【特別企画】
ファミコン版「キャプテン翼」が今日で35周年! サッカーゲームの常識を覆した、稀代の傑作を振り返る
2023年4月28日 00:00
- 【キャプテン翼】
- 1988月4日28 発売
1988年4月28日に、テクモ(現:コーエーテクモゲームス)がファミリーコンピュータ用ソフトとして発売した「キャプテン翼」が、今日で35周年を迎えた。
本作は、高橋陽一原作のサッカー漫画「キャプテン翼」を題材としたサッカーゲームのシリーズ第1弾。主人公の天才サッカー少年、翼くん(大空翼)を擁する南葛中学校イレブンを操作する全国中学校大会と、全日本Jr.ユースを率いて国際Jr.ユース大会で優勝を目指す、二部構成のストーリーになっている。
当時としてはあらゆる面で斬新だった傑作サッカーゲームの魅力を、35周年の節目となったタイミングで改めて振り返ってみよう。
高度な技術や反射神経は一切不要! 誰でも簡単に遊べる画期的なシステムを確立
従来のサッカーゲームは、ボールを持った選手をレバーや十字キーで動かしてドリブル、ボタンを押すとパスやシュートを放ち、ディフェンス時はカーソルが点灯した選手を動かして、相手選手の足元に目掛けボタンを押してタックルを放つ、といった操作が定番であった。
本作はその常識を大きく覆し、ボールを蹴るときやマッチアップ時に「ドリブル」、「パス」、「シュート」、「タックル」、「パスカット」などのコマンド選択画面に切り替わるという斬新なシステムを導入した。スポーツゲームにシミュレーションの要素を融合させたこのアイデアだけでも、本作はサッカー、あるいはすべてのスポーツゲーム史上に残る逸品だと断言できる。
コマンド入力後、ドリブルで相手をかわせるのか、あるいはボールを奪えるのかなど、勝負の結果は選手同士の能力値などで決定される。コマンドの成功、失敗は実況アナウンサーのセリフで示され、場面によっては選手のセリフも表示される。キャラクターのボイスはまったく存在しないが、プレーヤーはまるで原作の漫画やアニメの世界に入り込んだような気分にさせてくれる素晴らしい演出だ。
本作には、選手たちが試合の結果に応じてレベルアップするRPG的な要素も導入されている。たとえ試合に負けてしまっても、次の試合が始まる前に何人かの選手がレベルアップし、根気よく遊び続ければ自然とチームが強くなる。しかも、経験値は試合に出場しなかったサブのメンバーにも付与されるので、初めのうちはなかなか勝てない相手でも、じっくり時間を掛けてレベルさえ上げてしまえば、やがて楽に勝てるようになるのだ。
コマンド入力方式を導入したことにより、細かい操作テクニックや反射神経が一切不要。アクションゲームが苦手なプレーヤーでも気軽に楽しめ、なおかつ選手たちをレベルアップさせれば初心者でも比較的簡単にエンディングに到達できる、新しいスポーツゲームの形を確立させた本作の功績は大きい。
思わず胸が熱くなる魅惑の演出の数々。「くっ!! ガッツがたりない!!」の真相とは?
翼君のドライブシュートや日向君のタイガーショットなど、一部の選手は必殺シュートを放つことができる。当然ながら通常のシュートよりもゴールが決まりやすいので、いかにして必殺シュートを持つ選手にパスをつなぐのかを考えながらプレーするのも本作ならではの面白いところ。途中でボールが急降下する翼君のドライブシュートなど、特殊な軌道を描く各必殺シュートのアニメーションも、まるでテレビアニメを見ているかのような迫力で実にカッコよかった。
必殺シュートを撃つと、状況によってはブロックに入った相手を吹っ飛ばしたり、ボールがネットを突き破ったり、ゴールポストに当たるとボールが破裂したりする演出もあり、原作の漫画やアニメを知っている人であれば思わずニヤリとしてしまう。相手とのレベル差が大きい場合は、必殺技を持たない選手のシュートでも簡単にネットを突き破ってしまうこともしばしば。実際のサッカーでは絶対にあり得ないことだが、いかにも「キャプつば」らしいこれらの演出は、遊んでいて実に爽快であった。
国際Jr.ユース大会に進むと、フランスのパリを舞台に岬君を探し出す、コマンド入力方式のアドベンチャーゲームが試合開始前に遊べるのも面白いアイデア。制限時間内に見事、岬君を発見すると、次の試合から岬君が全日本に合流し、翼君との華麗なパス交換で敵陣を華麗に突破する「ゴールデンコンビ(※コマンドの名称はコンビプレイ)」が使用可能になるのも心憎いアイデアだ。
必殺シュートやハーフタイム時に選手たちのセリフが流れたり、中学生大会で優勝すると決勝戦の相手、東邦学園の日向君と健闘を称え合うシーンが挿入されたりするのも、これまた嬉しい演出だ。ほかにも、試合中に特定の条件を満たすと日向君が新必殺シュートのネオタイガーショットをマスターしたり、翼君と日向君のツインシュート、ドライブタイガーが撃てたりするなど、サッカーゲームでありながら原作の追体験ができる数々のアイデアは、今遊んでも実に楽しい。
本作の選手たちには、RPGのHP(体力)にあたる「ガッツ」というパラメーターが設定され、ドリブル、パス、シュートなどの行動に応じて決まった数のガッツが消費される。必殺シュートを撃つ際は、当然ながら多くのガッツが必要となるので、翼君など主力メンバーのガッツをなるべく温存できるように考えてプレーするのもこれまた楽しかった。また、三杉君は試合終盤にガッツが強制的にゼロになってしまうのも、心臓に問題を抱えているという原作の設定を反映した面白いアイデアだった。
コマンド入力時に、ガッツが不足していた場合は「くっ!! ガッツがたりない!!」とセリフが表示されるのも、本シリーズではおなじみの演出のひとつだ。このセリフのアイデアは、以前に筆者が本作の企画を担当した鶴田道孝氏にインタビューしたところ、プログラマーの口癖が元ネタだったと証言している。なお手前味噌で恐縮だが、この元ネタを初めて商業メディアに書いたのはおそらく筆者である(※ちなみに初出は「ゲームサイド」2008年4月号)。
さらに本稿を執筆するにあたり、改めて当のプログラマーは誰だったのかを鶴田氏に尋ねた結果、宮田浩氏であることが判明した。「宮田さんは『キャプテン翼』の開発には参加していませんが、ゲームがとても上手だったのでいろいろなタイトルのデバッグやテストプレイに参加しており、テストプレイ時に出たセリフが『ガッツがたりない』だったと思います」(鶴田氏)とのこと。今さらながらの余談ではあるが、35周年のタイミングで長年の謎が解けたことも、この場を借りて追記しておきたい(ごく一部のファンにしか喜んでいただけないだろうか……)。
本作のヒットを機に、1990年には続編の「キャプテン翼II スーパーストライカー」が登場。演出がさらにグレードアップするとともに、原作とは異なるオリジナルストーリーが楽しめるようになった。シリーズ3作目以降はスーパーファミコン用ソフトとして登場したほか、ゲームボーイやメガCD版も発売されてテクモの定番シリーズとなった。
名作ぞろいの本シリーズだが、続編が発売されなくなって以降は移植される機会もなく、長らくファミコンやスーパーファミコン世代のプレーヤーだけが知る存在となっていた。だが、昨年セガが発売したメガドライブミニ2には、メガCD版「キャプテン翼」が収録され、久々にシリーズ作品の移植が実現したことは記憶に新しい。これを機に歴代シリーズの移植、あるいは新作のリリースを大いに期待したいところだ。
©高橋陽一・集英社・テレビ東京・土田プロ
©TECMO 1988