【特別企画】

【EVO Japan 2023】やっぱりオフライン大会はいい! 忘れかけていた格ゲーの魅力を再発見

ZHEN選手、Arslan Ash選手、Punk選手など海外プレイヤーのショートインタビューも収録

【EVO Japan 2023 presented by Rohto】

日程:3月31日~4月2日 開催

会場:東京都江東区「東京ビッグサイト」南展示棟南1ホール・南2ホール

 「EVO」といえば、格闘ゲームプレイヤーなら誰もが聞いたことのあるであろう、アメリカのラスベガスで毎夏開催されている世界的な格闘ゲームの祭典だ。そして「EVO Japan」は「EVO」の盛り上がりを日本にも持ち込もうという動きから2018年に生まれたイベントであり、これまでに東京や福岡などで開催されてきた。

 筆者も過去に「EVO」や「EVO Japan」を取材したことがあるが、世界中からやってきた格闘ゲームファンたちと実際に顔を合わせて交流し、自分たちの好きなゲームで思う存分対戦するのは他ではできない体験であり、自ら参加することで「EVO」が格闘ゲームコミュニティにとってどれだけ重要なものかを身に染みて感じた。

 しかし、COVID-19流行の影響で長らくこうしたオフラインイベントは開催されておらず、「EVO Japan」も2020年以降開催されていなかった。

 そんな中、渡航制限やイベントの開催に関する制限が徐々に緩和されてきた2023年、久しぶりに「EVO Japan」が東京で開催されることとなった。待望のオフラインイベントの開催ということで、会場には世界中から大勢の格闘ゲームファンが集まり、長らく忘れていたオフラインイベントの良さを思い出させてくれた。本稿では、そんな「EVO Japan 2023」会場内の様子を写真と共にレポートしていく。

会場となった東京ビッグサイト

やっぱりオフライン対戦は良い! 各タイトル予選の模様をレポート

 今年の「EVO Japan」は同大会の会場としては初採用の東京ビッグサイトで開催された。会場内に入ると広大なホールの中に所狭しと対戦台が設置されており、何百人というプレイヤーたちが凌ぎを削っていた。メインステージには大きなスクリーンが設置されており、配信台での対戦は会場のどこからでも観戦できるようになっていた。

上階から見るとどれだけ多くの人が来場しているかわかる

 7つあるメインタイトルの中でも特に参加者が多かったのが「ストリートファイターV」だ。世界中から集まった参加者の総数は1,300名を超えており、あちこちで白熱した対戦が繰り広げられていた。

 しかし本大会では、いつにも増して和気あいあいとした雰囲気が漂っていたようにも思う。というのも、「ストV」は2月に開催された「Capcom Cup IX」でCPTの最終シーズンに幕を下ろしており、多くのプレイヤーは6月に発売が予定されている新作「ストリートファイター6」に目を向けているからだろう。

「ストV」対戦エリアの様子

 もちろん対戦中のプレイヤーはみな真剣な眼差しをしているが、後で対戦を見守るギャラリーの多くは、久しぶりに会った友人たちとの再会を喜び、互いに近況を話し合ったり、「スト6」への期待を語り合ったりと、みな活き活きとした面持ちで交流を楽しんでいた。

 そしてやはり「EVO」といえば異国のプレイヤーとの国際戦だ。普段では叶わない国際戦には独特の高揚感が漂っており、ギャラリーも各々自国の選手を応援して試合を盛り上げていた。これぞ「EVO」といった光景だ。

ときど選手のような一流のプロプレイヤーも紛れて対戦していた

 国際色の豊かさという意味でいえば、やはり「鉄拳7」は外せないだろう。800名を超えるプレイヤーが参加した「鉄拳7」部門は、日本や韓国といった国のプレイヤーが大勢活躍しているイメージがあるかもしれないが、実はアメリカやヨーロッパ地域のプレイヤー層も厚い。国際戦が発生すると、プレイヤーたちは自分の国の代表となって仲間たちの期待を一身に背負い、背中に声援を受けて対戦に臨む。そしてもちろん、試合後は握手で締めくくられ、こうしてゲームを通じて国を超えた絆が結ばれていくのだ。

スウェーデンの若手Flower選手とそれを見守る欧州勢
AO選手対Malgu選手の日韓戦と息を飲んで見守るオーディエンス

 「ストV」や「鉄拳7」はもはや格闘ゲーム大会には欠かせない存在だが、上記2タイトルにも劣らない盛り上がりを見せていたのが「GUILTY GEAR -STRIVE-(ギルティギア ストライヴ)」だった。

 本タイトルは、900名を超えるプレイヤーが参加していることからもわかる通り、今一番勢いのあるシーンを持っているタイトルといっても差し支えない。筆者が見る限りでは他のタイトルよりも若いプレイヤーが目立ち、また各所から歓声や勝利の雄叫びが聞こえていて、その場にいるだけでコミュニティの勢いを感じられるようだった。

「ギルティギア」対戦エリアの雰囲気からはどことなく若さを感じる

 しかし「EVO Japan」の魅力はメインタイトルの盛り上がりだけには留まらない。なぜなら「EVO」といえばコミュニティ主催のサイドトーナメントも大事な構成要素のひとつだからである。特設エリアでは主催者や参加者たちが各々で準備した機材が組まれ、普段目にかかる機会の少ないマイナーなゲームタイトルの大会も多く開催されていた。

サイドトーナメント「P4U」対戦エリアの様子

 サイドトーナメントが開催されていたタイトルは「スカルガールズ」や「恋姫演武」など、メインタイトルには選ばれないまでもニッチなファンベースを持つ格闘ゲームから、「ぷよぷよ」や「キャサリン」といったパズルゲームまであり、なんでもありのお祭り騒ぎといった様子だった。

 こうしたタイトルではプレイヤー人口が少ないからこそ、上級者から初級者までが実力の垣根なく交流しており、参加者が一丸となってそのゲームの楽しさを分かち合っている光景が見られた。比較的マイナーなタイトルにとっては、「EVO Japan」のようにプレイヤーがオフラインで集まる機会がどれだけ貴重で重要なものかがわかる。

「恋姫演武」の対戦エリア
格ゲーではない「ぷよぷよ」対戦エリアも賑わっている

 また、サイドトーナメントを語るうえではアーケードタイトルの存在も欠かせない。「EVO Japan 2023」会場内にはアーケード筐体がいくつか持ち込まれて即席のゲームセンターが設置されており、そこでは「燃えろ!ジャスティス学園」や「北斗の拳」など、普段であればゲームセンターに行かなければプレイできないようなタイトルの大会も開かれていた。

「燃えろ!ジャスティス学園」の大会は年季の入った筐体で行われていた
続編を望むファンの切実な声が書かれていた

 独特な風情を持つアーケードエリアの中でも特に盛り上がっていたタイトルは「スーパーストリートファイターII X」で、2on2の大会に全35チーム総勢70名が参加した。大人たちが童心に帰って懐かしのゲームをプレイしている様子を見ていると、かつてのアーケード全盛期が現代によみがえったかのような錯覚を覚える。ゲームセンターの数が全国的に衰退していっている昨今において、このようにアーケード文化を味わえる場所は他にないだろう。

「スパIIX」のデュオ大会の様子、こちらは海外プレイヤーも多い

 そしてメインステージでTOP8が始まれば、普段そのタイトルをプレイしているかどうかに関わらずみなで観戦が始まる。

 不思議なもので、詳しいゲームシステムなどは知らなくても周りと一緒に盛り上がって見ていれば初見のタイトルも面白く見れる。そして「あの起き攻めはこういう読み合いになっているんだよ」などと他の観客たちと喋っているうちに話が膨らみ、最終的には「今度このゲーム買ってみようかな」なんて声も聞こえてくる。

 こうしてゲームの枠を超えてプレイヤーどうしが繋がり、コミュニティが広がっていく場を提供することもまた「EVO」の大事な役割のひとつだ。

「バーチャファイター eスポーツ」の決勝戦を観戦する観客
表彰式の様子

 「EVO Japan 2023」を観戦していて切に感じたのは、やはりオフライン対戦の良さだ。

 「EVO」ではほとんどの対戦が横対戦、つまり対戦するプレイヤーどうしが肩を並べてひとつのモニターを共有するセットアップで試合が行われる。これは「eスポーツ的」には決して最良の環境とは言い難いが、「EVO」がこれにこだわるのには理由があるように思う。プレイヤーたちを見ていると、大技を喰らった時にかすかに表情が歪むのがわかったり、勝負の択を通した時にわずかに興奮で震えているのが見えたりと、隣で対戦することで格闘ゲームがひとつのコミュニケーションとして成立しているのがよくわかるのだ。

 格闘ゲームを始めとする対戦ゲームは、昨今ますますeスポーツ化の波にあやかってその市場を拡大させているようだが、しかし対戦ゲームの根本にある楽しさはこうしたコミュニケーションだと思う。

「EVO」には単なる技術面の競い合いではなく、互いの精神をぶつけ合って戦う生身の戦いがあり、それこそが「EVO」の魅力だ。そしてこうした生身の戦いを経ることによって、コミュニティの中でオンライン対戦では育めないような連帯感や絆が育まれ、それが強固なつながりが生むのだ。だからこそ「EVO」は格闘ゲームコミュニティにとってなくてはならないイベントなのである。

「EVO」だからこそ会える海外プレイヤーたちにインタビュー

 せっかくの国際大会ということで、筆者は「EVO Japan 2023」を訪れた海外のプレイヤーたちにインタビューを敢行した。

オーストラリアの若手鉄拳衆

 「鉄拳7」の予選プールエリアを歩いていた時、どこからか一際大きな声援が聞こえたので傍に行ってみると、そこには10名ほどのプレイヤーが集まって仲間を応援している姿があった。聞けば彼らはオーストラリアでプレイする若手プレイヤーの集まりらしく、「EVO Japan 2023」に参加するべく一緒に来日したらしい。

 中にはオフライン大会初参加の選手もいるようで、互いの緊張をほぐし合うかのように応援の声を出していて、全身でゲームを楽しんでいる様子が非常に微笑ましかった。

Twygs選手と彼を応援する仲間たち

 彼らはみなオーストラリア出身のプレイヤーだが、国内で住んでいる地方はみなバラバラらしく、普段はオンラインでの活動が主になっているという。そんな彼らが「EVO Japan」をきっかけに互いに顔を合わせ、一丸となって異国での対戦を楽しんでいるのだから、本大会は彼らにとって一生の思い出となるに違いないだろう。大会の後には揃って日本食を食べに行く予定もあるようで、ゲームを通じて全力で青春を謳歌しているさまは羨ましいかぎりだ。

いつかシドニーで「EVO」が開催されたらいいな、と語るオーストラリアの若手選手たち

中国の新星、19歳のZHEN選手

 次いで話を聞いたのは、先日開催された「Capcom Cup IX」で当日予選を勝ち上がって総合2位まで上り詰めるという快挙を成し遂げ、一躍世界的にその名を知らしめた中国の「ストV」プレイヤーZHEN選手だ。19歳のZHEN選手は「EVO Japan」はもちろん「EVO」自体に参加することが初めてのようで、大きなオフラインイベントで自分がどこまで通用するのかが楽しみだと語ってくれた。

ZHEN選手

 今後プロゲーマーになる気はあるのかと聞くと、学業と両立できる範囲でプロを目指すつもりだといい、「スト6」もプレイするつもりだと話してくれた。ちなみに「スト6」で気になっているキャラクターはマノンだそうだ。

試合中は眠っているかのようにも見える落ち着きぶりだ

パキスタンのスター、Arslan Ash選手

 「鉄拳7」の対戦エリアにはパキスタン出身のスタープレイヤーArslan Ash選手の姿もあった。韓国の超強豪プレイヤーKnee選手を破り「EVO 2019」優勝に輝いたAsh選手は、今ではRedbullアスリートにもなり、鉄拳シーンを代表する選手のひとりとして不動の地位を築き上げたが、そんな彼がはじめて世界にその名を轟かせたのは福岡開催の「EVO Japan 2019」だった。それまではパキスタンに鉄拳シーンが存在することすら知られていなかったのだから、彼がシーンに与えた影響は計り知れない。

Arslan Ash選手

 3年ぶりに開催された「EVO Japan」に参加した気分はどうかと尋ねると「自分が初めて優勝した国際大会なので戻ってこれて嬉しい、今大会も全力で戦って優勝を目指したい」と、力強く語ってくれた。彼はこの後順調にプールを勝ち進んで見事ウィナーズでTOP8入りを果たした。決勝での活躍にも要注目だ。

試合になるとその眼差しは真剣そのもの

USAの若手筆頭、Punk選手

 「ストV」エリアには周りのプレイヤーと談笑するUSAの若手Punk選手の姿もあり、話しかけると快くインタビューに応じてくれた。今大会では「ストV」と「ギルティギア」の2タイトルにエントリーしているという彼だが、今大会の調子をきくと「わかんないね、今はどっちも本気でプレイしてないから。実は両方あんまり好きじゃないんだ(笑)」と冗談交じりに話してくれた。しかし、そんなこと言いながらも遥々日本に来ているというのは、彼の格ゲー愛が人一倍強い証拠だろう。

Punk選手

 「スト6」について尋ねると、ベータ版をすでにプレイ済みであり、非常に楽しみにしていると話してくれた。気になっているキャラクターはケンとキャミィだそうで、特にケンはシリーズで一番好きなキャラクターなので強くあって欲しいとのことだ。この後彼も熾烈な戦いをくぐり抜け、ルーザーズではあるがTOP8入りを果たした。DAY3ではどんな活躍を見せてくれるのか楽しみだ。

笑顔で試合に臨むPunk選手

 以上が筆者の「EVO Japan 2023」DAY2のレポートだ。「EVO Japan」はもちろん配信でも楽しむことができるイベントだが、「EVO Japan」の真の魅力は配信に映らないところにあるように思う。これから徐々にこうしたオフラインイベントの数が増えていくことが期待されているが、格闘ゲームファンの方には自分の実力に関係なく、是非一度こうしたイベントに足を運んで見てほしい。