【特別企画】
祝40周年! 「シブサワ・コウ40周年記念コンサート」が開催
「菅野さーん、愛しています! 本当にありがとう」
2023年4月10日 12:25
- 【シブサワ・コウ40周年記念コンサート】
- 4月8日開催
- 会場:KT Zepp Yokohama
コーエーテクモゲームスは4月8日、代表取締役会長 襟川陽一氏のゼネラルプロデューサー“シブサワ・コウ”40周年を記念したコンサートをKT Zepp Yokohamaで開催した。
40周年の起点となっているのは、1981年に発売された「川中島の合戦」。本来コンサートも昨年2022年に実施予定だったが、新型コロナウイルスの再流行で延期、仕切り直しを経て2023年4月8日にようやく開催できる運びとなった。奇しくも今年は氏の代表作である「信長の野望」シリーズ40周年でもあり、祝賀感に満ちたコンサートとなった。
コーエーテクモゲームスの前身である光栄がゲームミュージックを重視したゲームメーカーであることは、同社作品のファンなら誰しも知っている事実だ。出世作となった初代「信長の野望」こそ、ビープ音のみだったものの、その続編である「信長の野望 全国版」では、まだ当時大学生で無名だった菅野よう子氏を起用。その独創的かつ圧倒的な表現力で、ドット絵とヘックス、ビープ音の世界に、濃厚な戦国ロマンを提示し、世界のゲーム史に新たな1ページを刻んだ。
当時はゲームプラットフォームが乱立する時代だったため、10を超えるプラットフォームの音源に最適化する必要があっただけでなく、当時の音源では菅野よう子氏の作家性を表現しきれないため、後にオーケストラで収録したサウンドトラックをリリース。現代でもそのまま通用するような極めて贅沢なゲームミュージック世界を構築していた。
でありながら、名曲の多さの割にはコンサート事業には積極的ではないところがあり、周年の節目にしか開催されず、同社作品のオケコンはレアだ。今回は本社のお膝元にあるコーエーテクモの名を冠したKT Zepp Yokohamaで開催されたこともあり、今後はその機会も増えてきそうだが、40周年の節目は、幸運な約1,000名の招待客が貴重なコンサートを愉しむことができた。セットリストは以下の通り。
【「シブサワ・コウ40th記念コンサート」楽曲一覧】
1 桃園の誓い『三國志』 1985年 作曲:菅野よう子
2 黄河 ~揚子江『三國志』 1985年 作曲:菅野よう子
3 魏のテーマ、呉のテーマ、蜀のテーマ『三國志Ⅱ』 1989年 作曲:向谷実
4 華龍進軍『三國志Ⅴ』 1995年 作曲:服部隆之
5 三國志 続貂『三國志X』 2004年 作曲:池瀬広
6 飛龍乗雲『三國志14』 2020年 作曲:大塚正子
7 覇道、その黎明『三國志 覇道』 2020年 作曲:坂部剛
8 悠然と進むもの『Wining Post 9』 2019年 作曲:五十嵐一歩
9 夢の旅人『蒼き狼と白き牝鹿・ジンギスカン』 1987年 作曲:川上進一郎
10 合戦 -武田軍-『決戦Ⅲ』 2004年 作曲:小六禮次郎
11 オープニング ~無頼の宴~『水滸伝・天命の誓い』 1989年 作曲:木下伸司
12 龍馬『維新の嵐』 1988年 作曲:菅野よう子
13 勇躍『大航海時代Ⅳ PORTO ESTADO』 1999年 作曲:高木庸旬
14 Freed From This Mortal Coil『仁王』 2017年 作曲:菅野祐悟
15 William『仁王2』 2020年 作曲:菅野祐悟
(休憩)
16 時の調べ 1988年 作詞:霜月智恵子、作曲:菅野よう子
17 傍にいるから 1988年 作詞:霜月智恵子、作曲:山本光男
18 覇道 -疾駆『信長の野望 覇道』 2022年 作曲:平松建治
19 オープニング ~群雄決起~『信長の野望・戦国群雄伝』 1988年 作曲:菅野よう子
20 狼煙『信長の野望・武将風雲録』 1990年 作曲:菅野よう子
21 風雲『信長の野望 Online』 2003年 作曲:川合憲次
22 現世夢幻『信長の野望・全国版』 1986年 作曲:菅野よう子
23 天下攻防『信長の野望・全国版』 1986年 作曲:菅野よう子
24 Shine -未来へかざす火のように- 作詞:松井五郎、作曲:菅野よう子、平原綾香
25 Jupiter 作詞:吉元由美、歌唱:平原綾香
26 決起、戦に臨まん『信長の野望・新生』 2022年 作曲:吉田孝志
27 OVERTURE ~信長の野望~『信長の野望・全国版』 1986年 作曲:菅野よう子
全編曲:穴沢弘慶
コンサートで最初に挨拶を行なったのは、シブサワ・コウ氏の上司であるコーエーテクモホールディングス代表取締役会長の襟川恵子氏。襟川氏は、夫の誕生日プレゼントにPCを贈ったことがすべての始まりになったことに触れながら、“ゲームには音楽が絶対必要”という信念から、人づてで菅野よう子氏を紹介して貰ったエピソードを披露。「できあがってきたら、ビックリするほどメロディラインが美しくて秀逸でした。それで追加発注をかけたりして、プロからも評判が良かった」と絶賛。また、「信長の野望」のテーマソングを歌う歌手も「絶対に女性が良い」という考えから、平原綾香さんに依頼したことも明らかに。光栄サウンドの礎は、襟川恵子氏のこだわりの賜のようだ。
続いて紹介されたシブサワ・コウ氏は、来場者に対して悪天候での来場をお詫びし、楽団の不断の努力を称えると、「私より先に会長が挨拶しましたが、私が社長、向こうが会長、ウチでも向こうが会長、私が社長で、上司と部下ということなんですけども、1台のパソコンをプレゼントして貰ったということが、こんなに長く“因縁”となって階級社会がずっと続いてしまうとは」と発言し、会場を和ませた。
続いてシブサワ・コウ氏は、「菅野よう子さんという天才的な作曲家・編曲家の方に、私どもの歴史シミュレーションゲームの音楽を作って下さったが、凄い名曲ばかりで、本日菅野さんは配信でご覧になっているということで、菅野さーん、愛してます、本当にありがとうございます」呼びかけ、大きな拍手に包まれた。
司会者に選曲のポイントを聞かれると、「私が好きな曲を全部選びました。歴代のプロデューサーの意見も加味しましたが、基本は私が選びました。大好きな曲ばかりです。今日はシブサワコウ40周年記念ですから。私が主役なので」と軽妙なトークで場内を沸かせた。
さて、コンサートは休憩を挟んで二部制になっていて、第一部は「三國志」、第二部は「信長の野望」と、シブサワ・コウ氏の代表シリーズが主軸を担った。
コンサートを通じて貫かれていたのは、襟川夫妻が揃って口にした同社のゲームミュージックの“始祖”である菅野よう子氏への深いリスペクトだ。コンサートは、菅野よう子氏がシリーズで唯一手がけた初代「三國志」の名曲「桃園の誓い」から幕を開け、同じく「三國志」から中国悠久の時の流れを感じさせる「黄河~揚子江」と続け、最新作「三國志 覇道」までナンバリングを駆け上がっていった。
「三國志」は「信長の野望」と比較してシリーズごとに作曲家を変えており、「三國志II」、「三國志III」にはカシオペアの向谷実氏、「三國志V」では「半沢直樹」をはじめ数々のTVドラマの楽曲を手がける服部隆之氏を起用するなど“超重量打線”になっているが、菅野よう子氏の楽曲は、襟川恵子氏が語るように、ずば抜けてロマンティックであり、濃厚なストーリー性を感じさせてくれる。
第一部中休みに行なわれたファミ通元編集長 浜村弘一氏とのトークでは、初期作の武将のドット絵はすべて襟川恵子氏がデザインしていたことや、当時のパソコン誌の付録であるプログラムリストに歴史のゲームがないことから自身で「川中島の合戦」を開発し、通信販売したことが創業のきっかけになったことなどが明かされた。
浜村氏からは、自身のゲーム人脈から、ポケモンの石原氏、レベルファイブの日野氏、そして浜村氏自身、日本のゲーム業界の第一人者たちの多くは「信長の野望」のファンであり、それがゲーム業界を志すきっかけになった、そういう意味では「(シブサワ・コウ氏は)時代を、産業を作った方」と語ると、シブサワ・コウ氏は「あんまりそういう気負いはなかったが、面白いゲームを作り続けたらこうなった。ゲーム好きをモチベーションに、皆さんの叱咤激励がやる気の元になっている」とファンへの感謝を述べた。
今後については、現在開発中の位置情報ゲーム「信長の野望 出陣」について「皆様ご期待下さい。私も京都の街やみなとみらいを歩いてみたい」と抱負を述べると、気になるナンバリングについては具体的な言及は避けたものの、「最近力を入れているのはAI。敵方の武将のAIをずっと作ってきたが、最近は配下の武将のAIも強化していて、君臣一体で楽しめる戦国時代を再現している」と語り、AI強化によるゲーム性の更なる進化を目指していることが明かされた。
休憩を挟んだ第二部では、「信長の野望」40周年ということで、すべて「信長の野望」という「信長」尽くしの内容となった。その前半を彩ったのは、新居昭乃さんの声楽曲「時の調べ」、「傍にいるから」の2曲。
いずれもシリーズ第3弾「信長の野望 戦国群雄伝」(1988年)のBGMだが、「時の調べ」は一般大名(織田信長等、一部の大名以外を選択した際に流れるBGM)の曲であり、「傍にいるから」に到っては後継者選択の際に流れる曲と、いずれも脇役ながら、同作屈指の名曲となっている。
ボードゲームの発展系と言えるこの時代のウォーシミュレーションゲームに、なぜこのような楽曲が存在するのか。久々に聞いてまるで「ドラゴンクエストII」(1987年、エニックス)の「Love Song 探して」のような、ゲームミュージック界のオーパーツ的な存在だなと改めて思った。
新居さんが「時の調べ」を歌い終えるとトークコーナーとなった。「オファーされた時の気持ちは?」という無茶な質問に対して、新居さんは苦笑を浮かべながら「35,6年前の話になりますが、当時菅野よう子ちゃんと出会って間もない頃で、毎日のように私がよう子ちゃんの歌を歌いに行くみたいな仕事が続いている中で、『信長の野望』に出会ったという感じです。この『時の調べ』という曲はロマンチックで綺麗な曲、ちょっと弱々しいような感じもあり、でも『信長の野望』って書いてあって、ほかの曲もあったんですけど、コマンドとかも書いてあって、意味がまったくわからなくて、“ゲーム”って言われてもなんなのかまったく分からないまま歌っていた(笑)」と衝撃のエピソードを披露。
同席したシブサワ・コウ氏は、「こうしてお話しするのは35年で初めて」とこちらも驚きのエピソードを披露し、「実はあの曲は『戦国群雄伝』の内政の時に掛かる曲で、凄い美しいメロディで、この曲を聴きながら内政をしていくという贅沢なもので、菅野さんのメロディメーカーとしての素晴らしさ、才能あふれる名曲だと思います」と語り、指折りのお気に入り曲であることを明かした。当然、生で歌を聴いたのも初めてということで、「素晴らしいですね。昔の透明感のある歌声が再現されて感無量です」と35年越しで直接感謝を伝えた。
第二部の合間には、指揮者を務める志村健一氏のトークも行なわれた。志村氏は、「ファイナルファンタジー」シリーズの作曲家 植松伸夫氏らと手を組み、古くからゲームミュージックコンサートを手がけてきたゲームミュージックコンサート界の第一人者。
そのゲーム遍歴は知られていなかったが、志村氏自身も実は大のゲームファンで、学生時代「信長の野望 全国版」を夜な夜な2時、3時まで母に隠れて遊んでいたという。「35周年の時にも演奏させて貰ったが、すべての曲に色んな思いが詰まっていて、演奏しながら感極まるような、本当に幸せな時間を過ごさせていただいております」と情感たっぷりにゲームミュージックに対する深い愛情を語った。
演奏に対するこだわりポイントについては、「ゲーム音楽は打ち込みだったりするので、必ずしもオーケストラにむいていなかったりもするが、我々は未来のクラシックとしてそこを実現するために活動していますし、編曲も穴沢弘慶氏にお願いして、素晴らしいオーケストレーションに仕上がったかなと思います」と自信を覗かせ、「コーエーテクモゲームスのサウンドチームにも監修を頂き、大勢の皆さんの力の結集で今日のスコアが出来上がっています」と力強く語り、会場から大きな拍手をうけた。
そして第二部後半を彩ったのは、歌手の平原綾香さん。コンサートのトリを飾る形で「信長の野望」の主題歌「Shine -未来へかざす火のように-」を高らかに歌い上げた。「Shine -未来へかざす火のように-」は、「信長の野望」30周年を記念して、「信長の野望」のオープニングテーマ「OVERTURE」をベースに、作詞を松井五郎さんに依頼、平原さん自身も作曲に加わる形で制作されたもの。
出だしは「OVERTURE」のメロディながら、途中から平原さん作曲のオリジナルとなり、「JUPITER」に勝るとも劣らない雄大な平原ワールドが広がっていく。平原さんはアンコールで再び登場し、「JUPITER」も熱唱。大ファンを自称するシブサワ・コウ氏が強く希望して実現したものだと思われるが、嬉しいサプライズだった。
そして「信長の野望」コンサートの定番である最新作の演奏、今回は2022年にリリースされた「信長の野望・新生」より「決起、戦に臨まん」が演奏され、大トリは菅野よう子氏の代表作である「OVERTURE ~信長の野望~『信長の野望・全国版』」で締めくくった。シブサワ・コウ40周年に相応しい曲目、演奏だった。
私事で恐縮だが、筆者は「信長の野望 全国版」からプレイし始め、「信長の野望 天翔記」から仕事として関わり始めて、40年とまではいかないが、それに近い月日が経過したことになるが、その代償として、京都に降り立つと「足利・今川内政」(信長の野望 武将風雲録)が脳内で鳴り始めるし、名古屋だと「春濤」(信長の野望 天翔記)、そして勝ち戦を確信すると「暉映の戦場」が鳴り響くという不治の病に冒されている。
今回、開幕前にセットリストを見たとき、そういう筆者のような人生に信長サウンドが組み込まれている人間からすると、少し大人し過ぎるのではないか、屈指の名曲を忘れすぎではないかと思ったが、コンサートを終えて忘れていたのはむしろ筆者だったなと思わされた。
歴史シミュレーションゲームは長時間聴くことになる内政、合戦の楽曲ばかりに人気が集中しがちだが、それ以外のパートの楽曲にも名曲がたくさん含まれている。「むしろ菅野ようこさんはじめ各作曲家の作家性が剥き出しになっているのはそちらではないかと思うんです」と諭された気持ちになった。さすがは創造主の選曲。40周年誠におめでとうございます。
写真協力:コーエーテクモゲームス
撮影:大山雅夫