【特別企画】

Amazonプライム万歳! クラウドゲームの最後のピースを埋めるのはAmazonなのか!?

AlexaそしてFire TVと共にある日々の暮らしからAmazonクラウドゲームを予測する

 3月、ついにGoogleがクラウドゲームで動き出した。その一方で、ここまでまったく動きを見せていないのが、米国テックジャイアントの一角Amazonだ。

 Amazonと言えば、一般的には何でも揃うECサイトとしてのイメージが強く、幅広い層に認知されていると言えるだろう。コアなゲーマーなら、クラウドサーバーのAWSやゲームに強い動画配信サイトTwitch、ゲームエンジンLumberyardといった裏でゲームを支えるテクノロジを連想するかもしれない。また、あまり目立ったヒット作は生み出せていないがAmazon Game Studiosと呼ばれるゲーム開発スタジオも保有している。

 上記のように、ゲームと非常に深い関係を持ち、ライトからコアまであらゆるゲームファンを含めた幅広い層にリーチ可能なAmazonが、Googleの後塵を拝しているとは、まったくけしからん状況である。

 そこで本稿では、愛すべきAmazonの製品とともに日々を暮らし、Aamzonのサービスなしには生きていけないとまで感じているAmazonラバーの筆者が、Amazonが今後放つであろうクラウドゲームサービスのあるべき姿を模索してみたい。

日常の行動を変えてきたAmazonのある暮らし

 そもそもAmazonとは何だろうか。まずは筆者のAmazon利用遍歴からその全容を探ってみたい。

 2001年の11月、Amazonはオンライン書店として日本に上陸した。その後あっという間に取り扱う商品のカテゴリを増やし、現在のような巨大ECサイトとなった。注文履歴を見てみたところ、筆者が日本のAmazonを初めて利用したのは、意外と遅く2003年の2月で、購入した商品はPCゲームのパッケージだった。

 2007年6月から開始されたAmazonプライムサービスについては、サービスの存在を認識していたものの、当時は一定の合計金額であれば送料は無料で、その後2011年11月には送料が完全に無料化されており、特に急いで入手したいという欲求もなかったことから、年会費を支払ってまでプライムサービスを利用する気すら起きなかったと記憶している。

 そんな状況に転機が訪れたのは、2016年4月のことだ。注文金額が2,000円未満の場合、通常配送でも送料がかかるようになってしまったのだ。このときすでに年間で40件~100件程度Amazonで注文するようになっていたことから、送料負担を避けるためプライムサービスに入会している。これが最初からAmazonの狙いだったのかどうかは分からないが見事にAmazonの術中にはまってしまっている。

【Amazonプライムサービス】

 プライムサービスの利用を始めてみると、これが非常に便利だ。合計金額の多寡にかかわらず送料無料が維持できるようになったほか、以前なら送料のかからない通常配送を選択していたところ、常に在庫のあるものからプライムで送料無料になったお急ぎ便で、思いつくまま気軽に注文するようにになった。Amazonでは食品や飲料の取り扱いもあることから、スーパーやコンビニで冷蔵庫に入る分だけ細かい単位で購入するということもしなくなった。日持ちのするものは、コーラ1ケース12kg、パスタ1ケース15kgといった単位で購入することから重量を気にすることもなくなった。

 加えて、2015年9月からサービスを開始していたプライムビデオや、2016年1月開始のフライムフォトも使いでがすぐに実感できるサービスだった。Amazonのプライムサービスは無料のお急ぎ配送だけでも十分なバリューがあるのに、あとひとつふたつ自分にあったサービスが見つかれば、本当にコストパフォーマンスの良いエクセレントなサービスに感じられる。

【Amazonプライムサービス】

 その一方でAmazonの販売するガジェットに対しては、あまり高い評価をしていなかった。確かに価格は魅力的だったものの、既存のハードウェアを置き換えるほどのインパクトは持っていなかったからだ。

 2012年11月に購入した第2世代Kindle Fire HDは、19,800円と価格は安いものの、自由度の高いAndroid端末や、高級感もあり先行していたiPadのほうが圧倒的に楽しいデバイスだった。

 そんな経緯もあって、プライムビデオの視聴には、長い間Mac miniを用いてきたのだが、ようやく2018年の6月に第3世代のFire TV 4Kの購入に至っている。また、1カ月後の7月には、セールになっていた第2世代のスマートスピーカーEcho Dotを、Alexaに対応するTP-Link WiFi スマートプラグとセットで購入している。特に目的があって購入したわけではなく、漠然と試してみたくてきまぐれに購入したものだ。

【Amazon Echo】
筆者が使用している前世代のAmazon Echo Dotは無造作にリビングテーブルの下の棚に設置している。マイク感度は良好で、10~20畳程度の部屋でも特に大声を張り上げなくてもこちらの言うことを聞いてくれる。ただし、Echo自身のスピーカーからサウンド出力している最中は別で、自身が奏でる音楽に邪魔されて耳が遠くなってしまうのは大きな弱点だ。また、常時電源供給する必要性から設置場所を選んでしまうのもイマイチなところ。アンプを内蔵したスピーカーとしての電力消費があることから、充電式バッテリーや乾電池では電池交換というメンテナンス作業の頻度が高くなってしまうことを嫌ったためだろうが、“紐付き”でせっかくのコンパクトで目立たない筐体がやぼったくなってしまっている。マイクからの距離を考慮して部屋の中央付近に設置する場合、今度は電源ケーブルの取り回しに一考が必要だ
写真は、現行第2世代のAmazon Echoスマートスピーカー。下位グレードにEcho Dot、上位にEcho Plusという商品展開(Echo Dotの現行品は第3世代)。他にも簡易的なディスプレイを搭載するEcho Spot、10インチディスプレイを搭載するEcho Show、5.5インチのEcho Show5、スピーカーなしのEcho Inputと幅広くラインナップしているが、Alexaデバイスとしての基本機能に差異はないため、Echoデバイスにどんな付加価値を求めるかで選択すればいいだろう。スピーカーとしての性能を求めるならEcho Plus、キッチンなど手が離せない状況ではディスプレイ搭載製品が便利だ

 購入したばかりの段階ではAmazon Echo Dotには、あまり高い期待をしていなかったが、こんなにも使えるガジェットだとは思いもよらなかった。Echo Dotはスマートスピーカーということになっているが、その真髄はスピーカー機能にはなく、Wifi経由で家庭内LANに直接つながるAlexaボイスコマンド入力デバイスとしての機能にある。

 LAN内にラトックシステムのRS-WFIREX3やX4といった赤外線リモコンデバイスを追加してEcho Dotと連携させれば、リビングルームに存在するありとあらゆるリモコン操作の家電製品を、すべてEcho DotのAlexaに任せることができる。エアコン、シーリングライト、テレビ、AVアンプ、BDレコーダー、サウンドバーといった赤外線受光部を持つ家電なら何でもアリで、学習リモコンに似た要領で電源のON/OFFのみならず、複雑な操作の組み合わせも登録できる。学習リモコンとの違いは、ボタンを押す代わりに言葉を発してAlexaにお願いするという点に尽きる。

 サーキュレーターなどの機械式スイッチで電源のON/OFF状態を維持できる家電製品であれば、セットで購入したスマートプラグを組み合わせることで、同様にAlexaに頼んで通電を管理することができるようになった。

【Amazon Alexaの機能】

 「なんだ、そんなことか」と思うなかれ。これだけの機能がリビングでの暮らしを一変させるのだ。日中家人がいない筆者の家は、夏の暑い日でも終日閉め切った状態だ。夜遅くに帰宅すると、こもった熱で室温が外気温より暑くかなり不快だ。「Alexa、エアコンをつけて」この一言だけで、いちいちエアコンのリモコンを触らなくてもエアコンが動作する。

 また、重いスーパーのレジ袋で両手がふさがっていたとしても、真っ暗な中、いちいちレジ袋を下ろしてから、壁際のスイッチやリモコンを手探りで探して、照明のスイッチを入れる必要はない。「Alexa、あかりををつけて」これだけで部屋が明るくなる。Alexaにお願いするのは冷蔵庫に向かいながらで構わないから、動作を止めてリモコンを電灯に向ける必要もない。

 これらの操作は、スマートデバイスのAlexaアプリからも可能だが、ボイスコマンドならポケットからスマホを取り出してアプリを立ち上げて、といった予備動作は一切必要ない。スマート家電に一新しなくても、従来の機器に少しのデバイスを加えるだけで、Alexaのいる快適な暮らしがスタートするのだ。

 こればかりはやってみないと便利さが実感できないだろう。強いて言えば、ハンズフリー用のBTヘッドセットやカーステレオにBT接続したスマホからボイスコマンドで電話をかける要領に似ているから、運転中のハンズフリー通話環境に親しんでいる人なら、なんとなくイメージできるかもしれない。

【Amazon Alexa対応IRリモコン】

Fire TVで放送からVoDへ大きくシフトした映像視聴

 そしてもう1つのFire TVのほうも負けず劣らず役に立っている。CES 2019のレポートで触れたように、筆者の自宅では2018年の夏に“コードカット”を断行しているが、昨年末に始まった4K/8K放送どころか、もはや地デジすら視聴できない環境ながら何も困ることはない。VoDサービスがあるからだ。

 それまでケーブルテレビの契約をしていて予算に余裕があったことと、仕事柄、幅広い映像コンテンツを視聴しておかなければならないことから、“コードカット”当初はNetflixやHuluに加え、Dアニメストアといった複数のVoDサービスの契約していた筆者だが、現在はすでにほとんどのサービスから退会してしまった。ハリウッド映画から日本のバラエティ、アジアのテレビドラマまで広範なジャンルがカバーされており、Amazonプライムビデオさえあれば、多少物足りないこともあるが、ほぼ満足できるからだ。

【Amazon Fire TV】
テレビの脇に雑然と積み上げた筆者のAV機器。古いテレビを使っているため、不足するHDMI入力を補うため下部のAVアンプAVR-X4300Hを使用している。このAVアンプは、11.2chのプロセシングに対応し同数のプリアンプを備えるが、パワーアンプが9chと不足するため、いわゆる中華ポタアン(ポータブルヘッドフォンアンプ)で補っている。上部右側のMAC miniに接続したままのポータブルBD/DVD/CDコンボドライブはCDの取り込み専用。さらにその上部にAmazon Fore TV 4Kを設置しているが、非常にコンパクトで、本来ならスティックタイプ同様にテレビのHDMI端子にぶら下げて使用する
あまりにFire TVが目立たないので、上部からも撮影してみた。左から、第5世代Apple TV、Amazon Fire TV用有線LANアダプタ、第3世代Fire TV 4K。こうして並べると、そのサイズ感の違いがよく分かる。プロダクトのコンセプトが異なるため、AppleとAmazonデバイスの対比は意味をなさないが、動画視聴に限って言えば、できることに差異はなく低価格でコンパクトなのがAmazonデバイスのいいところだ。タイムスライスされるとは言え、間断なく無線帯域とアンテナをこれらのデバイスに取られることを嫌って有線接続にしているが、さほど気にならないなら無線接続しても使用感に大差はないだろう
Amazonサイトで販売されている現行のFire TV Stick 4K。1080pのHD解像度までをサポートする第2世代Fire TV Stickも併売されている。現行機のFire TV Stick 4Kでは、筆者の所有する第3世代Fire TV 4Kから、BTが5.0に置き換えられAPUが変更され、ハードウェアデコードされるコーデックが増加している。スペックに大きな差異はないが、よりコンパクトに設置しやすくなったと言えるだろう

 Amazonプライムビデオについては、2015年9月のサービス開始当初は、質、量ともに、まったく物足りないとしか言いようのないもので、Amazonプライムサービスの原点である翌日配送サービスのおまけ程度に感じられたのものだ。ところが2016年4月から、Amazonブランドのプロモーションを兼ねた「仮面ライダーAmazons」の配信を皮切りに、Amazonオリジナル作品の配信、既存テレビ局のVoDチャンネルとの提携、Blu-ray/DVDが発売される映画やアニメ、それらの関連作品のプロモーション配信といった形で、プライム年会費3,900円(2019年4月12日以降は4,900円)の範囲内で視聴できるコンテンツが次々と拡充されていった。

 現在では別途少額の“レンタル料”が発生する作品も数多く見受けられるものの、わざわざレンタルビデオストアに出向いて物理的なディスクを借りるより、圧縮率の違いによる画質の差に目をつぶれば、ずっと便利で価格も安い。昨年6月に日本でも開始されたプライムビデオチャンネルのサービスでは、チャンネル毎に別料金がかかるものの、プライムビデオより大きく先行していた地上波やCS放送局のVoDサービスを同じ軒の下に取り込んで、さらにバラエティ豊かなコンテンツラインナップに仕立てることに成功している。

 このAmazonプライムビデオといったVoDサービス、あるいはYoutube動画を視聴するデバイスとして、我が家で大活躍しているのがFire TVというわけだ。リビングのテレビには、Fire TVのほかにも、音楽CDを大量に取り込んだMac miniや、Mac Book ProやiPhoneといったApple製品のディスプレイをテレビにミラーするためのApple TV、物理メディア視聴用のBD HDDレコーダーといったデバイスもAVアンプ経由で接続している。これらのデバイスの多くでもAmazonプライムビデオを視聴することはできるのだが、よぼどのことがない限りFire TV以外のデバイスを稼働させることはなくなった。米国において、すでにRokuを抜き去りセットトップのシェアでナンバーワンというのも頷けるというものだ。

【Amazon Fire TV】

 筆者の所有するFire TV 4Kより新しい第3世代Fire TV Stick 4Kは、日本では2018年12月に発売されており、4K/HDR10/Dolby Vision/Dolby Atomsといった、現在主流のテレビの性能に対して必要十分な機能に対応している。

 このFire TV Stick 4Kをはじめとする一連のFire TVデバイスの中身は、2012年から世代を重ねているタブレットのFire HDと同様、何のことはないAndroidデバイスで、独自のメニューUIとAmazonが提供するストアのみに接続するようにカスタマイズが施されたFire OSを搭載している。

 Fire TV Stick 4Kのハードウェアは、CPUに4コアのARM Cortex-A53 1.7GHz、GPUにPowerVR IMG GE8300を採用しており、MPEG-4, MPEG-2, H.263 H.264, H.265, VP8, VP9といった各種動画コーデックのデコードをハードウェアでアクセラレートする。RAMは1.5GB、ストレージは8GBといくぶん心もとないが、ストリーム前提のデバイスとして必要最低限のものが用意されている。WiFiはデュアルバンド、デュアルアンテナの2x2 MIMOで、802.11a/b/g/n/acの各通信規格に対応する。通信帯域幅は802.11acの理論値で866.7Mbpsと、こちらもストリーム再生に十分な性能だ。

 これでAlexa対応リモコンが付属して価格は6,980円というのだから、自宅リビングと自室の常設用に加えて、出張時の持ち歩き用として3台所有してもいいくらいだ。

Amazonらしいクラウドゲームコンテンツとは何か?

 このFire TVで実はすでにクラウドゲームをプレイすることができる。ブロードメディアGCが同社のクラウドゲーム環境「Gクラスタ」をAndroidデバイスとFire TV、Apple TVに対しても提供しているためだ。大作ではスクウェア・エニックスの「ファイナルファンタジーXIII」をはじめとする6タイトル、コーエーテクモの「三國志12」をはじめとする4タイトルをクラウドで楽しむことができる。

【FINAL FANTASY XIII 【Gクラスタ公式】】

 現時点では、あくまで「Gクラスタ」がFire TVに対応していることで、クラウドゲームへの対応が実現しているわけだが、Amazonプライムビデオに続くFire TVデバイスにおける次世代のコンテンツ拡充として、Amazonがクラウドゲームに本腰を入れる可能性は十分にあると推測される。

 日本のAmazonプライムサービスの料金は、ユーザーを完全に囲い込むまで低廉に据え置かれると考えられるが、米国での値上げの先例や、先ごろ問題になった流通業界の労働環境改善の余波を受けて、さらなる値上げは時間の問題だ。

 来るべきプライムサービス値上げの際に、新たな付加価値としてクラウドゲームサービスを追加して、エンドユーザーの心理的な抵抗感を和らげるというのは大いにあり得るシナリオだろう。

【Gクラスタ on Amazon Fire TV】

 クラウドゲーム導入の流れは、プライムビデオサービス拡充の経緯をそっくりそのままトレースするのではないかとみている。クラウドゲームをプライムサービスに取り込めば、ファミリーニーズを最大公約数的に満たし、今以上に顧客満足度の高いサービスになるだろう。既存の全世界3400万人のアクティブユーザーのうち一定数、それもかなりの数がゲームにも関心を示すだろうし、クラウドゲームの拡充をフックにこれまで動画視聴やインターネット通販に興味を示さなかった新規顧客を開拓できるなら、Amazonプライムサービスには、まだまだ伸びしろがあるということになる。

 冒頭であらかじめ断ったとおり、現時点ではAmazonのクラウドゲームサービス自体、存在が明らかになっておらず、何の根拠もない推測に過ぎないが、これまでの動画配信サービスに対する取り組みから、まったくの夢物語とも思えない。

 また、過去の遺恨から、つい先日Fire TVにGoogleオフィシャルのYoutubeアプリが提供されると発表されるまでは、にわかに考えられなかった飛び道具ではあるが、GoogleがFire TVに対応するStadiaゲームコンソールアプリをプライムゲームチャンネルとして提供すると、ライバル関係の新たな局面として俄然面白くなってくる。

 Fire TVにおけるYouTube視聴停止騒動やYoutube TV非対応、AmazonのECサイトにおけるGoogle HomeやChromecast製品の締め出し問題から両社の関係は単なる競合関係以上に冷え切っており、Youtubeアプリの提供で雪どけムードだとしても、AmazonがGoogleのStadiaの立ち上がりに協力的になるとは考えられないが、Fire TVにおけるYoutube視聴に対するニーズが高かったように、Stadiaに対して独占的に供給されるゲームに対するニーズが高まるようなことがあれば、Amazonの方から関係改善を申し入れるといったこともあるかもしれない。

 反対に、さまざまなクラウドゲームプラットフォーマーが提供するゲームコンソールアプリが、プライムゲームチャンネルとして加わり、Amazonプライムゲームサービスが無視できないほど勢いづいた暁には、Googleの方からStadiaの提供を強く望む未来が来るかもしれない。AmazonとGoogleの遺恨は、どうにもAmazonの方が公正さを欠く大人気ない対応をした結果のように感じられる。

 さて、Amazonから今後クラウドゲームが提供されるとして、配信されるAmazonらしいクラウドゲームコンテンツとしては、何が考えられるだろうか。キーワードはふたつで、ひとつはAlexa連動、もうひとつはEC連動である。

 まずAlexa連動では、そのまま「スキル」の発展系と考えるとわかりやすいと思う。既存のコントローラーやリモコンによる操作入力を、ボイスコマンドによる入力に置き換えたり、ボイスコマンドを補助的に活用したりすることが考えられる。反対にゲームからのフィードバックの方も、既存の画面表示や効果音によるものに加えて、Alexaという擬似人格に音声でフィードバックを行なわせるのもいいだろう。

 RPGやアクションアドベンチャーに、プレーヤーが操作するキャラクターに加えて、あたかもAlexaに操作を担当させているような演出をしたキャラクターを登場させて、Alexaに音声で指示を与えるゲームデザインにすれば、Alexaとともにゲーム世界を冒険しているようなフィールが得られるかもしれない。SFロボットもののコクピットに搭載されているパイロット支援AIといった役どころも、Alexaには似つかわしい。

 もう1つのECサイトとの連動は、大いにあり得ることだと思っている。ECサイトは便利であるものの、実店舗を持たないことから、商品を手にとって確認することができない。このため届いてみてはじめて商品の実物を実感するという不確実性がある。利用者側としては、ある程度ハズレ商品をつかまされてしまうリスクを想定に入れて利用するしかない。高額商品の場合、そのリスクを負うことはできないから、実際に買いもしないのにリアル店舗に出かけて行って、陳列されている商品を見てからAmazonで注文するという、利用者にとっては面倒でしかなく、リアル店舗の運営社にとっては非常に面白くない消費行動が常態化している。

 対するAmazon側では利用者の立場に立って、一定の範囲内で返品を受容する規定を設けている。利用者責任による返品の場合、返送料は利用者負担としているが、返品をハドリングするためのコストや、商品開封によって減損してしまう価値はAmazonやメーカーが負担しなければならない。

【Amazonプライムサービス】

 この問題を解決するような仮想世界や仮想ストアをクラウドゲームとして配信することが考えられる。純粋なゲームファンの視点からは大して面白くない部類のコンテンツだろうが、ショッピングをエンターテイメントとして楽しむ層は確かに存在する。かつてのメタバースやVRストアとコンセプトは変わらないが、どこまでディティールアップしても現実の商品に触れて判断できるわけではないのだから、ウェブのECサイトとVRの中間くらい、ちょうどサードパーソンのゲームワールドくらいの表示表現の仮想世界で、他の利用者と情報交換をしながらイメージを固めさせるのがいい落とし所ではないかとも思える。

 アバターを操作してワールド内の商品に触れると3Dスキャンした商品がポップして、その商品を360度全方向から確認できるといった機能を加えれば、十分な場合も多いことだろう。ECの弱点を完璧に解決するものにはならないが、それでも現状の問題点がある程度緩和される期待感はある。

 さらにAmazonらしい熱心な商品購入者のレビューや、仮想世界内でのユーザーのアクティビティに基づくレコメンド機能を移植してあげれば、既存のものとは一線を画した新しいEC体験として受け止められるかもしれない。

 そのほか、パッケージゲームや映像作品のBlu-ray/DVD、漫画やラノベといったゲームとの親和性の高い商品の前日譚や後日譚をクラウドゲーム化して、本命の売りたい商品購入に対する導線としたり、購入後も継続して作品世界に触れてもらうために利用するといった活用法が考えられる。インタラクティブムービーから本格的なアクションアドベンチャーやRPGまで、ゲームの形としてはどのようなものでもマッチするだろう。

 インタラクティビティを持たせることで、既存の映像によるプロモーションより印象付ける効果は増大することから、商品購入につながる効果も大きくなる。

【Amazonプライムサービス】

 米国ですでに実証試験が始まっているドローンによる商品配送とクラウドゲームを組み合わせてもいいかもしれない。ドローンに搭載されたカメラの映像を活用して、いつでもバードビューを楽しめるゲームとしたり、ドローン離着陸の操縦シミュレータとしてゲーム化することも考えられる。

 人間による見守りは、万一の墜落事故や配送中の商品へのダメージを未然に防ぐことにつながる。究極的には、AIによる完全なオートパイロットで問題が生じないことが理想で、ドローン技術の世界では、そのためのセンサーや飛行の安定化技術の改良が続いている。それとは異なるアプローチとして、現実に即した状況を模したシミュレーションゲームを通じて、人間の操縦操作のデータを大量に収集できれば、AIの学習データとして役立てることもできるだろう。

 Amazonらしいゲームコンテンツのアイディアは、ちょっと飛躍し過ぎてしまったかもしれないが、Googleがモバイルコンテンツプラットフォームを手中に収めてコンテンツホルダーに対して多大な影響力を及ぼすようになるずっと前から、Amazonはモノの流通や販売の機会点としてトップクラスのシェアを占めるようになってコンテンツホルダーに多大な影響力を及ぼすようになった過去を踏まえると、人々との物理的な結びつきが強い分、ひとたびAmazonが本腰を入れてクラウドゲームに乗り出せばAmazonの勝ちも十分にあり得る。

 ただし、このまま順当に進めばモバイルを手中に収め、クラウドゲームでも先行するGoogleのStadiaがプラットフォーマーとの第一人者となる可能性が高いだろう。本稿では、そうではない未来像として、あえて極端に、AmazonがFire TVデバイスでクラウドゲームプラットフォームを席巻するストーリーを思い描いてみた。

 では、Amazonがクラウドゲームの盟主になると仮定した場合、Amazonプライムゲーム、そしてFire TVが既存のコンソールゲームを完全に置き換えてしまうだろうか?

 結論としては、たとえAmazonがクラウドゲームプラットフォームを成功裏にローンチさせたとしても、コンソールゲームをも商品として取り扱うECをビジネスの主力としている限り、Fire TVがコンソールゲーム機を完全に置き換えてしまうことはないと断言できる。ただしそれは、他社のゲームコンソールに対して、今までと同様に、独占先行して魅力あるゲームタイトルが供給され、コンソールゲーム市場が維持される前提での話だ。

 Amazonのビジネス展開の妙によっては、クラウドゲーム市場が成熟するにつれ、新たなゲームユーザー層を開拓しつつ、従来はコンソールゲーム機でゲームをプレイしていた層をも取り込んで、Fire TVが最大シェアのゲームコンソールの座に躍り出てしまうかもしれない。技術的にはゲームプレイ環境のひとつのあり方に過ぎないクラウドゲームではあるが、Amazonプライムサービスの全体像を大きく変えるだけでなく、ゲーム全体のシェアバランスを変える、まさにゲームチェンジャーとなるポテンシャルを秘めている。