インタビュー

「3D ファンタジーゾーンIIダブル」インタビュー

単位時間あたりの密度の濃くなった「ファンタジーゾーン」=「リンク・ループ・ランド」

単位時間あたりの密度の濃くなった「ファンタジーゾーン」=「リンク・ループ・ランド」

「ファンタジーゾーンII リンク・ループ・ランド」

奥成氏:今回タイトルに「ダブル」というタイトルを付けた理由、もう1つの収録された新ゲーム「リンク・ループ・ランド」についてもお話します。

 この新たなゲームは、私が「おまけをただ移植するだけでなく『いかようにでも料理してくれ』」という問題提起に対してのエムツーさんの答えとなります。

堀井氏:1度完成させた「オパオパの涙」に要素を加える方向ではなく、新しいものを作ってしまえということになりました。

奥成氏:第2期で「ファンタジーゾーン」を、「I」と「II」で2本リリースするということを決めた時点で、同じようなゲームが2つ続くのだから、2つのソフトに違いを持たせたいと思っていました。

 最初に手掛けた「オパオパブラザーズ」では、マークIII版に登場したボスを追加する、という話と、ウパウパで違ったプレイスタイルで遊べるようにしよう、という追加要素がグラントノフ(※)だったんですが、同じコンセプトを間をそれほどおかずにリリースする「II」でやっても差別化できないし、想定の範囲で面白くないので、「II」では初代とはまったく違うコンセプトの「グラントノフ」にしようって。

※「グラントノフ」……「3D復刻プロジェクト」第2期のタイトルには、これまでになかったものを追加して楽しんでもらおう、というコンセプトがある。それを「アフターバーナー」のマークIII版に登場した「グラントノフ」になぞらえてこう呼んでいる。

 言い方を変えると、「オパオパブラザーズ」ではボスの追加、ウパウパで遊べるという結構なボリュームになっていたからきっと喜んでもらえるけど、リメイク版とはいえ「II」が1つ入っているだけだったら、「きっと『IIは『I』に比べると物足りなかったなあって言われるよこれは」という話をしました。

堀井氏:奥成さんはそういう話し方をするんですよね! 本当に(一同笑)。「僕は納期優先だけど、(ユーザー目線では)こうだよね」って言うんだよなー。

奥成氏:「だったら、どうしたらいいと思う?」って話になりまして。その話し合いの中で出てきたアイデアが、「スコアアタックで遊んでもらえるゲームを作りましょう」というものでした。それが今回入っているもう1本の「エンドレスモード」である「リンク・ループ・ランド」です。

 前作で、ウパウパというキャラクターが想定以上に存在感を示していたので、きっと「II」を出すんだったら、彼の復活を皆さん期待していただけるんではないかな、ということもありまして、このエンドレスモードに関しては、再びウパウパが主人公のゲームになりました。電子説明書にプロローグが書かれていますのでご覧下さい。

「ファンタジーゾーンII リンク・ループ・ランド」 プロローグ

 メノン星人との戦いから10年後、ファンタジーゾーンで新しい惑星が発見された。

 その星では危険と引き換えに大量のコインを入手できるために、幾人もの冒険者が訪れるゴールドラッシュ状態となっていた。

 その事を聞いたウパウパは、いつしかエンドレスゾーンと呼ばれるようになった惑星へ飛びたった!

「借金を返すんだ……!」

――(説明書を見ながら)「また借金かい!」みたいな……(笑)。

奥成氏:「I」から「II」に至る間に、「I」のエンディングで父親との再会と、行方不明になった父の謎を追うオパオパ、というストーリーがありましたので、「ウパウパモード」のエンディングに対しても、「彼はその後どうなったんだろう?」って思っていた方も多いと思うんです。

堀井氏:多いんだ(笑)。

奥成氏:「ウパウパモード」のエンディングのネタバレになりますが、彼はラストで莫大な借金を抱えてしまったために(一同笑)、その借金を返済しなければならないだろうということで、エンドレスゲームに関してはこういうストーリーを……(笑)。

堀井氏:セガさんは本当に懐の広い会社だと思います!

――借金まみれですね。手持ちの金がなくなっただけじゃすまなかった、ってことですね。

奥成氏:元々、彼のお金じゃないですからね(笑)。

――……そうか、「人のお金を使い込んだらそれが彼の借金になって返ってきた」と。いいですね。

奥成氏:ということで、彼の新しい冒険が(笑)、冒険の旅に出る理由ができたということで。

――本当に「ヒーローバンク」みたいな感じですね(笑)。

奥成氏:同じ部の開発タイトルですし(笑)。ともかく、そういうストーリーの元で再び登場することになりました。

堀井氏:もう1本作るとしても、期間的にそこまで規模の大きいものは作れないから……最初は前作でウパウパがキャラクター立ちしたので、なんらか彼に関するゲームを作ろう、という話だったんです。

 今回このモードを作った首謀者は山中というプログラマなんですけれども、「ファンタジーゾーンII」のシステム16リメイクや「魂斗羅ReBirth」や「ドラキュラ伝説ReBirth」にも関わっているスタッフで……山中は「Geometry Wars」とか、時間でどんどん難易度が上がっていって、それをプレーヤーが捌いていくゲームが大好きだったので、「『ファンタジーゾーン』でそれをやろう!」と思ったみたいです。

 最初のうちは前線基地もただ浮いているだけだったんですけれども、敵も最初はまばらというほどではないにせよ、それなりの数しか登場しませんが、どんどん進んでいくに従って前線基地もどんどん増えていって、1つの前線基地が4個の前線基地で構成されていたりだとか、いろいろ工夫されてきて。

――私もプレイしたあとなので、「Geometry Wars」というタイトルを聞いて理解できた気がします。

堀井氏:ということで、ノンストップでなければならないということで、「ワープは申し訳ないけどなくなるよ」とか仕様が固まっていって。そういうゲームって1発食らうと即死で胃がキリキリするようなゲーム性になりがちなので、その救済策として、「リペアラー」だとか、ボム的な存在の敵が出てきて。うまく使えば青天井の難易度に対して対抗できるような要素が出てきました。

奥成氏:「ファンタジーゾーン」というゲームのシューティングゲームとしてのストイックさは、1980年代のものなので、「2000年代以降のシューティングの大量の敵や弾をかいくぐるゲームをやったらどうだろう?」という意識は入っていますね。

敵の種類も増え、中には破壊すると誘爆するものもいる。画面上のLINKゲージは、コインを獲得すると増えていき、時間経過で減少。なくなりきらないうちにコインを獲得できるとLINKが継続し、ゲージが満タンになるとスコア倍率(MULTIPLIER)が上がる
メイン武装装備中に攻撃を受けると(ミスにならない)出現するリペアラーを取ると復活するだけでなく、リペアラーをしばらく放っておくと変化する「フィーバルーン」を取ると「フィーバータイム」に突入し、武装が一定時間「12 WAY SHOT」となる

――それに、「II」はワープシステムなどのおかげで長く遊べるゲームになっていると思うんですが、携帯ゲーム機向きのシューティングゲームとしてみると、このスコアアタックモードはさくっと始めてさくっと終われるようにも見えますし、フィットしていると思います。

奥成氏:まさにおっしゃる通りです。「オパオパの涙」は、プレイした最初の頃はいろいろ考えながらプレイするというところがあるので、もっと携帯向けのゲームにしたい、という意図はありましたね。それと、ハドソンさんのシューティングゲームにあった「キャラバンモード」みたいな短時間で遊べるもの……最終的に時間を区切るのではなく、エンドレスという形がこのゲームに合っているんじゃないかな、ということで今のデザインに落ち着きました。

堀井氏:短時間で脳汁が出る、電車の中でも脳汁を出して頂きたいですね。記録を狙っていくと、「家でじっくりやる!」という風になっていくかもしれませんけれども、それはそれで本望です。

――「ファンタジーゾーン」シリーズの爽快感とはまた違うものが入っている感覚ですね。ガツガツ移動すると前線基地にぶつかりそうになる、というあたりはオリジナルの雰囲気を残してはいると思いますが……やはり自由にゲームを作れるからこそ、こういうモードができるんですね。

堀井氏:単位時間あたりの密度の濃くなった「ファンタジーゾーン」という解釈でいいと思うんですけれども、密度を濃くしたからこそ、「ファンタジーゾーン」とは違ったものになったなと思います。

――でも、それほど違和感は感じないですね。スムーズに遊べました。

堀井氏:それは「I」、「II」と遊んだ先にこれがあるからじゃないですかね。

奥成氏:ここまで違うゲームなら、別の1ゲームとしての独り立ちさせようということになり、「リンク・ループ・ランド」というタイトルを古賀さん(※)が命名して。

※エムツーのプランナー・古賀恵介氏。システム16リメイク版、「オパオパブラザーズ」も担当している。

堀井氏:タイトルに「コンボ」とか「チェーン」が入っていないのかなと思ったんですけれども、古賀が「NiGHTS」が好きだからだそうですよ。

――ああー! なるほど。で、「リンク」で「ループ」なんですね(笑)。

堀井氏:全然気がつかなくて、恥ずかしいです(笑)。「これ、『NiGHTS』じゃね?」って言わなきゃいけなかったんですよ(笑)。会議中に。

奥成氏:「“コンボ”、“チェイン”って言うの禁止!」って通達ありましたよね。

――それで「LINKゲージ」なんですね。

堀井氏:「このプロジェクトが終わったら『NiGHTS』を3D化させろ」って古賀が言うんですよ。で、僕が「無理!」って言うんですよ。

――サターンだし(笑)。なるほどねー。「LINKゲージ」はいいですね。倍率を数字で見ているより、ゲージで見せられたほうがつながっている感じがよくわかります。

奥成氏:「NiGHTS」と同じでリンクが切れる前に次の敵を倒してつなげていくという。

堀井氏:このモードをプレイした方の中に「これ、『NiGHTS』じゃね?」ってどれぐらいの人が気づくのか、気になりますね。開発中に僕らが気がつかなかったから。インタビュー先に読んじゃったらズルですけど。

奥成氏:先ほど「オパオパの涙」のところで話しました、難易度を下げるとコインを吸引される仕様は、「リンク・ループ・ランド」では標準実装されていますし、リンクは繋がりやすいですよ。

堀井氏:是非スコアアタックをしていただきたいですね。

奥成氏:「リンク・ループ・ランド」では、プレイ後にスコアをバーンと表示するようになっています。「Miiverse」でスコアを競って頂けるんじゃないかと思って。画面写真で比較するだけなので、とてもアナログな手段ですけど(笑)。

もちろん並木氏による新曲「ENDLESS LOVE」も!

奥成氏:「リンク・ループ・ランド」は新作らしく、テーマ曲も新たに書き下ろされています。並木学さんの新曲です。

 システム16リメイク版の「オパオパの涙」は、システム16の仕様にのっとって、アーケード版「ファンタジーゾーン」と同じサウンドドライバや音色データを使っていましたが、「リンク・ループ・ランド」ではその前提条件の上で、さらに「スペースハリアー」のメインテーマのような感じで、1曲が長めの曲になっていて、ボス戦で曲が変わって、ボスを倒すと、テーマ曲の続きが流れる、といった処理をしています。

堀井氏:テストの段階ではもっといろいろな構想もあったようなんですけれど、こんな感じで落ち着きました。2008年の「オパオパの涙」リメイクも含め、並木のコメントを用意しました。

【並木氏のコメント】

 1986年、「ファンタジーゾーン」のゲームセンターへの登場は鮮烈で、ゲーム内容・映像・音楽、全てが21世紀を迎えた今なお唯一無二の存在……当時中学生の僕は仲間たちと日々夢中で競いあうようにプレイしました。その待望の続編「ファンタジーゾーンII オパオパの涙」は翌1987年に家庭用向けでリリースされ、そこから21年もの歳月を経た2008年になんと……リメイクプロジェクトが実現! “システム16バージョン”「ファンタジーゾーンII」にて、その音楽を含めたサウンド全般を担当させていただきました。

 そしてあれからさらに6年を経た2014年、この度「3D ファンタジーゾーンIIダブル」として装いも新たに登場!! 今作でもサウンド全般を監修・担当しました。いやー、まさか大好きなゲームのサウンドをこんなにガッツリ担当することになろうとは……ね?

 さて、そんな今作のサウンドについてお話します。まず「オパオパの涙」……こちらは6年前にリリースされた“システム16バージョン”「ファンタジーゾーンII」そのまんま! です。「もしもシステム16基板の『II』が、87年製アーケードタイトルとして存在したなら……」という2008年当時のリメイク方針を尊重すべく、なにも足さずなにも引かず。ただし、FM音源の再現性は飛躍的に向上し、音質面には最大限こだわって調整していますので、どうぞ安心してプレイしつつサウンドにも耳をかたむけていただければ……と思います。

 ちなみに当時のサウンドのリメイク方針はというと、「もしも今(2008年当時)の僕が1987年にタイムスリップして、システム16版『II』のサウンドを一任されたなら……」と、クレイジーなゲームリメイク方針に対してはサウンドもクレイジーなコンセプトをうち立てて応戦せざるを得なかったという状況で、知らぬ間に1987年のセガ開発室へ飛ばされ、なぜか「II」のサウンド制作を命じられ、Hiro師匠より「これを使うように」とPCとサウンドソースプログラムと開発機材を貸し出され、「今作を無事に仕上げれば21世紀に帰れるんだ」……みたいなイカレた妄想をまじめにしつつの制作の日々でした。

 そして新登場の「エンドレスモード」こと「リンク・ループ・ランド」……こちらのメインBGMとして、新曲を書きおろしましたよ……わーい! もちろんそのサウンドは「オパオパの涙」の“システム16バージョン”「ファンタジーゾーンII」に準拠した、

・音源 : FM音源 YM2151 4MHz 相当
・CPU : Z80 5MHz 相当
・プログラム : 初代FZサウンドプログラムを改造したもの
・音色 : 初代「FZ」のものに、当時のセガタイトル「カルテット」などの音色を加えたもの

 上記の仕様に沿っているので、実際にシステム16基板で演奏可能な形式となっています。いやぁーそれが……さすがに前回の仕事から6年の歳月を経ていますから、その制作方法や細かな手順など完全に忘れ去っていて、「ホントにできるの?」なんてヒヤヒヤしながらバックアップHDDから当時の作業フォルダを発掘して、ファイル1つ1つをながめることで何とか思い出し、なし遂げることができました。また6年後にできるか? と言われれば……正直自信ないかもですね(汗)。

 最後に新曲につきまして。“システム16バージョン”「ファンタジーゾーンII」の時もそうでしたが、まず「いわゆる“なんちゃって”『ファンタジーゾーン』的なBGMには、絶対にしたくない!」という思いがありました。「なんとなく『ファンタジーゾーン』っぽいし、まあいいんじゃない?」なんて評される曲では全く意味はない、“システム16バージョン”「ファンタジーゾーンII」のリメイク方針を踏まえつつ、その延長にある「リンク・ループ・ランド」のゲーム内容にきちんと基づいたBGMにしたい……と強く意識しつつ制作しました。

 上記のように仕様や制約面については動かしようがないので、音楽そのものは様式やいわゆるお約束にはこだわらず、一聴した時のワクワクやプレイ中のノリのよさ、先へ進んだ時のドキドキ、そして何度もプレイしたくなる居心地のよさといった本質や根幹にあたるものを重視しました。そう、「ファンタジーゾーン」をゲームセンターで遊んでいた頃の原体験に導かれつつ、その延長線上にあるものを追求・提供できる立場にある僕は本当にしあわせ者……役割を果たさなくては。エンドレスモード、ファンタジーゾーン、セガ、シューティングゲーム、ゲームミュージック、開発・制作スタッフ、そして今作をお楽しみいただけるプレーヤーの皆さんに対する僕からの“♪ENDLESS LOVE”……受けとめていただければ幸いです。

(佐伯憲司)