【特別企画】

「高機動幻想ガンパレード・マーチ」本日23周年! 20世紀最後の年に起きた奇跡の宴――あの熱狂の日々を今再び振り返る

【高機動幻想ガンパレード・マーチ】

2000年9月28日 発売

スクリーンショットは公式サイトおよびPlayStation Blogより

 「高機動幻想ガンパレード・マーチ」(以下「ガンパレ」)は今から23年前の2000年9月28日、ソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)から初代プレイステーション(以下PS1)専用ソフトとして発売された。あまりゲーマーからの注目を受けずにひっそりと発売された本作は、今日ではよく知られているように当時としては非常に珍しい売れ方をしていき、現在では“伝説のゲーム”と称されるタイトルだ。

 本稿ではその特異なゲーム内容に加え、発売当時にゲーム外で巻き起こった熱狂的なムーヴメントも併せて紹介したいと思う。

【ガンパレード・マーチ】

ネット黎明期において“口コミ”でじわじわと評判が広がる

 本作「ガンパレ」の発売日よりさかのぼること約半年前。同年の3月4日に次世代ハードであるプレイステーション 2(以下PS2)が発売されている。当然のごとく当時の世間の目は、待望の新ハードであるPS2から発売されるタイトルの数々に釘付けとなり、“旧世代機”のタイトルである本作はほとんど誰からも着目されていなかった。つまり「ガンパレ」は、PS1時代の最末期に発売された無名の1タイトルということになる。

 そのような世相を汲んでいたのか、本作は事前のプロモーションがほとんど行われていなかった。現在でこそPS1時代の名作として名高い本作だが、ゲーマーはもちろん筆者や各ゲーム系メディアを含め、発売前はそもそも“誰も存在を知らなかった”のである。

きむらじゅんこ氏によるキャッチーなキャラクターデザインが印象的。だが発売前のプロモーションにかける予算は限りなく低く、事実上店頭配布用のリーフレット1枚のみしか存在しなかった

 しかしフタを開けてみると、発売後じわじわと売れ続け、誰もが予測していなかったスマッシュヒットとなる。メーカーの予想以上となる売れ行きを見せ、一時期は店頭からソフトが姿を消し、入手困難になる騒ぎさえ起きている。当時はメルカリなどのフリマアプリはもちろん存在せず、「Yahoo!オークション」(現ヤフオク!)もサービス開始から1年と、まだまだ軌道には乗っていないと言えるような時期だった。

 そもそもインターネットでさえようやく普及し始めた頃で、ネットインフラがまだ一般的ではなかったのだ。結果入手困難な本作を求め、ゲーム業界がちょっとしたパニックになったのを覚えている。当時、各メーカーの広報やイラストレーターの方々と会うたびに、みんな口を揃えて「ガンパレ」が手に入らない! と嘆いていたのを鮮明に記憶している。

 そんな本作「ガンパレ」をヒット作になるまで牽引した要因は2つある。1つ目はプレイヤー間の口コミだ。前述の通り当時はまだまだインターネット黎明期。一般家庭にインターネットが爆発的に普及したのも、翌2001年にYahoo! JAPANがADSLサービスに参入し、定額でブロードバンド環境を享受できるようになった辺りからのことと記憶している。

 そんな黎明期……というよりはまだ夜が明け切れていなかったような時代であったにも関わらず、本作はネットでの口コミによって大ヒットへと繋がっていったのだ。今日ではそういった売れ方をするタイトルの例も特に珍しくはなくなっているが、当時X(旧Twitter)やLINEなどのSNSが存在していたとしたら……、さらに爆発的な波及効果を見せていたのではないだろうか。

 そしてもう1つは、ゲーム誌電撃PlayStation(メディアワークス[現KADOKAWA]発行)がもたらした力だ。同誌は誰もが着目していなかった本作の魅力をいち早く見抜き、毎号大きく紙幅を割いて特集を組んだ。それは無名のタイトルにしてはまさに破格ともいうべきもので、まるでAAAタイトルの最新作のような扱われ方だった。電撃PlayStationの記事を読んで、本作に興味を持ったというプレイヤーも多いことと思う。この同誌の慧眼が、「ガンパレ」のヒットを牽引する大きな要因となったことは間違いないだろう。

 発売から翌年になっても本作の勢いは衰えず、同年3月にはCESA主催の第5回日本ゲーム大賞において優秀賞を受賞。また同月に第3回SFオンライン大賞ゲーム部門受賞、そして同年8月には第32回日本SF大会星雲賞メディア部門受賞を受賞している。ちなみに第五回日本ゲーム大賞のノミネート作品には「ドラゴンクエストVII」、「ファイナルファンタジーIX」、「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」、そして大賞受賞作となった「ファンタシースターオンライン」とそうそうたるタイトルが名を連ねている。無名の作品だった「ガンパレ」がいかに高い評価を受けたのかは、このノミネート作品の顔ぶれを見ただけでも容易に想像が付くことだろう。

【第5回日本ゲーム大賞】

 無名のゲームが入手困難になるほどの異例のヒットを見せ、今日では伝説級のタイトルとなる……。次項からはそんな本作に満載された魅力の数々について語ってみたいと思う。

人類滅亡寸前!? 複雑なジャンル構成の本作は絶望的な状況下でゲームがスタート

 本作「ガンパレ」は、ひと言でジャンルを説明するのが非常に難しいタイトルだ。一応は学園(……と言っていいだろう。実際は某女子校の校庭に間借りしたプレハブの校舎だが)を舞台にしたシミュレーションゲームといういうことになっている。だがRPG的な要素もあるし、アドベンチャーゲーム的な部分もある。さらには恋愛ゲームの要素すら存在しているのだ。こう書くと雑多なゲームのような印象を受けるが、これが奇跡のような絶妙なバランスで成り立っているのである。

 まずは、その壮大な世界設定から紹介してみよう。

 1945年、突如空に“黒い月”が出現。それと共に表れた“幻獣(※)”が人類に対して侵攻を開始する。人類は大戦を中断して団結し、共通の敵である幻獣との戦いに突入した。そして50年後。すでにユーラシア大陸は完全に放棄され、人類の生存圏は南北アメリカ大陸の一部と南アフリカのわずかな地域、そして極東の島国である日本を残すのみとなっていた。

※幻獣……突如現れた人類の天敵。1メートルほどの小型のものから数10メートルの大型種までさまざまな形態のものが存在するが、赤い目、口が存在しないなどの共通点がある。幻獣が制圧した地域は急速に自然が回復するなど、謎も多い

 1998年、幻獣が九州に上陸。八代平原で行われた会戦で大惨敗を喫する。生物兵器を使用し同地の8割を焦土にしたすえ、なんとか戦術的勝利をものにしたが、同時に陸自全兵力の約6割にあたる30万の将兵を消失。

 1999年、日本国国会において2つの法案が可決。1つは熊本要塞を中心とした防衛ラインの設置。もう1つは、少年兵の強制招集である。徴兵規定年齢に達しない14~17歳の子どもたちが、学籍を残したまま学兵として熊本へ約10万人が集められた。要するに体勢を立て直すまでの時間稼ぎであり、つまりは“捨て駒”である。

 ――日本政府は、学兵のほとんどが1999年中に死亡すると予想していた。

 ……何とも絶望的な状況下でゲームがスタートする。学園もののゲームで、これほどまでに悲惨な背景を持つ作品が当時他にあっただろうか? ともかく、そんな絶望的な戦況にある第62高等戦車学校の5121小隊へ入隊すべく、本作の主人公(?)速水厚志が熊本へやって来るところからゲームは始まる。

ゲーム開始直後の熊本県の戦況。まだだいぶ穏やかだが、うかうかしているとすぐに幻獣に侵攻され、各区とも危機的状態に陥りどの地区も真っ赤になってしまう

 本作は3月4日から5月10日までの間、学兵として勉学に励んだりクラスメイトと交流したりしながら、エンディングを目指すのが目標だ。しかし設定はかなりヘビーだが、実際プレイしてみるとゲーム進行はそれほどシリアスではなく、多少風変わりだがむしろよくある学園モノ……という印象さえ受ける。まあすぐにその油断が命取りになることを分からせられるわけだが……。

エースパイロットから整備士まで、なんでもアリの自由度こそが本作の真骨頂

 本作「ガンパレード・マーチ」を語る際に、必ずセットで登場するのが「自由度の高さ」という言葉だ。無論ゲームである以上、本当に文字通り何でもかんでも自由に行動できるわけではない。急造の5121小隊に配属された学兵という枠組みはあるが、その枠の中では極めて自由に行動することが出来るようになっている。

 通常、ゲームの主人公と言えばヒーローなり英雄であるのが常である。例えそういった立場にない一般人であっても、英雄的な行動のすえに多くの人々から称えられたり、物語の途中で隠された重大な過去が判明したり、あるいは秘められた能力が開花したりするものだ。だが、本作においてそのような法則は当てはまらない。プレイの仕方によって、ヒーローにもなれれば無名の学兵で終わることもある。その選択肢の幅(=自由度)はかなり異例だ。

 例えば、一応の主人公である速水は当初、人型戦車である士魂号復座型のパイロットとして着任する。他のクラスメイトたちも整備士であったり事務官であったり、スカウト(歩兵)だったり司令官だったりと、それぞれ役職に就いている。これらの人員配置は自分を含めて、ある程度の条件が必要とはいえほぼ自由に変更することが出来る。……要するに、物語の花形であるパイロットから退いて、気が向けば1人の整備士としてエンディングを迎えることなども可能となっている。

主人公の速水厚志。心優しい好青年だがやや優柔不断なところがある。人型戦車士魂号復座型の操手を務める
芝村舞。万能の天才だが父の影響で色々と世間からズレている。士魂号復座型の砲手として速水とコンビを組む
士魂号1番機パイロット、壬生屋未央。武芸に長け、天性の才能を持つ大和撫子。世間知らずで男に免疫がないが、本人は自分のことを大人のお姉さんだと思っている
士魂号2番機パイロット、滝川陽平。ロボットに憧れ入隊した熱血少年で、主人公・速水の親友(自称)。ゲーム本編では色々と教えてくれるありがたい存在

 整備士などの非戦闘員になれば、幻獣との戦闘が発生しても戦場へ赴くことはない。クラスメイトたちが戦ったすえの結果をただ待つことしか出来ないのだ。ゲームの要とも言える戦闘シーンに参加せずにストーリーが進行するなんて、つまらないんじゃないだろうか……と思うかも知れない。しかし、「俺の腕で士魂号を最高の状態で出撃させてやるぜ!」と、整備士には整備士なりの、そしてそれ以外の役職にもそれぞれの役職ごとの、やりがいというものが本作には確実に存在する。

 それはまさしく、ヒーローたちの影に隠れてスポットの当たらない、“その他大勢の人たち”のドラマを描いた物語だとも言える。どのように学兵生活を送るかは、まさしくプレイヤーの選択次第なのだ。

 こうして己の職務を全うしつつ、5月10日の自然休戦期(※)まで無事に過ごせばエンディングを迎えることできる。ただし本作のエンディングにはランクがあり、非戦闘員で高ランクのエンディングを見るのはやはり結構難しい。しかし、高ランクエンディングにこだわらず、自分なりのドラマを構築することに楽しみを見いだすのも、またプレイヤーの選択次第なのである。

※……幻獣は夏期になるとなぜか出現しなくなる。この期間を自然休戦期という

ネコと恋愛? クラスメイトの靴下集め? なんでもアリのカオスな学兵生活

 さて、かように職業選択の自由度が高い本作であるが、ゲーム進行中に取れる行動は、自由度云々どころではないカオスっぷりだ。書き連ねていくとキリがないので、申し訳ないが箇条書きで紹介させて頂く。

・テストで1位を取る
・授業をサボってひたすら自己鍛錬
・各種勲章をコレクションする
・口八丁でクラスメイトから技能を習得する
・友情を測るため、相手からお金を借りる
・食料を仕入れて部隊の栄養状況を改善
・ひたすら出世を目指し、頂点に上り詰める
・公園のゴミ箱から金の延べ棒を発見する
・女の子にお弁当を作ってきてもらう
・喧嘩を仲裁する
・大切なものを賭けて拳と拳で殴り合う
・壬生屋を差し置いて瀬戸口とののちゃんをくっつける
・加藤と狩谷をくっつける
・ヨーコさんと来須は何もしなくてもくっついている
・意中のあの娘へプレゼント攻勢
・女の子と(男の子でも可)(ネコでも可)二人きりで“Hな雰囲気”になる
・各種チケットを陳情してデートに出掛ける
・女の子2人から「どっちがいいの!?」と詰め寄られる
・意味もなく女子トイレに籠もってみる
・嫉妬に狂った女の子に刺される
・“牛乳を吸った雑巾”を所持してみんなから嫌われる
・プログラムを売って荒稼ぎする
・万引きして捕まる前にテレポートで逃げる
・人を呪う
・目からビームを発射する
・幻獣を300体撃破し人外の存在となる
・究極兵器N.E.P.(※)を使用し敵の存在を否定する
・クラスメイトの女の子とイチャイチャできる
・女性教師ともイチャイチャできる
・男の子とだってイチャイチャできる
・なんならネコともイチャイチャできる
・どこへテレポートしてもネコが追いかけてくる

※究極兵器N.E.P.……非エリンコゲート空間追跡機(Null Erinco-Gate-Point Pursuer)。発言力40000と引き替えに入手できる。最大の射程と効果範囲を持ち、範囲内の幻獣を確実に消滅させる。本来の用途は兵器ではないらしいのだが……。

 あらかじめ念を押しておくが、上記の行動はすべて実際にゲーム内で行うことが出来る、もしくは起こる行動である。前述したとおりシリアスな世界観とは裏腹に、いたってコメディタッチ……というかもはやギャグの領域まで達しているイベントも発生する。一応主人公は学兵ということなので、平日は授業を受け、放課後は配置された部署ごとの職務を全うすることを旨としているが、それらを無視して自由に行動したとしても、なんら問題はない。

どのような生活を送るかはまさにプレイヤー次第。自由気ままに学兵生活を謳歌することも可能だ。ただし主人公は学生であると共に兵士でもあるので、訓練をおろそかにすると後に幻獣との戦闘で泣きを見るハメになる

 授業をサボって自主練に励んでもいいし(※)、学園恋愛モノのように女の子とイチャイチャしまくるのもいい。味のれんや裏マーケットでバイトに励んでひたすらお金を稼いでもいい。なんとなれば、一日が始まってすぐ自宅に戻り翌日を迎える、を繰り返してエンディングを迎えたって構わないのだ。無論ランクは最低のエンディングで、人類側の戦況もボロボロになっているだろうが……。

※……授業は曜日/時間ごとに科目が決まっているので、能力を伸ばす必要のない科目の場合、サボって自主練した方が能力の伸びがよくなる場合がある。ただし初回プレイ時はちゃんと授業に出て訓練とテストに合格しないと戦闘が発生しない

 そんなカオスな状況の中でさえ一際異質な輝きを放つのが、後述するとあるキャラクターのシナリオ「ソックスハンター」だろう。交渉などの話術を付くし、靴下(ホントにそういうアイテムがある)を収集する、というものだ。同じように靴下を愛し、靴下に命を賭けるライバルハンターや宿敵・風紀委員会としのぎを削りながら、クラスメイト全員の靴下を集めることが出来るだろうか……?

 一応お断りしておくが、上記のシナリオはゲームクリアとは直接の関係はない。あくまでそういうシナリオを進めてみたい、と思ったらプレイヤーがその行動を選択すればいいだけの話だ。だが幻獣たちとの戦いの一方で、このようなほどよく力の抜けたストーリーを楽しむことが出来るのも、本作の魅力の1つである。