【特別企画】
レゴブロックで自由に作品を作る「レゴアーティスト」になろう!(前編)
「オメェつえーな。なんだかオラわくわくすっぞ」、挑戦心が扉を開く
2020年4月18日 00:00
「レゴブロック」といえばどのような印象を持っていますか? 子供が積み木のように遊ぶブロック玩具だったり、セットの中にたくさん入ってるパーツを説明書通りに組み立ててジオラマや乗り物を作る商品を思い浮かべるかも知れません。
ですが、それはレゴブロックの魅力の一部です。ただの四角いパーツ、それも小さいものでは1センチ四方厚さ3ミリくらいのパーツを組み合わせることで、ビルのような四角いものだけでなくリンゴのような丸いものも作れます。その気になれば等身大の「孫悟空」をつくることも「初音ミク」をつくることもできます。また、商品化されない映画やアニメのメカだって変形や合体機構付きで再現することも可能です。
しかも、つくれること自体だけでなく「誰でもつくれる」ことが、レゴブロックの凄いところ。たとえプラモデルをつくれないロボ好きでも、オリジナルロボット(しかも自分専用機!)をつくってブンドドすることだって可能なんです。
このように、レゴブロックで作品をつくる人たちのことをレゴブロックの世界では「ビルダー」と呼びます。プラモデルの世界で「モデラー」と呼ぶのと同じですね。その、ビルダーの中でも知名度があり、メディア出演やイベントでの作品展示、さらには依頼された作品制作までこなす行う人たちのことは「アマチュアレゴビルダー」などと呼ばれることがあります。
ですが、僕としてはさらに上をいく「レゴアーティスト」と呼ぶべき人々だと思います。レゴアーティストは公式な称号ではありませんが、これは、レゴアーティストたちが本気でつくった作品を見れば、芸術の域に達していることが歴然とわかるからです。そして彼らは一般の人々へレゴブロックの楽しさを知らせるために様々な活動をしています。そうでなくても「人に見てもらうために」作品を作っている。ここがレゴアーティストの原点だと思っています。前編では僕自身がどのようにレゴアーティストの入り口に立ったのかをお話ししたいと思います。
レゴブロックは可能性の扉を開けさせてくれる魔法のツールだと思います。みなさんの中にも、「クリエイター」とか「アーティスト」などに憧れている人がいるかも知れません。そこで、今回は、僕がどうやってレゴアーティストになれたのかを振り返りながら、レゴブロックの可能性や魅力をご紹介しましょう。
レゴの意味は「よく遊べ!」
最初に、レゴブロックについて、簡単にご紹介しましょう。レゴブロックはプラスチック製(ABS製)のパーツを積むことで、さまざまな形を作る玩具です。
一番スタンダードな形状は2×4ブロックと呼ばれる四角いパーツです。この四角いパーツを組み合わせることで、直線だけでなく、曲線や球体を作ることができのだから不思議ですよね。このパーツを見るとレンガのような形をしています。レンガは英語で「Brick(ブリック)」……つまり日本語のブロックなので、これがレゴブロックたる由縁です。
パーツの種類は豊富で、四角いパーツ以外にも「スロープ」と呼ばれる「斜め」にカットされたパーツや、円柱や球体のパーツがあります。また、ブロック以外にも、「窓」や「キャノピー」など、さまざまな形のパーツが存在しています。これらを組み合わせることで、「りんご」でも「家」でも「ガンダム」でも「孫悟空」でも、有機物なら何でも作れてしまうのが、レゴブロックの凄いところなのです。
世間では「知育玩具」のひとつとされ、レゴブロックで遊ぶと「頭が良くなる」的な風潮がありますが、レゴの意味はデンマーク語の「leg godt(よく遊べ!)」からきています。だから、小難しいこと考えないで、好きに遊ぶのが正解だと僕は思っています。
レゴブロックを始めたきっかけは、「長女の誕生」です。当時「MS in Action」というガンダム系のオモチャをプラモデルと融合させたりして遊んでいました。ですが、彫刻刀やナイフなどの工具が置かれ、プラスチックやパテの削りカスが散乱し、シンナーの匂いが充満する。そんな環境では、子どもから目を離したすきに、事故が起こらないとも限りません。そこで、子供が大きくなるまで一時的に趣味を封印したのです。
そんな時、会社の同僚から「何か作って遊びたいならレゴブロックで遊べば?」と紹介されました。ですが、僕にとってレゴブロックの商品はガンダムなどのプラモデルと比べるとテーマ的に合わず、造形的にもかっこ悪いイメージがあり、最初は興味を持てませんでした。
ところが、紹介された個人サイトを見てみると、「スターウォーズのメカ」を作ったり、「ビネット」と呼ばれる小さいジオラマを作ったり、「ミニフィグと呼ばれる人形を組み替えて既存のキャラクター」を再現したりと、もうハンバーグとエビフライとカニクリームコロッケを盛り合わせた、大好物が集まった世界だったのです。
余談ですが、僕が悪いイメージを抱いていたレゴブロックは「テクニック」と呼ばれる、形よりも「動き」を再現する商品でした。通常のレゴブロックは「システム」と呼ばれる「造形」に注力した商品です。逆に、テクニックは、車のハンドルを回すとタイヤが動いたり、エンジンの仕組みが再現されていたりと、完全に別の魅力を追及した商品でした。いや、無知って怖いですね。全力謝罪です。
興味が沸いた僕は、まずは2,000円くらいの商品を買ってみることにしました。インストラクションを見ながら実際に組み立ててみると「ああ、この形を組み合わせてこれの形をつくるのか?」という驚きの連続です。
いつの時代もそうですが、レゴブロックの商品は、モデルを完成させる過程で、さまざまなテクニックを教えてくれるのがポイントなのです。
レゴブロックならオリジナルロボの製作からブンドドまで自由自在
そして1つ、また1つと商品を購入していくうちに、Webサイトで見たような、オリジナルモデルを作りたくなりました。そこで、最初にトライしたのが、レゴブロックのフィギュア「ミニフィグ」の組み替えです。ネットショップで、髪や顔、胴体、足などをバラバラに購入し、好きな海外ドラマやアニメの主人公たちを再現して遊びました。
次に始めたのが、既存商品の改良です。例えば、ミレニアムファルコンでディテールの甘い部分にパーツを付けて情報量を増やしたり、赤い車に白のストライプを入れたりしました。そして、レゴブロックで遊ぶ終着点ともいえる、オリジナルモデルの製作にチャレンジするのも、時間の問題となったのです。
オリジナルモデルは、あくまで既存の商品に対する「オリジナル」という意味で、実際には既存のものを再現する「再現モデル」と、デザインそのものから制作者のアイデアで作る「オリジナル(デザイン)モデル」に分かれます。
どちらが難しいとは一概に言えなくて、再現モデルは形を作りだすのに部品をこねくり回して3Dパズルのような難解さと楽しさがあります。また、オリジナル(デザイン)モデルは、すべて自分の好きに作れるぶん、センスがなければかっこ悪い作品ができてしまいます。ですから、再現モデルは「似ている」という評価基準があるために評価されやすく、オリジナル(デザイン)モデルは作品の出来栄えに加え、見る人の好みに左右されるのです。
僕が作り始めたのは、オリジナル(デザイン)モデルの「ロボット」です。ゼロから自分好みのロボを作れるのですから、ビルダー(レゴブロックで作品を作る人)としてだけでなくデザイナーとしての力量も問われます。ですが、プラモデルのようにプラ版から部品を削り出したり、既存のパーツを加工したりしてスクラッチするのではなく、既存の部品を組み合わせるだけでオリジナルロボが作れるのは、とても魅力に感じました。もちろん、色も塗る必要もありませんしね。
そして、完成品は遊び放題です。自分が作ったオリジナルロボ同士を戦わせる、いわゆるブンドドをしたところ、壊れるわけでも、塗装が剥げるわけでもありません。むしろ、壊しても後で元通りにできるわけですから、「腕が破壊された~」とか言いながら部品を外し、倒した敵メカの腕を取り付けるとか、胸アツな展開も簡単にできます。しかも、強化装備を開発したり、「mkII」とか次世代機として進化させたり、ずっと遊んでられますよ! これは、ロボ好きのパラダイスと言わずに、何というのでしょうか??
しかし、この時点ではレゴアーティストなどという存在はまったく意識せず、レゴブロックは「ただの遊び」でしかありませんでした。もろりん。ネットで見る「スゲぇ人たち」もあくまで他人事です。誰が見るとか、評価される……とかでなく、自分自身が「格好いいと」思える作品をつくっているだけでした。
しかし、その後自分の作品が次第に評価を得ていく中で、自分の作品をお客さんに見て貰える「レゴアーティスト」という存在を次第に意識するようになったのです。
「TVチャンピオン」に出演し「自分のため」の作品から「魅せる」作品づくりへ
素材としての可能性からレゴブロックを始めましたが、レゴブロックの世界を知れば知るほど、その魅力に惹かれていきました。そして、気づけばオリジナルロボだけでなく、再現モデルも手がける状態です。こうなると、凝り性の僕は歯止めが利きません。とにかく作品制作に必要な部品を集め、帰宅すると部屋で創作に打ち込む毎日です。
そしてある時、クリックブリックというレゴブロックの専門店が、コンテストを開くことを知ったのです。せっかくの機会なので、参加してみると「入賞」させてもらったので歓喜しました。
もちろん、これまで前述した「MS in Action」の改造作品を投稿サイトにアップして評価されたことはありましたが、それはあくまで、わかる人に見せているからこその評価ですし絶対評価です。でも、コンテストで入賞するためには、お客さんに「さいとうの作品がいい」と相対評価されなければ投票して貰えません。順位こそありませんでしたが、自分の作品がほかの人の作品と比べられたうえで評価されるのは、最高の気分でした!
その後も、毎日ように商品を組んだり、オリジナルモデルを作ったりしていたのですが、ある時に事件が起こります。それは「TVチャンピオン レゴブロック王選手権」が放送されたのです。
事前に「誰が出る」という情報は得ていたものの、「商品を早組みするのか」「レゴの歴史クイズみたいのがあるのか」、どんな番組になるのかは今一つ想像できませんでした。ですが、実際の放送では、出場者が作った素晴らしい作品のオンパレード。なかには「どうやって考えたんだ、これは?」と思えるギミックも盛り込まれていて、自分の知らないレゴブロックの新たな可能性を感じました。
放送が終わると、素晴らしい作品を見られた嬉しさの反面、同じレゴブロックで創作している仲間が別次元の作品を作っていることに軽い挫折感を覚えます。でもそれはネガティブな方面に進まず「オメェつえーな。なんだかオラわくわくすっぞ」という気持ちを引き出してくれました。
そして、放送から数か月後、すぐに出場のチャンスはやって来ました。レゴブロックの経験と実績でいえば、まだまだ準備不足は否めません。しかし、準備なんてものはいつになっても終わるものでもないと思います。負けたところで、ネットでボロクソ書かれるくらいで殺されるわけでもないですし、実力試しに出場を決意しました。
出場の結果は惨敗でした。点数制であれば自分のレベルが数値化されたのですが、予選は審査員が1人1票ということで、票を入れてもらえなければ「ゼロ」なのです。正直なところ、これまで評価されることがモチベーションだったので、軽くトラウマになりました。
ですが、自分のそばには「お前らゼロの人間なのか~!」といって殴ってくれる山下真司はいませんので、自分で克服するしかありません。そう、再び「TVチャンピオン」でリベンジするまでは……。
そして、「TVチャンピオン」の放送が終了し諦めかけていたころに、リベンジのチャンスがやってきました。なんと「TVチャンピオン特別版 レゴブロック王選手権 2010」というスペシャル番組で復活するというのです。これはもう、出るしかありあせん。ですが、一回戦のお題は「動物」。実は、基本メカ系の創作が多いので、生物系は苦手なのです。前回のお題も「だじゃれ動物」でしたし、死亡フラグの予感しかしません。
そこで、曲面の少ない「ホオジロカンムリヅル」という「鳥」を選択して苦手な部分を見せず、逆に「パーツ選択の妙」や「チートな接続方法」など「テレビ映え」するようなネタを盛り込み、欠点をカバーする作戦を立てました。
結果はブービーで何とか生き残り、トラウマも少し解消されました。そして、その後は順調に勝ち進み、結果として準優勝(しかも優勝に2票差)で終わりました。この時感じたのは、作品づくりの心構えの違いです。
初出場の時はとにかく「テレビに映っても恥ずかしくない作品」にすることばかりを考えていました。ですが、2回目の出場では、テレビを見ている人に「レゴブロックの魅力や可能性を感じてもらえる作品」を作っていたように思えます。まあ、半分くらいは「変わったパーツの利用法」とか「不思議な組み方」をすれば、より長くテレビに映るんじゃないかという下心もありましたけど(苦笑)
実は、番組のディレクターの1人に「テレビチャンピオンは勝ち負けを競うのではなく技を見せる番組だ」と言われたことがあります。これは、ある意味作品づくりにも通じることがあると思いました。
自分が自分のために自分の好きな作品を作っても自己満足でしかありません。もちろん、レゴブロックを「遊び」として終わらせるなら、それでもいいでしょう。しかし、テレビにせよコンテストにせよ、公共の場で発表したいと考えるなら「自分のため」だけではなく、見る人が喜んだり、楽しんだりできる「魅せる作品」を作るべきなのではないでしょうか?
このマインドにたどり着いたとき、僕がレゴブロックを遊びから、芸術的な作品をも生み出すツールとして捉え、「レゴアーティスト」と呼ぶべき存在になれるのではないか?」と感じさせてくれました。もちろん、レゴ社にはレゴブロックの魅力を伝えるレゴビルダーというプロがいます。しかし、それはメーカーのルールに縛られる部分もあります。だからこそ、自由な立場でレゴブロックの楽しさや魅力を伝える「レゴアーティスト」という存在がいてもいいのではないかと思うのです。次回は、意識し始めたレゴアーティストという存在になっていく道のりをご紹介したいと思います。(後編へつづく)