【特別企画】

プロ選手擁するN高が「ロケットリーグ」部門初の2連覇を達成!

「全国高校eスポーツ選手権」白熱の決勝大会をレポート

【第4回全国高校eスポーツ選手権 決勝大会:「ロケットリーグ」部門】

12月25日開催

 全国の高校生たちが集い日本一の座をかけて戦うeスポーツ大会「全国高校eスポーツ選手権」、その「ロケットリーグ」部門の決勝が12月25日に開催された。全国高等学校eスポーツ連盟と毎日新聞社主催のもと、文部科学省の後援を受けて開催される本大会は、「eスポーツを日本の文化に」を合言葉に2018年から開催されており、今年が第4回目の開催となる。ロケットリーグは第1回から採用されているタイトルのひとつであり、シンプルなゲーム性と奥深い難易度から高い競技性を持つタイトルだ。

【第4回全国高校eスポーツ選手権】

 今大会のエントリー数は全108校162チームだが、決勝に進出してきたのは予選を勝ち抜いた4チームのみ。過去にも決勝進出経験のあるN高等学校と阿南工業高等専門学校をはじめ、本大会が決勝初進出となる可児工業高等学校、福井工業大学附属福井高等学校が加わり、新旧入り交じった顔ぶれとなった。昨年はオンラインで開催された本大会だが、今年はLFS池袋 esports Arenaを会場にオフライン開催に戻り、選手たちが顔を合わせてゲームをする姿を再び見ることができた。

 会場ではeスポーツキャスターのOooDa氏がMCを務め、アナリストとして現役プロ選手のValtaN氏、応援レポーターとしてeスポーツプレイヤーでタレントの大友美有氏も登壇した。また実況解説はロケットリーグ大会ではおなじみのKokken氏、Wave氏が担当し、大会を大いに盛り上げた。高校生たちが1年間の練習の成果をぶつけ、並々ならぬ思いで挑む「全国高校eスポーツ選手権」、第4回優勝の栄冠はどこの高校に渡るのだろうか。

会場の様子。左から、OooDa氏、大友氏、ValtaN氏
実況解説席。左から、Kokken氏、Wave氏

Burn選手がプロの意地を見せる!N高の快進撃

 決勝に出場した4チームの中で一番の注目株はやはりN高等学校「Nポテ」だろう。N高等学校はeスポーツに力を入れている学校として有名で、「全国高校eスポーツ選手権」に合わせて合宿や合同練習なども行っている、本大会の常連校のひとつである。昨年度の「ロケットリーグ」部門ではその圧倒的な実力からN高が優勝を果たしており、今大会は彼らにとって2連覇のかかった大一番となっている。

 「Nポテ」のメンバーはキャプテンのBurn選手を筆頭に、前回大会優勝経験者のNekota選手とSK選手、そしてMotikun選手という顔ぶれだ。中でも特筆すべきなのはBurn選手で、彼は今年6月からeスポーツチームDeToNatorの「ロケットリーグ」部門に所属する正真正銘のプロ選手、予選からずば抜けた実力とテクニックで周囲を驚かせていた。Burn選手は2年生まで別の高校に通っていたそうだが、メンバーが集まらなかったため今まで本大会に出場することができず、今年は本大会に出場し優勝するためにN高に編入したのだという。実力もさることながら、大会に懸ける想いも人一倍大きいことが伺える。

左から、SK選手、Burn選手、Nekota選手、Motikun選手

 そんな「Nポテ」と準決勝で相まみえたのは、可児工業高等学校「KTRL」だ。彼らは前回大会に出場するも予選敗退という結果に終わり、その悔しさからロケットリーグに打ち込んで今回の決勝進出を決めたという。事前インタビューではN高を「厳しい相手」と評しているが、チーム一丸となってどこまでBurn選手を封じ込め、N高に食らいつけるかがポイントとなってくるだろう。なお決勝大会は全試合BO5で行われる。

左から、i-Serino選手、i-Babel選手、i-Tapio選手、Yurs2021選手

 試合がはじまると、さっそく「Nポテ」の猛攻がスタートする。しかし興味深かったのは、Burn選手が一番後方に構えていた点だ。「Nポテ」はSK選手とMotikun選手が前衛となり積極的にボールにアプローチし、相手のブーストを涸らすまで場を荒らし続ける。ひとたびボールが漏れると、後方からBurn選手がやってきてこぼれ球を確保し、ブーストの切れた相手を楽々と抜き去ってゴール前にボールを落とす。このボール運びにおいてBurn選手の技術はずば抜けており、エアドリブルから壁に一度着地して再度エアドリブルをするような芸当もやってみせ、空中を自在に動き回っていた。

巧みにエアドリブルを決めるBurn選手

 「ロケットリーグ」において、Burn選手のように空中を意のままに飛び回るのは決して簡単なことではない。ブースト残量を管理しながら微妙な車体の角度を調節し続けねば任意の方向には飛べず、まして空中でボールを運ぶとなると至難の技だ。これは「KTRL」からしても同じことで、つまりBurn選手が空中でボールを保持している間、そのボールにアプローチをかけるにはBurn選手と同等の空中制御技術が求められるということだ。しかしSK選手とMotikun選手に場を荒らされた後では空中にアプローチをかけるのはなおのこと難しく、「KTRL」はBurn選手から思うようにボールを奪えないでいた。

真剣なまなざしのBurn選手

 もちろん「KTRL」も全くいいところなしというわけではない。全体的な役割分担やローテーションへの意識はとても高く、攻守ともにバランスのいい立ち回りができていた。キックオフの状況ではスピードフリップでファーストタッチを狙い、「Nポテ」に競り勝っている場面もあった。また第1ゲームではリーダーのi-Babel選手が鋭いシュートを2本決めており、勝機がなかったわけではない。しかしやはり「Nポテ」の強さは圧倒的で、第1ゲームでは全員がゴールを決めて7点をあげ、7-2という点差で「Nポテ」に軍配が上がった。

得点を決めるi-Babel選手

 7点のうち特に注目すべきなのは5点目、Burn選手が決めたパンケーキシュートである。パンケーキとは空中からゴールへアプローチし、ゴール上の壁バックボードと車体の腹でボールを挟むようにしてボール上に着地し、それを滑り落とすような形でバックフリップをしてゴールを決める高等技術である。少しでも勢いが付きすぎてしまったり角度が違ったりするとボールが漏れてしまうのはもちろんのこと、ボールに着地するという繊細な動きが求められるため、「ロケットリーグ」における空中制御を完全にマスターしていないとできない技術だ。それを全国大会決勝の舞台で決めてくるとは、Burn選手が今までにどれだけの練習を積んできたかが伺える。

Burn選手の高等技術「パンケーキ」の瞬間

 続く第2、第3ゲーム、「Nポテ」は「KTRL」の力量を測りきったかとでもいうように、先ほどまでよりもディフェンシブな陣形でゲームメイクをする。「KTRL」は隙を見つけてはシュートを打つも、並大抵のコースでは「Nポテ」のゴールは破れない。反対に「Nポテ」のカウンター攻撃は数タッチのうちに決まってしまい、点差は開いていくばかり。「KTRL」は最後まであきらめず健闘するも、その後シュートが決まることは無く、準決勝は「Nポテ」が3-0でストレート勝ちを決めた。

第2ゲームのスタッツ、「Nポテ」のボール保持率は6割を超える

 試合後のインタビューでi-Babel選手は悔しさをにじませつつ「支えてくれた家族や先生方に感謝したい、N高には僕らの分まで優勝してほしい」と語った。i-Babel選手はまだ2年生で、来年も出場のチャンスを残している。是非来年は、強敵との敗戦を糧に練習しパワーアップした可児工業高等学校に期待したい。

インタビューに答える「KTRL」の面々

N高は止まらない、Burn選手だけじゃない怒涛の攻め

 準決勝を圧倒的な強さで勝ち抜いた「Nポテ」、そんな彼らの決勝の相手となったのは福井工業大学附属福井高等学校「サルの音楽隊」だ。こちらは昨年の大会をTOP16で終えているチームで、あと一歩決勝に届かなかった悔しさから1年間練習を積んできているという。準決勝では阿南工業高等専門学校をストレートで下しており、仕上がりは十分の様子。彼らの持ち味はなんといっても和気あいあいとした雰囲気から成る連携の取れた立ち回りで、攻守のバランスに優れたチームだといえる。決勝ではその連携力を活かしてどこまで「Nポテ」と戦えるかが見物だ。

左からWhiteRabbit25252選手、Monmon4612選手、Yo-san選手、Rukiki3選手

 試合が始まると、やはり「Nポテ」が圧倒的なボール支配率を見せ、ゲームの流れをコントロールする。「サルの音楽隊」はディフェンスへの意識が非常に高く、後方にどっしりと陣取って相手の攻めに早めにプレッシャーをかけることでなんとか「Nポテ」の猛攻を防いでいたが、それでも苦しい時間が続いていた。「Nポテ」は先ほど同様SK選手とNekota選手が積極的に前線を押し、こぼれ球にBurn選手がアプローチするような攻めを展開。一度シュートが外れてもすぐに二の矢、三の矢が飛んでくるような重層的な攻撃に晒されて、「サルの音楽隊」の守備も次第に崩れていく。

 試合開始1分でSK選手が右サイドの壁を利用したシュートを決めると、堰を切ったように「Nポテ」が得点を量産しはじめる。Burn選手、Nekota選手も次々と点を決め、第1ゲームは5-0の得点差で「Nポテ」に軍配が上がる。中でも決勝でメンバーチェンジして入ったNekota選手の得点が一番多く、Burn選手が運んだ球を鋭い角度でゴールの端に叩き込んでいるのが印象的だった。Burn選手の個人技に頼らずとも攻撃を展開できる、それもまた「Nポテ」の強さだろう。

SK選手の右サイドからの鋭いシュート

 「サルの音楽隊」としてはエースであるWhiteRabbit選手にいいボールを出して、うまくカウンター攻撃を決めたいところだったが、「Nポテ」があまりにも継続的に攻め入ってくるのでWhiteRabbit選手も守備に回らねばならず、中々イニシアチブを獲得できない。試合後のボイスチャットでは楽し気な雰囲気の中互いを鼓舞するような姿も見受けられたが、第2ゲームではどのように課題を改善できるか。

試合中の「サルの音楽隊」の様子

 続く第2ゲームも「Nポテ」は攻撃の手を一切緩めない。試合の序盤では「サルの音楽隊」もなんとかゴールを守っていたが、試合時間が減っていくにつれて徐々に焦りの色が見え始める。カウンターを狙おうとするがあまりクリアリングが雑になって相手のシュートを手助けする結果になってしまったり、折角得た攻撃のチャンスに慎重になれず全員が前衛に出てしまい、がら空きになったゴールに「Nポテ」のカウンターを喰らってしまったりと、どんどんと得点差が開いていってしまう。

 中でも印象的だったのは「Nポテ」6点目、「サルの音楽隊」が何とか見つけた攻撃のチャンスにBurn選手が立ちはだかり、いとも簡単にこれをクリアリング。するとそのボールがそのままゴールまで転がっていってしまい、狙ったか狙わずか、これがロングシュートとなってがら空きのゴールに決まってしまった。Burn選手のコントロール技術もさることながら、やはりこうした失点は「サルの音楽隊」の焦りからくるものだろう。圧倒的な実力差を前にして、普段通りのプレイができていないことが伺える。第2ゲームは8-0の大差で「Nポテ」の勝利となった。

Burn選手のロングシュートががら空きのゴールへ

 もう後がない「サルの音楽隊」、何とか試合のペースを変えたいところだったが、第3ゲームになってRukiki選手がチーム初の得点を決める。キックオフから自陣に飛んできたボールをYo-san選手が上手くカバーし、これをセンターへのパスと変える。するとRukiki選手が後方からすかさずこのボールにアプローチし、中央からのシュートを決めて見せた。メンバー間の連携がうまくとれた、彼ららしい得点といえよう。

Rukiki選手が一矢報いたシュート

 しかしこの得点から試合の流れが大きく変わることはなかった。「Nポテ」が次々と得点を重ねていき、第3ゲームは1-7で「Nポテ」が勝利、見事ストレートで優勝を決めた。中でも印象的だった得点は6点目で、試合終盤にNekota選手が左サイドから運んだボールを壁にバウンスさせ、それをSK選手がバックボードにバウンスさせ、そして浮いたボールをBurn選手がシュートするという、全員がボールにタッチする攻撃を見せた。シュートのタイミングが読めないだけでなく、センタリングを終えたSK選手がゴール内で相手ディフェンスを妨害する徹底ぶりで、「サルの音楽隊」が防ぎきれなかったのも納得のプレイといえる。

チームメイトの繋いだボールに最後のひと押しを決めるBurn選手

 最後まで食らいつくも負けてしまった「サルの音楽隊」、試合後のインタビューで心境を尋ねられるとWhiteRabbit選手は、「楽しくプレイでき、良い経験になった。来年は打倒N高を掲げて戻って来たい」と語った。決勝戦では完敗だったものの、ここまで勝ち進んできた彼らの実力は本物だ。この悔しさを糧に練習して、来年は彼らや「KTRL」がN高の3連覇を阻止する展開に期待したい。

インタビューに答える「サルの音楽隊」の面々

 優勝した「Nポテ」Burn選手はインタビューにて「皆で楽しくプレイし、悔いのない結果を残せた」と語った。「Nポテ」には優勝賞品としてガレリアのノートPC「GALLERIA UL7C-R36」とニューバランスの特製パーカーが進呈された。またBurn選手は大会MVPにも選出され、心境を尋ねられると「サポートしてくれたチームメンバーや応援してくれた方々に感謝したい」と述べた。

優勝トロフィーを手にする「Nポテ」の面々

 筆者は毎年「全国高校eスポーツ選手権」の「ロケットリーグ」部門を観戦しているが、去年と今年でN高のレベルの高まりを感じざるを得ない。これはひとえに彼らのeスポーツへの取り組み方、スクリムを含めた事前練習の賜物だろう。これからは様々な学校が打倒N高を目標に挑んでくるだろうが、N高がキッカケとなって大会全体のレベルが向上することに期待したい。来年も高校生のロケットリーグシーンには要注目だ。