヤー(筆者を含め、オタクとは得てしてそういうものだ)が着目した。

 “ベルカイン”とはアルファ・システムがかつて開発したPSゲーム「幻世虚構 精霊機導弾 ELEMENTAL GEARBOLT」(1997年発売・以下「精霊機導弾」)に登場した人物の名前だが、第4世界や第5世界とはいったい何を表しているのだろう? また、田神とは「精霊機導弾」に登場したS・TAGAMIのことだろうか?

 もしかして本作「ガンパレ」は、「精霊機導弾」と何らかの関係があるのではないだろうか……?

 こうしてその謎に魅せられた探求者たちは、ゲームの外へと飛び出していった。その主な舞台はアルファ・システムの公式サイトである。発売後には「ガンパレ」各キャラクターのショートストーリーが掲載され、公式自ら世界観を膨らませていった。またサイト内の各種掲示板にはプレイヤーの体験談や推測が連日書き込まれ、とくに世界設定BBSではスタッフの矢上総一郎氏が書き込みの一つ一つに丁寧なレスをし、それによって1つの謎に答えが出ると、さらに新たな謎が生まれるといった具合だった。

やたらと故障が多い人型戦車、士魂号。上は壬生屋や滝川が搭乗する単座型で、下が速水と舞が搭乗する復座型。前方投影面積が最大となる人型の兵器を、なぜ実戦投入したのか……? この士魂号や改良型(?)の士翼号にも、重大な秘密が隠されている

 そうしたやりとりのすえ、驚くべき事実が判明していった。なんと、ゲーム「ガンパレ」本編で語られていた各種設定はそのほとんどが表層的、もしくは欺瞞的な情報であり、真実はさらに奥深くへ隠されていたのである。

 例えば主人公の速水厚志を名乗る、1周目でのプレイヤーキャラとなるあの人物。実は、この人物は本物の速水厚志ではない。死亡した速水厚志の戸籍と学籍を乗っ取り、彼に成りすました別の人物だったのだ。また「ガンパレ」の登場人物は、ごく一部を除いてそのほとんどが厳密には純粋な人類ではない“別の何か”だ。

 これらの設定は階層的になっており、レベル1の段階(ファースト・トラップ)がゲームスタート時の情報となっている。現在、レベル5までの情報が存在しているという。

 このように、ネット上では驚愕の新事実が次々と判明していった。新たな謎が次々と現れ、考察サイトが乱立し、その一連の騒動はネットを舞台にした“祭り”のようだった。そしてそれらのネット上での一連のやりとりは、のちに儀式魔術“GMP23”としてアルファ・システム作品の背景世界設定“7つの世界(セブン・スパイラルズ)”(※)に組み込まれるというメタ的な展開を見せている。

※……後にこれらの世界観は設定の変移があり、現在では“無名世界観”となっている。各世界の設定も多少の変化が見られる

 なお余談だが、アルファ・システム制作タイトルのうち「精霊機導弾」は第4世界、「ガンパレ」が第5世界、「式神の城」シリーズや「絢爛舞踏祭」は第6世界群の1つ、そして我々の住む現実世界(?)が第7世界ということになっている。またそれぞれの作品の登場人物にもつながりがあり、「精霊機導弾」のオープニングアニメに登場した女性S・TAGAMI(あの宙に浮くスーツケースを伴っていた女性だ)は「A」の妻という設定で、「絢爛舞踏祭」にも登場しており、「式神の城」では???という名前(?)を名乗っている。また「ガンパレ」の登場人物のうち何人かは名前や姿を変え、「式神の城」や「絢爛舞踏祭」に登場している。また前述の不思議な会話に見られるように、「ガンパレ」発売時からすでに「絢爛舞踏祭」の基礎的な設定が出来上がっていたことが伺える。

 この複数の作品群をまたぐ壮大な設定と膨大な量の情報を、ファンとのやりとりで徐々に明かしていくという手法は非常に画期的たっだ。現在でも当時の狂騒的な“祭り”の断片がネット上に散見されるので、興味のある人は検索してみるといいだろう。

 自分は書き込みなどの積極的な参加は行わなかったが、この“祭り”をリアルタイムで見守ることが出来たのは本当に幸運だったと思っている。この一連の祭りで感じたファンたちとの一体感は、現在の大人数参加型ネットワークゲームでさえ得られないものだったろう。20年以上も前の出来事だが、あのドキドキワクワクしていた毎日を、今でも本当に懐かしく思う。

現在「ガンパレ」はゲームアーカイブスでプレイ可能。PS3/PSP/Vitaユーザはぜひプレイを!

 なにぶん20年以上も前の作品なので、現在ではソフトもハードも入手困難だ。だが、本作は現在でもゲームアーカイブスでプレイすることができる。前述した主人公22人プレイなども可能だが、バグもそのまま残っているので注意してほしい。

 本稿を読了してくれた読者は、この「ガンパレ」がいかに膨大な情報量を持ったとてつもないゲームだったかということを理解出来たことと思う。この作品が容量650MBしかない、たった1枚のCD-ROMに収まっていたということはいまだに信じがたい事実だ。繰り返すが、テラでもギガでもない、650メガバイト、である。この点においても本作が“伝説のゲーム”と称される所以であろう。もし本作を未経験ならば、ゲーム史に残るこの名作を一度はプレイしてみてはいかがだろうか。